黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと ~転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ~   作:茉森 晶

15 / 36
(015) 『必殺技よ!』

 

 

「ぶ…… ♪ぶらっくはーと ほわいとさん この心にー 光照らしてー♪」

 

 たどたどしく、素朴な歌。

 ヨウジと同期(リンク)し、歌詞もメロディも出てくるが、これがアーネス本人の今できる精いっぱいのパフォーマンス。

 

「歌を聴くだけで強くなれるなら……我が騎士団でもそんな研究をしてますよ……」

「う~ん、どうでしょうね~? 誰が歌うか……誰が聴くか……それ次第でしょうか~?」

 

 観客(ギャラリー)たちが見つめる中、アーネスは歌う。

 何か魔法効果があるわけもないのだが、リファナまでもその姿に目を奪われていた。

 

「♪君とずっと こーの世ー界でー 生ーきてーいきたいーからー♪」

「う…………くッ」

 

 アーネスの、今の精いっぱい。それはもちろん、オタク陽司の心に響いていた。

 

「♪何があーってもー 君を信じるーからー♪」

 

推し(アイドル)にここまでさせて……なに弱音吐いてんだ、俺は……)

 

「♪そーばにいてー♪」

 

 サビを歌い終え、倒れたヨウジをしばらく見つめていたアーネス。

 そして、ペコリと一度頭を下げた。

 ヨウジにそれは見えていなかったが、その伏せた顔は今にも泣きそうだった。

 

「くおぉぉぉおッ!!」

 

 曲終わりに歓声を上げるかのように叫び、ヨウジは立ち上がった。

 勢い余ってフラッとよろけるが、そのまま、転がった巨大剣(オーズヴァイン)を拾い上げる。

 

自分(オタク)のために、推し(アイドル)が歌ってくれる。それ以上……求めるものなんてない!)

 

 胸の中で、熱いものが爆発的に湧き上がる。が、ヨウジは静かにゆっくりとひとつ深呼吸して構えた。

 

「ふん……さすが使い魔、しぶといな。その生命力なら、遠慮なくもう一度食らわせてやれるというものだ」

 

 すでに『暴雷雨剣(シルバリー・サンダーストーム)』の発動準備に入ったリファナは、ヨウジの膨れあがる魔力に気付かない。

 

「これで……終わりだ!!」

 

 リファナの剣が、金色の光線かのように迫る。その初太刀を、ヨウジの目は確かに捉えていた。

 同じく金色に輝く巨大剣(オーズヴァイン)を、その攻撃に斜角30度ほどで合わせる。

 リファナの雷撃が起爆する瞬間、それを受ける巨大剣(オーズヴァイン)からも爆発が起こった。

 

「!?」

 

 バンッ!!

 

 予想外の反発力を制御しきれず、リファナの剣が弾け飛ぶ。

 腕を跳ね上げられ、屈辱にも両手(もろて)を挙げるリファナ。

 

巨大剣(オーズヴァイン)の表面で同じ雷属性の爆発を起こし、衝撃を最大限に殺す……『爆発反応装甲』だっけ? そんなイメージで試してみたけど、上手くいったかな)

 

『ヨウジ! 決めなさい!! 必殺技よ!』

『必殺技……自分の中の魔力的なコレをぶつけりゃいいのか?』

『さっきも言ったけど、名前が重要よ! 自分が一番効果を高められると思う言葉を乗せなさい!』

『ま、待ってくれよ、名前なんて……』

 

 決定的な1秒間、魔力の同期(リンク)でアーネスからの指示を聞きつつ、両手を再びオオカミの(かた)にして全魔力を集中させる。

 あとは技名だけ……だが、ヨウジはあまりそういうセンスに()けてはいなかった。

 

「ガ…………『黒狼牙撃(ガウガウ・ファング)』!!」

 

 突き出したヨウジの両手から、狼の頭を(かたど)った魔力の塊が放出され、大口を開ける。

 

 ガウォン!

 

 膨大な魔力の熱量に、空気が咆哮した。

 

「はあああああッ!!!」

 

 ヨウジは勢いよく、その両手を合わせる。

 狼のマズルがリファナの全身を噛み砕くように包み、エネルギー体が弾けた。

 

 バガンッ!!

 

 凄まじい爆発音と、鎧の破壊される金属音。

 魔力の素になる理霊(りれい)元素が飛散し、大爆発に見えるのだが、それを間近で見て『まるで戦隊ヒーローになった気分だ』とヨウジは思った。

 

「くはッ……」

 

 爆発の中から、ボロボロの半裸になったリファナが現れ、一度膝をつき、倒れる。

 ヨウジの勝利が決まった瞬間だった。

 

 

 

「ヨウジ!!」

「姉様!!」

 

 アーネスとユイットが、それぞれ決闘者の元へ駆け寄る。

 

「はは……やればできるじゃん、俺も……」

 

 緊張の糸が切れたヨウジはフラリ、倒れ込んでいく。

 その体を抱き留めるタイミングに間に合うが、アーネス、迷う。

 

(ウソ……アタシ、抱き留めるの? いや、それ以前に体格的に無理じゃない? でも、避けるわけにも……あーもうっ!)

 

 全開で乙女するアーネス、一大決心で両手を広げる。が。

 

「わわわっ!?」

 

 倒れながら小さなワンコに戻るヨウジを、慌てて受け取る。

 男を感じずに済み、アーネスは少しホッとする。

 

「姉様! しっかりしてください!」

 

 自分のマントを姉に掛け、ユイットは悲痛な声を上げる。

 ワンコ(ヨウジ)を抱えたアーネスがそこへ近寄ったちょうどその時、リファナの手から黒い花の指輪が、纏った灰色のローブとともに霧散した。

 

「やはり、装着者が負けを認めると砕け散るようですね。研究のため証拠品が欲しいところですが……」

「うッ……く……」

「姉様ッ!?」

 

 リファナの意識が戻り、同時にヨウジも(まぶた)を開く。

 

「あ……アーネス? ありがと……」

「バカ……アンタ、がんばったでしょ。これくらい何でもないわよ、うん」

 

 ぬいぐるみのように抱きかかえられ、ヨウジは気恥ずかしいが嬉しくもあり。さすがにヘトヘトな身を任せる。

 

「黒魔女アーネス……使い魔ヨウジ……お前達の勝ちだ」

「団長さん……えっと、俺、失礼なこと言ったりして……すみませんでした」

「フッ……私の愚行に比べれば、たいした問題ではない。まさか……黒い指輪の魔力に、私が囚われるとはな」

 

 初めて見せたリファナの微笑みは、自虐による呆れ笑い。

 

「自分の魔力が何倍にも膨れあがる感覚だった。魔法効果も普段より数段強力になっていたはず。それでも……ヨウジの戦闘センスが上回った。私を止めてくれたこと、感謝する」

 

(俺、本来よりヤバくなった魔法と戦ってたのか。そんな騎士団長と渡り合えるってことは……やっぱ俺の方も結構なポテンシャルなんだな)

 

「いや、正気の冷静な団長さんと戦ってたら……想像するのも恐ろしいですよ」

「謙遜せずともよい。もし、お前達が国に認められ、市民となる日が来るなら、我が騎士団で心身共に鍛えてやるのだが……まぁ、どこへなりと行くがよい」

 

(いや、鍛えてもらいたくなんてないんだってば……)

 

「団長さん、俺は戦闘なんてしたいわけじゃないんです。ただ……アイドルを推したいだけなんでね」

 

 初志貫徹。ヨウジのブレない言葉に、リファナは再びフフッと笑う。

 

「アイドル……よくわからんが、確かに黒魔女アーネスの歌、素朴でよいものだったな」

「も、もう! 忘れてってばぁ!」

 

 アーネスは頬を朱に染め、抱えたワンコ(ヨウジ)をギュウと抱きしめる。

 

「で……指輪、どこで手に入れたのよ。オシャレで買ってきたわけじゃないでしょ?」

 

 アーネスから核心に迫る質問が飛び、リファナは顔を曇らせる。

 が……すぐに決心したような顔つきで口を開く。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。