ファブラーのニンフ、滅びに抗う   作:枢鹿

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なんとか年明け前に投稿できたぜ…皆様おまたせしました。
お久しぶりです。今年はドールズネストが発売されたメモリアルな年でしたね。
来年もよろしくお願いします。


はじめての戦場

 交戦当初、ガリアの指揮官はいつも通りの戦いをするだけだと思っていた。ニンフの戦闘の基本である少数を囲んで叩けば多数が勝つという鉄則。事実として数的劣勢かつ先手を取られたファブラーの警備中隊は散々に叩かれ、敵襲と叫びながら這々の体で潰走したが、警報装置(カナリア)としての役目は果たした。

 次いで対するはファブラー第四翅団第一大隊、同規模の戦いではどうか。たとえば互いに横一列に並んで正面の敵と戦う。相対した敵を倒せば次は近くの戦友を助け、また次の敵へ。それを繰り返せばいずれ勝敗は決する。

 生まれは違えど相似した認識(ニンフの常識)を持つ部隊同士の会戦が数度行われた後、互いの指揮官はある一つの共通認識を持つに至った。

 

『『我らの兵、ちょっと(機能停止)にすぎでは?』』

 

 ――今までの小競り合いで発生した戦闘ではお互いどちらかを殺し尽くすような戦い方はしなかった。戦闘の結果機能を停止する個体も出ることはあったが、劣勢になって退いていく相手を追撃して殲滅するまでの戦闘はどちらともやってこなかったのだ。

 少なくとも己らの縄張りから敵性異物を排除すればよかったし、ニンフは逃げる弱兵を見逃すことがしばしばあった。

 

 そんな中、ガリアの兵たちに命じられた初めての大規模越境攻撃と、それに対するファブラーの迎撃行動も必要に駆られて大規模になった部隊らが激突。

 そうして発生したのは集団戦闘の基礎の基礎、密集しての正面衝突。炭素生物(じんるい)がかつて棍棒や石を手に持って争った時と変わらぬこの戦い方を、それより遥かに殺傷力の高い銃火器を以て行えばどうなるか。すなわち尋常ではない屍山血河を速やかに築き上げての戦闘終結である。

 

 ちょっと一旦死ぬのを止めてほしいという指揮官の切なる願いも虚しく、結果的に数時間のうちに発生した戦闘によって双方そこそこでは済まされぬ損害を出し、混乱の中どちらともなく後退命令が出されて戦闘は終結。

 しかしファブラーにおいては後退する敵を追撃する余裕もなく、比較的優勢だった側はまだ五体満足な兵たちをなんとかまとめて戦場に残された負傷兵なり捕虜なり戦利品なりを引っ掴んで防御的優位に立てる場所を確保し、以後は散発的に兵を繰り出しあっては敵の陣地をいかに攻撃するか試行錯誤することになった。

 

 そんな戦場に我らE中隊がついに到達した。先触れを出していたので現地の第1大隊C中隊は歓声で迎えてくれたが、戦士たちは皆傷だらけで、激しい戦いだったことを物語っていた。

 中隊長同士で情報共有をする間、陣地内の広場で待機するように命令されたので小隊の皆といっしょにそこまで移動する。道中リーシャ姉様は顔見知りを見つけたらしく、片手をあげて挨拶していた。私の同期はここには配属されていないので知らないニンフばかりだ。

 広場にいるニンフ達を見ると、妙にやつれたというか、疲れ切った様子のニンフをちらほら見かける。

 どれどれ、ちょっと声でもかけてみようか。偉いやつと強いやつは匂いでなんとなくわかるので、同じくらいの階級っぽい彼女に決めた。いかにも元気無さそうに俯いて一人で瓦礫に座り込んでいる戦士に声をかける。

 

「やぁ戦士。一本いっとくかい?」

「……え?私?」

 差し出したのは補給剤。ニンフのエナジーバーだ。元気が無さそうなやつはどいつもこいつも飯抜きで作業に没頭した二徹明けのミラみたいにしぼんでいる。なんでそうなってるのかは良くわからないけど、エネルギーが足りてないのは明白である。お肌のツヤが悪くなるのだ。

 声を掛けられて何事かと、しかし気だるげに顔を上げたニンフは差し出された補給剤と私の顔を交互に見る。

 

「…あぁ、くれるのかい?君は?」

「私は第三大隊E中隊のエマ。どーぞご遠慮なく」

「第一大隊C中隊のオデット上級戦士だ。ありがたくいただくよ」

 

 彼女は補給剤を手に取るとすぐさま食べ始めた。口の中がパッサパサになるのはわかっているので水筒も取り出す。ニンフのメシといえばゼリーと固めた粉と水と時々錠剤!以上!白珠?ごく平凡な一般ニンフの食べ物ではない。

 などとよそ事を考えていたら眼の前のニンフが目を白黒させて胸を叩き出したので、すかさずスタンバイさせておいた水筒をそっと差し出す。

 

 

「…んぐ、助かったよ…ほとんど戦闘で使ってしまってね……残っていた分はみんなこの陣地の防衛部隊にあげてしまったんだ。皆補給が来るまで大人しくしろと言われてるよ」

 案の定補給剤を喉に詰まらせかけた同胞にさっと水筒を差し出すと、ひと心地付いたのか状況を話しだした。

「補給は早くても明日になりそうだね。数が多いって聞いたけど、どれぐらい居たの?」

「あぁ……数だけなら五倍くらいかな。 ニンフはともかく取り巻きの自動機械が多くてね。こいつ(FR001 Emviolla)のおかげで弾幕を張れたから囲まれずに済んだが、倒しても数が減ってる気がしなかったな」

 Emviolla(ぼくのかんがえたさいきょうのそうび)が軽装甲の自動兵器の群れに効果を発揮したことでつい口角が上がりそうになるのを抑え、次の質問をなげかける。

「ガリアのやつらは、今までとどこか違っていた?」

「んー……そうだ、すばしっこいのが居た。わたしはサポートだから射撃に専念してたんだけど、相棒もそいつに片翅をふっ飛ばされたんだ」

「新型なのかな?それってどんな…」

「E中隊は集まれ!指定ポイントにて出撃待機!」

 

 肝心なところで呼び出しがかかってしまった。オデットに手を振って別れ、集合地点に向かうことにした。

 

「最前線に到着して早速だが斥候を出す。この戦域を担当していた41C(第四師団第1大隊C)中隊は、先の戦闘の後防御体勢を構築したあとは敵陣の情報を得ておらんということだ。第2小隊と第3小隊は先行して情報を集めろ。それ以外は情報が取れ次第指示を出すが、偵察が済み次第に前進して再侵攻に備えるんだ。W-181地点の小脊柱は最優先で抑えるぞ」

 

 中隊長ははっきりと言わないが、先ほど見て回った感じだと41C中隊は満身創痍といった体である。鎧殻を損傷または損失していない鎧化兵のほうが少ないくらいの様子で、回収できなかった負傷者がそれなりにいるらしい。

 その上に弾切れである。弾薬に変換するセルのタンクは副腕部にあるが、ニンフ本体の有機機械部位(おにく)にもエネルギーとして蓄えられ利用される。我々戦闘型ニンフが日頃から大盛りで飯を喰っているのはまさに戦士として戦うエネルギーを貯蔵する必要があるためで、日頃から食いだめしておかないとすぐに息切れしてしまうのだ。戦闘用の高濃度補給剤は消化機関(・・)に高い負荷がかかるので、短期間に集中して使用すると吸収効率がどんどん落ちる。一時的な機能低下はしばらく低負荷状態を維持する(消化にいいものを食べる)と段々回復するのだが、落ちた状態でさらに高負荷食を使い続けると消化機関が故障(ぽんぽんぺいん)して工廠でオーバーホールを受けるまで飯が食えなくなるのだ。

 少々話題が脱線したが、つまり41C中隊はみんなボロボロで弾もないし腹ペコなので戦えませんということである。手弁当で帰れる距離でしかまともに戦ってこなかったツケが来たとも言える。

 

「我々43E中隊の教育兵20名は41C中隊と共に陣地の防衛と見張りをさせる。さっき負傷兵から回収した鎧殻や修復材などをここまで持ってきて41C中隊の戦力を回復させるまで助けてやらないといけない」

 

 イシュカとマーシュカはここで留守番か。41C中隊の様子を見る限り、彼女らの下にいた訓練兵のほとんどは先の戦闘で甚大な被害を受けたようなので、同世代の彼女らを最前線に立たせるのはまだ早いという中隊長の判断だろう。

 ちらりと目配せすると不安そうな表情から一転キリッと表情を引き締めた。頼もしい限りだが、もうちょっとお姉様に頼りたい感じを出してもいいと思う。

 

「現時点での交戦については原則回避しろ。41C中隊とガリア兵部隊の初期交戦地区の確認が最優先である。以上、行動開始!」

「リーシャ小隊出撃!目的地点はガリアと41C中隊との交戦地帯だ!」

 

 どうやら私達第二小隊の担当が交戦地区までの偵察で、W-181小脊柱(層間プレート支柱)方面は第三小隊が担当するようだ。

 

『一応先に交戦した部隊からの報告も上がっていたが…ロケット推進で突撃してくるガリアの新型が出た。脚や翅に向かってロケット噴射で突進、手足や翅に噛みついた後自爆するようだ。交戦時は最優先で撃破しろ。推進用ロケットは爆弾を背負ってるようなものだろうから、どこに当たっても爆発する。散弾持ちは特に率先して撃つように』

 

 リーシャ姉様の通信を聞きながら、加速翅の出力を抑えてできる限り静かに早く移動していく。別の戦区と思わしき遠方からは時折銃声が聞こえるが、この地区は静かなものだ。敵はどこにいるのだろうか。

 

「全隊止まれ。この建物の先が交戦地点だ。シュマ、エマ。建物の中から偵察しろ」

「了解!C分隊偵察します」

 

 建物の入口は狭くて鎧殻を着たままだと通れない。シュシュと共に拡張頭環以外の鎧殻を脱いで建物に侵入する。ちなみに鎧殻装着時の生足は最低限の骨格でできた仮脚に換装している。素早く移動するにはコツが必要だが、偵察の任務で狭い建物に入るときは鎧殻を脱がないといけない機会が多いので嫌でも慣れる。そうして侵入した建物の内部はいつものがらんどうのビルだ。壁に窓とドアの穴が空いているだけのセルコンクリートの箱である。

 一階部分は窓が瓦礫に塞がれていたので、階段で二階に上がった。シュシュが先行して部屋の安全を確認し、あとから入った私が窓から広場を偵察する。両陣営入り混じっての戦闘が行われた場所では嗅覚はあてにならない。拡張頭環から伸ばした光ケーブルカメラを窓の端から出して外をうかがう。このカメラの映像は拡張頭環を介してリーシャ姉様達にも共有される。

 

「誰も居ない…?」

 

 広場にはわずかに煙が燻っている他は、原型を留めていない鎧殻や自動機械らしき破片、地面に撒き散らされた血の跡ばかりで、敵の姿はおろか死体すらも見当たらない。

 

『様子がおかしい……静かすぎるぞ。もっと上の階から見せるんだ』

「はい。移動します」

 

 なるべく音を立てないようにその場を離れ、さらに2つ上のフロアから外を見回す。

 

『敵影は無いようだな。広場に侵入してみるからもう少し周囲を警戒していろ』

「はい、偵察を続けます」

 

「…シュシュ、本当に敵はもういないと思う?」

「味方と敵の匂いが混じってぼくの鼻でもよくわからない。血のにおいも交じって…ううん」

 

 シュシュとひそひそ話をしていると、リーシャ姉様から通信が入る。

 

『もういいぞ!二人とも降りてこい!』

 

 二人してビルの階段を降りて、鎧殻を見張ってくれていたカバラン姉に手伝ってもらい手早く鎧殻を装着して広場に向かった。

 

「どうやらガリアのやつらは戦場に残された物のなかから使えるものだけかき集めて持ち去ったらしい。ここにあるのはリサイクル炉に放り込むしか無いガラクタばかりだ」

 

 とにかく敵が居ない以上、会敵するまで前進して情報収集せねばならないので部隊は再び移動を始めるのだった

 

 不毛地帯に隣接しているファブラーの領域は、数百メートル四方の正方形の工場と、その周りを5階建て程度のビル群でぐるりと囲んだ地形をランダムにコピー&ペーストしたようなエリアがおおよそ南北30km、東西20km程度に及んで広がっている。

 地図を正方形に切り分けてランダムに繋げ直したような地形は進出したファブラーコロニーが多大な労力をかけて領域を調査した結果、東西で一貫して車両が通行可能な広さの道路がたったの5本しか無かったのだ。その通路も迷路のように曲がりくねっていたため、最も短い経路をとっても30km近くの距離を移動しなければならなかった、これを解消するために大量の爆薬を用いてビルを粉砕し通路を切り拓いたりもしたのである。

 

 当然不毛地帯からの進入路は仮想敵であるガリアの自動機械が通行可能な場所を塞いだり、ニンフだけ往来が容易な通路を新たに建設して対ガリアにおいて優位に立てるように工夫はしている。当然地図もこちらの手の内であるから、あの広場から出て不毛地帯へ向かえる数少ない道をなぞっていけばいずれガリアの部隊に追いつくのは当然と言えた。

 

 そうしてしばらく痕跡を辿りながらビルの屋上にあるニンフ専用通路を進んでいると、いつのまにか敵を追い越していたらしい。追い越したのに気付いてないのは私だけだったが、その事実に気付いているのはシュシュだけなので問題なかった。何食わぬ顔をして偵察機材を設置し、通信と離脱が可能な距離を取って待機する。

 

『リーシャ姉さま、そろそろです』

『よし。小隊員へ、シュマの鼻が敵を捉えた。一応(・・)偵察任務だからな。相手が手負いの中隊(・・)だったとしても交戦になりそうなら離脱するぞ。』

『ワハハ!』

「ハハ……」何がワハハだこっちは小隊だぞ冗談でもやめてくださいしんでしまいます。

 

 小粋なニンフジョークに空気を和ませていると、敵の前衛が偵察カメラの前に姿を現した。

『……敵性部隊のカウント開始……ニンフは34、自動機械107。自動機械の上に戦利品と負傷者を載せて低速移動中…不毛地帯への離脱予想時刻は…』

『…ふん、戦利品を山程担いでのろのろ帰巣中か。本隊の状況は……小脊柱を攻略中、しばらく動けないなら接触を続けるしかないな。一応八番通路の閉塞機構をいつでも使えるようにしておけ』

 リーシャ姉様は平然としているが、その戦利品というのは当然状態のいい鎧殻だとか火器だけではなく、運びやすいように切り分けられた生体部品(・・・・)も含まれている。

 

 一般的にニンフは捨てるところがないと言われるので、有機機械部品の利用価値は非常に高いのだ。血液型や免疫システムが存在しているかは不明だが、ちゃんと技師の手で施術されれば5体のニンフの四肢や有機器官をランダムに交換してもちゃんと機能する。個体の記憶や性格を制御しているらしき器官は未だにブラックボックスのようだが。

 

 そうしてしばし敵部隊を監視していると、リーシャ姉様が監視映像を映しているタブレットをこちらに見せてきた。

「二人とも、これを見てみろ」

 タブレットを覗き込んでみると、確かに見覚えがあるニンフが映し出されていた。かつて不毛地帯で戦ったことのある、赤錆色の髪をしたあの二体だ。

「あいつら……この戦区に居たんだ」

「再戦と行きたいところだよな?中隊長から間もなく小脊柱の奪還が終わるって連絡があった。奴らもさっきの友軍と同じで腹ぺこだそうだ、合流を待ってやつらを叩く。第八通路を閉塞して時間を稼ぐぞ!」

「第八通路閉塞承知、1番から8番までコンディションチェックOK、遠隔起爆いつでもいけまーす」

「よし、やれ」

「りょうかーい」

 

 リーシャ姉様が起爆指示を出すと、エルモン姉が遠隔起爆用のスイッチをカチカチカチと三回続けて押下する。1秒ほど遅れて爆音とビルが倒壊する音が反響しながらこちらに届き、監視モニターに映るガリアのニンフ達が何事かと警戒態勢に入る様子が見えた。

 

「第八通路監視装置にて、同通路の閉塞を確認」

 監視装置のモニターを担当していたアミー姉が結果を報告した直後に、中隊本部から通信が入ってきた。

『E中隊各位へ、中隊副長コールスだ。W-181地点の小脊柱を掌握した。後続の第四小隊はこれを保持せよ。これより本隊は第二及び第五小隊と合流し撤退中のガリア部隊を叩く』

 

 通信を聞いたリーシャ姉様がニヤリと口角を上げ、皆を見回した。

「さあ、ついに出番だぞ。閉塞した通路はニンフなら通れるが、自律機械は通れない。鎧化兵が瓦礫を取り除かないかぎりな……さて、準備をしろ。第五小隊が追いつき次第中隊長との合流地点に移動して…やつらの尻を蹴っ飛ばす!」

 

「「フラー!」」

 

 いよいよ私たちの番が来た。今まで経験したことのない大規模な戦闘だから、何かの紛れで戦死する可能性は今までより桁違いだ。

 戦功を得て出世するチャンスでもあるが、正直ビビっているし、私が居なくなれば異形の大発生に備えるものは消える。今までやってきたことだけではあの結末は変わらない。勇ましく返事しつつも、生存第一の気持ちをやや多めに胸に秘めるのであった。

 

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