「すっごくゴワゴワする……」
「我慢しろ。なかなか似合ってるぞ」
おれと共にハンターの道を歩むことを決意したジーナに、ハンター防具一式を買い与えてやった。
武具は自分で手に入れた物しか使うことができないとギルドで定められているため、おれのお古を譲ることは許されないのだ。
「次は武器だな。何がいいか、実際に手にとって決めるといい」
武具屋にはあらゆる種類の武器が揃えている。ジーナはガンランスを指差した。
「これがいい」
「おう、やってみろ」
ジーナは店の裏で、アイアンガンランスを振り回す。初めてだから、ステップがぎこちないし、力も伝わっていない。
「うう、どうしてだ。アベルのようにできない……」
やはりおれが使っていたからガンランスを選んだらしい。ちょっと嬉しい。
「他にも武器はあるんだ、自分に向いてる物を探すといい」
「でも、これが最強のはずなんだ。ガキンと防御して、グサッと刺して、ドーンと弾けるんだ……」
そこまでおれのガンランス捌きを褒められると照れる。
まあ、操れないのに無理はない。ガンランスはそもそも使用者の少ない、よく言えば玄人向け、悪く言えばマニア向けの武器なのだ。重いし。
おれはハンマーを手に取った。
「見てろ」
そして振り回す。基本コンボから、溜め攻撃の派生。スタミナの続く限り振り回してやった。
「はー、はー。どうだ、これも強そうだろ」
「それにするっ」
ジーナはおれからハンマーを奪い取り、おれの真似をし始めた。スタンプ、アッパー、振り回し。多少ぎこちないものの、力の入れ方が上手い。やはりジンオウガの緩急ついた動きはハンマーに通じたものがあったようだ。
「これ気に入った!アベル、買ってくれ!」
「一応他のも試してみろよ」
しかしどれもジーナには合わなかったようで、結局アイアンハンマーを買ってやった。それからはしばらく、武具屋の裏でハンマーの基本的な動きを一通り教授してやった。ジーナは物覚えが良く、僅かな練習でほぼ完璧にマスターした。
「よし、次はハンター登録だ」
「トーロクしたらすぐに狩れるんだな!」
「ああ。初めてだから簡単なやつだけどな」
「アベル、早くトーロクしに行こう!」
「おう」
再びギルドへ行き、ジーナのハンター登録の手続きを済ませる。武器を持っていさえすれば登録できるので、戸籍がなくても問題はない。
この間、受付嬢のコノハはおれと目を合わせてくれなかった。ジーナにまた変なことを言われないようにするためだろう。
「さあ、何のくえすとを受ける?ビビリのリオレウスか?ウド大のドボルベルクか?」
ジーナが言った。
ウド大……ウドの大木の省略形らしい。ジンオウガとドボルベルクなら、ドボルベルクの方が強そうな気がするのだが、案外そうでもないのかもしれない。
「アオキノコだ」
「は?キノコ?」
「キノコ採集だ。アイテム集めも立派なクエストなんだぞ」
「そんなのつまらん……」
「いきなり難しいのに行ってもボコられるだけだぞ」
「私なら大丈夫なんだが……まあアベルがそう言うのなら仕方ない」
こうしておれたちはアオキノコ20個を集めに、渓流へと出向いた。
茂った緑、水のせせらぎ。先日ジーナと死闘を繰り広げた渓流は、今日もいい天気だ。
目の前をガーグァが通りすがる。
「ガーグァだ!食おう!」
「そうだな、食おう」
「えっ」
「何驚いてんだ」
「また駄目って言われるのかと……」
「束縛しすぎてごめんな。いいぞ、殺ってこい。ただし、一匹だけだぞ。って聞いてないな」
ジーナはハンマーでガーグァの頭部を殴り、一撃で昏倒させた。さすがは元ジンオウガ。狩りに長けている。
「よし!いただきまーす!」
ジーナはハンマーを置いて、ガーグァに直接かぶりついた。
「むぐ……かたひ……」
「そのまま食うな!」
おれは肉は生で食ってはいけないと念を押し、肉焼きセットを取り出した。
「おお、なんかすごそうだな!」
「こいつに生肉をセットして、グルグル回す。焼くのをやめるタイミングが重要だ。まずはおれがお手本を見せてやる」
こう見えてもおれは肉焼きのスペシャリストと言われた男だ。この生肉愛好家に、こんがり肉のジューシーさたるものを教えてやろう。
ジーナが涎を垂らしまくりながら凝視しているのが非常に気になったが、ウルトラ上手に焼いて見せた。
「……ハシは使わなくていいのか?」
「ああ。骨を持って直で喰えばいい」
「いただきます!」
その食べざまは、こんがり肉早食いのプロと言われたおれをも凌ぐほどの速さだった。
ジーナは残った骨だけ持って呟いた。
「至福……」
「よし、今度は自分で焼いて見せろ」
「うむ」
ジーナは肉焼きセットをくるくる回し始めた。
「せえいっ!」
「早いな。生焼けだ」
「……もう一回!」
「無理だ。一度焼いてしまった肉を焼き直すことはできない」
「どうして!?」
「ギルドで決められている」
「意味がわからない……」
おれもだ。
「さて、食料確保についてはここまでにして、そろそろメインミッションに移ろう」
「こんがり肉……」
「キノコを集め終えたら、またガーグァ倒していいから」
「アベル!キノコはどこだ!」
「落ち着け、今生えてる場所を教えてやっから……」
おれはキノコ採取スポットにジーナを連れて行った。アオキノコは朽ちた木に生えていることが多い。他にも毒テングダケや特産キノコ、例のドキドキノコもついでに採れる。
「ジーナ、お前が食ったのってこれだろ?」
おれはドキドキノコを指して言った。
「ああ、まさにそれだ。……アベル、私はそれをもう一度食べたら、ジンオウガに戻れるのだろうか?」
「さあな。食ってみたら分かるだろ」
「アベルと交尾するまではジンオウガに戻らん」
そこまで言ってから、ジーナははっと何かに気付いたように顔を上げた。
「アベルの子を孕んでからジンオウガに戻れば、ジンオウガの子を産めるのではないか……?」
「かもな」
仮にそれができたとして、必ずしも産まれた子が純粋なジンオウガになるとは思えなかった。もしヒトとジンオウガの血が混ざっている子だとすれば、生き方の問題でかなり厄介なことになるな……。
って、おれは何をジーナと性交することを前提にしているんだ。
まあ、交尾についてはともかく。
「よし、決めた」
「何をだ?」
「お前を人間にしてやる、ジーナ」
「私はもう人間だろう。アベルの言っていることがよくわからない」
ジーナは虚心坦懐に言った。
目標の20個を摘み終えるなり、ジーナはガーグァのいる川のほとりへ駆けて行った。
「あまり遠くへ行くなよ」
そう言った瞬間、ジーナは立ち止まった。身体を低くし、うなるように周囲を見回している。
「何かいるのか」
「リオレウス」
おれも耳をすませてみる。微かな羽音が山手から聞こえてきた。
「ガーグァは無しだ。帰るぞ」
「いやだ。ガーグァも狩るし、リオレウスも狩る」
「駄目だ。今のお前じゃ勝てない」
「私はリオレウスに一度勝っている!それに音から察するにまだ若い個体だ、大した脅威ではない」
「今のお前じゃ勝てないって言っているだろう!」
「そんなのやってみなくちゃ分からない!」
息を荒くし、全身で闘争の意を示すジーナをみて、おれは頭を抱えるはめになった。
親友よ、子供のいるお前ならこういう時どうすればいいのか分かるのだろうか?
リオレウスはこちらに近づいて来ている。おそらく、ジーナと同じくガーグァのいる川辺を目指しているのだろう。ここで大人しくしている限りは、戦わなくて済む。
だが、しかし……。
「分かった。狩ろう。ただしおれが前線だ。お前はリオレウスがおれに集中している時だけ攻撃して、あとは回避に専念しろ」
ジーナは笑顔になった。少女というよりは大人に近い、力強い笑顔だった。
さて、おれもハンターだ。狩ると決めたからには、全力で狩る。
「不意打ちが望ましい。奴がガーグァを襲った直後に、背後から叩くぞ」
と、ジーナに告げる。
「それは卑怯だ」
「ヒキョウ?」
ジーナの意外な言葉に、今度はおれが聞き返す番となった。
「お互い対等な条件下で戦ってこそ実力差が明確になる。本当はアベルの手すら借りたくなかったんだが、まあ、ニンゲンは群れるものだから、そこは仕方がない」
まさかモンスターにフェアの精神があるとは。研究家がジーナの発言を聞いたら喜ぶかもしれない。……いや、研究家ならそもそも彼女がジンオウガであるとは信じないか。
「だが、いかに自分に有利な条件を作るかというところから戦いは始まっている。悪いがおれのやり方に合わせてくれ。最優先すべきは、自分の命なんだからな」
おれがそう言うと、ジーナはこくりと頷いた。それが本心からなのかは分からなかった。
木をかきわけ、川辺の方を覗く。リオレウスに気付いたのだろう、ガーグァたちが逃げ惑っている。
赤い影が空から出で下り、疾風のごとくガーグァを捕らえた。
「行くぞ」
小声で言って、足音を立てぬようリオレウスの背後へ回る。ジーナも静かについてくる。着慣れない防具を着ていながら、一切の雑音がない。おれは走り出した。そしてガンランスを翼の付け根に突き刺した。
リオレウスが、振り向こうとするところに砲撃をかます。そして休むことなく斬り、撃つを繰り返す。
一方ジーナは跳躍し、リオレウスの脳天めがけてハンマーを振り下ろしていた。ハンマーは綺麗に命中し、リオレウスの巨体が揺らいだ。いきなり頭狙いとは、ヒヤヒヤさせられる……。
この一撃でヘイトは一気にジーナに向いたようだ。彼女の方へ、リオレウスが突進する。
「避けろ!」
ジーナは転がって突進を避けた。型からは若干外れているが、問題ない動きだ。これなら案外、なんとかなるかもしれないな……。おれは砲弾を装填した。
数分の戦闘の末、リオレウスは足を引きずり始めた。おれはすかさずリオレウスの脚を斬って転倒させた。そしてフルバーストを放った。リオレウスは壮絶な断末魔を上げた。
「終わったぞ、ジーナ」
木の陰に呼びかける。ジーナがひょこりと顔を出し、右足を引きずりながらこちらに歩いてきた。
「な?まだ早かったろう?」
「屈辱だ。こんな若い竜に……」
「お前だって若いだろ。ほら、脚を見せてみろ」
ジーナは不服そうに言う通りにした。右脚には牙の跡があり、そこから鮮血が筋をなして流れている。噛みつきを避けきれなかったのだ。
「とりあえずこれを飲め」
おれは回復薬グレートを差し出した。
「……いらない」
「つべこべ言わずに飲め」
おれは強引に回復薬グレートをジーナの口に突っ込んだ。
「けほっけほっ!いらないと言っていただろう!……あれ?」
「痛みが少し引いただろう?」
「……」
おれは大人しくなったジーナの脚に、包帯を巻いてやった。
「ニンゲンは治癒能力が低い」
ジーナが呟いた。
「でも、こうやって道具で補えばモンスターよりも早く回復する。人間も悪くないだろ?」
「……ふん」
「さあ、戻ろう。一人で歩けるか?」
「……ああ」
「……肉、食うか?」
「…………いらない」
あれほど欲しがっていた肉を拒否するとは、リオレウスに負けたことが余程ショックなようだ。ジャギィやアオアシラのような格下の種族に負けるならともかく、リオレウスのような大型の飛竜ならば仕方のないことだと思うのだが。
日が暮れなずむ中、二人で帰路につく。ジーナは終始静かだった。何か気を紛らわすことを言おうと思ったが、逆効果にしかならないような気がして、やめた。
「アベル、私は強くなりたい」
ギルドに到着する頃、ジーナはぽつりと言った。
「アベルに強くして欲しい。……こう言う時、なんて言えばいいんだ?」
「お願いしますアベル様、私を強くして下さい、とかかな」
「頼むアベル。私を強くしてくれ」
意訳された。
「本当にいいのか?ヒトとして強くなるということは、死ぬまでヒトとして生きる覚悟を決めたということだぞ」
「アベルと交尾することに決めたんだ。だから私は、アベルに相応しい雌になろう」
「……分かった。じゃあ明日はアオアシラでも狩りにいくか」
急に気恥ずかしくなって、話題を明日の予定に変えた。ジーナの言葉が、プロポーズにしか聞こえなかったのだ。会った当初から交尾交尾と言われ続けているのに、どうして今になって恥ずかしいのか……。
ジーナは、あのクマ公か。そいつなら今の私でも倒せるはず、と笑みを浮かべた。