黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと ~転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ~ 作:茉森 晶
ララに連れられ、
「さすがに……疲れたなぁ」
言葉通り、心身共に疲れ切ったヨウジは、部屋に入るなり、床に座り込んだ。
ワンコフォームの体では椅子に座るのもひと手間なため、自然とそうなってしまうのだが、それを察したアーネスはヨウジを拾い上げ、ベッドに乗せてやる。
「だけど……安心して休めないのよね」
(アーネス、やっぱワーキュライラを警戒してるな。確かに得体は知れない。国に圧力をかけ、俺達が普通に王都で生活できるようにしてくれる……一体どういう立場の存在なのか)
「神様的な陣営から王様にも干渉できる……ってことかね」
「繰り返すけど……あの
(まぁ、俺が見た予知夢では……世界征服に近いのは、むしろ、魔女王アーネスだったんだけど)
「ユーオリア戦の途中……一瞬眠ってしまった時間があっただろ? アーネスは……夢とか見た?」
「ううん、夢なんか見てないわ」
(そうか……それはよかった。意識が落ちたのは、俺が魔力の
「何よ、ヨウジは夢を見たの?」
「ん? あー、うん。元いた世界でさ、魔王が出てくる夢。もしかして、転生召喚されないままだったら、そんなヤバい未来だったのかな?」
「いいわよ、そんな……アタシが転生させたのを正当化してくれなくても」
ウソを混ぜて誤魔化したヨウジに、アーネスは申し訳なさそうに口を尖らせた。
違う方向から気まずくさせてしまい、ヨウジは慌てて話題を戻す。
「俺はわからないんだけど……
「……確定ではないけどね。この世界では、異界の者が自由に来ることはないとされてて、基本的に『誰かが召喚した』と考えるものなの」
(まぁ……『俺達の現実世界』から意図的にここへ来る方法があるなら、目指す奴が殺到してそうだ)
「で、法律で原則禁止とされている魔法がいくつかあるんだけど……代表的なのは【精神操作】【時間操作】【生命創作】【生命蘇生】、そして……【生物召喚】。だから、依り代を作って降ろす形の【憑依召喚】が通常は想定されるのよ、うん」
「え……生物を召喚するのが違法? もしかして俺も……?」
「アンタなんて違法中の違法よ。【転生召喚】自体が【生命創作】や【生命蘇生】に該当する要素もあるし、そもそもアンタ、アタシに対して【時間操作】もやったわよね?」
アーネス&ヨウジ、魔法犯罪のフルコースだった。
「そうか……俺、この世界では無法者か。いや、そもそも人間じゃないしな……」
「気にしなくていいわよ、うん。黒魔女迫害を黙認するような奴らの決めた法なんて、守る義理ないもの」
(そう言われると『確かに』って思っちゃうもんな。うーん……アーネスがみんなに愛されるアイドルになるため、もっと真剣に考えていかないと)
「あの……さ、あらためて、アーネスのことを教えてくれないかな」
ワンコなりに真剣な顔を作り、ヨウジはアーネスを見つめる。
不意を突かれたアーネスは、一瞬見つめ合い、固まってしまう。
「な、何よ、あらたまってマジメな顔で……」
「君がこれまで、どう生きてきたか……言える範囲で教えて欲しい。使い魔が訊くことじゃないかもだけど……俺、魔女の使い魔がどんなもんかわからないし」
使い魔としては生意気すぎる口ぶりに、今さらながらアーネスは溜息をつく。
「……どうして聞きたいのよ」
「ずっとそばにいてサポートするんだから、君のことは何でも知りたいんだよ」
「な、何でも……」
何を想像したのか、アーネスの顔が朱に染まっていく。
が、ヨウジは真剣な眼差しでその顔を見つめている。
「…………淫獣……」
「…………は?」
「ご主人様に忠実じゃないし、いつかアタシを襲うつもりなんじゃないの? あ、それこそ大人の体にして……!」
照れ隠しで、むしろ気まずくなるようなことを言い始めるアーネスに、ヨウジは一層真剣な顔で見つめる。
「オタクが推しを襲うなんて……そんな裏切り、絶対ない! それは信じてくれ!」
超マジメに『絶対ない!』と言われ、アーネスは思わず頬をぷくーっと膨らませた。
(何よ……そんなに思いっきり否定しなくてもいいじゃない! アイドルのことは好きでも、アタシ自身のことは女と思ってないんじゃないの!?)
ヨウジは至極マジメな話をしているので、とても理不尽な怒り。
それはわかっているが、アーネスは初めての感情に翻弄されていた。
「はぁ……わかったわよ、うん」
そんなモヤモヤを何とか抑え込み、アーネスは目線を逸らしたまま話し始める。
「名前はアーネス。姓は捨てたわ。魔力が発現した10歳までは、父親ひとりに育てられてた」
(姓は捨てた……? 父親は一体……いや、とりあえず聞こう)
「それまでは……貧しくとも普通に育ったと思う。けど、黒魔女だと判明して……父親はアタシを施設に預け、姿を消した。その施設が……あの村の孤児院よ」
ところどころ言葉に詰まりながら、アーネスは話し続ける。
「以前は学校へも行ってたし、孤児院でも人並みの勉強はした。独自に魔法の研究も。友達もいなかったし、ほとんどの時間を読書に費やしてたわね、うん」
「……そっか」
(コミュ力低めで本の虫……でも、内気なわけじゃなく反骨心のある頑張り屋。月見坂なら、松坂ちゃんが近いかな。うん、全然イイ感じだ)
神妙に聞きながら、アイドルとしての
アーネスがそれに気付いていたら、また不機嫌になっていただろうが、ここはセーフ。
「孤児院の院長は差別しない人だったけど……ほかの人間は虐めてきたり、見て見ぬ振りするクズばかりだった。そんな我慢の1年を過ごしていたら……ユーオリアが尋ねてきたわ」
「村の人が『召喚霊を出して大騒ぎした』って言ってたっけ……」
「『召喚霊バトルでわたくしに負けたら、ファイネル家の保護を受けなさい。メイドとして従事していただき、きちんとマナーを身につけてもらいます』って一方的にね。まぁ、負けることはなかったんだけど……」
(
「そんな風に……黒魔女の存在を利用しようとする奴が来るんだって気付いて、アタシは孤児院を出て行った。院長先生に迷惑がかかるから……」
「出て行った、って……10歳そこらの女の子が、どうやって今まで生きてきたんだ?」
一瞬、ヨウジの頭の中によくない想像が浮かぶ。が、アーネスはもっとたくましかった。
「村の近くの森に使われてない小屋があってね、そこに結界を張って住んでたわ。必要な物は……アタシを嫌ってた村人の家や孤児院から、バレない程度に拝借させてもらった。召喚霊を使ってね」
「そういえば……院長先生とそんな話してたっけ。ん? でも、俺が召喚されたさっきの家は、村の中だったけど……」
「だから、それは……ユーオリアが何度も探し出して挑戦してくるから! 位置を偽装したり、侵入者を他の場所へ飛ばしたり、色んな結界を試してるのに……ほんとしつこいのよ!」
(なるほど……やっぱユーオリア嬢、優秀な魔法使いなんだな)
「で……裏をかいて、村の中の空き家に居たってわけか。それにしても本当に、よく今までひとりで……」
「ひとりじゃないわ。院長先生は……何も言わなくてもアタシを助けてくれてたんだしね、うん」
院長先生との会話を思い出しているのか、アーネスは少し微笑んでいるようだった。
(そっか……そうだな。そして、これからは俺が、保護者として、兄として、ファンとして、幸せな生き方ができるようにサポートしなきゃだ)
「アタシのことなんて、大体こんなもんよ。ほんと……読書と魔法の研究しかしてない、つまんない人間」
そんな生き方のせいで、すっかりネガティブ気質になったアーネス。
決して『そんなことないよ』と言ってもらうのを期待して言うわけではなく、ナチュラルにそう言えてしまっていた。
だからこそ、ヨウジの次の言葉は、効果絶大だった。
「全然つまらなくなんかないぞ。もし、魔法の才能が無かったとしても、アーネスは価値のある人間だ」
「お、お世辞なんていいってば! 魔法が使えなかったらアタシなんて……」
「お世辞じゃない!」
ヨウジの強めの断言に、アーネスはビックリした顔で姿勢を正す。
「アーネスは……生きてるだけで価値がある。これからは俺がそばにいて、それを証明する」
「…………あ……りがと……うっ……」
すでに我慢とも思わないようになっていたはずの、でも、ずっと感じていたひとりの寂しさ。
本当は求めていた、何でもない話を聞いてくれる家族のありがたさ。
何より、自分の価値を認めてくれる人がいる、そう感じられる幸せ。
悲喜こもごもの感情が入り乱れ、アーネスの涙腺が一気に崩壊した。
「ぐすっ……アタシ、ほんとは寂しかった! ヨウジが来てくれて……よかった……うぐぅぅぅっ!」
「……そっか、よかった。俺も……転生してきた甲斐があったってもんだ」
(ネガティブな涙じゃないとわかってはいても、女子の涙にはオロオロしてしまうな。男のサガなのか……)
どう対応したものか、ヨウジが迷うその時、ドアをノックする音が響く。
「は、はい?」
返事を待って開かれたドアから入ってきたのは――