ファブラーのニンフ、滅びに抗う   作:枢鹿

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ナガラくお待たせしました。

ガリア戦争編のはじまりはじまり


狼の遠吠え

 がたごと道を揺られること数時間。半装軌車(ハーフトラック)の車列が前線に近づくにつれて、無線通信で情報が色々入って来るようになった。しかしどうも通信の統制がされておらず敵も味方も混線しているような有り様で、大隊長からオープン回線の使用制限が通達されるほどだった。

 

「むぅ、とにかく戦場はもうめちゃくちゃだってことしかわからなかった……」

少しでも情報が欲しいところだが、悲しいことに私はただの一兵卒。あそこに突っ込めと言われれば諸手を上げて突撃するのがお仕事なのだ。

 

『大隊員諸君、大隊長のヴァースだ。我らは間もなく交戦地域に突入する。先行した第二大隊が前線を引き継いで第一大隊と警備中隊の負傷者を下がらせている。この先の広場で我々は降車して、その車に負傷者を乗せて後送するのだ。現地に着くまでに各中隊長に指示を出しておくから以後は各隊長に従え。以上だ!』

 

 速攻で前線突入かと思いきやまさかの負傷兵収容とは。私達第E(エルデリス)中隊は負傷兵を車に乗せて送り出すのが第一任務となった。降車準備のために固定フックを外して車の横から前を見ると、真っ直ぐな道の先に広場らしき場所が見える。

 ふと直前の車両に目をやると、同じように横へ体を乗り出したリーシャ姉様の姿が見えた。じっと見てみるがこちらに気づく様子は無い…が、その隣のドロシャ姉様は私に気づいて微笑み、手を振ってくれた。こちらも手を振り返そうとしたのもつかの間。

 

車列の前方数か所で同時に爆発が起こった!敵の攻撃だ!

 

「どこで爆発!?」

「奇襲だ!車から降りろ!」

「わああぁっ!火が!火が!」

「あそこで何か動いたぞ!撃て!」

「勝手に射撃するな!」

「敵襲!敵襲!」

 

 被害を受けたらしいニンフや、身近な姉妹の混乱を収めようと叫ぶ声で周囲は騒然となった。

 幸い被害を逃れた前の車両からリーシャ姉様達が飛び出すのが見えたので、私達も車から飛び降りて銃を構えて警戒する。一体どこから攻撃を受けた?混乱した仲間達が放ったであろう銃声以外に、次の爆発音は聞こえてこなかった。

 

『中隊長のエルデリスだ。撃ち方やめ。敵の有無を確認しろ。損害を受けた部隊は状況をまとめて直接中隊本部に報告しに来い。以上だ』

 

 少し離れた場所で何人かのニンフが銃を撃ち、そして脇道に加速翅(スラスター)を煌めかせながら飛んでいった。

 

「中隊本部へ、こちらリーシャ小隊損害なし!…シュマ!周囲を探って敵が居ないか確認しろ!」

 

リーシャ姉様から鼻の利くシュシュに偵察命令が出された。

「了解。偵察します」シュシュが飛び立ち、背の低い建物を足場にして高台へと登っていく。私もバディとして後を追わねば。

 シュシュは5階建てのビルの屋上に上がり、道路からは見えなかった不毛地帯を見ていた。

「シュシュ、気をつけないと撃たれるよ。まだ敵がこのあたりに居るかもしれないんだし」

「ううん、上がってくる途中もガリアの匂いはしなかったから大丈夫……」

こちらを見ずに話すシュシュの視線の先を追うと、様相の変わり果てた不毛地帯の倉庫街が見えた。

「そっか、……これが戦場か」

 

 数百、千に届くかもしれないニンフと、その数倍の自動機械があちこちで激しい戦闘を繰り広げている。炎と煙がそこかしこに立ち上り、1キロ程離れたここからではどちらが優勢なのかも分からない。

 

「ここまでどうやって侵入してきて、攻撃したあとどこに消えたんだろうか……」

 

 結局誰かを見つけることも攻撃されることもなく、周囲に敵影なしと報告した。

ガリアの謎の攻撃で受けた被害は半装軌車(ハーフトラック)4台と、運転手の通常型ニンフ3体機能停止、戦闘型は4体中破と5体小破…1個小隊相当が戦場にたどり着いて早々に戦線離脱してしまった。

 

『破壊された車両の移動は終わったか!』

『負傷者第一陣、間もなく到着します!』

 

 結局奇襲の原因が不明だったため、他の中隊は周辺と負傷兵の安全確保のために索敵しながら散開していった。

 そんなこんなでようやく任務開始である。半装軌車(ハーフトラック)では図体がでかすぎて前線で小回りがきかないので、鎧殻を外した負傷者を、鎧殻をつけたままの軽傷者が運んできてそのまま後送される手筈なのだが…

 

『これで満員だ!クルマ出せ!』

『次どうぞ!……あっ!』

『こいつとはさっきまで話してたんだ!まだ間に合うよ!』

『おい!何してる!負傷者が優先だ!死体は後!』

『嘘だ!離せ!乗せてくれないなら私1人で連れていく!』

 

 血みどろだけど修復材と止血帯でギリギリ生きてる重傷兵や、間に合わなかった兵、そのバディと思わしきニンフの叫び声や

 

『重傷者はこいつだ!じゃあ私は前線に戻る……手を離せ!』

『あなたも十分重傷者ですよ!片腕で何が出来るんですか!』

『まだ前線で仲間が戦ってるんだ!片腕でも銃くらい撃てる!』

『私達の仲間が援軍に向かってます!あなたも早くクルマに乗って!』

『いいから行かせろ!…って何をする!』

『拘束急げ!非常コードで鎧殻はずせ!』

『やめろ!仲間が…ムググ!』

 

再出撃しようとするニンフを拘束してクルマに放り込んだり。

 

「まだ負傷兵が来るのか…1個中隊ぶんは送ったはずだぞ」

「…さっきの負傷兵、前線でやられた子の死体だけでも回収するって暴れてたわね」

「前線は一体どんな戦場になってるんだろうな…」

 

 あまりの負傷者の多さに困惑するリーシャ姉様たちのつぶやきあり。ちなみに1個中隊はおおよそ100名。5個中隊で1個大隊となる。

 

「リーシャ姉様、脱がした鎧殻はどうするんですか?」

「ん?あぁ…少し待て。……そこのクルマはまだ空きがあるから、損傷があるやつを積んで出発させろ」

「はい!…傷のないものは?」

「大隊本部横…あそこのクルマの荷台に積むように、だとさ」

 

 最初はともかく、150人程度の負傷者を送った後は負傷者の到着間隔もまばらになり、満員にならずに待っている半装軌車(ハーフトラック)もあった。それに破損した鎧殻を乗せて出発させることになった。

 

「シュシュ、こっちの鎧殻はクルマに乗せて出発させるんだって。私はこっちの鎧殻をもっていくよ」

「うん。わかった」

 

 前線に戻りたがる軽傷の兵は多かった。しかしニンフ(有機機械)だからこそ許される軽傷(欠損)や、速度出したら火を吹いて爆発炎上しそうな加速翅(スラスター)をそのままにUターンしようとする兵等、ともかく現地で修理や治療が出来ない状況で後送命令に従わぬのだから、鎧殻を引っ剥がして荷締めベルトでグルグル巻きにして荷台に積み込まれる有り様のものが本当に多かった。本当に。

 

「1個大隊と増強1個中隊規模の警備中隊、だいたい650名のニンフが最初に戦って…負傷者だけで150名超…戦死者も含めると被害はたぶん200以上300以下くらい…?」

 

 鎧殻を運びながら戦況を推測してみると、相当エグい損害を受けているのではないだろうか。開戦して僅か数時間で2個中隊以上のニンフが戦闘不能になったのだ。

 

「鎧殻置き場はこのクルマか…」

 

 着用者が暴れて脱がせることになった鎧殻はそこそこ数があるようで、幌のかかった半装軌車(ハーフトラック)の荷台には既に10セットは組めそうな鎧殻の各部位が載せられていた。

 

 二台の車両の間に布をかけただけの急ごしらえな大隊本部からはエルデリス中隊長とヴァース大隊長の会話が聞こえてきた。

 

「初戦で発生した重傷者の後送はほぼ終了しました。手空きの人員が出たのでこちらから出迎えに出しています。」

「よし!あとは大隊本部が後送任務を引き継ぐ。他の中隊は先行させるが、E中隊は大休止をとってから前線に向かえ。後発になるが悪く思うな…まあ、お前たちには先の北部派遣があったからな。現在戦況は優勢に傾いているらしい、追撃戦では万全なお前たちが頼りになる」

「はっ!お気遣い感謝します。これにて失礼します。」

 

 やっべ、聞き入ってしまったと慌てて離れようとするが中隊長に見つかるほうが早かった。

 

「おい、盗み聞きとは感心せんな」

「はひぃ!申し訳ありません!」

「ちょっと驚かしただけだ。わかったならさっさとリーシャの所に戻れ」

「はい!失礼します!」

 

 駆け足でシュシュの所に逃げ帰った。シュシュは既に鎧殻を積み終わっていたらしく、次のクルマに乗せられるのを拒否する負傷兵を1人で制圧してグルグル巻きにしていた。

 

「があぁ!お、折れるゥ!」

「こっちはもう折れてるよ。…あ、エマ、遅かったね」

「……うん。ごめんね。すぐ手伝うよ」

 

 そそくさと負傷兵をクルマに放り込んで見送ったあと、直ぐに中隊長から小休止後出撃準備の命が下った。やはり皆戦いたかったのだろう、出撃の声が聞こえた時にはあちこちから歓声が上がっていた。

 

 小休止ということで小隊一番の下っ端、イシュカとマーシュカに水を取りに行かせる。負傷兵を運んだり制圧した時に付いたニンフの白い人工血液がべたついて早く洗い流したかった。しかし1小隊につき洗浄用と飲水用で30リットルのジェリカン2個では濡らした布で拭うのが精一杯だ。

 

「シュシュ、拭くからこっち向いて」

「ん、む」

 

 シュシュは1人で負傷兵を制圧したりと頑張っていたので、そこら中埃と血で汚れている。顔やら髪やらに付いた分を先に拭い、他の部分は本人に任せ、かがみこんで鎧殻の手の届かない部分についている汚れを拭おうとすると、シュシュから待ったがかかった。

 

「鎧殻はいいよ。どうせこれから汚れるし」

「関節だけは拭かないとダメだよ。一瞬の遅れが命取りになるんだから」

「ふーん。じゃあエマの頭拭いてあげる」

「んがー!」

 

 頭をわしゃわしゃと拭かれて視界がぐるぐる回る。

 

「これから戦闘だっていうのに、あいつらは緊張とは無縁だな」

「戦士長が仰っていた、真の戦士は戦場でも窟でも変わらずにいるってああいうことかな」

「なんか違う気がする…」

 

「ん。キレイになった」

「代わりに髪の毛はボッサボサだよ!」

 

 なんだかまた生暖かい目で見られていたような気がするが、周囲を見渡してもこちらを見ているニンフは居ない。

 

「休憩は終わりだ!戦闘員は集まれ!」

 

 リーシャ姉様の号令で短い休憩は終わり、小隊ごとに整列して中隊長の合図を待っていると、さっきも会ったちびっこエルデリス中隊長がのしのしと歩いてくるのが見える。後ろを付いて歩くコールス副隊長より頭ひとつ低いのだ。ある意味製品とも言えるニンフ故に骨格レベルでの身長差があるのは不思議(肉付きは変わる)だが、好奇心を満たすのは後にしよう。

 

「これより我らE中隊は前線に向かう。戦闘は小康状態にあり、我々の加勢によりガリアの戦意を粉砕してファブラーを勝利に導くのだ!」

「「フラー!」」

「我に続け!」

 

 中隊長直下の小隊に続いて私達も加速翅(スラスター)を起動し、隊列を組んで行軍する。いわゆるブースト機動という地面を滑るように移動する方法では、瓦礫の多い市街地を移動するのには向いていないので、ゲームには無い、さらに出力を抑えた巡航モードで移動を行う。

 これは加速翅(スラスター)の補助を受けながら走るもので、鎧殻の出力と合わせてパルクールしながらフルマラソンを完走できるくらいの機動力を出せる。

 時折負傷兵達とすれ違いながら、だんだん近くなる砲火の音に反して、心はだんだん深く静かに落ち着いていく。さあ、戦争だ。

 

―― ホド下層 ガリア=ファブラー戦闘地帯 ガリア軍本陣 ――

 

 ファブラー第四翅団第二大隊が戦線に到達した少し後……

 

「第12戦隊はまだ戻らないのか!」

「第20戦隊の兵か、指揮官はどうした…何?お前が最後の1人だと!?」

「第16戦隊より敵増援襲来、増援求むとのこと」

「増援だと!?想定より敵兵が多いぞ!?」

「第4、16、33戦隊、集約再編成完了。再出撃を要請しています」

「急ごしらえの戦隊に何が出来る!負傷兵の応急処置をやらせておけ!」

 

 ガリアコロニーは、ファブラーより後発のコロニーである。ファブラーの女王となったニンフに対抗心をもっていたとあるニンフが、より自身のほうが優れていることを証明するために自身も女王となったのだ。しかし優れた立地に根源地を持つファブラーと違い、「ファブラーの近く」という条件に拘った上にアーヴド女王に背く形で独立したため技術の支援も受けられない。資源も技術も二流の中、ようやくコロニーの運営を安定させて1000名の戦士とそれらが従える自動機械を揃えることが出来た。

 そんな最中、斥候よりファブラーコロニー境界にて数百規模のニンフが活動中との報告がもたらされたのである。

 

 これはファブラーにとってはただ単に定員いっぱいまで充足した部隊が領域の警備のために駐屯しただけに過ぎないのだが、ガリアコロニーにとっては恐ろしい侵攻の前触れと誤認したのだ。

 炭素生物(ニンゲン)であれば日頃の外交によってそういったものは滅多に起こらないものだが、基本的にニンフ達にとってはコロニーの領域が隣接した瞬間いつ刺すか刺されるかの殺伐とした関係になる。ガリアは即座に全軍の半数をもってして先制攻撃を行った。

 500のニンフ、そしてそれらが引き連れる数千の自動機械。先手必勝で侵略軍を粉砕し、返す刃でファブラー女王を伐り取る。そのつもりだった。

 

「鎧化兵の損害が想定以上だな…あの途切れぬ射撃が厄介ぞ」

「鎧化兵が倒れれば自動機械の性能は活かしきれん。それに手持ちのセル補給剤も心もとない」

「確認できただけでも上級兵が10、下級兵は50は通信が途絶している。戦線整理も止むなしか」

 

 最上級個体用に強化された通信機能で前線の指揮官達が戦況と今後の作戦について話し合っていた。

 

「想定より敵増援の到着が早いが、やつらの戦力もこれで打ち止めであろう。一旦戦線を不毛地帯まで後退させ、後備と再編した戦隊とを合わせて逆撃を加えればやつらはセルの塵となろう」

「然り。トレビュシェットのおかげでピットブルの補給もできる」

「引き戦なれば我が殿を務めようぞ」

「否、殿の名誉は我が」

「では右翼と左翼の殿は任せたぞ。中央の後退に遅れるな」

「「えっ」」

「では作戦再開だ。武威を示せ」

「「ガ、ガリアの武威をホドに示せ!」」

 

 広域通信によりガリアの全軍に命令が出され、各所で多数の信号弾が打ち上げられた。そしてその信号弾が空を切り裂いて上昇していく音が、まるで狼の遠吠えのように戦場にこだまするのだった。

 

―― ホド下層 ファブラーコロニー 女王の間 ――

 

 ファブラーコロニーでも一部の者しか立ち入ることのできない女王の間にて、その部屋の主に守子である戦士の長が戦況報告をしていた。

 

「初撃は凌いだ。警備中隊は健闘したが半数以上が機能停止か重傷。迎撃にあたった第一大隊も1個中隊規模の損耗を受けたが、第二大隊以降の戦力投入が間に合って現在戦線は拮抗状態らしい」

「そうか……あいつめ、女王になってガリアコロニーを名乗った時はまだ可愛いものだったけど…我が子、我がコロニーに牙を剥くとなれば、先達として躾けてあげないとね」

「じゃあ、我らが勝利しても根切りには値しないと?」

「この辺りに窟を構えた以上、我々以上に豊かな土地を持っているコロニーは存在し得ない。規模の小さな後発コロニーに負ける道理がない以上、適度に飼い殺しにして我らの兵の糧にしたほうが有益と思ってね」

「君のそういう所があの子の反発の元だったんだけどなぁ。他方面の翅団から部隊を引き抜いて経験を積ませても?」

「采配は君に任せるよ。戦士長殿」

「仰せのままに、女王様」

 

 芝居がかった仕草で礼をし、立ち去るかと思えた戦士長がふと足を止めて女王に向き直った。

 

「あ、そうそうファルチア」

「なんだい?」

「後送される予定の負傷兵と鎧殻の量を鑑みるに、修理の対応で工廠がパンクするのは間違いないからそっちの対策は女王様が考えてくれたまえよ」

「ああ!もう!…侍従!工廠長達との会議の予定を入れておいてくれ。第一から第三までの大工廠全てだ。……まったくあいつらめ、こういうところは昔と変わらないものだな」

 

 いよいよエマ達の戦いが始まろうとしている頃、他の場所でもそれぞれの戦いに向けて着実に動き始めるのであった。

 

 




各視点って分けて書いてるのよく見るけど、同じ時間軸、別視点で1話分にして投稿するやつ好きじゃないんだよね。
でもいざ実際に一つにまとめるとゴチャつくなぁ。
それとは別にエマ視点では飛ばした時間の間に起こった出来事を閑話として投稿することはあるかも。
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