黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと ~転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ~ 作:茉森 晶
「先日、街で学生に声をかけられた、という話があったが……」
努めて深刻な面持ちで、リファナは語り始めた。ヨウジは少し記憶を辿り、相槌を打つ。
「ああ、私服で若く見られてナンパされたって……」
「そんなものではない! その者は、騎士団の……私の応援者ということで、そういう意味での好意を伝えてきたのだ! そう言っているのに、面白がって噂を広める者が……」
(うーん……もしかしたら、騎士団員みんなで団長の婚活を案じてるのかもしれないな)
「少し立ち話した後、握手し、別れたのだが……いつのまにか、私の手に指輪が着けられていた。本来ならその者を追うところだが、私はそうせず……普段の生活に戻っていた。その者の顔も憶えてはいなかった……」
「その時点で『精神操作を受けていた』ということですね。しかし、指輪に気付かなかった僕達団員も口惜しい限りで……」
「これまでの容疑者の供述でも判っていたことだが……指輪は外すこともできたからな。『隠し持つことが当然』と暗示をかけられ、それ以外は普段通り生活することを強制される……そんな感覚だった」
指輪事件の情報を詳しく聞かされる。が、正直、ヨウジとしては『気にはなるけど、俺にはどうしようもないよな』だった。
(この世界に来たばかりで『ここで生きていく』って実感をまず持つところからだしな。一度落ち着いて……休ませて欲しい……)
「っと……話し過ぎたな。これは、我々騎士団が何とかしなければならないこと。お前達市民が思い悩むことではない」
「そうよ、しっかり市民のために仕事してよね。まぁ……アタシみたいな黒魔女は、その中に含んでもらえないかもしれないけど」
アーネスは、試すような視線をリファナに落とす。
その眼差しに『信じてみたい』という感情が一瞬見えた気がしたが、『そんなに簡単ではない心の問題なのだ』と、リファナは気を引き締めた。
「それは……国全体で決めることだ。お前達も含め、国民として意識を同じくできるよう、皆で考えていこうではないか」
「…………国民全員が
アーネスの心を完全に
が、アーネスを観察していて『ド直球な言葉』の方がいいと、ヨウジは直感的に感じていた。
「いや、できる! そのための……黒魔女アーネス国民的アイドル化計画だ!」
ハッキリと迷いない声で、ヨウジは断言する。
その顔を、アーネスはジッと睨みつける。が、フッと呆れながら微笑んだ。
「アンタは……ブレないわね。わかったわよ、2割くらいは信じてあげる、うん」
「ヨウジとやら、迷惑をかけたな。リファナは日頃ストレスを溜め込み過ぎなのだ。まぁ、許してやってくれ」
「あ、ああ……」
大きな魔法陣の中へ、元の【聖雷大剣】らしい姿に戻ったオーズヴァインがゆっくりと帰っていく。
リファナは溜息をつきながら、その魔法陣を冠した自分の剣を握り直した。
「ええい、余計なことを言わんでよい。サッサと帰らんか」
「ヨウジ、お主と共に戦えたこと、なかなかよい経験になったぞ。また会おう!」
(いや、口調っていうか人格違いすぎだろオーズヴァイン……)
「では~、アーネスさん、ヨウジさん、行きますよ~」
パキャン!
ガラスが割れるような音が鳴り響き、
「はいはい、入って入って~」
「ちょっ……ひゃ!?」
ワーキュライラはアーネス&ヨウジをつまみ、魔法陣へ雑に放り込む。
そして、そのまま自分も続こうとする、その背をリファナが呼び止めた。
「ワーキュライラ殿! 陛下にも話を通すと申していたが……信じてよいのだな?」
「……はい~。
「……承知した」
ワーキュライラも飲み込み、魔法陣が消滅する。
残された騎士団一行は何の成果もなくなり、皆、しばし押し黙る。
そんな中、ユイットが突然胸いっぱいに息を吸い込んだ。
「くっそ――――――――――――――ッ!!!」
全員の驚いた顔を尻目に、大きく伸びをするユイット。
「僕達の仕事が全部意味なくなったようで、悔しいですね! でも……後味の悪くなるような任務がなくなって、よかったのかもしれません」
「……フッ、そうかもしれんな」
リファナは溜息混じりに笑い、弟と同じように伸びをした。
「とにかく、ありのまま報告するしかないのだしな。皆、迷惑をかけるが、付き合ってくれ」
「はッ!!」
* *
「ここは……?」
アーネスとヨウジが魔法陣を抜けると、そこは先程の村より明らかに都会の街並み。
アーネスも見慣れない風景にキョロキョロしてしまう、その街は――
「ここはトーカティア王都。端っこの方ですけどね~」
アーネスが振り返ると、そこには、エプロン姿の一般女性が立っていた。
標準的な身長、肉付き、肩ほどまでのウェーブがかった赤毛の髪。どこにでもいそうな優しげお姉さん。
「アンタ……さっきの天使、よね?」
次元の歪み的な穴に人をポイポイ投げ入れた、人を超えた何かとは思えないオーラの消えっぷりだった。
「はい~。『ララ』という名前で、この学生寮の管理人やってます。よろしくお願いします~」
そう言って示した先には、少し古めだが大きなアパートのような建物。その看板には――
「
「おふたりには~、今日からここで生活してもらいま~す。さっきも言った通り、国の方には諸々話を通しておきますので、ご安心くださ~い」
「って……門もくぐらず入ってきて、大丈夫なわけなくない!? アンタ……ほんと何者なの?」
アーネスの疑いMAXの眼差しに、管理人ララは細い目をさらに細めて笑う。
「ふふふ~……私のことは、一応秘密にしといてくださいね~」