黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと ~転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ~ 作:茉森 晶
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「ユイット、15分休憩とする。馬の給餌、各自の不足分を補給しろ」
「はっ! 皆、15分休憩だ! 何か気づいた点があれば報告を!」
「はい!」
アーネスのいた村から馬で1時間ほど移動した騎士団一行は、森をひとつ抜け、腰掛けられそうな岩場のある川辺へ辿り着いた。
「アーネス、大丈夫か? 全然喋ってないけど……」
「……大丈夫よ、うん。体力も魔力も空っぽだから、少しでも回復しないと……」
フワフワと浮く十字架に貼り付けられたまま、ようやく会話を再開する
「……さて、どうしたものかな」
マーヴェンライト姉弟の魔法は強力なものだったが、実はヨウジにはそれほど利いていなかった。
(国家権力だし、あまり心証悪くしないよう、まずは
ロボのような騎士団長に、どういう会話を仕掛けるべきか。よい案は浮かばないまま。
(黒魔女が忌み嫌われるまでの経緯は、この世界なりの歴史があるのだろうし、俺は
「あの……団長さん? ちょっと話いいですか」
迷いながらもヨウジはリファナに声を掛ける。と、横からユイットが勢いよく飛んで来た。
「貴様! 使い魔の分際で姉様に何の話があるというんだ? 身分をわきまえろ!」
「……ユイット・マーヴェンライト!」
「はいいッ!!」
どうやら普段から何度も繰り返しているらしいやりとりで、リファナは
「ヨウジと言ったか。お前、本当に黒魔女の使い魔か?」
「そ、それはもちろん。なんで疑うんですか?」
「歌による幻覚魔法、と言った時、お前は黒魔女以上に逆上していただろう。忘れたのか?」
(そうだった……つい瞬間湯沸かし器になってたな)
「いや、話を聞いてもらえなさそうだったので、少し混乱していただけで……」
「私は、むしろお前が黒幕なのではないかと見ているのだがな」
淡々とそう言うと、リファナは鋭い眼光で
眼光を受けるのと同時にリファナの体臭を捉え、ヨウジは無意識にそれを分析する。
常に清潔感を保ち薄くなっている体臭の中に、かすかに闇を含むような何かを感じ、ヨウジは身震いした。
「ちょっと、おばさん! なんでヨウジに聞くのよ。アタシに聞けばいいでしょ!」
「おば…………」
一瞬、その場の空気が凍りついたような気がした。が、リファナの表情はさして変わってはいないようだった。
「小娘が! 美しい姉様に嫉妬しているんだろうが、そんな煽りが利く姉様ではないぞ!」
「煽ってなんかないわよ。アタシ13だし、『お姉さん』て年齢差ではないでしょ? うん」
「甘い! 先日、非番の姉様が私服で街へ出た時の話だ。若い男子が同年代と思い口説いてきたという事件があり……」
「ユイット・マーヴェンライト!!」
「はいいッ!!」
(姉の方は何も落ち度ないのに、弟がどんどんキャラを崩そうとしてるように見えてきたな……)
これだけ弟による妨害を受けながらも、リファナは冷静な表情を崩すことなく、あらためて口を開く。
「我々は……黒魔女と必要以上の接触をせぬよう命を受けている。私自身が
「ウソだ。不幸になりたくないからビビッてるんでしょ?」
「ビビッてなどいない。私は『黒魔女が災いを呼ぶ』などと信じてはおらん」
その時、リファナは初めて真っ正面からアーネスの瞳を見つめた。
アーネスの方が面食らい、つい目を逸らす。
「と、ところで団長さん……国の命令で監視してたってことですけど、さっきの
「ユーオリア嬢を
(俺のパフォーマンス指示も見られてた……か? と言っても、元々アーネスを強化する役目の使い魔なんだしな……)
「黒魔女よ、私の立場で言うべきことではないが……世の中、お前達を危険視する者ばかりではない。お前達が迫害されているのを憂えている者もいる」
「……声を上げない人なんて、迫害してる人と変わらないのよ」
「……そうだな。まぁ、それが社会というものだ」
リファナの口元が少しだけ緩んだ。が、それは目の前の人間にもわからないほどの動き。
「私は国に忠誠を誓っているが、もし
「何よ、急にイイ人ぶって。今、こんなヒドい扱いしてる時点で説得力ないんだけど?」
「……それはその通りだな。今の話は忘れてくれ。我々は、黒魔女を忌み嫌う冷酷な騎士団だ」
そう言い放ち、リファナは馬の方へ歩いて行く。その背中からは、何の感情も読み取れない。
(悪い人ではないのかもだけど……さっき一瞬感じた闇の匂いは何だろう。白魔法使い……なんだよな?)
「さて、アーネス……あの言い分を聞いた上で、おとなしく審問を受けるべきか。逃げるべきか。どうする?」
「アンタ……あれだけやって、まだ十分な魔力が残ってるの? こいつらから逃げ切れそう?」
「巨獣フォームに変身できれば余裕だろうけど……」
(審問にかけられても、逃げてしまっても、国民的アイドルになるためにはどっちも不利ルートだろうな。炎上要素自体はいくらでもメリットになり得るが、国民全体に反黒魔女教育が植え付けられている現状では……)
「アンタが行けそうなら、早くやりなさい。審問なんて……どうせ公平なわけない。黒魔女を陥れるためのものなんだから、うん」
(集団心理の恐ろしさは、どんな世界でも変わらないだろう。そもそも、アーネス自身が実際に危険思想を持ってたのも事実だしな……)
「でも、『逃げた』という事実も世論操作に利用されるだろうしなぁ」
「そもそも
「それもそうだけど…………ん?」
陽光の中、まるでもうひとつ太陽が顔を出したかのように、その場の者達が光に照らされる。
「ん~、確かに黒魔女の元へワンちゃんが来てますね~」
「え……?」
頭上から降りかかる声に、全員が見上げる。
晴れ渡る青空の中、4枚の光翼を広げた