亜白ミナ隊長が率いる日本防衛隊が、人の手で生み出された怪獣──マイナス1号の暴れる都心へと到着した。
そこはもはや、人の──否、生き物の住める地ではなくなっていた。
見渡す限りに生えそろっていた高層建築物はすべてが倒壊。
地上付近の建築も同様に、点々と置かれていた緑地化地帯も……すべてが燃え尽き、真っ黒な灰へと化している。
首都 東京は、
「──ッ」
ミナは唇をかんだ。
怪獣出現の報告を受けて現着まで、十分も経っていない。
だというのにマイナス1号のもたらした大破壊は、ほんのわずかな時間で人類の繁栄の一端を、最初からなかったように
まるで、波にさらわれた砂上の
「隊長、近辺の生存者の救護は……」
「見てわからんか。この有様ではそれも望めん。我々は……本来の任を行う」
「というと……」
「怪獣の討伐だ。全員、武器をとれ! 我々でマイナス1号をうち倒す!」
『了!!』
亜白ミナの号令で、隊員たちはマイナス1号への攻撃を加えていく。
防衛隊専用のマシンガンにミサイルランチャーなどの砲撃は、一発も外すことなく敵の体全体に降り注いだ。
『GYAOOOOOO!!』
マイナス1号が叫びをあげる。
痛みのためか、それともさらなる怒りのためか。
「隊長! 敵怪獣の体表から、ケムリのようなものが発生しはじめました!」
隊員の一人からの報告。
マイナス一号が雄叫びと共に放出する白いケムリは、煙幕のように辺りをつつんでいく。
「これは……目くらまし? 逃げるつもりか──!?」
「た、隊長ッ」
「今度はなんだ!?」
「大変です……スーツの機能が……消失していきます!!」
「なんだと!?」
隊員の叫ぶような報告で、ミナは自身のまとうバトルスーツの状態をチェックした。
たしかに報告の通りだった。
隊服の各部のコンディションが、正常を示すグリーンからOFFの赤へと切り替わっていくではないか。
「どういうことだ!? まさか……マイナス1号の能力か!?」
つづけて、本部で状況を観測しているオペレーターからの通信が届く。
『亜白隊長! マイナス1号が出しているケムリは、「放射能」ですッ』
「
人造怪獣であるマイナス1号は、動力源として核エネルギーを与えられていたのだ。
そして敵は今、その力を余すところなく
『このままでは危険です! いそいで避難を……』
オペレーターの言葉を聞き終わる前に、追加の攻撃が放たれた。
マイナス1号の全長は、大怪獣に匹敵する八十メートルクラス。
その
ひと振るいで辺りにあるものを見境なくなぎ倒し、地上にいるミナを含めた隊員たちをもまとめて吹き飛ばした。
怪獣のひと凪はしかし、辛うじて隊員らの命を奪うことは無かった。
本部からの遠隔操作によって手動で展開された対怪獣用の緊急バリアが、彼女らの命を繋いだのだ。
しかしほとんどの隊員が意識を失うほどのダメージを負い、ミナらもはや反撃も不可能な状況に追い込まれていた。
「く、くそッ……せっかく防衛隊の隊長になれたのに……私はなにも守れないのか……ッ!」
倒れ、指一本動かせない痛みの中で、亜白ミナは悔し涙を浮かべる。
目の前には人類の宿敵であり、人の生み出した業の実体──怪獣、マイナス1号がいるというのに。
マイナス1号は口を、アゴが外れるほど大きく開けた。
そこからの熱戦放射によって、彼女にとどめを刺そうというのだろう。
『…………!』
がしかし──怪獣は突如として口を閉じると、ミナとはあらぬ方向に顔を向けた。
まるでそこに、なにか
「な、なんだ……アレは?」
ミナが怪獣の視線の先を追う。
そこには、一人の人間のシルエットがあった。
だがそれは、人間というにはあまりに異質すぎた。
全身にみなぎる力を体現したような筋骨隆々の肉体に、頭部は鬼を思わせる、角の生えた人骨に覆われているソレ。
亜白ミナは、防衛隊隊長としての直感で、それがなにかを察した。
「まさか……怪獣?」
そう──そいつは史上初の、
それもただの怪獣ではない。
ミナの無線に、本部オペレーターの声が届いた。
『周辺に強力なフォルティチュード発生! この値は……「大怪獣」のものですッ』
『GAOOOOOOOO!!』
人型の大怪獣の存在を本能で脅威と感じ取ったマイナス1号は、矛先をその人型怪獣へと向けた。
マイナス1号の口内に熱線が溜め込まれていく。
が火炎は発射される前に、人型怪獣に阻止された。
人型は地を蹴ると、すさまじい勢いでマイナス1号に突っこみ、その顔面を拳で殴り抜いたのだ。
『KA……!?』
さしものマイナス1号もこのような攻撃を受けるとは思わなかったか、地面を揺らしてあおむけに倒れ込む。
人型怪獣はパンチを叩きこんだあと、そのまま自然落下でミナの近くへと着地した。
ミナと人型の視線が合った。
(この怪獣……なぜだ、私は知っている?)
不思議な感覚だった。
この世に初めて観測されたはずの人型の大怪獣に対して、亜白ミナは既視感を覚える。
「…………」
『…………』
無言の交錯の間に、気を取り戻したマイナス1号は地底に潜って姿を消していた。
きっと人型に敵わないとみたのだろう。
そして人型怪獣もまた、ミナの前から霧のように姿を消した。
まるで夢でも見ているようだった、とミナはあとになって思う。
しかし、これは紛れも無い現実だった。
それは公の記録として残されている。
『防衛隊の前に現れた新種の人型怪獣は、フォルティチュードの値から大怪獣と識別されました。これによって、対象を「怪獣8号」と命名すると日本防衛隊から発表があり……』
仕事の休憩中にテレビのニュースを見ながら、日比野カフカはうっすらと冷や汗を浮かべていた。
その様子を同僚は
「いやぁ、なんか変なもんでも食ったかなぁ!? 腹の調子が悪くってね!」
と、視線を合わせず言ってのけた。
同僚はそんな彼を注意する。
「おいおい、しっかりしろよ。マイナス1号のまき散らした放射能除去って仕事、かなり危険なんだからさ~」
「すんません!」
と頭を下げつつカフカは
(あのマイナス1号っての、識別個体のナンバーズって奴らとは、全然別モンだな……ってことは、おそらく核はあの辺に……)
と、仕事とは別のことで頭を働かせているのを、誰も知る由は無かった。