本日も下層は好天(灰色の天井)、ところにより廃棄物の煤塵が降るでしょう。シュシュとの休日が終わり、また訓練とパトロールの日々がやってきた。
「リーシャ姉様、ニンフをぶっ殺したいです」
「戦士エマ!今日もやる気十分だな。では本日はパトロール任務を中止して代わりにニンフぶっ殺し任務とする!…と言いたいところだが、今日の任務は変えられん。だがそのやる気は汲んでやろう」
「はい!ありがとうございます!」
「シュマちゃん、エマちゃんに何かあったの?」
「今朝食堂でガンマに絡まれただけです。まだ同期でニンフを殺したことがないのはぼくたちの組だけなので」
「あらあら」
―― 回想 ファブラーコロニー 第13食堂 ――
いつものように食堂へ行き、重ねて置いてある軽金属で出来た鈍色のトレーとスプーンを持ち、列に並ぶ。
配食係の前に行くと、彼女の手に持ったガソリンスタンドのノズルみたいなものからブヂュルブヂュルと半固形の流動食がトレーに盛られる。 戦闘型は自動的に大盛り。続く隣ではカラフルな錠剤がいくつか置かれ、配膳は終わりだ。
シュシュと席を取って、セルフサービスの蒸留水を汲みに行こうとしたところで同期筆頭のガンマに声をかけられたのだ。
「よぉエーマちゃん、話は聞いたぜぇ?」
「……おはようガンマ、何の話?」
「ガリアのニンフにぶっ殺されかけたらしいじゃァねえか」
「おい、ガンマ」
ガンマは止めようとした
「アタシらはもう二人やった。簡単じゃねぇか、ファブラーの教則で当たればさ。戦技も最下位だったしさァ、向いてないんじゃねぇの?」
襟に付けた銀色のバッジを見せびらかしながらガンマは挑発的な視線を投げかけてくる。
「……」
「アタシの部隊の
「…ぬがー!うるせえ!ニンフの1人や2人やってやらぁ!」
「おわっ!いきなり何しやがる!こっちはアンタを…!」
私が暴れ出したタイミングで静観していた2人が割って入り…
「シュマ。止めますよ」
「うん」
「止めてくれるなシュシュ!あいつをボコボコのボコにしてやるんだ!理解らせてやるんだ!」
「エマ、ケンカはだめだよ。1対1でガンマに勝てるわけないでしょ」
「シュシュまで酷い!」
そのまま私は羽交い締めにされてズルズルとシュシュに連行され、ガンマはどこか憮然とした表情でジェンマに連れられ、配食の列に消えていった。
※十翅長:戦士5組10人を統率する下級士官、ファブラー軍制の小隊長。1個小隊は隊長とそのバディを含め12人が定数となる。
―― 回想終わり ――
「……これって別にガンマちゃんは悪くないわよね。どうしても個人戦闘が不得意な戦士はいるし、危険が少ない輜重兵で、自分の部隊なら守ってあげられるもの。姉妹想いなのね」
「そう。でもエマは弱いって言われるのが嫌みたい。だから結果で示そうとしてる」
「生きて経験を積めばいつか強くなれるわ。貴方達の次の世代くらいまでは少数精鋭で、色んな経験を積んで指揮官として成長することを女王様はお望みだから、リーシャも色々考えてくれるわ。もちろん私もね」
「ありがとうドロシャ姉様。エマもぼくも頑張ります」
「うおお!ガリアのニンフ出てこい!」
「今日は不毛地帯まで行かないからな。あいつらが領域侵犯してきても宿直の部隊が当たるだろう。よし、第4
「戦士エマ、出撃します!」
そんな感じでパトロール任務に出ました。天気が良かったのでビルの屋上でお弁当を食べました。特になにもない平和な1日でした。畜生め!
―― 数日経った頃、朝のブリーフィングにて ――
「おはよう諸君。本日は少しスケジュールを変更して、我が1B2R小隊の諸君にはネズミ狩りをしてもらう」左眼の下の傷跡をわざと直さずトレードマークにしている我らが十翅長エルデリスが開口一番そう言った。歴戦の貫禄とぷにぷにほっぺたのギャップがたまらん十翅長である。
ブリーフィングルーム正面の画面にお手製のスライドが映し出される。
手書きのイラストも添えてとてもかわいらしい。
「数日前から支配領域外縁部の資材保管ヤードで物資の不自然な消失が起こっていてな、幾つか監視機能を強化していたのだが…どうやらはぐれのニンフが忍び込んで居たらしい」
画面が切り替わり、物資を盗み出すニンフ二人組の映像が流れる。腰に拳銃らしきものを下げているが、鎧殻は身につけていない。
「逃走方向からおそらくこの近傍の廃墟群に隠れていると予想されている。消失した物資の量から推測するとはぐれは多くて4,5人程度だ。各員はエリアごとに分担して捜索すべし」
次の画面では倉庫付近にある廃墟郡のおおまかな地図が表示される。古い時代から管理が止まっており、ニンフの初期拡張時に起きた激しい戦闘で大きく破損した地上部だけでなく地下構造物にも崩落箇所が多くあり、焼け森と呼ばれている危険で複雑な地域だ。
「担当区域は既に各拡張頭環に送っておいた。全員でB地区に移動した後、一斉に捜索を始める。以上!」
――
過去の戦闘の傷跡が数多く残る廃墟群の中でも、比較的被害が少なく、直立しているビルがちらほらある区画が私達の担当場所だった。 周囲に自動機械を配置し、獲物の移動を制限してから捜索する。
「ここは一番状態が良い区域でな、周囲のビルが崩れて自然の防壁になってるから自動機械も迷い込んでこない。ニンフが隠れ住むとしたら一番確率が高いと思う」
移動中にリーシャ姉様が区域情報を教えてくれたとおり、隠れ家を作るには格好の場所だった。歩いて入るには幾つかの段差を乗り越え、倒壊したビルの作った隘路を通らなくてはいけない。
「エマ、足跡がある」
フロントのポジションで捜索をしていたシュシュがすぐに痕跡を発見した。さらに付近を探すと複数の足跡が行き来したと見える通路にたどり着いた。
「シュシュ、ここに食事の跡がある」
私も眼力を以て証拠を発見。盗み出された食料の跡らしきパウチが雑に偽装されて隠してあった。
「匂いが強い。近くにいるかも」
シュシュの嗅覚は結局かなり良好と言えるレベルで落ち着いていた。本人が望めばどの偵察部隊でも引く手あまただろうという姉たちの太鼓判付きだ。
「リーシャ姉様、ネズミの痕跡を発見した。このエリアに居るのはほぼ確定だ」
「分かった、引き続き捜索を続けろ。チャンスを逃すな」
リーシャ姉様達は私達をサポートできる位置で周囲を捜索している。もしかして、と姉達の優しさにグっときそうになるが、はぐれニンフが近い。深呼吸を一つして気を引き締めた。
「通路の奥も捜索しよう。匂いはどう?」
「奥のほうが強い。間違いなく近づいてる」
銃を構えながら、崩落してできた坂道から地下駐車場のような場所に降りてゆく。瓦礫で明かりが遮られ、かなり暗い。
「待ってシュシュ。蓄光石を準備する」
無線通信で外に漏れぬようにそう伝え、腰のポーチから蓄光石を2つ取り出し、互いにぶつけて光らせてから一つを投げ込む。
……物音はしない。シュシュがハンドサインを出し、下に降りて行く。私も続いて地下駐車場に降り立った。
それほど広くはないが、柱が多く視界が遮られている。シュシュが暗闇を睨みながら視線を巡らせ、同期した拡張頭環からの
ドォン!同時にシュシュのショットガンが火を吹いた。
「あ”うっ!…クソッ!」散弾を浴びて壊れたらしい拳銃を落として逃亡を図るニンフ。暗闇で待ち伏せしていたのかやり過ごそうとしていたのか、シュシュは嗅覚で場所を完璧に把握していた。
そして私が見当違いの場所へ探るように蓄光石を投げたように見せ、まだ気づかれていないと油断させたところを撃ち抜いたのだ。
ドォン!背中を見せたニンフに再びシュシュのショットガンが放たれ、被弾の衝撃で転倒する
「うぅ…姉様…逃げ…」這いずってでも逃げようとするニンフを尻目に、シュシュが撃つ?とでも言いたげにこちらを伺う。私は首を振った。
もうひとつショットガンの銃声が聞こえ薬莢がカランと音を立ててからは、私達の呼吸音以外に、もう音を立てるものはいなかった。
シュシュがハンドサインを出し、部屋の奥に続く、半開きのドアの先へと私達は進む。
半分に切られたドラム缶の中にある謎の物体に青白く照らされた部屋は、今しがたまで誰かが生活していたような有り様で、テーブルの上には食べかけの補給剤や水の入ったコップまであり、はぐれニンフ達がここに隠れ住んでいたことは明白だった。
さすがの私でもわかる、異郷のニンフの匂いが辺りに満ちている。
「エマ、こっち」
部屋のさらに奥の扉を開け放つとかすかに走り去る音が聞こえる。私達は加速翅を起動し、一気に加速して追いかけた。
いくつかの曲がりくねった地下通路を抜けると半円形の広間に出た。その片隅に、外の光に照らされた梯子を必死に登る2人のニンフの姿を捉えた。その先はどうやら地上らしい。
「エマ、やるよ」
シュシュの声に頷き、銃を構える――
――部屋の反対側、偽装された入口に立てかけられていた薄鉄板を弾き飛ばして出てきたのは1人の戦闘型ニンフだった。
「妹の仇だ!ここでお前たちを殺して行く!」
憎悪に顔を歪め、鬼気迫る表情のニンフが身に着けている鎧殻は、逃亡生活のためにロクに手入れが出来ないのであろう。あちこち装甲が剥がれ落ち、加速翅は咳き込むような音を立て、時折火花を散らしている有り様だった。
薄暗い部屋を照らす熱塵の光線、照準すら狂っているのか、光線はシュシュの障壁を掠めて部屋の壁を赤く穿つに留まる。
「鎧化兵と接触、ニンフ2人は地上へ逃亡中」簡潔に姉様に発見の報告を送り、私も牽制の射撃を開始した。
ファブラーの対鎧化兵戦闘は、単独では決して当たらぬことを徹底する。
一方が狙われれば回避と牽制に専念し、もう一方が別方向から攻撃を仕掛ける。
銃の
「姉妹を…守るんだっ!ううっ!」私の小銃が自動障壁を割った所に、シュシュの散弾の追撃が入る。回避のため推進機動をかけるも、ぼうんとひときわ赤黒い炎を吐き出した加速翅は煙を吹き出し沈黙する。
小銃を撃ち続ける私に向かって
「うわあぁっ!」咄嗟に腰から
損傷に耐えかねて膝をつく鎧化兵。背後に回っていた私はシュシュと目が合い、頷く。
「私が…姉妹を…守らな…!」その言葉を最後まで語ることはできず、ぱくぱくと何度か動いた口から出たはずの言葉は私の小銃の銃声にかき消され、倒れ伏した鎧化兵は最後に2人のニンフが逃げていった出口に手を伸ばして力尽きた。
狭い出口に鎧殻をひっかけながらなんとか抜け出すと、少し離れた場所で倒れ伏した2体のニンフの隣に立つリーシャ姉様達の姿が見えた。私達の姿を認めるとパッと明るい表情になり、駆け寄って抱きしめられる。
「よくやった妹達。戦士エマ、戦士シュマ。素晴らしい妹を持てて本当に誇らしい」
リーシャ姉様の比較的豊満な胸部と、異郷のニンフとは違う心休まる姉妹の香りの2つの刺激に脳がパチパチ弾けて言葉が出てこず、抱き返しながらかろうじて「ありがとう」と絞り出せただけだった。
隣ではシュシュがドロシャ姉に抱きしめられ頭を撫でられてくすぐったそうにしていた。
その後はずれを引いた他の小隊員も同区域に集まってきて取りこぼしが無いかチェックが行われ、十翅長による任務完了宣言が為された。
ひとまずネズミは狩り尽くしたようなので、残りの調査は後方の情報分析部隊が引き継ぐらしい。結局どういう経緯で迷い込んできたのかはわからずじまいだ。
翅団本部に戻ってから、私達2人は翅団長直々に二級鎧化兵戦闘徽章を授与された。四枚の翅の中心に刀剣と銃が斜めに交差している意匠が刻まれた、銀色で横長の小さなバッジだ。鎧化兵を戦闘で打倒した二人組に贈られる誉の証である。
やはりというか、偶然迷い込んできたはぐれニンフ達以外は全て姉達によってお膳立てされたものだった。あいつらは絶対にやりますので、やらせてあげて下さいとリーシャ姉様がかけあってくれたのだという。
その後食堂にて小隊の姉達によりささやかな祝いの席が用意された。皆によくやったお前も一人前だともみくちゃにされた挙げ句、いつからか度胸試しとして密やかな流行を見せていた、特濃流動食の摩り下ろし白珠掛けをバディと交互に一つのスプーンで食べさせ合う、『女王と戦士長』という遊びに巻き込まれ、色んな意味で鼻血を吹いて倒れた。
私がシュシュに勝てるわけないでしょ!
『女王と戦士長』あそびかた
高濃度修復材に摩り下ろした白珠を少々ふりかけます。
じゃんけん的な何かで女王役と戦士長役を決めます。
戦士長役がスプーンで修復材をすくい、女王役に食べさせます。
(この時戦士長役は、召し上がれ、私の女王と言い、女王役はいただくわ、私の戦士長と言って修復材を食べる)
食べさせ終えたら、女王役と戦士長役が入れ替わります。
これを繰り返し、ドカ食い気絶したら負け。食べきったならたくさん食べた方の勝ち。
※白珠の摂取は栄養の過剰摂取により死に至る可能性があるため、よいこのニンフは真似しないこと!
アンケートに答えた人ら全員そのコロニー題材でSS書いてみない?
俺もやったんだからさ!
にしてもポロッカ人気ですね。
ただ速さや空を目指すひたむきな部分と、女王のためなら自らを焼いてでも敵を倒す覚悟が良いのは分かる。
どのコロニーのニンフになりたい?
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アーヴド
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アルカンド
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ガーディナ
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ギプロベルデ
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ヘロス
-
バウカーン
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ポロッカ
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ナガラ
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ファブラー
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アルカンド連邦構成コロニー
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Avdraを纏った歴戦兵がいたコロニー
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発注したHelzの支払い拒否したコロニー
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アルカンドに大宣教で滅ぼされたコロニー
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その他無名の中小コロニー
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新たな女王のコロニー