黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと ~転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ~   作:茉森 晶

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銀鼠寮の管理人、ララ


(016) 『2割くらいは信じてあげる』

 

 

「先日、街で学生に声をかけられた、という話があったが……」

 

 努めて深刻な面持ちで、リファナは語り始めた。ヨウジは少し記憶を辿り、相槌を打つ。

 

「ああ、私服で若く見られてナンパされたって……」

「そんなものではない! その者は、騎士団の……私の応援者ということで、そういう意味での好意を伝えてきたのだ! そう言っているのに、面白がって噂を広める者が……」

 

(うーん……もしかしたら、騎士団員みんなで団長の婚活を案じてるのかもしれないな)

 

「少し立ち話した後、握手し、別れたのだが……いつのまにか、私の手に指輪が着けられていた。本来ならその者を追うところだが、私はそうせず……普段の生活に戻っていた。その者の顔も憶えてはいなかった……」

「その時点で『精神操作を受けていた』ということですね。しかし、指輪に気付かなかった僕達団員も口惜しい限りで……」

「これまでの容疑者の供述でも判っていたことだが……指輪は外すこともできたからな。『隠し持つことが当然』と暗示をかけられ、それ以外は普段通り生活することを強制される……そんな感覚だった」

 

 指輪事件の情報を詳しく聞かされる。が、正直、ヨウジとしては『気にはなるけど、俺にはどうしようもないよな』だった。

 

(この世界に来たばかりで『ここで生きていく』って実感をまず持つところからだしな。一度落ち着いて……休ませて欲しい……)

 

「っと……話し過ぎたな。これは、我々騎士団が何とかしなければならないこと。お前達市民が思い悩むことではない」

「そうよ、しっかり市民のために仕事してよね。まぁ……アタシみたいな黒魔女は、その中に含んでもらえないかもしれないけど」

 

 アーネスは、試すような視線をリファナに落とす。

 その眼差しに『信じてみたい』という感情が一瞬見えた気がしたが、『そんなに簡単ではない心の問題なのだ』と、リファナは気を引き締めた。

 

「それは……国全体で決めることだ。お前達も含め、国民として意識を同じくできるよう、皆で考えていこうではないか」

「…………国民全員が黒魔女(アタシ)を受け入れるなんて、やっぱり無理よ」

 

 アーネスの心を完全に()かすためには、デリケートな積み重ねが必要なのかもしれない。

 が、アーネスを観察していて『ド直球な言葉』の方がいいと、ヨウジは直感的に感じていた。

 

「いや、できる! そのための……黒魔女アーネス国民的アイドル化計画だ!」

 

 ハッキリと迷いない声で、ヨウジは断言する。

 その顔を、アーネスはジッと睨みつける。が、フッと呆れながら微笑んだ。

 

「アンタは……ブレないわね。わかったわよ、2割くらいは信じてあげる、うん」

 

 

 

「ヨウジとやら、迷惑をかけたな。リファナは日頃ストレスを溜め込み過ぎなのだ。まぁ、許してやってくれ」

「あ、ああ……」

 

 大きな魔法陣の中へ、元の【聖雷大剣】らしい姿に戻ったオーズヴァインがゆっくりと帰っていく。

 リファナは溜息をつきながら、その魔法陣を冠した自分の剣を握り直した。

 

「ええい、余計なことを言わんでよい。サッサと帰らんか」

「ヨウジ、お主と共に戦えたこと、なかなかよい経験になったぞ。また会おう!」

 

(いや、口調っていうか人格違いすぎだろオーズヴァイン……)

 

「では~、アーネスさん、ヨウジさん、行きますよ~」

 

 天使(ワーキュライラ)はそう言うと、やにわに、手にした盾で何もない空間を殴りつけた。

 

 パキャン!

 

 ガラスが割れるような音が鳴り響き、大柄な天使(ワーキュライラ)がちょうど入りそうなサイズの魔法陣が現れる。

 

「はいはい、入って入って~」

「ちょっ……ひゃ!?」

 

 ワーキュライラはアーネス&ヨウジをつまみ、魔法陣へ雑に放り込む。

 そして、そのまま自分も続こうとする、その背をリファナが呼び止めた。

 

「ワーキュライラ殿! 陛下にも話を通すと申していたが……信じてよいのだな?」

「……はい~。彼女(アーネス)達が向かったのも王都内の施設ですし、秘密の場所へ匿うとかではありませんよ~。とにかく、あなたは国からの指令を待っていてください」

「……承知した」

 

 ワーキュライラも飲み込み、魔法陣が消滅する。

 残された騎士団一行は何の成果もなくなり、皆、しばし押し黙る。

 そんな中、ユイットが突然胸いっぱいに息を吸い込んだ。

 

「くっそ――――――――――――――ッ!!!」

 

 全員の驚いた顔を尻目に、大きく伸びをするユイット。

 

「僕達の仕事が全部意味なくなったようで、悔しいですね! でも……後味の悪くなるような任務がなくなって、よかったのかもしれません」

「……フッ、そうかもしれんな」

 

 リファナは溜息混じりに笑い、弟と同じように伸びをした。

 

「とにかく、ありのまま報告するしかないのだしな。皆、迷惑をかけるが、付き合ってくれ」

「はッ!!」

 

 

     *          *

 

 

「ここは……?」

 

 アーネスとヨウジが魔法陣を抜けると、そこは先程の村より明らかに都会の街並み。

 アーネスも見慣れない風景にキョロキョロしてしまう、その街は――

 

「ここはトーカティア王都。端っこの方ですけどね~」

 

 アーネスが振り返ると、そこには、エプロン姿の一般女性が立っていた。

 標準的な身長、肉付き、肩ほどまでのウェーブがかった赤毛の髪。どこにでもいそうな優しげお姉さん。

 

「アンタ……さっきの天使、よね?」

 

 次元の歪み的な穴に人をポイポイ投げ入れた、人を超えた何かとは思えないオーラの消えっぷりだった。

 

「はい~。『ララ』という名前で、この学生寮の管理人やってます。よろしくお願いします~」

 

 そう言って示した先には、少し古めだが大きなアパートのような建物。その看板には――

 

銀鼠(ぎんねずみ)寮……うん、どういうこと?」

「おふたりには~、今日からここで生活してもらいま~す。さっきも言った通り、国の方には諸々話を通しておきますので、ご安心くださ~い」

「って……門もくぐらず入ってきて、大丈夫なわけなくない!? アンタ……ほんと何者なの?」

 

 アーネスの疑いMAXの眼差しに、管理人ララは細い目をさらに細めて笑う。

 

「ふふふ~……私のことは、一応秘密にしといてくださいね~」

 

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