厄災(?)リンクが行くテイワットの旅   作:ちぃの

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真の最終話です。本作を「完結」に。また、タグに「黒歴史」をつけておきました。

ナタ編はよっぽど興が乗らない限り描かないでしょう。

フリーナの伝説任務のネタバレを含…むのかコレ!?


OMAKE-ソリストの章っぽいなにか

呑星の鯨との大激戦(釣り)から数週間が経ったある日のフォンテーヌ廷。

 

 

街にあの騒ぎの跡はもう無くなっていたが、その立役者の一人であるリンクはいつも通り無表情で街を練り歩いていた。

 

そんな彼を呼び止めたのは、「水の叙詩」とかなんとか言う劇団の団員だった。

 

「頼む、君なら知っているんだろ? あのフリーナ様の居場所を! 解散寸前の僕たちの劇団を救えるのは、彼女の演出だけなんだ!」

 

 

と、言う事があり……

 

 

 

ーフォンテーヌ廷のとあるアパートの一室にてー

 

 

 

「……はぁ。今日は何を食べようか…ボロネーゼ、アマトリチャーナ、稲妻風だしじょうゆ…………。」

 

かつての水神は、ベッドの上でパスタソースの袋を眺めながら、重い溜息をついていた。

 

 

…ドカァァン!!

 

そんな時、玄関の扉が景気良く蹴り飛ばされ、いくらかの影がなだれ込んでくる。

 

「フリーナ!生きてたか!?オマエを探してる奴が居たんだ!」

「ななな、何だ君達は!? 不法侵入だぞ! 」

 

フリーナは慌ててのソース袋を布団の下に隠し、最高に見栄を張ったポーズで椅子に座り直した。

 

「ふ、ふん。もう何の立場も無い僕のプライベートを邪魔するなんて、いい度胸だね。……で、何のようだい…?」

 

微妙に声が震えているフリーナの前で、リンクは無言でポーチから岩塩を取り出す…

 

「今度はどうした…?」

 

続いてポーチから出て来たライトが辺りを照らすと…

リンクが指差した先の部屋の隅に、いつの間にか青白く透き通った少女が立っていた。

 

「ひっ?幽霊!?ほんとに幽霊!?」

 

フリーナが椅子から転げ落ちる。

しかし、リンクの反応は冷静そのものだった。

 

リンクは無表情のまま、手に持った岩塩の塊をピッチャーのような完璧なフォームで幽霊に向かって投げつけた。

 

「うぎゃっ! 痛い! 」

 

悲鳴を上げる少女の頭に岩塩が直撃し、虚しい音を立てて床を転がる。

 

「相手は女の子だけど…そんな事して良いのかい…?」

「辞めとけ!多分なんか未練があって出てきたんだから無理に成仏させようとするな!」

 

その様子を呆然と見ていた劇団員が、ようやく口を開いた。

 

「あ、あの……フリーナ様。私は水の叙詩劇団の責任者、ローウィックと申しまして…監督の依頼に来たのですが……?」

「……依頼? 僕に、監督を?」

 

フリーナは転げ落ちた椅子から這い上がり、できるだけ威厳を保とうと咳払いをした。

 

「ふ、ふん。見る目があるね。僕の協力が受けられるなんて、君の劇団は幸運……」

「あ、あの! 演出の相談の前に……その、後ろが…」

 

ローウィックが震える指で指した先では、リンクが二投目の岩塩を今度は全力投球のフォームで振りかぶっていた。

 

「ちょっとは待て…相手はもう死んでるんだぞ!」

 

パイモンがリンクを止めていると、幽霊の少女は話し出した。

 

「……私はクリーヴ。ペルヴィに会いたくて…」

「ペルヴィ?聞いたことはないけど、どんな子の名前だい……?」

 

フリーナが首を傾げた、その瞬間。

室内の空気が一変した。

 

玄関の扉…というか先ほどリンクが蹴り飛ばしたままの枠の向こうに、長身の影が立っていた。

 

「……あまり騒がしい劇は好みではないのだがね。」

 

そこに立っていたのは、白と黒の髪に、紅の十字を宿した瞳を持つ女性…ファデュイ執行官、アルレッキーノだった。

 

「ひ、ひぎゃああああ!召っ?召使ぁぁぁ!?」

 

フリーナは文字通り跳び上がり、ベッドの背後に全速力で隠れた。

 

「……安心したまえ、フリーナ。今の君に興味はない。」

 

アルレッキーノはフリーナを一瞥すると、視線をクリーヴ…の横で岩塩を握りしめているリンクへと向けた。

 

「我が家の裏切り者を探しに来たが、随分と賑やかな茶会が開かれているようだ。」

 

アルレッキーノの背後に、巨大な大鎌のイメージが揺らめいて見えた。

一瞬にして、フリーナの自室は重苦しい雰囲気に包まれる。

 

ローウィックは失神し、パイモンはリンクの後ろに隠れる。

 

そんな中、リンクはアルレッキーノを見据えたまま、手に持っていた岩塩を何を血迷ったのかそのまま自分の口に放り込んで食べた。

 

「……何をしている?」

 

アルレッキーノが怪訝そうに眉を寄せる。

 

『……塩分補給。』

 

リンクは平然と答え、もう一塊の岩塩をポーチから取り出した。

 

「……なるほど。君の世界では、塩分とはそのような摂取の仕方をするものなのか。興味深い」

 

アルレッキーノは優雅に、しかしどこか呆れたように首を振る。

 

「フリーナ、君の周りには相変わらず愉快な客人が集うな。……まぁいい。我が家を離れた逃れ者を探していた道中、うっかりここに着いてしまったようだ。探し事は、別の場所ででもするとしよう。」

 

アルレッキーノはそれだけ言い残すと、アパートを去っていった。

 

「……た、助かった……。本当に死ぬかと思ったよ……。」

 

フリーナはベッドの背後から這い出し、床にへたり込んだ。

 

「アイツ、やっぱり怖いオーラ全開だったな。裏切り者を探してるって言ってたし……。見つけたら殺す気満々なんじゃないか!?」

 

パイモンがそう恐れおののいていると、いつの間にかクリーヴと名乗った亡霊の姿も消えていた。

リンクの物理除霊に恐れをなして隠れたのか、あるいはアルレッキーノの気配に当てられて霧散したのかは定かではない。

 

「あ、あの……フリーナ様。……先ほどの件なのですが。」

 

ようやく意識を完全に取り戻した劇団員の何とかウィックが、震えながら立ち上がった。

 

「劇団水の叙詩の監督。……ぜひ、お引き受けいただけないでしょうか! フリーナ様が監督をしたとなれば、間違いなくフォンテーヌ中の話題になります!」

「僕にかい?僕の名前を出したところで、もう何の価値もないんだ。」

 

フリーナは、この前の一件の後鬱になってしまっていたようだ。

 

 

「…フリーナ様!貴方は500という気の遠くなるほどの時間を耐えたのです!神という存在を偽りながらそれを成すとなれば…」

 

「…勿論、その為に必要なのはただのカリスマ性だけでなく途方も無い量の努力!そして覚悟が必要なのです!…」

 

「…私達が求めているのは名前だけでなく、ここまでに述べたようなその誰よりも強い精神性に心を打たれたからであり…」

 

 

それから、このようにしてフリーナを褒め称えること数十分。

 

「ま、まぁ、君たちがそこまで言うなら、考えてあげなくもない…。で……そこで見ている二人も協力してくれるのかい?」

 

やっと許可がおりたらしい。

ついでにパイモンとリンクの協力も期待しているようだ。

 

『よし!』

「オマエはそういうと思ったぞ!でも、リンクに任せて良いのか…?」

「いえいえ、フォンテーヌの予言を裁判長様と共に打ち破ったと聞いています。これ以上の協力はないでしょう!」

「そうかなぁ……?」

 

 

 

少し後、水のなんちゃら劇団の稽古場にて…

 

 

 

木造の天井に吊るされた照明が明滅する中。

小さな舞台上に団員に混ざって元水神と蛮族とオマケが居た。

 

「この台本は、「水の娘」…?僕にも聞いたことがないね。」

「こちらは、本劇団の初代団長が遺した未完の劇台本なのです。」

 

…内容を見てみる一同。

 

 

 

一匹の恋愛に憧れた純水精霊が人間になりたいと願い、魔女に頼み込んで人間の姿に変えてもらうが、それには自分の正体を誰にも明かしてはならないという条件があった…

 

人間になった純水精霊は一人の青年と恋に落ちて幸せな日々を過ごづが、ある日街中の水という水が汚染されるという事件が起きる…

 

この汚染は人々の心の悪意が実態化したもので、このままでは街は滅び、愛する人も死ぬ運命にあった…

 

人々は恐怖から、水源に異変をもたらした犯人を捜し始め、次第に異質な存在である主人公に疑いの目が向けられる………

 

 

 

なかなかにありきたりな流れである。

 

フリーナがページをめくっていくと、どうやら丁度いいところで話が途切れているようだった。

 

「肝心の結末がないぞ!?主人公は結局どうなったんだよ!」

『死んだんじゃないの〜?』

「ちょっと黙れリンク!!」

 

「…うーむ。この台本は恐らく悲劇だ。それも有り得るかもしれ…」

「言い方の話だぞ!」

 

 

そう言っていると、稽古場の空気がぴたりと止まった。

 

台本の紙面が勝手にめくれ始めたからである。

 

「……何だ!」

「今、誰も触ってないよな?」

 

フリーナが慌てて台本を押さえようとするが、紙には独りでに文字がにじみ、文章が追加されていく。

 

「劇団100年の歴史ある台本がァー!!」

 

頭を抱えて倒れたロー何とかさんを無視して、文字が刻まれる。

 

 

「純水精霊は、自分の全てを受け入れてもらう為に人々の悪意そのものと対峙する…………!?」

 

「そんなストーリーじゃないよな…?」

 

その問いに答えるように、舞台の中央にふわりと現れる少女の影。

 

「大丈夫だよ。」

「……どの辺りが大丈夫なんだ!?」

 

さっき会った亡霊クリーヴである。

 

「台本なら私が勝手に書き換えたの。だって後半はなかったでしょ?」

「いやいや、そういう問題じゃなくてだな!?」

 

フリーナの悲鳴をよそに、クリーヴは満足そうに頷く。

 

「こんな無茶苦茶なハッピーエンドで認められるのか……」

「こっちの方が絶対皆の記憶に残るから。」

 

彼女は、ふっと視線を外した。

 

「あ、必要な敵役は何もしなくてもやって来るから安心して。」

 

そう言い残して、クリーヴは光の粒となって消えた。

 

「……幽霊って、そんなノリで居ていい存在なのかい?」

「諸説あるぞ……」

 

 

 

数日後。

 

 

 

フリーナが例の。

リンクはパレ・メルモニアを訪れた。

 

「……つまり、フリーナが劇をやるのか。」

『うん。』

 

ヌヴィレットは書類を置き、真面目な顔で目を閉じた。

 

「これって、ヌヴィレットに何を聞きに来たんだ…?」

『場所を借りに。』

「…??」

 

パイモンが悩んでいると、ヌヴィレットは目を開いて言い放った。

 

 

「エピクレシス歌劇場を貸し出そう。」

 

 

一瞬の沈黙。

 

「エピクレシス歌劇場!?!」

『大成功。』

「完全に職権乱用だよな…」

 

 

勿論、この事実を伝えられた劇団員やフリーナは大混乱に陥った。

 

 

「最高裁判長と相談した挙句……うちの劇をかの歌劇場で…?」

「全く。き、君はやることが相変わらず極端だね…!」

 

 

…そのまま、一月近い時間がたった。

 

前半も微妙に書き換えられていた台本とにらめっこするフリーナ監督の下、劇団員は全力で演技を練習した。

 

その内にフリーナはしっかりとした感動の悲劇作品に内容を戻せたようだ。

 

一方のリンクは、何故か良かった手際を用いて小道具を作ったりと協力する傍ら…フォンテーヌの各地で爆撃を行う青い影が目撃されたと言う。

 

 

ついでに言えばイプシシマスの塔とか言う観光名所が海に沈んだ事が号外になったらしい。

 

 

 

いつの間にかフォンテーヌにフリーナ監督の公演などと書かれたチラシが出回り切った頃。

 

「…コホン。明日はもう本番だ。」

 

この一ヶ月と少しの内に、フリーナは少しは鬱から治ってきたようだ。

 

フリーナを中心にしてミーティングを行った。

演じる人たちは、皆準備万端だそうだ。

 

 

「それと最後に1つ。」

 

もう一つの台本を取り出すフリーナ。

 

「万が一あの時クリーヴが言っていたように敵が現れた場合は……気が進まないが臨機応変にこちらの台本を使ってくれ。」

 

 

 

 

本番当日……

 

開演まであと一時間。

 

 

「……あの。」

「主演が……どこにもいません。」

 

沈黙。

 

「……え?」

「主演が楽屋に居ません!!」

 

全員が一度、顔を見合わせた。

 

 

「しかもその楽屋からはこんな物が…」

 

手紙のような一枚の紙には、血のように赤い文字で、

 

Found You

 

と書かれていた。

 

「ひっ……」

『怖っ。』

 

手紙といい主演の不在といい周りが混乱に陥るが…

 

 

そんな中フリーナは、ゆっくりと前に出た。

 

「……やるよ。」

 

全員が息を呑む。

 

「僕が主演をやろうじゃないか。」

「フ、フリーナ様!?」

 

彼女は小さく笑った。

 

「この話は、僕にとって他人事じゃない。」

 

 

 

 

 

そして、開演のベルが鳴る。

 

澄んだ音がエピクレシス歌劇場に響き渡る。

 

客席は満席だ。

 

その中には、最高裁判長に棘薔薇の会会長や最強の決闘代理人…他には例のマスコミや、フォークのような尻尾で推し活グッズを持った知らない金髪シェフの姿等もあった。

 

 

「……」

 

舞台の幕が上がる。

 

中央に立っているのは勿論フリーナだ。

その時点で歓声が上がった。

 

 

 

照明が落ち、静かな音楽とともにナレーションが始まる。

 

「昔々、人間の恋に憧れた一匹の純水精霊がいました……」

 

 

 

フリーナの演技は、驚くほど自然だった。

 

観客は、次第に元水神という肩書きよりも、ただ一人の役者として彼女を見つめていた。

 

 

 

次第に、物語は「街の水が汚染され、悪意が形を成す」場面へ差しかかる。

 

 

 

その時…舞台裏にて。

 

いざという時要因のリンク達の前に、しれってアルレッキーノが姿を表した。

 

「ここか。」

「じゃないぞ!?今は演劇中だ!静かにしててくれ!」

『no more 演劇泥棒。』

 

何処吹く風なアルレッキーノと揉める二人…

 

 

「……うっ。」

 

そんな間に、突然ナレーション担当の人の断末魔のような声が聞こえ、ナレーションが止まった。

 

「何が起きたんだ?」

 

何事もなかったように音が再開する。

しかし、次にスピーカーから流れたのは全く別の声だった。

 

「…この声って、クリーヴ?」

 

 

舞台上に話を戻すと…

 

 

フリーナの背筋は凍りついていた。

 

 

舞台袖から、リンクに押されつつやってくる天敵の姿が見えたからである。

 

 

「彼女の前に現れたのは、人々の純粋な悪意でした。」

 

緊急用の台本通りに、フリーナを追い詰めていた人々が倒れていき、その奥からアルレッキーノが現れる。

その瞬間、劇場の温度は数度下がったかのように感じられた。

 

「……逃げ惑う家畜に、愛を語る資格などあると思うのか?」

 

アルレッキーノは一歩、また一歩とフリーナへ歩み寄る。一歩ごとに、その背後には紅き月の影が揺らめいた。

 

観客もその圧倒的な風格に見惚れてしまう。

パンフレットの配役を無視しているなど、もはや誰も気にしていなかった。

 

 

彼女から放たれる殺気は本物なようだ。

フリーナの足はガクガクと震えそうになっているし、瞳には涙が浮かんでいる。

 

しかし、劇場の四方八方から注がれる観客の視線、そして舞台裏で無言で圧をかけてくるリンクの視線が、彼女を舞台に繋ぎ止めていた。

 

「……そ、そうだ。君のような存在には、愛なんて理解できないかもしれない…!」

 

フリーナは震える手で胸元を抑えて叫んだ。

 

「でも、僕は知っている。」

「誰にも知られずに、誰にも報われなくても、誰かを守りたいと願う心が……どれほど強く、どれほど尊いものか!君がどれだけ僕を否定しても、この街の人たちが紡いできた想いだけは奪わせない!」

 

それは完全に、フリーナ自身の心の叫びだった。

 

 

舞台上のフリーナが上着を脱ぎ捨てる。

物語の主人公はここで、人に変身していた状態を解いたのだ。

 

「見ろ!これが僕の本当の姿だ。」

 

 

恋人、近所のおばちゃん、身寄りのなかった少女と少年……

最後まで主人公を信じていた他の人々の役も、続いて台詞を叫ぶ。

 

「…私は君の事をずっと信じている。勿論今もだ。」

 

「貴方の姿がどうだったとしても、私を助けてくれたことに変わりは無いわ。」

 

いくつもの言葉が重なる。

もう、その全てがアドリブだ。

 

その瞬間。

フリーナの感情が極限まで高まり、彼女の演じる行為が真実へと昇華されたかもしれないその時。

 

劇場の天井から一筋の眩い光が差し込んだ。

 

 

空中から静かに舞い降りてきたのは、澄み渡る水の色を湛えた、本物の神の目だ。

 

「え……?」

 

フリーナは純粋な困惑を起こした。

本来、レプリカの神の目を使う予定だったのだから。

 

服の青が独りでに白に変わり、長かったすそが短くなっていく。

 

「僕は、本当の人になったのか…?」

 

 

観客席からは、もはや悲鳴に近い歓声が上がる。

 

「見たか!? 舞台の上で神の目が授けられたぞ!」

「奇跡だ! これこそがフリーナ様の真の芸術!」

 

アルレッキーノは、その光景を目の当たりにして、フッと口角を上げた。

 

「良いだろう。」

 

彼女は、手に赤い鎌を取り出した。

正に命を刈り取る形をしている。

 

「神の目によって呪いを破った彼女は、その力で愛する街の人々を守るために、悪意と戦う事にしたのです。」

 

クリーヴのナレーションが響いた。

 

「……ひぇっ?」

 

 

フリーナは、戦うことなど勿論想定していなかった。

 

 

 

しかし、一時困惑していた彼女はすぐに顔を上げた。

 

「ここはもう、僕の舞台なんだ。」

 

アルレッキーノの瞳が、僅かに細まる。

 

「…来るといい。」

 

次の瞬間。

 

鎌が振るわれた。

空気が裂ける。

 

刃は寸分の狂いもなく、フリーナの首筋を狙う。

 

その直前。

 

金属同士がぶつかるような音がして、一撃が弾かれる。

 

 ーーーサロン・ソリティアーーー

 

フリーナを守るようにしてヤドカニが現れた。

手元の神の目が輝いているが、本人にもその効果は分からない。

 

 

それでもフリーナはあの頃の様に、しかし今度は自信をもって見栄を張った。

 

神の目をぎゅっと握ると、出て来たタツノコが水を吐く。

 

 

大げさに、かつ魅せるように避けたアルレッキーノの鎌が赤く光る。

フリーナを囲むように、舞台から円形に鎌が出現した。

 

 

次の瞬間、フリーナは一気に飛び上がる。

 

 

舞台端で、慌てる団員の横でリンクがサムズアップを向ける。

舞台装置を勝手にいじったようだ。

 

 

フリーナが下を見ると、鎌を手に構え直したアルレッキーノと目が合った。

 

咄嗟に手を突き出したフリーナの前に、今度はタコが現れて水流を放つ。

 

 

刃と水が、正面からぶつかる。

 

 

衝撃が走り観客席にまで水しぶきが飛び散った。

 

 

しかし観客は誰ももう、目を逸らせない。

 

 

「……まだ来るのか?」

 

再度向かい合う二人。

赤の刃が水飛沫に照らされて煌めく。

 

 

その挑発に対し、フリーナは下がらなかった。

 

震える足で、一歩踏み出す。

 

 

「……僕は、ただの人間だ。」

 

その言葉に籠った力は、今やフォンテーヌの誰もが知るフリーナ自身の苦悩。

 

「飾られた舞台の上でしか強くなれない。」

 

 

 

「それでも!」

 

水が、彼女の足元に集まる。

 

神の目が、強く輝く。

 

 

フリーナは、何もわからぬままに両手を広げた。

 

 

 

 ーーー万民のカルナバルーーー

 

 

 

激しい青が舞台を包み……

 

 

 

 

フリーナは、前へ踏み出す。

 

「この物語の結末は……」

 

 

 

水が一点に収束する。

 

 

 

「幸せに暮らしましたとさ、だ!」

 

アルレッキーノめがけて、水流が衝突する。

 

 

その光が消え去る前に……、アルレッキーノはリンクによって舞台の下に落とされた。

 

 

 

 

ナレーションが聞こえる…

 

「こうして、呪いの解けた純水精霊は、人として生きる道を選びました。街を覆っていた汚染はすっかりなくなり、彼女の事を皆が認めてくれ………」

 

 

 

幕が、ゆっくりと下りる。

 

そして。

 

拍手。

 

割れるような拍手が、劇場を埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

こうしてフォンテーヌの歴史に残る奇跡の公演は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

一方、舞台裏にて…

 

 

 

 

「……ふぅ。…死ぬかと思ったよ……本当に……。」

 

今回活躍した皆の真ん中で崩れ落ちているのは、フリーナである。

その服は白に変わったままで、手元の神の目も間違いなく存在していた。

 

「フリーナ様!これも全て貴方のおかげです。なんと礼を言ったら良いか…」

「フリーナ! すごい名演だったぞ! オイラ鳥肌が立ったぜ!」

 

パイモンと何とかさんはフリーナを激励する。

リンクは、無言でチョコレートをフリーナに差し出した。

 

「……ふん、当たり前じゃないか。僕を誰だと思っているんだい? 」

 

フリーナの顔色は、一月前と比べて全然良くなっていた。

 

「ところで…あの召使は…?」

「クリーヴの声に導かれるように、どっか行っちまったぞ。……アイツ、びしょ濡れだったけど風邪ひかないかなぁ?」

 

アルレッキーノは、クリーヴを探しに行くと言って早々に居なくなってしまったらしい。

 

リンクが自己制作ドライヤーを用意していたのに…

 

主演をやる筈だった人は、アルレッキーノに記憶を消されたとか何とかで用務員室で伸びていたそうだ。

 

 

「そう言えば、オマエにもう一仕事してほしいんだ。」

「なんだい?この僕が何でもやって…」

 

リンクは、言い切っていない上チョコレートを食べている最中のフリーナを、一つの扉から放り出した。

 

念入りに鍵までかけたようだ。

 

「フリーナ様!」

「フリーナ様だ!」

「サインお願いします!」

「私にも!」

 

「…助けてくれ〜!!」

 

扉を叩く音と絶叫が聞こえてくる…

 

フリーナはファンに襲われてしまったようだ。

 

「アイツ…元気そうで良かったな…。」

『うん。』

 

勿論皮肉であった。

 

 

劇団員達をスルーして夜風の吹く歌劇場の裏口から外へ出ると、見馴れた顔ぶれが何人かいた。

 

「……フリーナが神の目を、か。」

「実に素晴らしい決闘だった。」

 

ヌヴィレットが静かな海を見下ろしている。

その隣には、腕を組んだクロリンデが立っていた。

 

程なくして暗がりから、アルレッキーノが姿を現す。

服はしっかり乾いていた。

 

「アルレッキーノ! クリーヴには会えたのか?」

 

「……あぁ。最後に少しだけ昔話をね。彼女は最高のハッピーエンドをありがとうと、演出家によろしく伝えてくれと言っていた。」

 

そう言う彼女は、珍しくほほ笑みを浮かべていた。

見る人によっては逆に怖いかも知れないが。

 

「ノリノリで役をやってたけど、楽しかったのか?」

「……いや、一生の黒歴史に違いない。」

 

 

一通り話し終えた後…

 

 

 

『さらば、フォンテーヌ。』

 

蛮族はお馴染みの蒼い爆弾を腰に構えた。

すかさずパイモンがその肩に捕まる。

 

「…次は、何処に行く気だ?」

『あそこ。』

 

リンクが指さしたのは海の上の白い遺跡群……の上の雲だった。

 

「あれは、オシカ何とかって奴だな。その上?怪しいけどほんとに何か……うわぁ!?!」

 

 

そして、言いかけのパイモンと共にリンクは飛び立った。

 

遠ざかっていく歌劇場…入口でカメラを片手に出待ちするピンクのマスコミも見えるが、もう手遅れである。

 

 

 

 

 

 

その日、ナド・クライと言う所では空を横切る青い彗星が見えたという。

 

ある場所では……

 

「イネファ!あの青いのって何!?」

「あれは……拡大してみるとどうやら人のようです。」

「あれが!?どんなマシナリーで飛んでるんだろう…?」

 

またある場所では……

 

「姉さん!ヤバそうなのが飛んでる!」

「あの光の事かい?それは……話題の人物だね。」

「いや、人は普通あんな風に飛べな…」

 

そんな人々をよそに、例の金髪は炎の国へ向かう。

 

 

 

 

風や岩を纏う龍を倒し、引きニートの圧政を辞めさせた。

巨大ロボは光線に貫かれ、嘘つきの水神はその冠を降りる……

 

 

さらなる破壊と創造の為に…飛べ!厄災リンク!!

 

 

 

 




  完



すぺしゃるさんくす:読んでくださった皆さん


ちゃんといちばん長い話になったんですね。

次の土日からようやく新作を投稿致しますので、良ければそちらも是非是非読んでください。
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