翌日。俺の傷は回復薬と睡眠によって完治していた。が、心は浮かなかった。それでも訓練場には行った。どんなに拙い手段であったとしても、前に進まないのは気持ちが悪かった。
「諸君! 今日もハンターとして諸君らを一人前にする為に、ばっしばっし鍛えてやるぞ!」
朝礼という名の教官の一人語りに、俺とジーナはうつらうつらしていた。
「貴様らが昨日遭遇したと言っていたロアルドロス亜種についてだがな! 渓流にて、上位のモンスターが下位フィールドに紛れ込んだとハンター協会から公式の発表があった! そのため下位の渓流は封鎖され、協会が見込んだハンター、具体的にはハンターランク6以上のハンターだけが渓流での狩りを許されるようになった!」
俺とジーナは目を覚ました。
「だから今日は、貴様らには闘技場のモンスターと戦ってもらう!」
俺とジーナの目が見開かれた。
「何のモンスターと戦うんですか?」
リクが挙手した。
「うむ。ジャギィだ」
「ドスジャギィですか?」
ジーナが聞き返した。
「いや、ジャギィだ。ドスジャギィは、一週間ほど前にミレイとリクが倒したきりだ」
「ならばミレイ! どちらがジャギィを多く倒せるか勝負だ!」
「……いいぜ」
俺には、策があった。と言っても開幕早々に竜撃砲をぶちかますという至極単純なもので、策と呼べるほどのものではない。しかし有用性は昨日の一件からして明らかだった。
だが、俺はこの策をあまり使いたくなかった。この策で勝ったとしても、ジーナの純粋なハンターとしての強さは揺るぐことがないのだ。要は、俺のプライドの問題だった。
俺たち三人は闘技場へ入った。闘技場は、訓練場のすぐそばにある。窪んだ土地を利用してできており、外側にある柵から、あらかじめ捕らえられていたモンスターが解き放たれるという仕組みだ。また、いちおう監視役として、教官が高い位置から見下ろしている。
「ジャギィの数は二十匹。一匹一匹は雑魚と言えども、数をなせば強敵になる! 心してかかれ! ではスタート!」
訓練所の教員が鉄格子を開くと、ジャギィたちがわらわらと出てきた。闘技場で捕らえられているモンスターはほとんど餌を与えられておらず、飢えで通常よりも凶暴化している。
鉄格子は三箇所。闘技場の中心にいる俺たちを囲うような形で、ジャギィは出てくる。いかに背後をとられないようにするかがポイントだ。
「はああああ!」
案の定、真っ先に飛び出したのはジーナだった。猪突猛進。ブルファンゴを擬人化したら、彼女のような人間になることだろう。ハンマーの打撃音が響き渡る。
俺は竜撃砲のスイッチに指をそえた。もはや、純粋な勝利などと言っている場合ではない。何としてでも勝つ。せめて勝負というフィールドの中では、ジーナに勝ちたい。俺はわざとジーナの近くで、竜撃砲のスイッチを押した。
槍の先端が、紅い熱を帯びる。危機を感じ取ったジャギィたちが後退する。だがその程度の距離では、竜の業火からは逃れられない。一掃してやる。そしてジーナを萎縮させて……。
「この時を待っていたぞ!」
ジーナはジャギィたちの間に割って入った。
「な!? よ、避けろ!」
俺の叫びは、竜撃砲の爆音でかき消えた。爆煙でジーナの姿も見えない。まさか、直撃!?
煙が晴れた頃、傷つき倒れた数匹のジャギィと、その横で横たわるジーナが見えた。
「大丈夫か!」
慌てて駆け寄る。ところどころ防具が焦げているが、表面だけだ。肉体は大丈夫だろう。おそらく、直前で避けたのだ。だが、ジーナが無事だとは全く思わなかった。何故なら彼女は、不気味なほどに震えていたのだ。
「起きろ! まだジャギィはいるぞ!」
手を握ると、その凄まじい震えが直に伝わった。
「……すまない。どういうわけか、体が震えて……」
日頃の彼女からは想像もつかないような、儚げな声。俺はとんでもないことをしでかしたのではなかろうかという思いに包まれながらも、ジーナを無理やり立たせた。肩を組んでいないと倒れてしまいそうなほどに、彼女の足はおぼつかなかった。
竜撃砲に驚いたジャギィたちは、警戒しているのか威嚇を続けている。
水が滴る音がした。回復薬でもこぼしたのだろうかと見ると、透明な液体がジーナの足をつたっていた。回復薬は緑色だから違うとして、では何だろうかと考えていると、その液体がやや黄色がかっていることに気づいた。まさか、ジーナ、失禁を……。
その時、茶色い煙幕が目の前を覆った。
「うあああああ! くっさ!」
地獄のような悪臭が鼻に突き刺さり、俺は咳き込んだ。隣のジーナも涙目になっている。
「撤収しよう!」
リクが言った。こいつがこやし玉を投げたのだ。あまりの匂いにジャギィたちは戦意を喪失し、立ち往生している。
「でも」
「この状態じゃやられちゃうよ!」
俺は何も言い返せなかった。
「ジーナ、歩けるか?」
「……ああ」
訓練場の救護室。その外の廊下にある丸椅子に、俺は腰掛けていた。
「ジーナの具合はどう?」
シャワー上がりで、タオルに首をかけたリクが入ってきた。
「傷はほぼないらしいけど、全く出てこない。つーか、なんで煙幕タイプのこやし玉なんて持ってるんだよ」
こやし玉は煙として悪臭を広げる煙幕タイプと、直接モンスターにぶつける投擲タイプの二つがある。もともとは前者しかなかったが、ハンター自身への被害も尋常でないとのことから、現在使用されているほとんどが投擲タイプである。
「囲まれた時、モンスター一体一体にぶつけている暇なんてないだろう? 僕は二つのタイプを使い分けているんだ」
「そこまで準備がいいなら、消臭玉ぐらい持ってこい、アホ」
「あはは……うっかりしてたよ」
リクは照れ笑いを浮かべていたが、救護室の扉を前にして真面目な顔になった。
「僕、ジーナとちょっと話してくるよ」
「やめとけ、一人にさせといてやれよ」
俺がジーナの立場だったら、誰とも会いたくない。
「僕がジーナと話したいんだ」
「……ああそうかい。じゃあ勝手にすれば」
俺は席を立った。
「どこへ行くの?」
「帰る」
肩を掴まれた。
「何だよ」
「駄目だよ、ミレイもいなきゃ」
「どうして、俺が。むしろ……とにかく、俺は帰るぞ」
俺がいた方が、ジーナにとっては辛いはずだ。
「いいから」
リクは俺の肩をつかんだまま、戸をノックした。
「ジーナ、いるかい? 僕だよ、リクだ。ミレイもいる。入っていいかい?」
勿論返事はない。
「だからやめとけって」
俺は小声で、若干の怒気を含めて言ったが、リクは聞こえていないといった体で、扉を引いた。
奥にあるベッドの縁に、ジーナは腰掛けていた。俯いているので髪で顔は隠れ、俺らの存在など視覚の片隅にもないようであった。それでもリクは話しかける。
「ジーナにとって、僕らはどういう存在かな。足手まといかな。鬱陶しい虫かな」
ジーナは動かない。
「でも、僕らにとってジーナはもう大切な仲間だ。あの時助けてくれなかったら、僕らはロアルドロス亜種に殺されていただろうし」
ジーナは黙っている。
「ジーナ、良かったらこれを受け取ってほしいんだ」
リクはポーチから小さな笛を取り出した。それは血のような赤色をしていた。
「知ってるかい? これは鬼神笛と言って、聞いた者の攻撃力を高める道具なんだ。これをただ吹くだけで、ジーナ自身も、周りの人も攻撃力が上がるから、戦闘が有利に進むと思う。ただ、使いすぎると壊れちゃうけど……その時は、また作ってあげるよ」
ジーナは一瞥もしなかった。リクは鬼神笛をテーブルに置いた。
「ジーナ、何か悩み事とか、小さな愚痴とか何でもいいから、何かあったら僕たちに言ってね。僕たちは君の仲間なんだから」
リクはそう言って扉へ戻った。
「あれだけでよかったのか?」
扉が閉まるのを確認してから、俺は訊いた。
「正直、僕ではジーナを励ますことができないと思う」
「じゃあ、どうしてあんなことを」
「多分、ジーナはこの村で頼れる人がアベルさんやフウカさんしかいないんじゃないかな。その二人が遠くの地へ行っている今、ジーナは孤独や不安で苦しんでいるはずだ。ジーナはきっと心が強いから、それに耐えられる。でも、もし耐えられなくなった時、寄りかかれる物がなかったら、本当に辛いと思うんだ……」
リクは遠くを見るようにして言った。
「……ふうん」
静寂が訪れた。リクは相変わらず遠くを、俺はそんなリクの横顔を見ていた。
「あ、もしかしてミレイも鬼神笛が欲しかったりする?」
「ハンターやってて、ただでもらえる鬼神笛を欲しがらないやつなんていないね」
「あはは……でも今は硬化笛の調合にチャレンジしているんだ。できたら、真っ先にミレイにあげるよ」
「約束だぞ」
「うん」
リクはいつものアホ面のまま微笑んだ。
夜。俺はいつものように、庭でガンランスを振るっていた。月と、縁側に置かれた小さな灯火だけが視界を照らしている。
「……今日はこの辺にしておくか」
いつもより長く訓練していたような気がする。夏の暑さもいよいよ本番を迎えたようで、夜風が体を冷やすことはなかった。
「……温泉行くかな」
俺は汗に蒸れたインゴッド装備をガチャガチャ引きずって、温泉を目指した。温泉と言っても、ギルドの集会浴場ではない。人はほとんど通らない森の中にある、言わば秘湯だ。
ユクモ村の温泉には、身体能力を向上させる効能がある。俺はリクやジーナの前だとそれを否定するが、実際は信じている。と言うか、最近になって体感している。ただ人前で風呂に入ることができないから、そうやって言い訳していたのだ。
ユクモ村に来てからと言うもの、是非ユクモの温泉に入りたいと思いつつも、中々契機はやって来ず、もどかしく思っていたものだ。一週間ほど前だろうか。例の秘湯を発見した俺は大いに喜んだ。そして生まれて初めて風呂で身体が強化されるのを体感し、大いに興奮した。
松明を頼りに、道と呼ぶには怪しい道を、草をかきわけながら進む。それでも道は道として実際にあるのだから、あの温泉は既に他の誰かが見つけていたのだろう。とは言え草の生え具合からして、人は通っていないようなので、安心して入浴できる。
硫黄の匂いがわきたつ方へ、木の枝をはらいながら進むと、そこへ行き着く。大きな岩で形成された湯船から、湯気がもくもくわいていた。
俺は装備を脱ぎ捨てた。更にインナーも脱ぎ捨てて、爪先から少しずつ、湯に足を入れていく。そして肩まで浸かったところで、俺は大きく嘆息した。
「あー……気持ちいいー……溶けそう……」
温泉の上空は木の枝もなく、満点の星が見渡せる。集会浴場から見る星空よりも、こっちの方が美しいに違いない。
俺がまどろみかけていると、突如松明の灯りが消えた。油が切れたのだ。星と月の灯りしかないということはつまり、ほとんど真っ暗というわけで、俺は酷く慌てた。更にあろうことか、木々の向こうからがさがさと音がした。暗闇と不審な音が重なって、俺の心臓は激しく跳ねた。たどたどしい手つきでポーチから油を探していると、ぼうっと橙色の灯りが森の奥で光った。まさか、人? 嘘だろ、こんなところに……!
姿を見せるわけにはいかない。もし見せたら、ただ体を晒すだけではなく、もっと悲惨な目に遭ってしまうかもしれない。ここに人がいるという証拠を見せるわけにはいかないから、松明は灯せない。僅かな月明かりと手探りで、静かにこの場を離れるほかない。せめてインナーだけでも着ようと、俺は岩の上に手を伸ばした。しかし届かない。急いで這い上がろうとすると、ちょうど足場が濡れた石だったようで、つるりと滑り、したたかに額を打ちつけた。痛い。だが、インナーを着なくては。焦れば焦るほど足元はつるつる滑り、俺は痛恨の二発目を同じ箇所に打ちつけた。
なんとか岩の上まで這い上がることのできた時には、灯りはすぐそこまで迫っていた。しまった、もたつきすぎた……!
森奥からやって来た灯りが、俺を照らした。
「あ……」
「ん? 人? つーか、お前もしかしてミレイ? つーか、ん? 胸が……」
ジンオウガX装備の男が、松明で私を照らしていた。
「きゃああああああああああっ!」
「いやー、まさかおれの他にここを見つけてる奴がいたとはなあ」
アベルさんは頭にタオルを乗せたまま、感慨深げに言った。
「ってか、何で普通に入ってきてるんですか……」
悲鳴を上げた後、俺、もとい私は驚きと恐怖と羞恥のあまり温泉に転落し、溺れかけていた。アベルさんはその隙に服を脱ぎ、混浴を開始していた。
「非常識ですよ。男と女がい、一緒にお風呂だなんて」
「この村だとそれが常識なんだよ」
「私の国だと違うんです!」
すっかり上がるタイミングを逃した私は、見られないよう膝をかかえて、湯から頭だけ出していた。
「国って、ドンドルマだよな? おれもドンドルマ出身だが、見事に適応しているぞ」
「それはアベルさんが男だからです」
「その通りだな。ところで、どうしてミレイはこんな村に来たんだ? 温泉とギルド以外はほとんど何にもねー村だぞ、ここは」
「どうしてって、それは…………そ、それよりも! 狩りはどうしたんですか? ソルとルナの狩猟だって言ってたじゃないですか」
「昨日終わって、たった今帰ってきたところだ」
「え」
「ここはちょうど火山からの帰り道にあってな。報酬金とか色々は全部フウカに任せて、一人で来たんだ」
「ちょっと待ってください。火山までは移動だけで一日ですよね。そしてアベルさんたちが出発したのは昨日ですよね? いつ倒したんですか」
「今日の朝だ。早く終わったんで、その日のうちに帰ることにしたんだ。あの辺暑いし、観光も飽きてたし」
「……凄いですね」
次元が違う話だった。火山という過酷なフィールドで、二頭の希少種を、帰る余力を残すほどの余裕を持って倒すだなんて。
「久しぶりだったせいか、一回死にかけたけどな。まあ、フウカのおかげで何とかなってよかったよ」
死にかけたことをこれほどまでに軽々と話すことすらも、私とは次元が違った。私はロアルドロスにやられかけたあの時のことを思い出すだけでも震えてくるというのに。
私はアベルさんのガンランスをちらりと見やった。
「……貴方がいるからですよ」
「ん? 何が?」
「私が、この村に来た理由です」
「おれがいるからって……まさかおれに一目惚れして!?」
「違います。ただ、ドンドルマで見た貴方のガンランス捌きには惚れました。貴方はおそらく、世界最強のガンランサーです」
「どうだろうな? まあ確かに、ガンランスの限りならおれはかなり上位にいるだろうな。そもそも使用者人口が少ないし」
アベルさんは微笑んだ。アベルさんはいつも頭防具をかぶっているから、その素顔は新鮮だった。
「でもそれなら、とっととおれに教えを乞いに行けばいいじゃないか。どうしてわざわざ、訓練場に行ったりしたんだ? あの教官を否定するわけじゃないが」
「それは……」
私は言葉に詰まった。もしそれを訊かれた時、すぐに答えられるようにしようと、毎日毎日考えていたことなのに。多分、何を言っても言い訳にしかならないからだろう。このタイミングで気付くだなんて、本当、最悪だ。
「アベルさんに教わるだけの実力がなかったから、それを身につけるまでは別のところで修行をしようと思ったんです」
それでも何か言うしかなかった。
そうだ。結局、私には一歩踏み出す勇気がなかったのだ。
「そいつは、何というかまあ……臆病な生き方だな」
「ハンターには……向いてないですよね、こんな性格」
「……ははははは!」
アベルさんは声を上げて笑い始めた。
「な……」
「ははははは! ははははは! ははははは!」
「ちょっと! 笑いすぎじゃないですか!?」
「いや、悪い。分からなかったことが一気に分かったもんでな」
アベルさんは目元をこすってから、私を見た。
「ミレイ。お前は勘違いをしている」
「勘違い?」
「ハンターは臆病でいいんだ」
「え……」
「ハンターとして最も重要なのは、目の前のモンスターを力で蹴散らすことじゃあない。クエスト失敗しようがなんだろうが、とにかく生き延びることだ。確かに臆病がすぎれば本末転倒だが、人間は自分よりも強い者に怯えていたからこそ生きてこられた。怖いから逃げた。怖いから仲間を集めた。怖いからハンターズギルドなんてものを作った」
私はロアルドロスに襲われた時のことを思い出していた。あの時、リクの忠告を聞いていれば……。
「でも、アベルさんは違う。アベルさんは、誰よりも勇敢で、恐怖なんて知らなくて……」
私は幼い日のことを思い出していた。街にモンスターが侵入し、逃げ遅れた私の手を握ったのは、ガンランスをかついだアベルさんだった。彼は私を守る為に戦い続け、ぼろぼろになった。怖かったはずだ。辛かったはずだ。逃げ出したかったはずだ。それでも彼は、全てのモンスターを倒した後、頭装備を外して、私に微笑みかけたのだ。
「もう、大丈夫だ」
その時私は思った。彼こそが真のハンターなんだと。
「そんなことない」
「でも」
「そんなことない。そんなこと、ない」
アベルさんはしつこいぐらいに繰り返した。
「実は、おれはもともと大剣使いだったんだ。どうしてガンランスに換えたのか分かるか?」
「それは……仲間を守るには、大きな盾の方が都合がいいから……とか」
「惜しいな。確かに仲間も守りたかったが、どちらかと言うと守りたかったのは、おれだ。おれは、おれ自身を守るためにガンランスを選んだ」
「え?」
「大剣のガードじゃ、どうも心許ないんだよ。それに比べて、どうだあの盾の大きさ、強固さを! あれさえ構えてれば安心だとは思わないか!?」
「そ、それはまあ」
「それでもまだ怖かったから、ガード性能やガード強化がつく防具を選んだりしてな。いっつも複数で狩りに行って、皆が勇猛に戦う中、おれはずっと盾をかまえて、時折つっつくだけだった!」
「ええ!?」
「そんなことをやってたら、ドンドルマに功績が認められてな。いつの間にか専属ハンターになってた。ちょうどその辺りかな? お前を助けたのは。その時のおれって、グラビド装備じゃなかったか?」
「あ……グラビド装備でした。っていうか、覚えて……」
「だろうな! ってことは、あの時のおれもそんな感じだったわけだ!」
「でも、あの時のアベルさんは……」
「女の子をモンスターの前に晒すわけにはいかんだろ? あれは紛れもなく勇気だったんだろうけど、臆病な奴が勇気を出そうとしても中々出てこない。あの時は、気付いたら勇気が出ていたんだ」
「気付いたら……」
あいつが、私をロアルドロスから守ろうとしたのは、無意識のことだったのだろうか。多分そうだ。あいつに勇気があるわけない。あるとしても、それは突発的なもので、事が終わったら消失している程度のものだ。
「お前は少し形に拘りすぎていた。右利きなのに左手で盾を持っていたのも、無理に勇気を出そうとしたからなんじゃないか?」
ハンターは通常、利き腕に盾を持つ。狩ることよりも生き延びることに徹した所以だ。しかし私は狩ることに徹した。それが間違いだった。
あまりにも完璧に見透かされて、なんだか可笑しくなってきた。私が男のふりをしていた理由も、アベルさんにはお見通しなのかもしれない。
「敵いませんね……本当に。私は臆病です」
形だけの勇気は、もう終わりにしよう。
「アベルさん。私は……これから女を名乗ります。そして、女のミレイとしてお願いをします。私に、狩りを……ガンランスを、教えてください」
「任せとけ」
アベルさんは力強く答えた。数年前、ドンドルマで見た時と変わらぬ笑顔だった。
オチもないおまけ
アベル「暑い。そろそろ上がるかな」
ミレイ「ちょっとアベルさん! いいいいきなり立ち上がらないでくださいよ!」
アベル「大切な所は隠してるから問題ない」
ミレイ「大有りですよ!」
アベル「じゃあ見なきゃいい」
ミレイ「目に入ってくるんですよ! それはそうとアベルさん! 私も上がりますけど、絶対にこっち見ないでくださいね!?」
アベル「言われなくても見ねえよ。早く上がりな、のぼせちまうぞ」
ミレイ「……もう。この村の人って、どうしてこうなんでしょうか」
ミレイは石に足を滑らせ、会心の三打目を額に浴びた。
アベル「おい、大丈夫か!?」
ミレイ「うう、いたたたた……って、きゃあああああ! 見ないでって言ったじゃないですかあ!」
アベル「お前、この体でよく男を名乗ろうと思ったな……」
ミレイ「だから、見ないでって言ってるじゃないですかあああああ!」
今後、挿入投稿とかするかもしれないです。
その時は最新話の前書きなどでお知らせします。