Xavier the Superman   作:雑草弁士

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第9話 エグザベ脱走

 僕とニャアンは、グラナダ近傍宙域でMS(モビルスーツ)戦の訓練を行っていた。だが、その裏で……。

 

 

((中から、外へ))

 

((外から、中へ))

 

((上がって、下がって))

 

((ひっくりかえって))

 

((外から、中へ))

 

((中から、外へ))

 

 

 今の僕らなら、身体はMS(モビルスーツ)の操縦で模擬戦をしながら、精神はリンクさせて超能力の訓練をするのも難しくは無い。と言うか、なんかわけわからん緑光が、僕のギャンとニャアンのジフレドが交錯するたびに出てたりするけど。

 でもまあ、『洗脳されてる僕』であってもMS(モビルスーツ)なりなんなりに乗って、戦闘命令を受けていれば、ニュータイプ能力を使えるはずではあるからね。ソレだと思ってもらうしかないな。洗脳は既に解除してるんだけど。

 

 

(エグザベ少尉。少しずつだけど、内心に整理がついて来たと思う)

 

(そうか)

 

(わたし、シュウちゃんをゼクノヴァの向こうから取り戻したい。そしてマチュに返さないと)

 

(……そこまで思い詰めてるのか)

 

(シュウちゃんは、わたしを置いてゼクノヴァの向こうに消えた。彼はわたしのものには、絶対にならない、と思い知らされた。マチュを捨てて、ガンダムを捨てて、逃げよう、って言った自分が)

 

 

 サイド2難民のニャアン。脱出できても周囲は悪意と蔑視だらけだった。友誼を結んだマチュ……アマテ嬢からも、シュウジ・イトウやジークアクスを挟んで悪意をぶつけられた。

 彼女の繊細な精神に、目の粗い鉄ヤスリをかけられる様な日々。その辺は、僕もわからなくも無い。経験が、無くも無い。

 

 

(そっか。ニャアン、そう、だな。ニャアン、もし僕が君の目の前からいなくなったとしても。かならず助けに戻って来る。それは約束する)

 

(……いなく、なるんですか?)

 

(たぶん、一時的に、ね。超能力者(エスパー)には向き不向き、があるんだ。僕が不得手なのは、予知能力(プレコグニション)。ただ、まったく素養が無いわけじゃない。それが『予感』を伝えて来る。僕は、ここに居られなくなる可能性が高い)

 

(……)

 

(でも、強い意志があれば、未来なんて変えられる。何かピンチだったら、精神感応(テレパシー)で強く『想って』くれ。宇宙の彼方からでも、戻って来る)

 

(はい。待ってます)

 

 

 そして、ニャアンのジフレドと僕のギャンは、数度目の交錯をする。緑色の光が、周囲に散った。

 

 

 

*

 

 

 

 翌日、僕はキシリア様に呼び出しを受けた。敬礼してキシリア様の私室に入室すると、そこに居たのはキシリア様ただ1人。あー、これは……。精神感応(テレパシー)で心を読むまでも無いな。というか読んだらこの人はニュータイプ能力の片鱗というか萌芽というか初期覚醒しかけているの間違いないし、読まれてる事勘づくよなあ。

 うん、心を読む必要もない。これは、気付かれてる。

 

 

「エグザベ少尉。日頃の(ねぎら)いをさせてもらおうと思って、呼んだ」

 

「はっ! 光栄であります」

 

「椅子に掛けろ。それはわたし手作りのシチューだ」

 

「はっ! ありがとうございます! いただきます!」

 

「テーブルマナーは、カリキュラムには入っていなかったな。気にせずともいい」

 

「お気遣い感謝いたします!」

 

 

 僕は椅子に座り一礼して食べ始める。これは美味しい。キシリア様、本気で料理上手いな。無作法かとは思うが、脇の皿に盛ってあったパンをちぎって、シチューに浸けて頬張る。美味いね。

 いや、まあ内心びくびく物ではあるんだけど、死ぬ恐怖はぶっちゃけ無い。今の僕なら、逃走ぐらいできるし。簡単に。

 

 

「ふ、美味そうに食べてくれるな。嬉しいよ」

 

「はい、たいへん美味しいです。自分は語彙(ごい)が少ないので、的確な言葉を選ぶことができないのが悔しいですが」

 

「ふむ。かまわん、自分の言葉で感想を言って見ろ」

 

「では……」

 

 

 僕はスプーンを置いて、ナプキンで口元を拭いて言葉を紡ぐ。

 

 

「これが最後の晩餐かと思うと、少し悲しいほどに美味しいですね、キシリア様」

 

「ふふふ、どうして気付いた?」

 

「いえ、それは自分が……。僕が貴女に問いたい事なんですが。まあ、わかりますよ。僕とて貴女からの殺意ぐらいは感知できます」

 

「それでも平気でシチューをぱくつく、か。肝が太いな。毒は警戒しなかったのか? やはり洗脳が解けて、平常時にもニュータイプの力を使えるようになっていたか」

 

 

 いえ、平気で食事してるのは、超能力使える状態なんで、既知の毒とか効かないからなんですがね。この世界の毒どころか、『外』の毒物についても師匠に教えられましたんで。だから全ての毒は既知です。

 

 

「それでキシリア様は、何故?」

 

「貴様、ニャアンと共にニュータイプとしての力の訓練をしていただろう。わたしの目的からすれば、ありがたい事ではあったが。1回だけ、MS(モビルスーツ)に乗っていないときにグラナダ内でうっかり訓練しただろう?」

 

「ああ、そこを誰かニュータイプ候補生か誰かに感知されましたか。いえ、キシリア様ご本人に、ですか?」

 

「その辺は、想像に任せる」

 

「食事、再開しても?」

 

「貴様、ここまで面白い男だったか? まあよかろう」

 

 

 そして僕は、キシリア様謹製のシチューを、たいらげる。パンをちぎって、一滴も残さずに、シチュー皿を底までぬぐって食べる。そしてキシリア様に一礼した。

 

 

「ごちそうさまでした。ものすごく美味しかったです」

 

「他の者とは違い、貴様はこれまで裏表なく役立ってくれたからな。洗脳の結果とは言え。せめてもの手向けだ」

 

 

 そしてキシリア様は、拳銃をこちらに向けた。まあ座っている状況だと避けられない。僕は目を瞑って、ニャアンと精神感応(テレパシー)で会話する。

 

 

(ニャアン、やっぱりしばらくお別れだ。キシリア様に、洗脳解けてるのに気付かれてたよ)

 

(そう、ですか)

 

(ニャアン、だけど……。僕は逃げるけど、君もいっしょに来るつもりがあるなら)

 

(……ごめんなさい。キシリア様を置いて行くのは。それに)

 

(ゼクノヴァ起こして、シュウジ・イトウを取り戻す、か。マチュ君に彼を返すため、に)

 

(うん)

 

 

 僕は大きく溜息を吐く。

 

 

(わかった。でも、何かあったら必ず帰って来る。君を護る。護らせてくれ)

 

(おねがいします)

 

「覚悟はいい様だな。……ニャアンの能力の鍛練のためには、生きてもらった方が良いのだが。しかし万一、余計なことをあの娘に吹き込まれてもらっては困るのでな」

 

「言っていい事かはわかりませんが、キシリア様。ニャアンの事を、娘のように思ってらっしゃるのですね」

 

「かもしれん」

 

 

バン! バン! バン! バン!

 

 

 拳銃の4連射。頭に2発。心臓に2発。たぶん弛まぬ訓練を日々行っていたのだろう。覚醒を始めたばかりの未だカケラ程度のニュータイプ能力も、後押ししたのかもしれない。拳銃弾は、過たず命中した。

 そして僕は、椅子をゆっくりと引いて立ち上がる。キシリア様の目は、驚きに見開かれていた。

 

 

「馬鹿な」

 

「洗脳は解けているんです。チカラを十全に使えば、造作もないとまでは言いませんけど、頑張ればなんとかなるレベルです」

 

 

 うん、サイコバリア展開して、防いだ。あるいは瞬間移動(テレポート)の応用で一瞬だけ実体を位相のズレた場所に置くことで弾丸すり抜けさせてもよかったけど。それタイミング難しいから。

 

 

「キシリア様。僕は貴女を恨んでいるけど恨んでいないんです」

 

「何?」

 

「為政者としての貴女は、一年戦争の戦争計画に於いて積極的か消極的かは知りませんが、ギレン総帥の方針に賛同した。そして僕の故郷であるサイド5を滅ぼしてしまった事については恨み骨髄です。ですが個人としての、私人としての貴女はお優しい方だ。決して『嫌い』ではない。『嫌う』ことができない。

 だから何時でも洗脳解けたのにぎりぎりまで解こうともしませんでしたし、仕方なく洗脳解いてからも敵対しようとしませんでした」

 

「なん、だと」

 

 

 肩を(すく)めて、僕はやれやれと言った様に首を左右に振る。

 

 

「まあこうなってしまっては、貴女の下には居られませんから、僕は去らせていただきます。だけど、もしニャアンを何かの陰謀やなんかのキーとしてでも使おうと言うなら、『怒り』ますよ。

 私人としての貴女は信頼できる。幾重もの意味で、サイド2の難民と言う意味でも、チカラを持っている事でも……。ニャアンは僕の大事な後輩です。大事にしてくれるだろう、と信じられます」

 

「……」

 

「でも公人としての貴女、為政者としての貴女は信じられません。貴女は犠牲を許容し過ぎる。……可能であるならば、貴女の野望の道筋に、ニャアンを巻き込み過ぎないでください。そしてその道筋で、犠牲者を可能な限り減らして欲しい」

 

 

 まあ、それがジオン軍人の犠牲だけならば、僕もそんなに気にしないんだけどね。一年戦争での恨みあるし。ああ、地球連邦も恨んでるけどね。ま、どっちに対する恨みも、積極的に討ち滅ぼそうとか、そこまでは行って無い。

 というか、なんかこの5年で恨みはつのるよりも、しらけてしまった。消えてはいないし、熾火(おきび)のように(くすぶ)ってはいるけれど。でも誰かが燃料追加とかしない限りは。

 僕はキシリア様に敬礼して、踵を返して扉のスイッチを操作する。というかロックされてたんで、電子使いの超能力で電子キーに介入してさっくり開ける。

 

 

バン! バン! バン! バン! バン! カチッ! カチッ!

 

 

 背後からキシリア様が拳銃を連射する音が聞こえ、弾切れの音もする。だけど僕は銃弾をサイコバリアで防ぎ、開いた扉からキシリア様の私室を立ち去る。透視(クレアボワイヤンス)で、キシリア様が呼び寄せた兵士がこちらへ急行して来るのが『視え』た。

 僕は溜息を吐く。瞬間移動(テレポート)は同じ距離を歩くよりも疲れるんだよ。できればやりたくない。仕方ないからやるけどさ。

 

 

 

*

 

 

 

 そして今、僕のギャンは月の高軌道で他のキシリア様親衛隊のグレーのギャンに追われている。悪いけどさ。僕のギャンはマグネット・コーティングしてあるんだ。間接の駆動に要するパワーが低減してるんでジェネレーターに余裕が出て、基本スペックは同じでもスラスターやバーニアに回せる出力が多いんだよ。

 じりじりと距離を離されることに焦りを感じたか、グレーのギャンたちは手に持ったランス『ハクジ』からビームを撃って来る。相手は6機、MAV(マヴ)が3組だから、けっこうな射線密度でビームが飛んで来る。

 

 

『な!? ザザッ』

 

『ザザザバカな!!』

 

 

 通信機から、ミノフスキー粒子による通信障害の雑音(ノイズ)が混じった、パイロットたちが驚く声が聞こえる。いや単に命中するビームだけをサイコバリアで防いだだけなんだけどね。

 

 

『エグザベ少尉の機体ザザッIフィールドが搭載されてるなんて聞いてないぞ! ザザザザ』

 

 

 いや、Iフィールドじゃないから。まあビームの射線というか殺意の(ライン)は、はっきりと見えていたし。避けるのも余裕で出来たんだけど。でも今は、可能な限り全力噴射して、予定軌道に達するのが先決だから。

 まあ瞬間移動(テレポート)すればいいんだろうけど、正直まだ僕はしばらく洗脳状態だったため、超能力を使うのにブランクがある。……それに、師匠の来た『外』に居た強力な超能力者(エスパー)の言葉でもあるんだけど、歩くより瞬間移動(テレポート)する方が楽だと思うのは間違いなんだよな。ましてやギャンごと、だなんて。やればできるけど。

 そして予定軌道に達した。そこには1隻の宇宙船が、僕を待っている。レーダーにはまったく映っていない。

 

 

『馬鹿な! なんザザザザッ!』

 

『ザザの宇宙船は!?』

 

 

 全長は500m弱。ステルス性能も防御性能も、勿論のこと砲火力も航行性能も、この宇宙の宇宙戦艦など問題にもしない、宇宙巡洋艦、だ。というか、『外』の世界では紙装甲というか段ボール装甲扱いを受けていた艦なんだが。でもこの世界のビーム兵器で損傷するような艦じゃない。

 この艦は、師匠が『外』から漂着したときに乗っていた船だとの事。もともとは『外』の世界の銀河連邦が配備していた標準タイプ艦らしい。全自動化されてはいるが。ちなみにこの艦のことは、つい先日に洗脳を自力解除するまでは『忘れて』いた。意図的に。いや洗脳されたままこの艦のこと覚えてたら、なんかのきっかけで、ついうっかりキシリア様に漏らしちゃったりすると困るし。

 超能力で操作し、解放された艦の船倉にギャンを飛び込ませ、船倉の扉を閉める。そして一気に艦を超空間航法(ハイパードライブ)させた。

 そして僕は、一息に太陽系を脱出したのだった。




エグザベ君、脱走しました。アムロ脱走とちょこっと掛けたタイトルですが。エグザベ君も白いMS(モビルスーツ)ごと逃げましたし。
というか、ジークアクス本編いろいろありすぎて、プロット練りなおしましたwww
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