Xavier the Superman   作:雑草弁士

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第2話 なんでも知ってる(?)シャリア・ブル中佐

「……エグザベ・オリベ。ルウムの難民がジオンの士官様とは、ずいぶん出世したじゃないか」

 

「……」

 

 

 やれやれ、ネチネチと。官姓名と認識番号はもう申告したんだ。それ以上の事は話すに話せないし、上と交渉してくれって言ったのに。

 いや、まあわかるけどさ。サイド6政庁はともかくその住民、そしてザク多数を保有し政庁とは別個の権力基盤を築きつつある軍警……。こいつらはジオン公国に対して、けっして良い感情を抱いているわけじゃない。一時期のジオン軍によるサイド6進駐、占領と一時的な支配。その後に独立を回復したとは言え、17バンチ事件。

 いやわかるけどさ。あとは僕みたいな元難民が、ジオンの軍内で立身出世をして、実質こいつらよりも立場上は上に来ることになって、腹立たしいのも。

 

 

(……つまりは)

 

 

 つまりは、その面白くない相手を公的になぶる事ができる、いい機会だってわけだよな。ああ、殴られた頬の傷が『ちょっとだけ』痛む。ま、気にするほどじゃないんだけど。

 なんにせよ、このまま黙秘を貫くしかないんだよね。

 

 

「なんとか言わないか!」

 

「!」

 

 

 やれやれ、また殴られたよ。

 

 

 

*

 

 

 

 そして突然大騒ぎになった。

 

 

「なんだとぉ!? こいつ1人のために、そこまでするのか……」

 

「……」

 

 

 シャリア中佐、見捨てられなかったのは有難く思いますが。いくらなんでも無茶じゃないです?

 

 

 

*

 

 

 

 何が起きたかと言うと、僕らの母艦であるソドンがその艦種に相応しい行動を取った。サイド6イズマ・コロニーに対する強襲揚陸『じみた』突入。今イズマ・コロニーの内部、コロニー回転軸の中央部には、ソドンのまるでスフィンクスじみた姿が浮いているのが見える。

 騒いでた軍警どもの話を聞き取った限りでは、ミノフスキー粒子はまったく撒いていない模様だ。まあそりゃそうだ。そこまでやったら戦闘準備行為として外交問題だ。いや今の事態が外交問題にならないかって言うと、微妙なんだが。

 そうやって政府筋から伝手をたどって圧力をかけて、僕の立場はMS(モビルスーツ)での不法な入国者から、『事前に』『昨日付で』入国していた旅行者へと早変わりだ。そして僕を拘留している大義名分は消えて、僕は釈放された。

 軍警の本部ビルから出ると、シャリア・ブル中佐が迎えに来てくれていた。

 

 

「差し入れの私服姿も、様になっていますねえ」

 

「はあ。ありがとうございます。私服の件も、迎えの件も、そして大きな声では言えないんですけど『例の』件も」

 

「いえ、気にしないでください。行きましょうか」

 

 

 そして僕らは『地下鉄』に乗った。周囲にあまり人もおらず、騒音と客の話し声、そしてなによりも周囲の無関心で、かなりヤバい話までできる。

 

 

「……民間人?」

 

「女学生の制服でした」

 

「軍警や敵対勢力でなければ、善しとしましょう」

 

 

 僕は溜息を吐く。

 

 

「ジークアクスを奪われたのは、自分の油断でした。申し訳ありません」

 

「いえ、緊急のメンテナンスと脱出のための補修のため、コクピットから出たのでしょう? まさかコクピットハッチが閉じないレベルだとは」

 

「……どこまで読んでいるんです?」

 

「単に勘がいいだけですよ」

 

 

 僕は再度、溜息を吐いた。

 

 

「師匠を見て、免疫が出来てなかったら、正直中佐を前にやってられなかったかも知れませんね」

 

「ほう? その人も?」

 

「ニュータイプかって意味なら、違います。いえ、逆の意味ではニュータイプに分類されている人ではあるんでしょうが」

 

 

 シャリア中佐は一瞬目を(すが)めると、口を再度開く。

 

 

「……なるほど。今存在するニュータイプは、ジオン・ズム・ダイクン提唱のニュータイプとは違うもの、だと。人類が宇宙に適応した結果ではあるけれど、ジオン・ダイクンの言ったニュータイプは宇宙の苛酷な環境で生きるため互いを深く思いやり理解し合えるもの……。

 対して今ニュータイプと呼ばれているものたちは、たしかに宇宙に適応した結果ではあるけれど、精神感応的な力を異常発達させただけの」

 

「スキャナー、エスパー、超能力者、サイキッカー……。言い方はいろいろありますが、今ニュータイプって言われてる人たちは、他人のことが『わかる』だけで『理解』まではしていないし、ましてや『思いやり』合ってはいないです。今この世界に、地球圏に、太陽系に、ジオン・ズム・ダイクンが提唱した真実の意味のニュータイプなんて、一人もいませんよ」

 

「やれやれ。耳が痛いですね。……痛いと言えば」

 

「?」

 

 

 そして中佐は、応急絆創膏の箱を差し出して来る。たぶんここの近場のドラッグストアかなんかで買って来た代物だろう。

 

 

「傷、痛みますか?」

 

「軍警刑事が殴って来る様子を捉えて、うまく殴られたんで、そこまでは。まあでもやっぱり、痛いは痛いですね。いただいても?」

 

「ええ、どうぞ。……これでわたしも、ジオン・ダイクンの言う『本物』に、少しぐらいは近づけましたかね?」

 

「そう思いますよ」

 

 

 

*

 

 

 

 イズマコロニーの適当なバーに入り、カウンターでシャリア中佐から酒を奢られる。適当な、と言うのはここで下手な内緒話をしても、他に漏れない店、という意味だ。状況から判断して、この店にはジオンの息がかかってるんじゃないかな。下手したらバーテンあたりも、工作員だったりして。

 ……今現在の僕には、その確証を持つことは極めて難しいけれど。ニュータイプ能力は、『今は』使う事ができないからね。

 

 

「その女学生が、オメガサイコミュを……。興味深い」

 

「まあ、あんな事に首を突っ込むような、たぶん周囲の状況から見て不良娘と言われる類ではないかとは思うんですが。でもだからと言って、正直『こっち』に巻き込むには憐れだと思います。……向こうから巻き込まれに来たら、どうしようもない事ですけどね」

 

「まあ、我々としてもきれいごとを言っていられる状況か、と言うと……。ほう?」

 

「どうしました?」

 

 

 シャリア中佐は、懐からスマートフォンを取り出して耳に当てる。そして再度スマートフォンを仕舞うと、口を開いた。

 

 

「ジークアクスが動きました」

 

 

 中佐は、いつも彼がジークアクスを呼ぶ『ガンダムクアックス』という名では無く、比較的ジオン軍内に広まっている『ジークアクス』の呼び名で言った。たぶんここがソドン内でない事を気にしたのでは、と思うが。だがこの人がそんな事を気にするかな、とも思う。

 そう思ってしまった事を、またシャリア中佐は読んだみたいだ。いや、もう最初に会ったときから諦めてるから。

 

 

「ふふ、ひどいですね」

 

「すみません」

 

 

 でもこの人、他との人間関係構築するときに物凄く苦労したんじゃないかな。……心を読むなんて、ニュータイプ能力なんて超感覚に頼らなくてもできることだし、そういった方面の対人訓練をちゃんとしたのを積む事ができてないと、ほんとにこの世は地獄になるし。

 僕も師匠に会って『教え』を受けた直後は、『チカラ』と『心』のバランス取れなくて苦労したからなあ。近くにいる人の心を『読まない』方法を手に入れるまで、ほんっと苦労したなあ。

 

 

「……いいお師匠さんだったようで」

 

「ええ。……『アレ』が動いたという事ですが。『反応』が?」

 

 

 シャリア中佐は酒のグラスを片手に、頷きを返して来る。つまりはオメガサイコミュの起動信号を、ソドンが受け取った、という事だ。

 直後、唐突に店のテレビ画面が乗っ取られた。乗っ取られたというか、海賊放送って奴だ。中佐が真剣な顔でその画面を見ているという事は、何かしら関係があるだろうと思われる。

 

 

「これ、ジャンク屋達が始めたクランバトルって奴ですか? ……ポメラニアンズ? なんと言うか、妙に可愛らしい名前ですが、こんな殺伐としたお遊びに相応しくないって言うか」

 

「まあ、観させてもらいましょう」

 

 

 そして画面に映ったのは……。いや、まずいだろ。これ機密兵器だぞ。しかもオメガサイコミュ搭載してる。つまりは条約違反の兵器だ。ジークアクス、シャリア・ブル中佐言うところのガンダムクアックスだ。それが宇宙を飛んでる。それがジャンク屋達の賭け試合であるクランバトルに、堂々と出場している。まて、まってくれ。

 

 

「頭痛がしてきました」

 

「本当に民間人……だったようですね。……!!」

 

「これは!! ……嘘だ。よりによって、『アレ』のMAV(マヴ)がこいつだなんて……。い、いや駄目だ、嘘って言うのは簡単ですけど、現実にある以上現実を見ないのは大火傷の元だと」

 

「それも君の師匠が?」

 

「はい」

 

「良いお師匠ですね。今はどちらに?」

 

 

 中佐は画面から目を離さずに、問う。僕も画面に映った、奪われたジークアクスのその僚機を見つつ、思念で強く答えた。『今はもうこの世界のどこにも居ません』と。

 今テレビ画面に映っていたのは、つい先日僕のジークアクスと1on1のバトルを繰り広げた、あの赤いガンダムだった。よりにもよって、こいつがジークアクスのMAV(マヴ)か。

 そしてシャリア中佐は、はっきりと声に出して言った。その瞳は、テレビ画面の赤いガンダムを見つめている。

 

 

「……面白い! ああ、いや君のお師匠の事ではないですよ?」

 

 

 いえ、それは重々理解してますよ中佐。

 

 

 

*

 

 

 

 そして勝負が始まった。ジークアクスはまったく基本のなってない動きで無意味に飛び回る。まあ索敵をしているんだと理解はするが、あれでは意味が無い。ミノフスキー粒子が撒かれた戦場では、先に相手を見つける方が圧倒的に有利になる。そしてジークアクスは、相手に無防備にその姿を晒しているも同然。

 敵の第1射目がジークアクスに降り注ぐ。ザクマシンガンだ。敵だけが飛び道具を持っていることに恐怖したのか、必死に飛び退いたジークアクス……パイロット名『マチュ』はMAV(マヴ)の僚機である『ハラヘリムシ』の赤いガンダムに衝突した。

 

 

「……あまりにも基本がなってない。いや、素人だから仕方ないですけど。……ただ『アレ(ジークアクス)』に積まれてる『アレ(オメガサイコミュ)』の効果かも知れませんが、動きの端々に才能は……。パイロット教育もパイロット経験も無いのが、全てを台無しにしていますけど」

 

「たしかにそうですが……。いえ、面白くなりそうです」

 

「でも、やっぱりあの『赤いの』は、例の『大佐』じゃなさそうですね」

 

「ほう? 何故その答えに? ああ、いえわかります」

 

 

 うん、また読まれた。いえ、慣れてしまえば楽ですが。話に聞く老獪(ろうかい)さが、あの赤いガンダムには見えて来ないんだ。僕と戦っていた頃も、思ったことだけど。

 

 

「それに、大佐がMAV(マヴ)の先陣を他人に譲るわけはない」

 

MAV(マヴ)は、貴方と『大佐』が編み出した戦術だと聞きました」

 

「ミノフスキー粒子下での戦闘は、基本有視界で行われます。ならば、先に相手を見つけた方が圧倒的に有利になります。しかし、それは最初の一撃だけ……。攻撃するには、姿を現さざるを得ません。初弾を躱されてしまえば、有利さは失われる」

 

「それをカバーするため。この時失われるアドバンテージを、お互いに補完し合う。これがMS(モビルスーツ)2機1組のM.A.V.……通称、MAV(マヴ)戦術、でしたね。教本によれば。

 でも、ニュータイプ能力ではるか彼方から索敵をし、遠隔砲台のビットで完全に不意打ちで敵を殲滅する『大佐』……。ちょっと不思議に思ってたんですよね。中佐と『大佐』で、どこが今現在のMAV(マヴ)戦術なんだろうって」

 

「ふ、あんまり言っちゃ駄目ですよ?」

 

「!! ……了解」

 

 

 なんか、ここは(つつ)いたらまずそうだね。話をそらしてください、中佐。おねがいします。

 

 

「了解です、ふふふ。……この対戦相手、MAV(マヴ)の基本に実に忠実です」

 

「元ジオンの軍人、とは確定していませんか。元連邦だったパイロットでも、終戦から5年も経てば……。ですがジークアクス……」

 

「ええ、ここまでの全ての攻撃を回避しています」

 

「『アレ(オメガサイコミュ)』が反応したって事は、やはり」

 

「でしょうね。扱いの難しいジークアクスで、よく動く」

 

 

 うん、ニュータイプ能力を持っているのは間違いなさそうだ。そしてあの操縦系が死んでる機体は、ここいら周辺では専門の設備があるソドンじゃないとなかなか直せるとは思えない。時間かければなんとかなるかも知れないが。

 ……まってくれ。ジークアクスがこの場でゼクノヴァ起こしたら、どうなる? 最悪イズマ・コロニーがごっそりと質量を(えぐ)られて……。僕は口に出さないで、シャリア中佐に向かい意志を集中する。必要とあらば、クランバトルに介入して強制的にジークアクスを回収しないといけない。

 だがシャリア中佐は首を横に振る。……つまりは中佐は、僕が知らない情報を多数抱えているって事か。僕がオメガサイコミュを『起動できない』ことも、知っていたのか予想が付いていたのかわからないが、確信していたみたいだし。

 シャリア・ブル中佐は呟いた。

 

 

「このパイロット、何者ですか」

 

 

 

*

 

 

 

 そしてジークアクスと赤いガンダムは、この戦いで奇跡の逆転勝利を飾った。敵の攻撃でジークアクスはヒートホークを手放してしまう。しかしそのヒートホークが飛んだ軌道の先に敵をおびき寄せ、敵に挟まれた形をとる事で油断させ、飛んで来たヒートホークに敵機をぶつけさせたのだ。敵機の1機はこれで頭部を破壊されて失格となる。

 これはおそらくオメガサイコミュの助力もあったんだろうけれど、あの女子高生どれだけの才能を秘めてるんだ、って話でもある。どこまで『視えて』いるんだ、末恐ろしい。とんでもないパイロットにジークアクスを奪われてしまったなあ。

 そして赤いガンダムのサポートを受けて、ジークアクスはもう1機の頭を刎ねた。正直頭が痛くなる。

 

 

「それに僕に与えられた密命も、シャリア中佐は知ってるんだろうしなあ。僕にこの使命を与えたのは、ミスキャストですよキシリア様。隠し事なんかできません」

 

 

 本当に、頭が痛かった。




まだ原作から、大きく乖離はしません。というか、しばらく乖離しないと思います。ただ徐々に、下地は作っていきたいと。
そしてエグザベ君の、もう『この世界のどこにもいない』師匠。ちょっと匂わせておきました。
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