帰宅道中膝栗毛 作:William Sagagenji
特に何か具体的な
勿論、場合によっては梅雨だとか春霞だとか、夏至、残暑、寒の入り、雪解け、或いはインディアンサマー、ハルマッタン──そんな感じの、明確に四季ではないけれど何らかの時期を表す言葉や、その時期特有の気候現象、そういったものを答えとして挙げる人もいるだろう。
さて、僕の好きな季節は断然「冬」だ。
当然ちゃんとした理由もある。僕は「何が好きか」より「何が嫌いか」で自分を語るタイプの人間なので、理由もそういった方向の物なのだが、つまりは「夏」が大嫌いなのだ。だから、その対極に位置する冬が好きな訳だ。
冬は良い。熱中症でブッ倒れる心配をしなくて良いというのは、心配の多い僕の人生において精神的負担が僅かながらでも軽減される、全く以て良い季節だ。
僕がこの異世界に飛ばされたのが、泣く子も黙る十二月。幸運な事に、元いた地球世界と異世界は時間の流れも季節の配列も大体変わらない為、此処であっても十二月。この世界が果たして地球世界と同じ星辰を有するのかは定かではないが、
現状を説明しよう。
僕はかれこれ三十分くらい、この肌寒い異世界の冬の中で突っ立っているのだった。
「……
「そうでしょう、そうでしょうとも異邦人殿! ツァーリツインの冬は寒いのです。しかし冬は始まったばかり、まだまだこれからですぞ!」
「……そのようですね」
しかし、遠くで半ばBGM化しているデモ隊の叫び声まで綺麗に(或いは汚らしく)翻訳してしまうのは如何なものか。
手元の携帯Linux端末の温度計機能によると、ツァーリツインは現在気温が6℃、乾燥した北風の吹く寒い街である。インナーを着ているとはいえ、学生服だけではやはり肌寒い。僕は
配給所の列は長い。とは言え三十分も待てば自分の番が来るのだから、日本、水道橋付近でよく行列を作るイベント類よりかは遥かにマシだろう。とは言え寒いものは寒い。
「今日の配給は少しばかり贅沢でしてな、何とイモが一食二つ! 普段の倍ですぞ!」
「そりゃあ良い、晩飯はシチューにしようかな」
帰りたい。
芋の一つや二つで騒ぎ立てるこの低次元文明から脱兎の如くオサラバしたい。
そもそも芋は一食に二つも使わねえよ基本は。一つで十分だろ。栄養士は配給所に居ねえのか。
居ないのだろう。
帰りたい。ぶっちゃけ栄養なんてどうでも良いからカップラーメン食いたい。カレーメシでも良い。日清万歳! 日本万歳!
そうして僕は、とても今更過ぎて殆ど興味も失せていた一つの疑問を思い出し、待つ時間も暇なので早速質問してみることにした。思考の逃避行である。
「そういえば、どうしてこの街の食料は
「ほう、と言いますと?」
「いえ、大した事ではないんです。只……普通、農作物は市場か、或いは卸売業者から買うものではないんですか? どうにも……市民登録が済んでいる者なら誰でも配給食料を受け取れる、というのは、僕の価値観からは考えられないモノでして」
配給制。
僕の生まれた年──十六年前の戦時下日本でもそれはあったという。あったというが──それは『戦時下』という一時的なものだ。二次大戦も三次大戦も食料品の配給制化は一時的なものだった……と、近現代史の授業で聞いた気がする。例によって真面目に授業を受けていた訳ではないので、はっきりと覚えている訳ではないのだが、まあ詳しい事は桐切さんか癙蝨に聞けば分かるだろう。
或いは僕が単に知らないだけで、近世ヨーロッパでは多くの都市で食料の配給制が執り行われていた……という可能性もある。しかし、ベーシックインカムが云々と言われるこの時代にそんな歴史的事実があったなら、もう少し
まあ、「似ている」というだけで異世界と地球近世欧州を比べるのもナンセンスか。
「ふうむ、成程。つまり、異邦人殿の居た場所では配給制度は無かった……という事ですな?」
「まあ、はい。そうですね」
と、いう訳で。
僕は今、大通りに面した配給所の列で大人しく受け取り食材の梱包を待っている。
「気持ちは分かりますとも、異邦人殿。何せ私も同じでしたから」
「……貴方も、街の外から来たんですか?」
「いいえ、そうではありません。いやなに、単純な話で──この配給制が始まったのは、
おっさんの返答を聞いて、しばらく考え込む。
いや待て。
────半年ほど前?
「ええ、ええ、そうですとも。半年前です。
どうにも無視できない……というより、今更になって当たり前の権利の如く出没するファンタジー要素に戸惑いながら、僕は頭の中で新出単語を整理する。
勇者魔王云々に関しては……確か前に桐切さんが何か言っていた気がする。となると、全く情報が無いのは『トンデモない置き土産』か。
「貴方と同じ異邦人の勇者様が行った大改革。恐るべき食糧供給の大改革によって、我々の食べるものは極めて
◆ ◆ ◆
一単語で表すなら、工場だった。
「随分とまあ、ここまで大掛かりなものを……」
携帯端末のカメラズーム機能から見えるその光景は、驚愕というか意外というか、或いは今までと同じパターンと言うべきか──またもや現代建築である。この街にある現代建築は、HOTEL Midoriだけでは無かったという事だ。
まあ、増えて困ることは無いのだろう。幾ら景観を損ねるといっても。
ツァーリツイン市、南門から徒歩五分。
配給の列を抜け、デモ隊の喧騒を抜け、浮浪者共の巣窟を抜け、僕は仕事を切り上げた配給所のおっさんと二人でちょっとした社会見学に来ていた。
「聞くところによると、異邦人殿の世界ではこのようなものが沢山存在し、各産業を支えていた、との事ですが」
「……流石に、食料品原料は盛んでは無かった筈ですが、ね」
「我々にとっては、まさしく壮観ですぞ! このような光景は……他では見られませんから」
白く四角い豆腐建築が辺り一面に広がっている。
現世現実地球世界でも、まさかここまで露骨な人工物は無いだろう。煙突も電線も企業ロゴも無く、只々白く白く白いだけの構造物は、現代建築というよりも寧ろ現代アートと言った方が適切かもしれない。幾ら何でも装飾が無さ過ぎる。消去法で『工場』と言うより他無いが、そういう問題でもない気がする。
それが
巨大な
成程。これは紛う事なき『
「ここ数年、世界的に不作が続きましてね。それを見かねた勇者様が半年ほど前に作ったのが、この『
「ふうん。つまり、伊達や酔狂でこんな物を造った訳では無いんですね」
せめて伊達か酔狂であって欲しかった。真面目にこんな物を作る気が知れん。
と言うか、どういう発想があればこの近世欧州風味の世界で、こんな広々とした工場アートを作ろうとするんだろうか。不作だか不況だか知らないが、もっとやりようはあったんじゃないか?
石ころをパンに変えるとか。
「まあ、見た目はともかく、この工場で食糧供給が成り立っているのは分かりました。これなら何ら問題も無く配給制が存続できるってもんです。この工場のみでツァーリツイン全体を支えていると言っても過言ではないでしょうね」
食糧問題は社会制度の根幹だ。それがどのような形であれ、解決が出来たのならば、ぽっと出の部外者の僕が文句を言うのはお門違いだろう。いや、そもそも今の僕は配給品を食って生きているのだから、文句が言えよう筈もない。
しかし、『勇者』とは一体。
こんな工場畑を造ってしまうとは、一体どのような魔法使いなのだろうか。或いは僕が勝手に勘違いしているだけで、『勇者』とは即ち集団の名前だったりするのだろうか。それにしても、である。
「ですが、しかし」と、おっさんは言った。「しかし、良いこと尽くめという訳でもありませんぞ。寧ろ『問題が増えた』とも──いえ、食糧問題を
「はあ」と、僕は適当に相槌を打った。「はて、あまり想像し難いですね。その理屈だと、食糧問題と交換できる程の大問題が起きたとも考えられますが。まさか」
「そのまさかですぞ、異邦人殿」
どのまさかだよ。
しかしそうであれば、そんな問題が大手を振って街を練り歩いているならば、僕の見える範囲でも街の異常が分かるような気はするが。
街の様子を思い出してみる。
近世欧州の街並みに、堂々たる現代建築のホテル。
異常じゃねえか。引き返せ。
冗談はさておき。
思い当たる節といえば、街のデモ隊と浮浪者共くらいのものである。
「そうですな……一つだけ訂正をしておきましょう。今目の前にある
「はあ。……まあ、考えても見ればそうですよね。幾ら規模が大きいとは言え、まさか工場一つで街一つ分の供給が出来るかと言うと……」
「
「………………はい??」
何つった今?
国全体??
「我等が祖国、偉大なる故郷
────それは。
何と言うか。随分とスケールの大きい話で。
荒唐無稽。
「…………それはまた、凄い話ですね……」
そう、語彙力の完全に死滅した反応を返す以外に、出来る事は無い。
────少しだけ、考えてみる。
仮に日本人全員を養う食糧供給工場を造るとしたら。
人間が一日に必要な食事量は、確か2〜2.5kgくらい……だった気がする。家庭科の授業で先生が言っていたような記憶がある。やや乱暴だが2kgと仮定すると、現在の日本人は三千万人程居る訳だから、一日の産出ノルマは60,000,000kg……六万トン!?
……駄目だ。桁が大き過ぎて実感が微塵も湧かない。
まあ、人口も経済規模も国も時代も文明レベルも、まして世界そのものが違うのだから安易な比較はできないが、とは言え日本で考えると恐るべき量であるのは確かだ。
それが異世界の低次元文明国家であっても、一つの工場に国家の生産能力を集中した時には、その生産量は膨大なものになるのは明白だ。
それも
「……何と言うか……素晴らしい物ですね、これは。日本でも此処まで大掛かりな工場は無かった筈です。完全な食料自給を可能とする工場──これを素晴らしいと言わずして何と言いましょう。一体全体、何が問題となっているんです?」
「まさしく、それが一番の問題なのです。食料の生産──それは本来、農夫の仕事です。今、我々の前に聳え立つ巨大な箱がその仕事を奪う、と言うのは、果たして良いことなのか。私には分かりませんなあ」
成程。
単に彼が保守的な思想を持っているだけか。そのうちラッダイトしそうなおっさんだ。
「……飢饉を放置するよりかは人道的だと思いますが」
「しかし、世の中は飢饉よりも永く続きますぞ」
「今日が無ければ明日も無いでしょうに。定住文明の基礎は食糧生産であって、別に農業自体ではありません。勿論、農業以外の前例が少ないのは認めますが、ね」
「飯を食うだけが人間の存在意義でも無いでしょう。只食べるだけの人生なぞ、私は御免被りますぞ。鍬を持つのも耕すのも、何も生存のみの──淡白で味気無い作業では無いでしょう」
さて、別に僕は史学を専攻している訳でもなければ、経済学も文化人類学も碌に知見が無いのでこれ以上の事は言えないが、文明の
工場……機械的な、或いは資本主義的な様相を呈する目の前の
「とは言え、農夫の仕事が消えても世の労働は消えませんよ。どれだけ文明が発展しても──それこそ、このような工場があちこちに生え散らかしても労働は消えません。ペティ・クラークの例を出すまでもなく、この世に新しい労働の形が現れ、それで終いです」
「……はあ。ぺてぃくらーく、ですか」
「『農業の経済規模には限界がある』という話ですよ。だから二次、三次と新しい産業が生まれる。まあそんな事は兎も角、今現在『工場』が現れたのなら『労働者』が求められます。農夫は新たに『労働者』として働くようになっている筈です」
工場で産出されるのが農作物の場合、それは普通に一次産業なのでは? そもそもこの話にペティ・クラークは何ら関係無いのでは? と、僕は自分で言っておいて自分で訝しんだ。とは言えそれは本題ではない。どうせ時代が過ぎれば二次、三次産業が出現する訳だから、遅かれ早かれという奴だ。
農耕には農夫が必要だ。
工場にも労働者が必要だ。
労働がそこにある以上、人間が必要だ。
急速に広がり続ける大量生産大量消費の資本主義社会を無条件に肯定する気もないが、取り敢えず文明が発展することは良い事だ。
何であれ、労働が無くならないのは残念な話だ。嫌な話だ。悲しい話だ。
「…………?? 異邦人殿、工場には『人間』が必要なのですか?」
「?? そりゃそうでしょう。そこにある
故に、街に蔓延る浮浪者とデモ隊の存在意義……と言うか、普通に意味が分からない。
あれも勇者の置土産なのだろうか。
ところが、どうにも先程から隣のおっさんの様子がおかしい。どうにも先程から話が噛み合っていない気がする。
おっさんが顎髭をがりがりと搔いて、視線を逸らしながら言う。
「ああ……異邦人殿、貴方は一つ勘違いをしていらっしゃいます。それも盛大な勘違いですなあ」
「はて、何の事やら」
「先程言いました通り、『一番の問題』……、あの
────────それは。
何と言うか。随分とスケールの大きい話で。
荒唐無稽。
前代未聞。
或いは支離滅裂。
ついでに茫然自失。
「…………それはまた、羨ましい話ですね……」
そう、思考の完全に停止した反応を返す以外に、出来る事は無い。
日本にも欲しいな、それ。人間要らずで膨大な人口を養える工場。今の日本人の死因ランキング上位が入れ替わるぞ。
飢餓に対する特効薬じゃないか。
◆ ◆ ◆
裏庭のトーテムが増えている。
それを横目に、僕は今日遭遇した摩訶不思議な
「そんな物があるんだね」
相変わらずランダム配置モノクロカラーの後頭部を此方に向けたまま、癙蝨はさして興味も無さそうな風にそう言った。
「でも、『完全に無人の工場』だぜ? 恐らく機械なんて無いから魔法の類で動いてるんだろうけどさ。まさに夢の工場って感じがして、興味が湧かないのか?」
「ぜーんぜん。『魔法の工場』なんて、少し前はよく流行ったんだよ。──『全てが魔法で動く工場があったら、電気が要らなくなるんじゃないか?』──みたいな、ね。寧ろその最たるものが『陛下』じゃないのかな」
「……陛下が?」
「そう。陛下のお仕事は幾つもあるけど、大きいものでは『祈年祭』とか──丁度
そう言って、癙蝨はトンカチを振るのを止めて作業を終える。
これで計十本のトーテムが完成した訳だ。それも全て、例に漏れず人骨仕様。絵面が完璧に冒涜的だ。
「兎に角、今更『完全無人の魔法の工場』なんて出てきてもそこまで驚くべき事でもないんだよ、カシワちゃん」と、今日になって初めて視線を僕に合わせて癙蝨は言った。「日本と規模は違えど『国全体を養う』魔法の工場ってのは流石に事例が無いだろうけど、ね。でも理論上は不可能じゃないよ」
「ふうん。やっぱり、日本にも似たような発想はあったんだ」
「まあ、魔法である以上『個人の素質、才覚』に左右されちゃうから、結局規模が小さいままで終わってるっぽいよ。国家の胃袋を個人に握らせるわけには行かないしね。その辺り、その『勇者』って人がどうしたのかは気になるけど」
魔法の専門家──魔法使い曰く、そういう事らしかった。
当然、ズブの素人である僕は碌に理解できていない。
そんな癙蝨の講釈を聞いている内に、何時の間にか桐切さんが後ろに立っていた。相変わらず全身緑色のスーツで変質者めいた出立ちをしている。……この人、何時もこの恰好な気がする。何か『緑』に
「……あの馬鹿デカい工場の話かい、高校生」
「ええ、そうです。配給所のおっさんが教えてくれたんですよ」
「へぇ……」と言って、桐切さんは少しばかり考え込むように唸る。「んん、その『おっさん』ってのはあれかい、こう……顎髭がちょい出てて腹のだらしない……」
「いや、『おっさん』って言葉自体が大体そんなイメージですよ。まあ……確かにこれといった特徴は、桐切さんの言う通りの感じでしたが」
酷え言い様だ。
「そのおっさん、多分旧ギルドの元支部長だぜ」
「……ギルド?」
「半年前まであった『冒険者ギルド』さ。今は配給所になってるあの建物──元々は彼処にギルドがあって、この街は冒険者の為の宿場町見てえなモンだった」
「??」と、疑問符を浮かべて首を傾げている僕に、癙蝨が助け舟を出してくれる。「迅ちゃんの言う『冒険者ギルド』は……まあ、個人の傭兵向けの
「ああ……『ソード・ワールドRPG』に出てきた『冒険者の店』みたいなヤツか」
「合ってそうな気はするけど、流石に古すぎるよ」
「じゃあ、『ACfA』の『カラード』だ!」
「まだ古いし、ジャンルが違うよ!」
「……待てよ? 確か、随分前に読んだ『フォーチューン・クエスト』にも似たような名前の組織が在ったような…………」
「何でカシワちゃんはこう……妙な方向に知識が偏ってるのかなっ!?」
思えば、確かにあの名作は所謂「ゲーム的な」表現──例えば『レベル』だったり『ステータス』だったり『能力値』だったり──が、積極的に用いられていた覚えがある。懐かしい……県立図書館の電子書庫で偶然見つけたのは、確か小学校時代。当時はその作風が新鮮で、何度も読み返しては色褪せない驚きを楽しんだものだ。あの邂逅までは、僕の読書習慣は推理小説に偏っていたから尚更驚愕が大きいものだった。まだ読書を趣味として楽しめた時期だ……懐かしい。
もしかすると、此処は件の名作の世界なのではないだろうか────と云う突拍子も無い発想が一瞬だけ脳髄を駆け巡る。が、勿論そんな筈はないのは分かっている。似通っているのはその「ゲーム的表現」だけであるし、そもそも『物語の世界に入る』こと自体が荒唐無稽だ。幾ら『魔法』が世に蔓延っているとは言えども、そんな大掛かりな事が出来る奴なんて限られるだろう。それに……。
「……ちょっとぉ、カシワちゃーん?
「何つーか、大司教の奴もそうだが、君も大概だぞ高校生。自分の世界に入るとコッチの話を聞きやしねえのは──奴と同類めいて薄気味悪いぜ」
「……はっ」
痛い。
癙蝨に頬を引っ張られ、我に返る。
「……あー、スミマセン。どうも悪い癖が」
顰めっ面の癙蝨を見るに、どうも僕は考え込んでいたらしい。悪い癖だ。
「えーっと、何でしたっけ。『冒険者支援グループ』の話でしたっけ?」
「それを言うなら『冒険者ギルド』だ、高校生」
「あー、そうそう、それです。して、何故そんなモノがこの世界に? 魔物でも出てるんですかね。それともダンジョンが近くに? 或いは戦争?」
「いんや、
「それはまた……ハッピーエンド、ですね」と、僕は言った。適当に口にしたその『魔物』という単語がどういった生命体を指すのか僕は知らないが、字面からして碌でも無い連中なんだろう。そう思えば、ギルドとやらが潰れて新しく配給所ができたのは、何だか趣のある変化だ。「憂いが生態系ごと消えるのは、良い事です」
「そうだなあ、そうかも知れん」と、桐切さんは嗤った。
話はそれ以上続かなかった。
癙蝨の腹が鳴ったので、僕は晩飯の準備をしに、ホテルの厨房へと足を進める。シチューにしようとも思っていたが、何だか面倒臭くなったので、今日の晩飯はじゃがバタにでもしようかな。