ドールズネストのSSが新たに芽吹いて嬉しいなあ!
やっぱり種ってのは芽吹くまでに少々時間が必要ですからね。
みなさんのお気に入り、感想、評価、SS投稿ありがとうございます!これからもお待ちしております!
―― 少し時間を戻して ――
ということでいつもの第三工廠にやって参りました。なんで呼ばれたんですかね……。
「エマじゃん。何で第三に居るの?」
入場受付に向かうと、後ろから聞き覚えのある声に呼ばれた。
「ミラじゃん。工廠長に呼ばれたんだよ」
「僕も呼ばれたの」
「じゃ、一緒に行こうか」
「えっ、あ…うん、行こうか」
なんだその”えっ”は。手ぇ繋いでやろうかと思ったけど素で拒否されたらちょっと傷つくので適切な距離感を保つことにしてやったぜ。
入口近くにいた警備兵に入場手続きをして、工廠長がいる部屋の場所を教えてもらう。1階の搬入品倉庫だそうだ。倉庫で何やるんだろうね。
目的の部屋に近づくと、なんだかずいぶん賑やかな様子だ。開け放たれた扉からはなんだかんだと会話する声が漏れている。
「エマ上級戦士、出頭しました!」
「技師ミラ、出頭しました」
「ああ、来たか。入りなさい。」
部屋の入口から出頭報告をすると、そのままヴァイオラさんの前まで招かれる。部屋のテーブルには様々な武器が並べられていて、その近くには技師たちと見覚えのないニンフが2人いた。
私達の入室で一瞬部屋が静かになったが、すぐに技師達と見知らぬニンフが会話を再開してさっきまでの賑やかさに戻った。私達が入室すると、ヴァイオラさんは見知らぬニンフをひとり手招きして隣に立たせた。
「よく来てくれた。ぜひお前達の意見を聞きたくてな。彼女はヘロスというコロニーから来たらしい。セルを対価に武器を譲渡する、商人と言う役割らしい」
「はじめまして。ヘロスの商人、ポテズです」
くりっとした丸い目と栗毛のボブカットが可愛らしいニンフである。って今ヘロスって言ったか!?
「ファブラーの上級戦士、エマです」
「同じく技師ミラです」
表面上の平静を保ちつつおごそかに挨拶する。アイサツは実際大事。環太平洋条約機構制御プログラム標準仕様書にも書いてある。こんにちは!
それにしても例の捕まってたニンフ、商人だったのか。場所とタイミングが悪かったので捕まるのは仕方ないね。ヘロスコロニーなら中層から来てるのは間違いない。そしてちゃんと余所者のにほひがするなぁ。
「うん。あそこのテーブルの上に並んでるのが商品だそうだが、戦士達は技術に疎いし、技師たちは未知の武器の使い方がわからん。そこであの給弾システムを産み出したお前たちだ」
私達は顔を見合わせる。
「まあ、商人ポテズも君達の話を聞きたがっていたから、君等も商品を見てくれ。」
気に入ったのがあれば幾つか買ってもいいぞと後押しされ、テーブルに向かって歩き出すと商人が横に並んで話しかけてきた。
「改めてよろしくお願いします、エマ様、ミラ様。ファブラーの新型武装を開発された方々に会えて光栄です」
「え、いやぁその、まあね!私は発案しただけで作ったのはミラだけどね」
「エマの発案だし、僕は作っただけ…それも中途半端だったし」
「まぁまぁ!お二人の合作なのですね。我がコロニーは日々新技術を開発しておりまして、本日は新型武器の見本をですね、サンプルをですね、お持ちいたしましたので、ぜひご覧いただけると幸いです」
「あー、うん。見せてもらうよ」
よく喋るニンフである、やっぱりセールスマンは口が回らないとやってけないのかな。そしてミラは案外人見知りするのか大人しくなってしまった。
「さぁさどうぞ、こちら自慢の商品になっておりますです。どうぞお手にとって見てください、気になる物はお外で試射もできますよ」
テーブルには大小様々な武器が置かれている。なんだか原作で見たようなものもあり、見覚えのないものもあり…
「発掘武器のマイナーチェンジみたいな武器ばかりだな…共通規格部品が多くあるからできるんだろうけど、見た目が変わっただけで新兵器ってほどじゃないような……」
「この熱塵拳銃、ちょっと出力上げてあるのかな…あ、前エマに貰った熱塵銃の部品使ってる…ふーん…」
私達のイマイチそうな反応を見ると
「もちろんこれはサンプルでございますので、こういったカスタムだけではご満足いただけないお客様のお求めに応じた性能の兵器を新規開発するプランもございますです。その場合は一旦お客様のお望みの仕様を弊コロニーに持ち帰りまして、後日お見積り結果をお送りする形になりますです」
「なるほどね。その新規開発した兵器や鎧殻の実績はあるの?」
「えー、実のところ本日お持ちした物の中にはお見せできるものがありませんが…開発中の物でしたら、一応こちらに資料がございますです」
「これもどこかのコロニーから発注されたものじゃないの?他のコロニーに見せてもいいのかな」
「はい、はい。もちろんこれらは他のコロニーによって発注されたものでございますが、開発後は他のコロニーにも販売してもよいという条件で、開発費を割引させていただいておりますです。もちろん他のコロニーには一切出さない独占契約もございますので、そういった商品はこの中には含まれておりませんです」
「なるほどね。じゃあちょっと相談するから、呼ぶまで外してくれないかな」
「はい、失礼しますです」
「エマ、ミラ、あいつらの兵器はどうだった?まずはミラから聞こうか」
「
「うん。アタシもある程度は研究用に買ってもいいと思う。この間の戦いが終わってどこも一息つけてるから、余裕のあるうちに研究しないとね」
さて、と一拍置いて、ヴァイオラ工廠長がこっちに向き直る。
「エマはどうかな。説明は聞いたかもしれないが、一つくらい試しに発注してもいいと思っている。ようやく鎧殻が充足して製造ラインが開放されたから、本来の火器生産に注力したいのでね」
つまり本来の問題点は把握しているので、対装甲兵器の開発・生産といった部分は自前でやるということだろう。少々突飛な発想の兵器を一つくらいヘロスに無茶振りしてもよいということで理解しておく。
「じゃあ、遠近両用の熱量兵器でも作らせてみますか」
「……それはどんな兵器だ?」
「熱塵を銃のように発射したり、剣の形に放出・成形して近接戦闘もできるようにしたものです」
「エマは変な物を思いつくのが得意だね」
「確かに、我がコロニーでは作ろうとも思わんな。その兵器の利点と欠点は?」
「利点は遠距離攻撃と近距離攻撃。通常ではどちらか片方ずつしか使わない武器を1つの武器で賄え、かつ持ち替えの手間もなくなるので、装備重量の軽量化と戦闘の最適化が狙えます。
欠点は、今のニンフ全体の熱塵関係技術では小型化が困難だということから重量の増大や、先端技術のため安定性の低さ、整備性や生産コストの著しい増大が考えられます。」
「利点に比べて欠点が多いように思えるが」
「熱塵の加熱、荷電、磁界制御等、今後熱塵兵器を生産するに当たって必要不可欠な要素の先端技術が手に入ると思えば、作らせてみる価値はあるんじゃないでしょうか。仮に現行の技術で手固くまとめてくるのであれば、信頼性の高い兵器が手に入ります」
「ふむ…分かった。商人を呼んで発注をしようじゃないか」
「あ、あとひとつ気になる物が……」
「どれだ?」
部屋の隅の方に、これは売り物じゃないぞと言わんばかりにひっそり置かれている細長い物体。近づいてシートを剥いでみると槍のようだ。いかにも鋭い穂先がぎらりと輝くが……柄のほうを見ると、やっぱり
「この槍がどうかしたのかね。何の変哲もない白兵武器に見えるが」
「あっ!お客様。それは売り物では無いのです。」
「まあまあ、ポテズさん、これはどこで手に入れた物なの?」
「行商の最中、凶暴なニンフの一団に襲われたときに投げつけられたものです。奇声を上げて刀剣を振り上げて走ってきて……あぁっ!」
ポテズの心の傷を開いてしまったようだ。しかし、この槍もとい槍の柄。
「……辛いことを思い出させてしまってごめんね。売り物ではないそうだけど、実は兵器の開発生産を頼みたくてさ。手付けは弾むから、この槍も付けてくれないかな」
「えっ!発注していただけるんですか!?」
こいつ目からハイライトが消えたりついたりして面白いな……肩に手を回して工廠長の方に誘導する。
「まあ詳しい話はこれからね。きっとやり甲斐のある仕事になるよ」
「あっ、はい…お話、お伺いしますです。ちなみその槍はですね……」
投げつけられたものを拾ってそのまま持って逃げてきたらしい。転んでもタダでは起きないあきんどスピリッツを感じた。持ち主ごと飛んでこなくて良かったね。
このあとヴァイオラさんと3人でめちゃくちゃ商談した。営業の約束が唐澤さんと月光さんを合わせた武器みたいになってきたので逆に宥めることになり時間はかかったものの、なんやかんやで仕様をまとめ、手付けのセルを渡して、槍はおまけしてもらった。しめしめ。
あ、別れ際に、「その
放っておいてもヘロスは制服を作り出すだろうが、営業かけるたびに襲われたり捕まったりするのには随分堪えているらしく、「さすが新型装備をお作りになった戦士様でございますです!」とずいぶん発想を褒められてしまい、予想外の反応にしどろもどろになってしまったりもした。
―― 帰り道 第15小工廠――
「いやぁ、仕事したなあ」
「で、その槍を使ってシュシュに近接戦闘でも挑むの?」
「私がシュシュに勝てるわけないでしょ。それよりミラは何か買ったの?」
「泡電銃。この辺りだとあまり熱塵兵器が発掘されないし、僕も色々勉強しないと」
「顔馴染みの名工が熱塵兵器に興味を持ってくれて嬉しいよ。それならこれも役に立つね」
「その槍が?」
聡明なドールズネストプレイヤーなら既にお分かりだろう。そう。この槍の柄こそが
「この槍の柄、銃だよ。たぶん特殊なやつ」
銃口にソケット式銃剣よろしくがっちり差し込まれている穂先を抜こうとするが全然抜けない。
「うぎぎ……!」
「貸して。手滑らしたら指無くなるよ」
「うん。よろしくたのんだ」
ミラに工具を使って外してもらう。けっこうがっつり銃口周りに固定具が刺さっていて、そこに精密部品が無いことを祈る。
「ほら、単体で見ると長銃身の銃でしょ」
「…あ、本当だ。ここに熱塵制御の調整用ポートがある…弾倉もトリガーもある。……逆になんでこれを槍にしたんだろ。銃口も潰してたし……弾の製造が出来なかった?」
「いや、これまだ弾入ってるよ。多分頭ナガr…うん。これもここに置いていくからさ、ミラの教材に使ってよ!」
「ナガ…?まぁいいけど、これはありがたく使わせてもらうよ。槍の穂先はナイフにでもしてあげる。刀身の鍛造技術は相当凄いよ、これ」
ミラがつまんだ穂先を照明にかざす。金属の結晶構造のせいなのか、ぬらりと冷たい虹色に光る刀身は素人目には一種の芸術品のようにも見えた。
「ありがとう!楽しみにしとくよ」
「じゃあ僕はいつも通りやるから。またね」
「うん。またね」
ミラの邪魔にならないようにさっさと帰ることにする。買い物に来たわけでもないので、裏口から出て宿舎に向かって歩きながら考え事をする。
――ヘロスが各地にて商売の手を広げ、後にナガラを名乗るコロニーも既に成立しているのが分かった。下層のどこかでポロッカも速さを追い求めているんだろう。後の覇者のガーディナはまだギプロベルデから独立したという話は聞いたことがないし、まだ焦る時間じゃないはず…
考えをまとめながら歩いていると、突然警報が鳴り響いた。
『コード409、D3。コード409、D3…各員は所定の行動を開始せよ。コード409、D3。…』
非常呼集だ。
―― 第4翅団駐屯地 E中隊ハンガー ――
一人前のニンフ達100名と訓練兵20名を擁するエルデリス中隊の鎧殻ハンガーに到着すると、中は既に到着した戦士達に鎧殻を装着させたり、それぞれの武器の最終チェックをする技師型ニンフたちでごった返していた。
私の鎧殻も既にチェック済みの色テープが貼られ、隣のハンガーでは完全装備になったシュシュとイシュカ、マーシュカが待機していた。
「おかえり、エマ。早く鎧殻着ないと、ブリーフィング始まっちゃうよ」
「ただいまシュシュ、分かったよ
技師にも手伝ってもらい、大慌てで鎧殻を装着する。全体の起動プログラムを終えて間もないタイミングで翅団全体のブリーフィングが始まった。
『第四翅団諸君。ガリア戦線においてガリアの大規模攻撃が確認された。不毛地帯から越境してきた推定2個大隊規模のニンフに対して第一大隊及び警備中隊が応戦中だ。第二、第三大隊は当該地区の増援に向かえ。第四大隊は重要拠点の自動兵器工場のラインで防衛任務につけ。翅団本部も兵器工場に置くこととする。以後は大隊ごとに指示を出す。それでは各員行動を開始せよ!ファブラーの女王のために!』
翅団長の命令が出されたことで、待機状態だった各部隊が動き出す。前線に増援に向かう第二と第三大隊が第一陣だ。ハンガーの前にずらりと停車した、完全装備の鎧化兵6名を搭載可能な
ちなみに私達の所属は増員や再編を経て第三大隊E中隊第二小隊である。第二大隊が出発し終わるまで暇になったので、移動中に食べる携帯食料を腰のポーチに目一杯詰め込んで水筒も満タンにしておいた。
新兵たちのポーチにも携帯食料を詰め込んでいると、後ろからシュシュに声をかけられた。
「エマ」
「どうかした?シュシュ」
「あいつらも、来てるのかな」
「…きっと来てるよ。前は引き分けだったけど、今度は勝とう」
「今のぼくたちなら勝てる。会えるといいね」
「うーん。いいのかなあ……?」
多分シュシュはリベンジに燃えているのだろう。しかし2個大隊規模といえばニンフ1000名を超える規模だから、敵味方も合わせて3000近いニンフが入り交じる戦場でまたあのガリアのニンフ達と遭遇できる確率は限りなく少ないだろう。
そうこうしているうちに大隊長補佐のニニス上級百翅長から号令がかかり、私達も
大規模なコロニー間抗争はファブラーとしても初めてのことだ。しかもこちらから準備を整えて攻め入るでもなく、先制攻撃を受けたのである。常に臨戦態勢ではあったが。
どのニンフもどこか興奮したり、そわそわしたり、不安そうだったりと落ち着きがなく、どのトラックからもひそひそと会話する声が絶えない。
きっとガリアのニンフ達も攻撃を始めるまでこうやって姉妹たちと過ごしていたに違いない。
いつも通りの、灰色で埃っぽい下層の
ということでいよいよ始まりました。
今までは短いいくつかのエピソードをまとめた一話完結っぽくしてきましたが、次からは長い話を何話かかけて描くことになるので、少々投稿までに時間をいただくかもしれません。なにせ初めてなので。
次回、ガリア戦争 ファブラーは、生き延びることができるか。