Badass Wizard 作:ウィッドリィ
ブラックマーケット内にある、知る人ぞ知るとある店。
入店するには紹介が必要であり、そもそも店の入り口すら普通には分からない様になっている。
そんな店の店内は、本日貸し切りである。
「ボスの帰還を祝して、乾杯!!」
「「「オオオオオ!!!」」」
ガシャンとジョッキがぶつかり合い、なみなみと注がれた琥珀色の泡立つ液体が大きく揺れる。
集まっているのは、様々な犬種の獣人や非合法に手を染めた機械人。更に、二年前の件にも加担したスケバンたちも居る。
そして、店の最奥にあるボックス席のソファに深く腰掛けて足を組んだ彼、グリムが居た。その他にも、彼の周りでは側近のように厳つい少女たちが少し離れて思い思いに寛いでいる。
「ボス、お注ぎします」
「おう」
トムソンと呼ばれたドーベルマンの獣人が、グリムに対して酌をする。
そのまま彼の座るソファのテーブル脇に置かれた椅子へと腰を下ろした。
「とりあえず、自分が声を掛けられる奴らは全員です。その……ボスが矯正局に入れられてから鞍替えした奴らも居まして…………」
「だろうな。まあ、その辺りは追々だな。元々、強制してたもんでもねぇし」
「とはいえ、ボスが戻ってきた事はこのブラックマーケットでは既に広まってます。貴方の武威を知ってる奴らは直ぐに戻ってきます」
「そいつも構わねぇよ」
グイッと、ロックグラスを傾けて、グリムは熱い吐息を吐き出す。
そして徐にコートの内側から取り出すのは一本の葉巻。
取り出した所で、トムソンが既にシガーカッターを構えており、渡せば最適な形に両方を切り落として返してくる。
口に咥えれば、マッチで付けられた火が近づけられた。
旨そうに葉巻を咥えて、グリムはニヤリと笑みを浮かべた。
「よく覚えてたな」
「勿論。ボスは、ライターオイルのニオイが葉巻に付く事を嫌ってましたからね。自分も吸うときにはマッチを使ってます」
「そっか……あ~…………二年振りの葉巻うめぇ~」
ポンポンと白い煙を吐き出しながら、グリムはその香りと味を堪能する。女性陣からの鋭い視線など、どれ程刺さっても気にする様子もない。
葉巻の半分ほどが消費された所で、トムソンが口を開く。
「ボス。これからどうされますか?やはり、二年前の続きを?」
「んー…………」
部下の問いに、グリムは葉巻を咥えるとソファの背もたれに深く腰掛けた。そのまま視線が虚空を彷徨ってから、徐に背中が背凭れより離れた。
「いや、今回は違う。ワカモ」
「はい」
「連邦生徒会長が失踪したって教授は言ってたな?他に何か情報はあるか?」
「でしたら、彼女の後任としてやって来られた方が該当するかと」
「ほう?そいつは?」
「先生と呼ばれる“大人”ですわね」
「成程……」
グリムは顎を撫でた。
葉巻を咥え、虚空を眺めて、顎を撫でる。それが、彼の思考時の癖だ。
そして、
「――――よし、放置」
「よろしいのですか?」
「あの超人様が呼んだのなら、相応以上の曲者だ。ただ、同時にあの女とは丸っきり違う思考回路をしてる奴でもあるだろうさ」
「曲者は分かりますが…………思考回路とはどういう事ですか?」
「あの女が超人って呼ばれてた理由さ。思考もそうだが、アイツ自身の能力が高いのもある。となれば、同じ思考回路なら後の優劣の差は能力の差。どれだけ思考回路が似ていても能力があの女に劣っていれば、何処まで行っても下位互換にしかならねぇだろ?」
グリムの言葉を受けて、狐坂ワカモは自身のであった大人の姿を思い出していた。
自分達のようにヘイローが無い為、その肉体強度は弾丸一発が致命傷。それでも前線で指揮を執る事が出来る胆力を持ち、更にその指揮能力に関してもかなりのモノだった。
まるで、その場に立っていながら俯瞰して、或いは一歩引いて戦場の全てを把握するような指揮は、相対したからこそ分かる脅威。
何より、もしもグリムより前に出会っていたなら己の全てを差し出していたであろう圧倒的カリスマ持ち。
(成程。全てを己の手で成し遂げてきた連邦生徒会長と、周りからの助力をもって成し遂げる先生。確かに、真逆です)
ワカモはそう思い至り、同時に自身が主と認めた男を見やる。
グリム。稀代のテロリストにして、
その手腕も能力も所業も、決して善人でもヒーローでもないがそれでも多くの者たちがその後をついて行きたいと思わせる求心力があった。
葉巻が凡そ三分の二を消費した所で、グリムはテーブルの上に置いてあったガラスの灰皿へとコレを擦り付けて火を消す。
そして徐に、ソファから立ち上がった。
「よしっ、全員聞けッ!」
「傾注!!」
ボスに続いて、トムソンが咆える。すると、騒がしかった店内は水を打ったように静まり返った。
返ってきた静寂の中で、彼らの主は口を開く。
「今後の目標を決める!直近は、ブラックマーケットの占拠だ。カイザーはやり口は下手糞過ぎて、ちょいと弛んでるからな。こいつを締め直す。それが終わり次第――――カイザーを落とすぞ」
「というと、カイザーPMCですかい?」
「いや?PMCだけじゃない。カイザーコーポレーションそのものが、攻撃目標だ」
キヴォトス屈指の大企業、カイザーコーポレーション。
PMCだけでなく、銀行、リゾート開発、インフラ整備、コンビニ経営、兵器の製造売買等々。その分野は多岐にわたる。
ただ、そのやり口は違法スレスレ処か手の先から腹の底までまっくろくろすけ。
問題としては、企業の大きさか。物理的に潰されればその後の損失は計り知れない。
当然、彼らの中にもその懸念を持つ者が居るのだが、グリムとてその点は見落としていない。
「お前たちの中にも、この二年でカイザーがお得意様となった者も居るだろう。それを否定するつもりはない。大切なのは、お前たちが生きていけるかどうかだからな。日陰者である以上、屋根を求めるのは当然の欲求だ」
彼の演説が響く。
「カイザーを落とす。そう言ったが、重要なのは
「といいますと?」
「奴ら、あくどい事は山ほどやってるが、同時に大きく大きくその手を広げてる。つまり、
「「「!」」」
聡い者ならば、グリムの狙いが分かるだろう。
代表して、白猫の怪盗である清澄アキラが口を開いた。
「つまり、貴方はカイザーの頭を切り落として挿げ替えるという事ですね。不穏分子は切り捨てて、空いた場所を雇用として門戸を開く、と」
「そういう事だな。多業種に手を伸ばしてるって事は、求める人材の幅も広いって事だ」
「労働力の宛はありますか?」
「このブラックマーケットで燻ってる奴らは、どれだけの人数が居ると思ってる?それだけじゃない。このキヴォトス内であっても力の弱い学校は幾つもある。それこそ苦境に喘いでいる奴らなんて山ほどに、な。ヘイローがあるだけでも出来る仕事は多い。埋もれてる宝石も多いだろうさ」
ニヤリ、と笑みを浮かべたグリムに周囲は息をのんだ。同時に、自分達を率いていた男が帰ってきたのだと改めて実感させる。
彼は、二年前からそうなのだ。
どれ程力があったとしても、現在の支配体制側である連邦生徒を転覆させようなどと考える者はまず居ない。カイザーコーポレーションですら、相応の隙が無ければ出来ないのだから。
魔王を阻めるのは、同じく彼と同等かそれ以上の外れ値に居る者のみ。
そして、現状のキヴォトスには