や、やってしもうた(大神官のコスプレをしながら
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1980年代某所。
満月が夜空に浮かぶ大都会の中を、一人走る若者がいた。
人混みの中をかき分け、時折通行人にぶつかっては怒鳴られても、それを気にする余裕すらない。若者は、焦燥に駆られた顔をして、ただひたすら何かから逃げるように走り続けた。
次第に若者は大通りから外れ、人の少ない裏通りへとその進む場所を変えて行く。
若者は建物の影へ隠れるようにして潜り込み、額から流れる汗を拭う事も忘れて辺りを見回す。
建物を背に、左右を見回し、息を潜めて迫り来るであろう足音に耳を傾ける。
――誰もいない。
それが分かった若者は、ようやく汗に気が付き乱暴に拭いながら深く息をつき、建物に背もたれながら夜空を見上げ―――。
「それで逃げたつもりですか?」
白いローブを纏った怪しげな人影が、若者のちょうど真上に、建物の壁に垂直に立って若者を見下ろしているではないか。
「う、うわああああ!?」
若者は慌てて建物から後ずさり、つんのめって尻餅をついた。
白いローブの人影は、そんな若者の後を追う様に建物の壁を悠然と歩きながら下り、そして若者と同じコンクリートの大地へ足を付けた。
「貴方の改造手術はまだ完了してはおりません。……さあ、早く戻って再調整を行いましょう。そうする事で、貴方は我らゴルゴムの世紀王〝シャドームーン”となるのです」
白いローブの人影の声は女のものだった。しかし、ローブのフードから除く顔は人間とは違っていた。
顔立ちは確かに女らしい作りをしていたが、顔色は精気の宿らぬ死人の様で、右半分には何らかの刺青が彫られている。
ただの化粧にしては不気味すぎる。まるで人ならざる何かの様だ。否、実際壁を歩くあの姿と言い、まともな人間とは言えないであろう。
(どうして、どうしてこんな事に……)
若者は――〝秋月信彦(あきづきのぶひこ)”は、今自分を取り巻くこの状況が、一体何が原因で起こった事なのか、驚愕と混乱の波に呑まれながらも思い返す。
それは、信彦が19歳となったその日から全てが始まった。
同じ場所、同じ時間に生まれた兄弟同然の親友、南幸太郎と共に父が催してくれた誕生パーティーに出席した時の事だった。
昼間はクルージングを楽しみ、夜は盛大な船上パーティーだった。しかも船上パーティーには、父のコネを使い、学会の有名どころや女優まで招待しての大がかりなものである。
皆、信彦と光太郎の誕生日を祝福してくれた。そう、祝福してくれたのだ。
しかし、その夜のパーティーだけは何かが違っていた。
どこか態度に妙なものを感じる参加者達。
極めつけは、突然夜空の彼方から飛蝗の大群がパーティー会場目がけて飛んで来たと言う錯覚を、信彦と光太郎は一緒に参加していた妹の杏子と、ガールフレンドの克美達と共に見たのだ。
何かがおかしい、そう感じた信彦と光太郎は会場を抜け、家にある父の書斎へとバイクで向かったのだ。
そして、そこで彼らに遭った。
不気味な光を放ちながら中空を飛ぶ白いローブの三人組が、二人の前に立ちはだかったのだ。
――――さあご一緒に……我が御子よッ!!
先頭の男が手を伸ばす。
そして、信彦と光太郎は光に包まれながら意識を失った。
信彦が目を覚まして最初に見たものは、己の横で脳改造を施されようとして絶叫を上げていた親友の南光太郎の姿だった。
白いローブの何者かが、手から伸びる光を光太郎めがけて放射しているのだ。
そして次に目にしたものは、己の父、秋月総一郎が光太郎と自分の名を叫びながらそれを止めようとしていた姿。
信彦は光太郎の名を叫びながら手を伸ばす。幼い頃から家族同然に暮らしていた親友が、人ではない何かにされようとしている。それを直感的に悟り、恐ろしかった。
だが、そこで光太郎を助けたのは、父総一郎であった。
決死の体当たりで白いローブの人物にぶつかると、白いローブの人物は怯み、手から放射していた光を辺りにまき散らしてしまったのだ。
その光は周囲の機材を破壊させるだけでなく、信彦自身を拘束している機器にまで及んだ。
白いローブの人物の放った光は、余程重要な箇所を傷つけたらしく、信彦たちのいる部屋の天井が崩壊する程のダメージを与えていたのだ。
機材の爆発に巻き込まれた信彦は意識があった。白いローブの人物達がいつの間にかいなくなった事を知り、傷ついた体に力を振り絞って何とかその場から脱出する事に成功した。
しかし、その時信彦は光太郎と総一郎とはぐれてしまった。己の名を叫ぶ友と父の声が聞こえるが、煙と落ちてくる残骸によって視界が遮られてその姿を捉える事が出来なかった。
一瞬の躊躇いの後信彦は、独りその場からの脱出を試みた。彼も光太郎と総一郎の安否が知りたかった。出来れば、一緒に逃げたかった。だが、その場で彼らを探す時間は無い。もしその場に不用意にとどまれば、再び自分は捕まり、光太郎にされたものと同じ……下手をすればそれよりも恐ろしい事をされるかもしれない。
だから信彦は、光太郎達を信じて走り出した。この地獄の釜のような場所から離れ、生きてさえいればきっと会えるはず。そう強く願った。
そうでなければ、もう一つの、最悪の可能性が信彦の心の隙間から顔を出し、彼の良心を強く責めるのだ。
――お前は自分の身可愛さに親友と、己の父親を見捨てたのだ。
違う! 信彦は聞こえもしないはずのそんな言葉に、声を大にして否定した。
俺は光太郎を、父さんを見捨ててなんかいない! 見捨てたくなんて、無いんだ……。
――そうは言うが、今のお前の有様は何だ?
――信じているなどと、おためごかしを口にして、家族達との絆を免罪符にしているだけなんじゃないのか?
――吐き気がするな。この、偽善者め。
「う、ぐ、う、……うああああああ…………っ」
それは、先の爆発の影響で負傷したからか。それとも、ゴルゴムによって改造された影響か。
その時だけ信彦は―――血の涙を流して走った。
そして現在、此処に至る。
信彦は、ゴルゴムからの追手である白いローブの女と対峙している。
ゆっくりと近づく追手に、信彦は身構えながらもじりじりと後ずさりをする。
「何をそこまで拒むのですか? 貴方はいずれ、世界の全ての頂点に立つ王となる男なのですよ?」
ローブの女は信彦に説得を試みたようだ。しかし、放たれる言葉に信彦は魅力を感じない。それどころか、恐ろしさと悍ましさだけが身を蝕む。
そして何より、女の口から出た言葉の先には、信彦の意思はどこにも存在しない事が分かっていた。
「ふざけるな! お前達の操り人形になるだけじゃないか! そんなものに、絶対になってたまるか!」
「……子供の様に駄々をこねてはいけません。それに、もう手遅れです」
「何っ!?」
信彦の驚きを他所に、白いローブの女の眼光が怪しく光る。
そして次の瞬間、その眼から巨大な炎の塊が二つ、信彦目がけて放たれた。
信彦は、逃げる暇すらなくその炎の塊をその身に直撃させてしまった。
「ぐわああああッ!?」
信彦の体は燃え上がり、後方へ大きく吹き飛ばされた。フェンスを破り、電柱をへし折り、建物の壁に叩きつけられてようやくその身を大地に着けた。
肉体の芯まで焼き焦がされそうな熱量に侵され、信彦は吹き飛んだその場所で絶叫を上げてのた打ち回る。
そこで、奇怪な事に気づく。
燃え上がる炎に焼かれている信彦の体には一切燃えている形跡がない。服だけが燃えているのだ。
アスファルトの大地を転がり、体をはたきながら火を消してその場で跪く信彦。
全身から煙を上げているが、負傷を負った様子はない。しかし、先程の一撃は信彦の体力を消耗させたようで、呼吸は荒い。
そんな様子の信彦の元へ、白いローブの女が近づく。
「御覧なさい。鉄も容易く溶かす私の熱光球を、その身に受けても原形を留めていらっしゃる。普通の人間では、骨も残らないのですよ?」
「俺は……俺は、人間だ!」
「いいえ違います。貴方は次期創王候補にして〝月の石”の継承者。世紀王シャドームーンなのです」
「黙れえぇっ!!」
信彦は、声を荒げて白いローブの女に殴り掛かる。だが、白いローブの女は風にそよぐ羽の様に、その身を軽やかに浮かせて避けた。
悠然と宙に浮かぶ白いローブのフードが、困ったように左右に振られた。
「全く、聞き分けの無い御方だこと。貴方と言い、ブラックサンと言い、どうして我らの言葉を聞いてはくれないのですか?」
ブラックサン。その名に聞き覚えは無いが、しかしその名は信彦自身と対比している様な言い方だ。故に心当たりがあった。
今の己と対になる者、それはすなわち。
「光太郎は、無事なのかッ!?」
光太郎が無事に脱出してくれていた。その事実が、今の信彦には何よりも救いになった。
ならば、父も生き延びている可能性は高いであろうと信彦は予想する。
恐怖と黒い感情に押し潰されそうになった心に、光が灯った。
信彦の問いに、白いローブの女はほんのわずかに顔を歪めて答えた。
「残念なことに、ブラックサンは今私たちの手から逃亡を続けています。ですが、それも時間の問題です。私とは別の、他の大神官二人が回収に向かっています。次期に我らの元へお戻りになられるでしょう」
ローブの女の言葉に、信彦はハッとする。
今信彦自身がこうである様に、どこかで光太郎も追手が迫っているのだ。
しかもローブの女の話が本当なら、光太郎の方にはこの非常識なローブの女のような輩が二人も差し向けられているのだ。危険の度合いなら、光太郎の方が上だ。
どうする? どうやってこの場をやり過ごす?
光太郎達の安否は、一応は確認できた。しかし絶対の危機に陥っているのは信彦自身も同じだった。
その証拠に、白いローブの女の雰囲気が深く冷たく変わっていくのが信彦にも感じ取れたてしまう。
「……シャドームーン。どうしても戻られないと仰るのなら、私にも考えがあります」
ローブの隙間から、手が伸びる。
爬虫類の持つ鱗の様な硬質物で覆われた手の指先から、鋭い爪が音を立てて伸びた。
目を見開き距離を取ろうと後ずさる信彦。しかし、それよりも白いローブの女は常人ではありえない程の速度で音も立てずに懐へ飛び込み、その手を縦に振るった。
「徹底的に痛めつけ、動かなくなった所を回収させていただきます。心を砕き、人の脆弱さを噛み締めれば、自ずと我らの素晴らしさをご理解なさってくださるはず」
信彦の顔右半分を縦一文字の裂傷が走り、血飛沫が飛んだ。
「あ、あ、ああああ!!?」
斬られた顔を抑えた信彦の手から、夥しい血が溢れだす。
先の一撃の軌道には、信彦の目も含まれていた。
今、信彦の右目は潰されてしまったのだ。
ローブの女は、蹲る信彦の髪を掴んで無理やり立たせると、更なる追い討ちをかける。
肩を貫き。
胸を裂き。
腿を斬る。
飛び散る血が体に浴びせられようとも、ローブの女は表情一つ変えずに信彦を執拗に、しかし命を奪わない程度の加減を加えて痛めつけていく。
どしゃりと、血で水たまりが出来上がったそこに信彦は崩れ落ちる。
服も内側の肉もボロボロに切り刻まれたその身は、一見するだけで瀕死の様相を呈していた。
口からわずかに壊れた笛の根の様な呼吸音が聞こえる。信彦の命の灯は、未だ消えていない。
「どうやら、此処までの様ですね。さあ、帰りましょうシャドームーン。創世王も貴方の事を待っておいでです」
「…………れが……行……のか……俺は……前達……か……に」
「……本当に、強情な御方」
振り絞った末に漏らした拒絶の言葉に、ローブの女は溜息をつきながら、信彦の胴体に腕を回して血で汚れる事も厭わずに脇に抱えようとしたその時だった。
突如信彦の体が強い光に包まれ、その光にローブの女が弾かれたのだ。
ローブの女は飛び退き、己の腕の異変に気づいて目を見開かせた。
信彦を捕まえようとした腕が焼けただれて煙を上げていたのだ。
「月の石……キングストーン。継承者を守るために発動しましたか」
追い詰めすぎたのか、と苦み走った顔を浮かべるその視線の先の光景を見て、今度は驚愕した。
秋月信彦が、血の海から立ち上がる。
いくら改造手術を済ませたとはいえ、まだ覚醒すらしていない今の体ではとても立てるような状態ではない筈なのだ。
顔を俯かせた信彦の体は、今にも倒れそうなほどに弱弱しい筈なのに、ローブの女には嵐に吹かれても動じない巨木の様に見えた。
「……負けられない、理由が一つ、出来た」
信彦が血と傷にまみれた顔を上げ、それにローブの女が息を飲む。
死に体に近いその体、だがその目に宿る光は、強い意思が秘められていた。
「……お前を、お前を倒して、俺は往く」
信彦の体に異変が生じる。
最初に起こったのは、額から謎の器官が内側からせり出してきたのだ。
額から何かの触覚が伸び、そして徐々に皮膚が、眼球が人ならざるものへと変わっていく。
「俺は、光太郎と父さんと……帰るんだッ!」
それは、信彦がこの地獄の底で見つけた希望だ。
叫ぶ信彦の体が光に包まれ、暗闇を照らした。
ローブの女がローブの裾で顔を覆う。そして、光が止んだその向こうにいる者を見る。
それは、まさしく人の形をした飛蝗(バッタ)と称するべき異形の姿。
灰色の外皮を纏う飛蝗の怪人が、信彦のいた所に立っていた。
いや、その飛蝗の怪人こそが秋月信彦。生態改造によって人の身を捨てさせられた者の姿だった。
「カアアッ!!」
飛蝗の怪人は顎を開き、裂ぱくの勢いと共にローブの女へ飛びかかった。
アスファルトを踏み砕き、人間では無しえない速度で以て拳を振りかざす。
ローブの女は空中へ飛び退き、ビルの屋上へと昇って距離を取った。
飛蝗の怪人は空ぶった態勢から身を屈め、獣のように四肢を地に付けると、ローブの女の後を追う様に大きく跳んだ。
10メートル以上の大ジャンプで何度か壁を蹴りながらローブの女が逃げたビルの屋上へと到達する。
「往生際の悪い事はお止めください」
それを迎えたのはローブの女の鋭い爪の洗礼だった。
飛蝗の怪人はそれを腕で防ぎ――――何かに気づいて距離を取った。
怪人は爪を防いだ己の腕を見ると、其処が外皮を貫かれ、血がしたたり落ちていた。
人の身を逸脱しても、流れる血は未だ赤い。
「今の貴方は不完全な状態なのです。それでは今の私には通じません」
飛蝗の怪人は腰だめに構えながらローブの女と間合いを取る。
飛蝗の怪人――信彦は、ローブの女の言葉を聞いていたが、それで大人しくなるつもりなど毛頭なかった。
不完全? だからどうした。そんな言葉は理由にはならない。
この女を倒し、光太郎と父を捜しに行く。信彦の心を占めるものは、ただそれだけだ。
故に、身を変じた今でもこうして勝機を掴もうと思考を全力で回している。
ゴルゴムの連中が世紀王と呼び、連れ戻したがるほどの体へと作り変えられたのならば、こんな物では無い筈だ。
(何が足りない? 今の俺には、何が必要なのだ?)
その欠けたものを埋めるために必要な要素を信彦は欲した。
時間か、それともより根本的な所で、改造がまだ未完成なのか?
冗談ではない。これ以上自分の体を弄繰り回されてたまるか。
そこでふと、白いローブの女が目の前にいるにもかかわらず、信彦は夜空の向こうで星々よりもなお強く輝くそれを見上げた。
これは、誘蛾灯に誘われた虫の様に惹かれたからか。それとも、己の世紀王の名を思い出して、何か思う所があったのか。
それは月だ。
幾世紀の年月を得ても、等しくこの星の夜闇を照らし続けてくれるもの。
そして、この改造された体に名付けられたものでもある。
シャドームーン。
ゴルゴムが求める二人の世紀王の片割れ。
王と呼ばれ、月の名を語るのならば――――。
その時、信彦の体の奥底で、何かが鼓動した。
信彦の体に、更なる変化が起き始める。
信彦の、飛蝗の怪人の下腹部から何かがせり出し、光輝きだしたのだ。
様子を伺っていたローブの女は、怪人の下腹部からせり出した物の正体を知っている。
「キングストーン……!」
ゴルゴムが誇る最大の神秘。
暗黒結社ゴルゴムを支配する、神と崇められた存在である創世王、そしてその候補となる世紀王のみが持つ事を許された、世界で2つしか存在しない物質。
あらゆる環境下で超常の現象を引き起こし、持つ者に力を与えるのだ。
それが今、所持者に力を貸す為に活き活きと発動しているのだ。
キングストーンから放たれた光が飛蝗の怪人を包み込み、そして形を再構築していく。
そしてそれが光の中から姿を現す。
姿形は先ほどの飛蝗から変わり、白色にも、銀色にも似た色の外皮を鎧のように纏った新たな異形の姿だ。
二本の触覚、緑色の大きな複眼、全身を走る黒と緑のストライプ。
そして腰には、王の証であるキングストーンが収められているエナジーリアクターが力強く光を灯していた。
変化を終えたその異形。月を背に、月光を浴びて立つ姿には神々しさすら溢れている様であった。
白いローブの女は、様変わりした信彦の姿を見て打ち震えた。
「嗚呼……その御姿、まさしく我らの世紀王、シャドームーン!」
そう、これこそ信彦の改造された肉体の完全覚醒形態。世紀王シャドームーンの姿なのだ。
「うおおおおおおぉぉぉーーー!!」
信彦が顎を――クラッシャーを開放して咆哮を上げる。
月夜に照らされた異形の叫びは、今世の世紀王の誕生を告げる産声か。
信彦の雄叫びに合わせて、キングストーンから膨大なエネルギーが衝撃波となって辺り一帯に放たれた。
屋上に設置されたフェンスや手すりがひしゃげて、辺りに飛び散っていく。
「シャドームーン……! ああっ!?」
ローブの女はそれに耐えようと身を守るが、徐々に姿勢を保つ事が出来なくなり、遂に吹き飛ばされて貯水タンクへ叩きつけられた。貯水タンクがめり込み、亀裂が生じでそこから水が漏れだした。
水に濡れながらローブの女が立ち上がる。先の衝撃は致命打ではなかった様で、濡れた体を気にせずに信彦を見て目を細めた。
――遂に覚醒された世紀王の片割れ。惜しむらくは、それが我らゴルゴムに牙をむく事か。
「……今は貴方のその御姿が見れただけで良しとしましょう。ですがシャドームーン、貴方とブラックサンはゴルゴムへ連れ戻します。必ず」
ローブの女はその言葉を最後に、まるで鳥の様に空を飛び立ちその場から消え去って行った。
あとに残されたのは、まるで爆発でも起きたかのように辺り一帯に屋上の設備が散乱している光景と、そこに一人静かに立つ白い異形。
信彦はローブの女を追いかけようとはしなかった。
ひとまずは、追い払えただけでも良しと思おう。
信彦は夜空から視線を屋上から見える大都会のはるか向こうへと向けた。
「……光太郎、父さん」
ぽつりと異形の口から言葉が漏れる。そこに絶望は無い、暗闇の中で見つけた小さな光を掴もうとする強い意志が込められている。
二人とも、まだ生きている。
それが今の信彦には、どれだけ救われたことだろう。
自分一人だけおめおめと逃げてしまった事への罪悪感が、今も尚その心にくすぶっている今の信彦には、尚更。
信彦は体を大きく屈めると、あらん限りの力で跳躍する。
まるで重力から解き放たれたかのように飛び上がるその跳躍力は、先の飛蝗の怪人の比ではない。
あの時、体から光が溢れた時から随分と調子が良い。
ローブの女に負わされた傷の痛みは既に無く、むしろ力が満ち溢れてくるようだった。
月光に照らされながら、白い異形が夜の都会を跳ぶ。無数のビルの屋上を、はるか上空を跳んでいる為、下で歩く人々に気付かれる事は無い。
目指す場所は、我が家たる秋月邸。
もし二人とも戻っているのなら、まず初めに其処へ向かう可能性が高い。
信彦は逸る気持ちを胸に、跳ぶ力を更に籠めて夜空を進んでいった。
これが、後にこの世界を二度に渡って救った二人の救世主の片割れにして、月の力を持つ戦士と呼ばれる男の起源であった。
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後書き
私は全国のシャドームーンファンの怒りに触れてしまったのかもしれない(真っ二つにされた某剣聖のコスプレをしながら
RXの挿入歌「光の戦士」を聴いていたら勢い余って書いてしまいました。
最近節操が無くて、お恥ずかしい限りです。
■NGシーン (その時、おかしな事が起こった)
光太郎「日向ぼっこしていたら知らない間に体が強化されていた……」
信彦「俺もお月見をしていたら知らない体になっていた……」
キングストーンは年中無休、貴方の為に頑張ります。
クライシス帝国「止めて!」
後に彼ら二人は〝スーパー世紀王ブラザーズ”と呼ばれて地球に留まらず、いろんな世界でブイブイ言わせていたとかなんとか。
頑張れ二人の世紀王! 草葉の陰で創世王が微妙な顔で君達を見ているぞ!