Xavier the Superman   作:雑草弁士

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第3話 マグネットコーティングが欲しい

 シャリア中佐のスマートフォンに映った海賊放送の画面の中で、ジークアクスがダミーの風船に騙されずに、それをばら撒いた対戦相手のザクに向かい突進する。2機のザクはマシンガンの弾を連射するが、ジークアクスはそれをひょいひょいと(かわ)し、突撃する。

 一方、相方の赤いガンダムは手に持ったハンマーを振りかざし投擲(とうてき)、鎖に繋がれたハンマーは1機のザクに命中し、一瞬ザクマシンガンの火箭(かせん)が停止する。その隙を逃さず、ジークアクスはヒートホークの一振りで2機のザクの首を一回で刎ね飛ばした。

 ……ポメラニアンズ勝利。コモリ少尉が溜息のように呟く。

 

 

「これで4勝目、負けなしです」

 

「ううん、素晴らしい。このパイロット、もうガンダムクアックスを使いこなしている。……ああエグザベ君、ポメラニアンズのステッカー、買ってきてくれてありがとうございました」

 

「エグザベくんが買って来たの!? 中佐のスマホに貼ってあるステッカー!」

 

「ああ、うん。この間、『(コロニー)』に降りてジオン工作員と接触してきますってシャリア中佐に外出許可頼んだら、ついでにって頼まれてね」

 

 

 ほんとシャリア中佐、肝が太いよね。僕がキシリア様の派閥の人間で、シャリア・ブル中佐がキシリア様の敵だった場合、最悪消す事も密命として受けてるってことも『知って』いて、連絡員とのツナギの許可出すんだからさ。

 ま、どうせ『現状』の僕じゃあこの人を殺すなんて無理だし。基本MS(モビルスーツ)あるいはMA(モビルアーマー)なり兵器のコクピットに座った上で戦闘の命令がない限り、『ニュータイプ能力』と呼ばれている『チカラ』も『使えない』ように条件付けされてるんだし。手足を縛っておいて、その上で無茶な仕事を任せられてもなあ。

 まあキシリア様の気持ちもわかる。あの人、信頼できる人間がほとんど居ない。『僕の様な』いわゆる『去勢された』人間じゃないと、安心して何も任せられないってのもわかる。だけどさ。いわば武器をいっさい持たせないでおいて、武器をもった相手を殺せとか、どういう……。

 

 

「エグザベ君も、たいへんですねえ」

 

「わかっていただけるのは、中佐ぐらいですよ」

 

「ははは」

 

 

 いや、笑いごとじゃないんですがね。

 

 

「はぁ……。まったく。中佐、ポメラニアンズとかいう連中の身元は、裏ルートも使って探っているんですが、めぼしい情報はありません」

 

「赤いガンダムと一網打尽にできるなら、好都合ではないですか」

 

「しかし、サイコミュ同士の共振がゼクノヴァの原因という報告もあります。放置するのは危険です!」

 

「まあまあ、コモリ少尉。中佐は僕らが知らないことも、数多く知っておられるようだし。僕らに漏らすわけにはいかない情報も含めて、ね。中佐の様子とかそう言ったもろもろ含めて俯瞰(ふかん)して見れば、たぶん……だけどオメガサイコミュと赤いガンダムのアルファサイコミュじゃ、『噛み合わない』とかじゃないのかな。たぶん、でしかないけど」

 

 

 僕がそう言うと、『え』という表情をしてコモリ少尉はけげんそうな顔をする。

 

 

「……ニュータイプの勘、とでも言うのかしら」

 

「まさか。単なる分析さ。僕は『現状』ニュータイプの能力は、条件が揃ってないと『使えない』からさ。あ、ごめん聞かなかったことに。秘密なんだ」

 

「ふうん……」

 

「ま、まあ何にせよあまり中佐につっこまない方が……。あ、そうだ中佐」

 

「はい、いいですよ。ああ、新しいポメラニアンズのステッカー、見つけたら買ってきてください」

 

「ありがとうございます。いってきます」

 

 

 これだよ。僕が『(コロニー)』に降りてキシリア様派閥の工作員と接触してきます、って心の内で考えると、言葉で返してくれる。やりやすいって言うか、やり辛いって言うか。コモリ少尉の視線も気になる。なんだい、その怪しいものを見る視線は。

 いや気持ちはわかる、けどさ。

 

 

 

*

 

 

 

 シャリア中佐にお土産のポメラニアンズのステッカーを渡した僕は、今は例のクランバトルの海賊放送を、ソドンのブリッジで観ている。そして危うく吹き出すところだった。

 今、画面に映っている、ポメラニアンズの対戦相手のMS(モビルスーツ)は……。

 

 

「gMS-01ゲルググ……。今もジオンで現役の機体です。鹵獲したガンダムの、量産(マスプロダクト)モデル。まだ民間には払い下げられていません。どこから調達したんだ、こんな機体」

 

「わが軍が横流ししたってこと?」

 

「たぶん、どこかにルートがあるのは間違いないと思うよ。組織的なのか個人がやってるのか、軍の一部がそれこそなんらかの政治的思惑があって関与してるのか、はわからない」

 

 

 そしてゲルググ2機は、画面の中でジークアクス組との距離を一気に詰める。普通のMAV(マヴ)戦術とは異なる動きだ。だけど、あれは教本で読んだ記憶がある。

 

 

「まさか、連邦の『魔女』!?」

 

「え、なにそれ」

 

「……」

 

 

 シャリア中佐は黙したまま画面を見ている。そして赤いガンダムに吶喊(とっかん)する、赤と白にペイントされたゲルググ。ジークアクスがそれに割って入ろうとする。しかし……。

 なんだ今の動きは。ジークアクスを中心にして、赤と白のゲルググが振り子の様な動きでその背後に回り込んだ。ジークアクスから紐で繋がれたかの様にッ!? それか!?

 

 

「『お肌の触れ合い通信』用のワイヤーケーブルを打ちこんで、それを使って急激な方向転換と回り込みを!」

 

「『お肌の触れ合い通信』って、あのミノフスキー粒子下での直接通信でしょ!? それ用の通信ワイヤー、ってエグザベくん見えたの!?」

 

「見えるわけないよ! それ以外に考えられないってだけさ! それより……」

 

 

 あの動き、あれゲルググの動きじゃない。何か細工されてる。何か、何か……。

 

 

「……駆動系の摩擦(まさつ)キャンセル技術、でしょう」

 

「しかし、実用化の報告はまだ……」

 

 

 ブリッジオペレーターの声に、シャリア中佐は考え込む。

 

 

「いや……。なんて言ったか……。あの元連邦軍の技術士官……」

 

「あっ!」

 

 

 グレーの機体の支援射撃のもと、赤と白のゲルググが赤いガンダムに接敵する。グレーのゲルググがガンダムのハンマーで叩き伏せられたその隙に、例の振り子運動でガンダムの背後に回り込んだ赤と白のゲルググ。そして小型ビームライフル射撃。赤いガンダムは、手足を大きく振ってAMBAC(アンバック)で姿勢制御。そのついでの様に、振り回した手足の間の隙間に敵のビームを通すことで、ぎりぎりで射撃を(かわ)す。

 あの赤いガンダム、単純な操縦技術は僕とほぼ互角、か? あれをやれと言われたら、流石にニュータイプ能力を『使える』状況下じゃないと難しい。でも、できなくは無い、けども。

 

 

「あれが『魔女』のスティグマ攻撃」

 

「教本では、たしかそう書かれてましたね。忘れてましたが。けど完全に殺しにかかってる動き、だ。こんなお遊びで……。いえ、僕も……」

 

「甘くてけっこうですよ。オン・オフの切り替えさえ、しっかりしていただければ。第一、『戦争は終わった』のですから」

 

「……」

 

 

 また赤白のゲルググが、赤いガンダムを起点の振り子運動で、ビームサーベルを振りかざして死角から斬りかかる。ガンダムはハンマーの鎖を引き戻して、それで赤白ゲルググとの間に割り込ませて防ぐ。

 

 

「『魔女』のスティグマ攻撃。性能に劣る軽キャノンでもキルを重ねた。連邦軍ユニカム(エースパイロット)の必殺技です。エントリーネームだけでは確証は持てませんでしたが……。本物の魔女、だ」

 

「……シャリア・ブル中佐。お願いがあります」

 

「許可します。コモリ少尉、今回のポメラニアンズの対戦相手、サイド6の軍事警備会社ドミトリー警備と、その下部組織であるクランバトルのクラン、CRSを洗ってください。エグザベ君のために、あのゲルググに使われてる駆動系の摩擦(まさつ)キャンセル技術、接収して手に入れます」

 

「ええっ! ポメラニアンズの捜査は」

 

「そちらは、わたしとエグザベ君でどうにかします」

 

「は、はあ」

 

 

 あの技術で駆動系の応答性が良くなれば、間接的にだけど操縦系への負担が劇的に減るのは間違いない。かなり無茶をさせても、操縦系のオーバーヒートは起きなくなるだろう。もっとも……。

 

 

「でもエグザベ君、無茶をしてはいけませんよ。し過ぎると、ああなる技術でもあります」

 

「はい。それにザク系やドム系の流体パルス駆動システムには、合わない技術でもありますから、搭載できる機体は限定されるでしょう」

 

「なんとか、フィールドモーター駆動の機体を、手に入れないとですねえ」

 

 

 画面の中の赤白のゲルググは、赤いガンダムに射撃するが、それをハンマーを犠牲にして防がれた。その際、ゲルググの機体が(きし)んだ様に見える。……ゲルググは、ガンダムの量産(マスプロダクト)モデル。量産化のため、安く抑えられるところは安く抑えてある。

 無論、それが悪いわけではないし、連邦軍の試作機というか実験機にして実戦テスト機であったガンダムに比べ、部分部分では性能的に凌駕している部分もある。総合性能では互角以上、だ。まあ後日アルファサイコミュを搭載したことで、また再度総合性能での評価は逆転してるんだが。

 だがガンダムは実戦テスト機。どんな状況下でもデータを持ち帰るため、基本的な構造の強度が桁外れなんだ。だからガンダム並の機体にこそ、あのゲルググに施されている技術は輝くというものだ。

 

 

「……何か、聞こえます?」

 

「これ、ララ音じゃないですか?」

 

 

 能動的にニュータイプの能力を使えない『現状』の僕にも、『あちら』から強圧的に呼びかけられれば『受信』することはできる。ニュータイプ同士の精神感応現象による、戦場に響き渡る『音』……。ララ音。

 って、コモリ少尉。聞こえてるの? ってことは……。ニュータイプに否定的だったコモリ少尉も、ニュータイプ能力かその萌芽くらいは持ってる、ってこと?

 

 

「……赤いガンダムです。何が起こっているんだ」

 

「!! オペレーター! ミノフスキー粒子系のセンサーをお願いします! すいません中佐、越権行為を!」

 

「いえ、かまいませんエグザベ君。ナイスタイミングでした」

 

「反応ありました! ミノフスキー粒子が一部で相反転現象を! まだ臨界には程遠いですが……」

 

「やはり……」

 

 

 そして赤白のゲルググの攻撃を、腕や脚の合間にビームを通して(かわ)す赤いガンダム。そして更に変わる赤白のゲルググの動き。あの動きからして、もう1本ワイヤーを射出したのだろう。

 だが安価でガンダム級の剛性を持っていないゲルググのフレームは、あの摩擦(まさつ)キャンセルの技術による無理と、ワイヤーケーブルの張力に負けて、崩壊する。赤白のゲルググの、左腕が肩口からバラけて砕けた。

 そして、赤白ゲルググのビームサーベルが振り下ろされようとしたその先に、赤いガンダムの姿は無く、そこには宇宙に浮くビーム刃の消えかけた1本のビームサーベルが。そして幽霊のごとく、赤と白のゲルググの背後から、赤いガンダムが。その手に握られたもう1本のビームサーベルが、背後から赤白ゲルググのコクピットを貫く。

 

 

『僕の願いは1つだけ。それ以外は何もいらないんだ』

 

 

 繰り返しになるが、僕は『現状』では能動的にニュータイプの能力と言われているものを使う事は不可能だ。だが相手方から強圧的に送り付けられてきた思念を受け取る事は、出来なくもない。というか相手方には、これを『送っている』意図は無いんだろうが。

 赤いガンダムのパイロット……。まだ子供じゃないか。それが、こんなにも無慈悲に、相手を、こ、ろ、す。ルウム難民からジオンに拾われ、フラナガン・スクールでの『あの』日々を経てジオン軍入りした僕が言える事じゃないけれど、さ。

 

 

「ニュータイプは人を殺しすぎた。だから、憎しみを巻き込んでしまうのかも知れません……。いえ、エグザベ君に言わせれば」

 

「ええ。ニュータイプは居ません。いるのはスキャナー、エスパー、サイキッカー、超能力者です。それじゃなければ、戦争なんて起こっていないはずです。それじゃなければ、戦争は『終わって』いるはずですよ」

 

「え?」

 

 

 コモリ少尉が不思議そうな顔をする。ああ、彼女にとって戦争は『終わって』いる。僕も本当は、あっち(コモリしょうい)側だったはずなんだが。はぁ……。シャリア中佐、どうしてくれるんですか。

 

 

「どうにかしたい、とは思っています。けれど、わたしの手もそこまで長くは無いのです。できるところは、自分でやっていただけませんか」

 

「ええ、わかります」

 

 

 だよなあ。シャリア中佐に責任が無いとは言わないけど、もっと責任があるのはキシリア様とかギレン総帥とか、あっちになるもんな。いや、キシリア様も俯瞰(ふかん)的に見れば状況に振り回されてる感は無くもない。ギレン総帥だって天才的ではあるが、だからと言って全部があの人の手の内で動いているわけもない。

 きょとんとした顔をしてるコモリ少尉が羨ましい。いや、彼女からすればたぶん現状は不本意だらけなんだろうけどさ。




エグザベ君、マグネットコーティング技術入手フラグ立ちました。魔女さんの死については、彼らそこまで深い関わり無いので、そんなに重いショックは受けません。
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