黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと ~転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ~   作:茉森 晶

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(014) 『歌ってあげるから!』

 

 

「クッ……ソ!」

 

 痺れる頭と震える脚で立ち上がるヨウジ。

 その脳裏、ストーカー女にスタンガンを撃たれた記憶が甦っていた。

 

(『女』って存在は……こうやって節目節目に、俺の人生を邪魔してきやがる。結局、生まれ変わっても変わらないのか)

 

 短く溜息をつき、ネガティブを振り払うかのように頭を振る。

 

「ヨウジ! しっかりして! アンタなら……やれるはずよ! うん!!」

 

(そうだ……推しがいれば、がんばれる。それも……転生後(いま)だって変わらない、はずだ!)

 

 深呼吸。手首の内側同士を合わせ、さながら狼のマズルかのように構える。

 

(まぶた)は閉じない。心眼とかじゃなく……鋭くなった今の五感を信じる)

 

 空気の流れを嗅覚で感じとり、風切り音で距離を推し測る。

 視界のアチコチに一瞬見える巨大剣(オーズヴァイン)の姿が、少しずつハッキリした形になっていく。

 

(!? 視界から完全に消え……ッ)

 

 そう感じた瞬間、背後に気配――

 

「ふッ!!」

 

 ギシャッ!!

 

 包丁を研ぐような音が派手に響き渡る。

 ヨウジは腕を真上に上げており、背後にいたはずの巨大剣(オーズヴァイン)に手甲の牙で噛みついていた。

 

「ハアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 今度こそリファナの得物(えもの)を封じようと、全力で力を込めるヨウジ。

 奪い取れないようなら、へし折るくらいの気で――

 

「いッ……てえな! 離せコラ! オウ!?」

「!?」

 

 突然、剣から怒声が飛んできて、ヨウジは焦る。が、その手の力は緩めない。

 

 

「うん? 何、あの剣……喋るの!?」

「姉様のオーズヴァインは元々、意思を持つ剣。ですが……あんな不作法な口調ではありません。偽物……?」

「召喚主が闇に染まり、オーズヴァインさんの意思にも影響が出ているのでしょうね~」

 

 ユイットたち観客が巨大剣(オーズヴァイン)に注目する中、リファナはヨウジとの距離を一気に詰める。

 ヨウジはその迫撃を視界の端に捉え、咄嗟に手の中の巨大剣(オーズヴァイン)で、リファナの剣撃を払いのけた。

 その衝撃に、それを受けた『巨大剣(もの)』がリファナに文句を付ける。

 

「痛ェな!! リファナ、テメエ! いつもいつも荒い使い方しやがって! この行き遅れ処女ババア!!」

「……貴様ぁぁぁッ!!」

 

 もはや騎士とは思えぬ鬼の形相で、リファナはギャンギャンと剣を叩きつける。

 ヨウジは巨大剣(オーズヴァイン)のサイズに戸惑いながらも、その猛攻をなんとか受け流す。

 

「その下品な物言いをやめぬなら、今ここで叩き割ってくれるわ!」

「やってみやがれ! カッチカチだぞ! まぁ、テメエの股ぐらのガードには負けるかもなぁ!」

 

(そもそも正常な精神状態でない上、逆上するリファナさんの太刀筋……今の俺なら見える。巨大剣(オーズヴァイン)は思ったより重くない。意思を持つ剣だけあって、本人が本体を制御しているのがわかる。よし……ここは話を合わせよう)

 

「そっか……堅物キャリアウーマンなリファナさん、恋愛関係うまく行ってないんですねぇ。美人なのに、もったいないな」

「そうなんだよ、コイツ、見た目だけはいいからな! 周りの騎士(オトコ)どもはみんな『嫁に貰うのはまっぴらですが、夜のネタには使わせてもらいます! すみません団長!』てなもんだ! ギャハハ!」

 

 攻撃に耐えながら軽口を叩きだすヨウジ。そこへオーズヴァインが下品に合わせてくる。

 リファナの眉間に、さらなる怒りの刻印が刻まれる。

 

「貴様らぁッ! 誇りある騎士団を愚弄するか! そのような意識の低い者、いるわけなかろうが!」

 

 リファナはそう言い放つも、すっかり存在が忘れられている部下達を睨みつけた。

 思わず目を逸らしてしまうその他大勢。弟として気まずすぎるユイットも、つい俯いていた。

 

「なッ…………お前たち、まさかッ!?」

 

「ち、違います団長! 私は……あの、本当に!」

「そんなこと考えてなくても、今の流れで睨まれたら……なぁ、みんな!?」

「お、おう……そ、そうだよな」

 

「何をボソボソモゴモゴ言っておるかぁッ! 全員、騎士らしくシャキッとしろ!!」

 

 リファナの攻撃が止み、ヨウジはやっとひと息つく。

 

「ハァ……あの精神状態だから気が逸れてくれるんだよな。まともだったら、休ませてなんかくれないか……」

「オウ、コラ! テメエ、ハンパネエ魔力持ってんな? このままオレを使ってリファナをヤれ!」

「え……力を貸してくれるのか?」

「この堅物オンナには鬱憤が溜まってんだよ! いいからヤれ!」

 

 巨大剣(オーズヴァイン)はヨウジの手を引くかのようにその身を振り上げ、リファナの死角から斬りかかる。

 

 ギィン!

 

 その刃が届く寸前、まるで見えていたかのように背中に回したリファナの剣が衝撃を受け止めた。

 

「私に叩きのめされ契約した(もの)がよく言えたものだ。勝てるとでも思うのか?」

「クッ……コラ、イヌ野郎! しっかり(つか)を握れってんだ!」

「わ、わかった!」

 

 先程とは逆。リファナ側へ攻撃ターンを与えないよう、ヨウジは巨大剣(オーズヴァイン)で斬りかかる。

 が、剣は素人のヨウジ。すべての太刀筋を見切られ、難なく受け流されてしまう。

 

「そもそも……私がオーズヴァインを召喚したのは、黒魔女と使い魔(きさま)()()()()()捕らえるためだ。間接的な何かを介さねば、ダメージの加減が難しいので……なッ!」

 

 巨大剣(オーズヴァイン)を一度強く跳ね返し、リファナはその剣を水平に構えた。

 すかさず、剣の腹に法詞(フレーズ)を書き記し、魔法陣を浮き上がらせる。

 

(いかずち)理霊(りれい)よ、指し示す術式の通り役割を変え、我が剣に宿れ……」

 

 金色に輝きだした剣を両手で握り、リファナは長く息を吐く。

 その金色が一層濃くなり、ヨウジが身構えた瞬間、リファナは動いた。

 

「『暴雷雨剣(シルバリー・サンダーストーム)』!!」

 

 バチバチと凄まじい音を立てながら、リファナの剣があらゆる角度からヨウジを襲う。

 『ただの滅多打ち』のように見えるが、実際は少し違う。

 剣が相手に触れる寸前、雷撃による小さな爆発が起こり、その反発する力を殺さず、円の動きで次の打撃へ繋げる、という繰り返し。

 その速度とランダム性の高い軌道に対応し続けることは並の騎士にできることではなく、リファナの剣術センス、鍛え抜かれた筋肉、体の柔軟さがあってこそ。

 

「がはッ…………」

「ヨウジ!!!」

 

 焦げ痕だらけのヨウジは……同じく、いや、より真っ黒焦げの巨大剣(オーズヴァイン)と共にうつ伏せで地に伏した。

 

(さっきは巨大剣(オーズヴァイン)の瞬間移動を見切れたのに……今のは、まったく見えなかった。そもそも雷撃を受けるたび、目の前が真っ白になって……一撃もらった時点で詰んでるコレ……)

 

「人間でないとはいえ、魔法防壁のガードも無しでは、もはや立つことはできまい。さて……キッチリと裁かれてもらうぞ」

 

 巨大剣(オーズヴァイン)を踏みつけ、リファナは冷たく言い放つ。

 それを聞きながら、ヨウジはあらためて思う。

 

(推し活さえあればいい……って人生だったはずなのに。なんで異世界に来て、バトルでボロボロになってるんだ俺は。最初に危惧した通り、漫画やアニメみたいに何でも思い通り上手くいくなんて御都合主義な展開……現実には無いんだよな)

 

 ネガポジせわしないヨウジ。だが、実際、いきなり魔法バトルの世界に放り込まれたら、こんなものかもしれない。

 

「ヨウジ! アタシを……黒魔女を、みんなに愛される存在(アイドル)にしてくれるんじゃないの!?」

 

 アーネスが叫ぶ。その瞳には、大粒の涙がこぼれそうになっていた。

 

「…………アーネス……」

「変身はしてないけど……ちんちくりんなアタシだけど……歌ってあげるから! だから……立ってよ!!」

 

 1stライブよりも少し多めの観客(ギャラリー)伴奏(オケ)無し。そもそも、歌を披露するような状況ではない。

 

(恥ずかしい……! そもそも、ちゃんと歌えるの? 今のアタシにやれることなんて、これくらいしかないと思ったから言っちゃったけど……ヨウジに響かなかったら?)

 

 その場にある視線が集まる、ほんの数秒。アーネスの中で、数え切れないほど感情の波が弾ける。

 

(ううん……ヨウジはアタシを推す『オタク』? なんだよね……)

 

 震える胸を鎮めるように、ギュッと手と手を握る。余計なことを考えず、まっすぐ前を向く。

 

(ヨウジの信条……オタクはアイドルを裏切らない。アタシも……ッ!)

 

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