Badass Wizard   作:ウィッドリィ

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「クソッ……!早すぎる……!」

 

 カイザーコーポレーションの本部ビル。その社長室にて、一人のオートマタが机に拳を落としていた。

 プレジデントと呼ばれる彼は、このカイザーコーポレーションの総帥だ。その手段を問わないやり口でこれまで会社を大きくしてきた。

 特に質が悪いのが、汚職がバレそうになった際には自身へと繋がる証拠は抹消した上で部下に全責任を負わせて切り離す点だ。

 会社の規模が大きく、業種が多岐に渡るからこそできる方法(自切)。会社マークの蛸の生態そっくりである。

 

 そんな彼は今、追い込まれていた。

 原因は、自身の手足ともいえる会社を片っ端から食らっていく存在が現れたから。

 

「化物め……いったい我々に何の恨みがあるというんだ……!?」

 

 自分の所業を棚に上げた発言である。ただ、この手の悪党は被害者意識と言うものだけは強いもの。虐げていた野良犬に手を噛まれれば、手ひどく怒鳴り散らして蹴り殺すのだ。

 

 プレジデントを追い詰めるのは、相手側のやり口だ。

 先の通り、本来ならばヘマをした部下を部署ごと切り落とせばソレで事は済んだ。だが、今回の件はそもそもの話毛色が違う。

 相手は、カイザーコーポレーションという企業そのものに対して物理的に攻撃を仕掛けているのだから。ヘマをしただとか汚職をしただとかそういう事は一切関係なく、ただ只管にこちらの出血を強いてくる。

 一応、物理的な襲撃という事でヴァルキューレ警察学校などが出張って来るのだが、如何せん相手が悪い。

 

 まず、純粋に強い。主犯である男を筆頭に、矯正局から脱獄した七人の囚人たち。更に、ブラックマーケット内でも武闘派とされる者たちや、不良生徒。

 彼らを捕縛しようと思ったならば、最低でも一個大隊は必要な上に仮に捕らえられても何処からともなく現れる主犯の男が一瞬で彼らを回収して文字通り消えてしまうのだ。

 続いて、今のブラックマーケットの実状も厄介。

 既にカイザーの勢力は排されており、元々の治外法権の要素を残しながら一つの国のように成っているのだ。

 独自の経済圏が形成され、クレジットは使えるが外部からの干渉は不可能。オマケに、カイザーから奪った設備や業種をそのまま流用して、元の企業よりも成果を出しているのだから質が悪い。

 

 更に更に、プレジデントの手札が奪われた背景には裏で手を結んでいた、とある組織との繋がりが一方的に絶たれたというのもある。

 

「黒服め……!今更、手を引くだと!?」

 

 蜜月関係であった協力者は、今回のカイザー襲撃の主犯を聞いた瞬間に手を切ってきた。

 今までプレジデントがやってきた手段ではあるのだが、彼にしてみれば先の通り自業自得であっても被害者意識からの怒りが勝る。

 とにかく、現状を打破せんと彼の電脳は常にも勝る速度で回転を始めていた。

 

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 思索に耽るプレジデント。そんな彼の部屋に慌ただしいノックの音が転がった。

 

「し、失礼いたします!プレジデント!」

「……何だ」

「緊急です!ア、アビドス砂漠に奴が出現!発掘隊並びに護衛部隊が襲われ、壊滅しました!!」

「なっ………」

 

 杖が儚く床に転がる。

 

 

 

 

 

@@@

 

 

 

 

 

 プレジデントが報告を受ける、およそ一時間前。

 

「ここも相変わらずだな」

 

 (あち)ぃ、と顔を手で扇ぎながらシルクハットのツバの下からグリムは眼前を見やった。

 アビドス砂漠。キヴォトス内でも過酷な土地の一つとされる砂漠地帯。

 彼がここに一人でやって来たのは、現在進めているカイザーコーポレーションの壊滅の為。その最中で聞いたのが、カイザーが多額の資金を投じて、且つ精鋭を投入してアビドス砂漠で何かを探しているというもの。

 どんな目的があるにしろ、グリム達からすればカイザーであるというだけで潰す理由になる。

 

「さっさと終わらせるか。この後も仕事があるしな」

 

 コートの内側から杖を取り出して、グリムは砂地に足跡を刻みながらカイザーの駐屯地へと足を向けた。

 当然、相手方もこれに気付く。

 

「総員!構えェッ!!」

 

 指揮官の声と共に、数多の銃口が、戦車が、野砲が、対空砲が、その他諸々外敵の向かってくる方向へと向けられるだけの兵器全てが差し向けられる。

 

「油断するな!奴は既にPMCの支部を壊滅させ、本部を乗っ取った!砂が全て消し飛んでも、火力を絶やすな!!」

 

 気炎を上げ、怨嗟を込めて指揮官は咆えた。

 

「撃てェッ!!!」

 

 硝煙が弾け、鉛の嵐が獲物を打ち砕かんと空を走る。

 限りなく圧縮された時間の中で、魔法使いは笑った。

 

「――――火よ」

 

 杖が振るわれ、その先端より炎が吹き上がる。

 熱砂の大地に降り注ぐ直射日光が比べ物にならない程の圧倒的なまでの熱量。

 ともすれば、太陽がもう一つこの世界に顕現したかのようなそんな猛る炎はその姿を変えていく。

 象ったのは、巨大な炎の獅子。踏み締められた砂地がガラス質へとその姿を変えて、更に沸々と表面を沸騰させるほどの熱量。

 

――――!!

 

 焔の獅子が声無き咆哮を放つ。それは火炎を孕んだ熱波となって迫りくる様々な兵装の弾頭と衝突、そして悉くを焼き溶かしていく。

 

「化物め……!」

 

 自身のフレームを溶かしながら、指揮官が呻く。

 自分達の総攻撃など、全く意に介していない。腹立たしく、そして同時に自分達の無力さを叩きつけてくる怪物が迫って来る。

 

 グリムが単身でこうしてアビドス砂漠へとやって来たのは、これが原因だった。

 即ち、彼が本気を発揮するには周囲に誰かが居ると不可能なのだ。守ってやる事は出来ても、そちらにリソースを割くせいで全力全開とは程遠い出力となる。

 時々には、力を振るいたい。そんな彼の内心を組んだ一人進軍。

 

 ある程度近付いた所で、炎の獅子は一足飛びに駐屯地へと襲い掛かった。

 獅子の形を象っていてもその本質は炎だ。着弾と同時に獅子としての形が崩れて雨だれのように歪み、ミルククラウンのように膨らんで弾ける。

 恐るべきは、この弾けた炎がそれぞれに意志を持つかのように動き始めた点だろう。

 蛇のように地を這う。鳥のように空を舞う。犬のように砂地を駆ける。波濤となって駐屯地を浚う。

 そして、地獄の様相と化した炎の駐屯地の中で散歩でもするような気楽な足取りで、グリムは歩を進めていた。

 彼は時折杖を振るって炎の形を変え乍ら、駐屯地の中を蹂躙していく。しかし、あくまでその被害は駐屯地内と、それからここにやって来るまでの数百メートルに限定されている。

 

 程なくして、彼は杖を振るった。すると、駐屯地内を全て焼き尽して灰燼へと変えた炎が彼の直上へと集まって来る。

 出来上がるのは渦を巻く巨大な火球。その大きさは、小規模の学校ならばそのまま飲み込んでしまいそうなほど。

 その火球へと向けて、グリムの杖が向けられる。

 先端が円を描くように回されると、火球が反応。その円周を瞬く間に縮めていき、最後は蠟燭の火が吹き消される様にしてアッサリと消えた。

 火が消えて、燦々と照り付ける太陽すらも少し肌寒く感じてしまう不思議な空間。

 

「お宝、ねぇ」

 

 ガラス質となった砂地を踏み、グリムは顎を撫でた。

 態々、アビドスを借金漬けにしてまでして、カイザーが手に入れたかった何か。興味を惹かれないと言われれば首を振る事になるだろう。

 グリムは、杖を砂漠へと向けた。

 杖先から広がるのは、探知ソナーの様なもの。

 その範囲は、広く深く。何より正確。

 

 だが、このソナーが最初に探知したのはカイザーの探し物ではなかった。

 

「…………六人か」

 

 探知を止めて、グリムは顔を上げる。

 駐屯地跡へと中々のスピードでやって来る反応。

 車である事を読み取り、更にその中に乗っている人数すらも彼は当ててみせたのだ。

 彼は、何者かが向かってくる方へと足を向けた。

 

 果たして、魔王は五人の少女と一人の大人と相対する。

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