Badass Wizard 作:ウィッドリィ
キヴォトスの暗部と呼ばれる無法地帯“ブラックマーケット”
元は、非合法的な組織が多く集まっていた通りであり、そこに食い扶持を求めた不良などが集まり更に彼女らを労働力或いは食い物とする為に非合法的な者達が集まり、このループを数度繰り返して連邦生徒会が把握した頃には既に手の出せない混沌の坩堝と化していた。
とはいえ、無法地帯にも一定のルール、或いは規律が存在する。
このルールが最も統率が取れて、マーケット自体が安定していたのは
だが、その王者が二年前に失墜しその周辺を固めていた者たちもこぞって消えた事によりブラックマーケットは荒れた。
一応、カイザーコーポレーションという複合大企業がブラックマーケットを制圧しようと動いていたが、彼らの軍事力をもってしても裏の全てを統率する事は出来ない。精々が、警備という形で一定の武力を見せて緩く締め上げる位か。それだけでも、最も荒れたタイミングと比べれば十分に安定しているといえた。
後数年もすれば、カイザーの影響力も万全のものとする事が出来るだろう。少なくとも、上層部はそう試算していた。
それが、
「~♪」
調子外れの甲高い口笛が、鉄火場に響く。
歩くのは、黒い装いの彼。魔法を放つ杖を指揮棒のように振るい、一歩また一歩と前へと進んでいく。
相対するのは、フル装備のオートマタ部隊。戦車から軍用ヘリ、パワードスーツに特殊兵装まで持ち出してきた死力尽くしである。
「撃て撃て撃てーーーッ!弾幕切らすな!撃ち続けろ!集中砲火だ!!」
「弾足りねぇぞ!」
「次弾を早く詰めろ!このまま押し切られるぞ!?」
彼らに後はない。乾坤一擲、ブラックマーケットは愚か周辺支部からの戦力すら投入して攻撃を加えていた。
だが、その攻撃は意味を成さない。
彼が杖を一振りするだけで放たれる弾幕の嵐は空中でピタリと止まり、続くもう一振りで弾を放ったカイザー側へと猛スピードで帰って来て部隊を壊滅させていく。
それだけではない。杖が振るわれるだけで数十トンはある戦車が宙を玩具のように舞って叩き落され、軍用ヘリがそのモーターを止めたかと思えばそこだけ重力が百倍にでもなったかのように地面へと叩きつけられてスクラップと化した。
「化物が……!」
指揮官がモーターを軋ませて唸る。
彼は二年前の件の彼が起こしたテロを知っていた。
最悪にして災厄の魔王。連邦生徒会の打倒を目指し、腕利きの不良生徒を配下にキヴォトスを混沌に叩き落した稀代の悪党。
「んー……まあ、二年も経てば騒がしくもなるか」
彼、グリムは足を止めて周りを見渡した。
既に、カイザーの戦力は壊滅状態。激しかった攻撃も山の様にあった戦力も、今は綺麗サッパリ失せている。
「それじゃあ、
グリムが杖を振る。たったそれだけでカイザーの残党は破壊されたオートマタ含めて姿を消した。まるで、最初からその場にいなかったかのように。
後に残ったのは、火を吹いた戦車や真っ平に圧壊した軍用ヘリの残骸。弾を吐き過ぎて銃身が焼け熔けたアサルトライフルや焦ったのだろう玉詰まりを起こしてスライドが吹き飛んだ拳銃等々。
そして何より、吐き出されまくった弾丸と薬莢がその場を埋め尽くしそうな程に転がっている。
「こういうのを見ると思うけど、戦いってのは金がかかるもんだな」
周りを見渡したグリムは、再び杖を振るった。
すると、周囲で奇妙な事が起きる。
銃撃によって完全に破壊され尽くした周囲一帯は、凄惨の一言に尽きる。ここを一から再建していくには中々の時間と金がかかった事だろう。
それが今、動画の逆再生のように元に戻っていく。
放たれた弾丸は、元々収まっていた薬莢へと治まり。排莢された薬莢は弾丸と一緒に弾倉へと戻っていく。
火を吹いて歪み切っていた戦車は、火が消えて歪み切ったフレームがネジの一本に至るまで元の形に戻った。
上から押し潰された軍用ヘリは、こちらもフレームから修復され新品同然に輝いている。
カイザーの装備だけではない。周辺の破壊され尽くしたブラックマーケットの一角もまた、元通りに修復されているのだ。
一分もすれば、そこに転がる新品の銃火器に戦車や軍用ヘリといった兵器群と喧騒など最初から無かったかのように元通りの街並み。
「コレで良し。後はこいつらを売り払って当分の資金に「ボス……?」うん?」
綺麗になった周囲を見渡したグリムに、不意に声が掛けられた。
彼がそちらへと目を向ければ、着崩したスーツ姿のジャーマンシェパードの獣人が立っているではないか。
サングラスに隠れていた目が大きく見開かれ、牙の並ぶ口が呆然と開かれている。
そんな彼に、グリムは杖をコートの内側に収めて右手を上げた。
「よう、トムソン。久しぶり」
「ぼ、ボス……!いったいいつ戻られたんです!?」
「つい最近な。脱獄さ、だ・つ・ご・く」
「脱獄……やっぱりアレですかね。連邦生徒会長が失踪したっていう…………」
「それもある。ちょいとマーケットの中を
「ええ、勿論。他の奴らにも声を掛けときますんで」
「おう、よろしくー」
駆けて去っていく背中を見送って、グリムは歩き出す。
そして、この日を境にキヴォトスのパワーバランスの中に魔王の軍勢が復活する事となった。
@@@
グリム。それが本名であるのか、或いは通り名であるのかは誰も知らない。
当人は、自分の事は好きに呼べとしか言わず先の名前も必要に駆られてそう名乗ったに過ぎなかった。
最悪にして災厄の魔法使い、或いは魔王。その存在は、連邦生徒会にとって不俱戴天の敵である。
「魔法使い?」
「その通りです、先生。現在のキヴォトスに置いて最も危険な人物といっても過言ではない存在です」
「そんなに?」
深刻な顔で、シャーレの部室へと直接やってきた七神リンに先生は首を傾げた。
このキヴォトスへとやって来てから、銃撃戦が日常にあり且つ生徒たちと違って弾丸一発が致命傷となる先生にしてみれば日常すら危険なのだから。
だが、リンの纏う雰囲気から茶化せるものではないと判断して口をつぐんで次の彼女の言葉を待つ事にする。
「二年前の事です。連邦生徒会の転覆を謀ったその男に対して、我々は劣勢に立たされていたんです」
「えっ……そ、そんなに強かったの?」
「そうですね。ですが、それだけではありません。彼が手中に収めた戦力はこのキヴォトスにおける不良生徒のほぼ全てでした。それだけでなく、ブラックマーケットを根城としたヤクザ者やマフィア、ギャングすらも彼の手先であり伏魔殿と化したんです」
「ブラックマーケット?」
「キヴォトスにおける無法地帯だと認識していただいて結構です。不良生徒のみならず、裏社会のありとあらゆる要素が詰め込まれた場所です。先生も不用意に近づかないでください。行方不明として処理せざるを得なくなります」
「そ、そんな場所を拠点にしてるんだ……」
怪物である。先生の喉が鳴った。
連邦生徒会はその名の通り、各学校から優秀な生徒引き抜いて構成されている。それは、幹部級である室長などだけでなく、平の生徒会役員も同じく。
事務処理能力に優れた者が多いが、しかしその一方で武力に優れた者たちもいる。
主に防衛室と、その下部組織に当たるヴァルキューレ警察学校などだ。
それら戦力に加えて、当時から超人と謳われた連邦生徒会長を投入した連保生徒会戦力は、しかし勝てなかった。
「連邦生徒会の戦力ほぼ全てを投入し、それでも鎮圧できなかった相手です。結局、当時のゲヘナ、トリニティ、ミレニアムそれぞれの最高戦力と彼女らの率いた鎮圧部隊を混合した連合部隊で、漸く鎮圧。主犯であった男は矯正局の特別房に収監されたんです」
「……その子が、脱獄したって事?」
「はい。既に、ブラックマーケット入りを果たしているようで。駐在していたカイザー戦力は壊滅。辛うじて、非戦闘系は残っていたようですが、マーケットでの影響力を完全に失ったとみていいでしょう」
「えぇ……魔法使いって事だけど、そんなに?それとも、銃の扱いが上手過ぎてそう見える、とか?」
「魔法使いというのは、言葉通りの意味です。木の棒にしか見えない杖を片手に、一振りするだけで物理現象を無視した結果を引き起こす。私も目撃した事はありますが……アレは、我々の理解の外にある物だと考えてください」
「ひぇ~……」
先生は改めて、資料へと目を落とした。
矯正局に収監されるにあたって撮られた写真に写るのは、綺麗なブロンドヘアに柔和な表情の少年の顔だった。
テロ主犯と先生の道が交わるのは、もう間もなくの事である。