黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと ~転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ~   作:茉森 晶

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(017) 『生きてるだけで価値がある』

 

 

 ララに連れられ、銀鼠(ぎんねずみ)寮内の一室に案内されたアーネス&ヨウジは、兎にも角にもひと息つく。

 

「さすがに……疲れたなぁ」

 

 言葉通り、心身共に疲れ切ったヨウジは、部屋に入るなり、床に座り込んだ。

 ワンコフォームの体では椅子に座るのもひと手間なため、自然とそうなってしまうのだが、それを察したアーネスはヨウジを拾い上げ、ベッドに乗せてやる。

 

「だけど……安心して休めないのよね」

 

(アーネス、やっぱワーキュライラを警戒してるな。確かに得体は知れない。国に圧力をかけ、俺達が普通に王都で生活できるようにしてくれる……一体どういう立場の存在なのか)

 

「神様的な陣営から王様にも干渉できる……ってことかね」

「繰り返すけど……あの天使(ワーキュライラ)を憑依召喚している奴がいるはずなのよ。国を動かし、アタシの力を利用したい人間……一国どころか、世界征服しようってくらいのヤバい奴なんじゃないかしら」

 

(まぁ、俺が見た予知夢では……世界征服に近いのは、むしろ、魔女王アーネスだったんだけど)

 

「ユーオリア戦の途中……一瞬眠ってしまった時間があっただろ? アーネスは……夢とか見た?」

「ううん、夢なんか見てないわ」

 

(そうか……それはよかった。意識が落ちたのは、俺が魔力の同期(リンク)に慣れてなかったから、不具合でも出たのかな)

 

「何よ、ヨウジは夢を見たの?」

「ん? あー、うん。元いた世界でさ、魔王が出てくる夢。もしかして、転生召喚されないままだったら、そんなヤバい未来だったのかな?」

「いいわよ、そんな……アタシが転生させたのを正当化してくれなくても」

 

 ウソを混ぜて誤魔化したヨウジに、アーネスは申し訳なさそうに口を尖らせた。

 違う方向から気まずくさせてしまい、ヨウジは慌てて話題を戻す。

 

「俺はわからないんだけど……天使(ワーキュライラ)が誰かに召喚された存在ってのは確定なのか?」

「……確定ではないけどね。この世界では、異界の者が自由に来ることはないとされてて、基本的に『誰かが召喚した』と考えるものなの」

 

(まぁ……『俺達の現実世界』から意図的にここへ来る方法があるなら、目指す奴が殺到してそうだ)

 

「で、法律で原則禁止とされている魔法がいくつかあるんだけど……代表的なのは【精神操作】【時間操作】【生命創作】【生命蘇生】、そして……【生物召喚】。だから、依り代を作って降ろす形の【憑依召喚】が通常は想定されるのよ、うん」

「え……生物を召喚するのが違法? もしかして俺も……?」

「アンタなんて違法中の違法よ。【転生召喚】自体が【生命創作】や【生命蘇生】に該当する要素もあるし、そもそもアンタ、アタシに対して【時間操作】もやったわよね?」

 

 アーネス&ヨウジ、魔法犯罪のフルコースだった。

 

「そうか……俺、この世界では無法者か。いや、そもそも人間じゃないしな……」

「気にしなくていいわよ、うん。黒魔女迫害を黙認するような奴らの決めた法なんて、守る義理ないもの」

 

(そう言われると『確かに』って思っちゃうもんな。うーん……アーネスがみんなに愛されるアイドルになるため、もっと真剣に考えていかないと)

 

「あの……さ、あらためて、アーネスのことを教えてくれないかな」

 

 ワンコなりに真剣な顔を作り、ヨウジはアーネスを見つめる。

 不意を突かれたアーネスは、一瞬見つめ合い、固まってしまう。

 

「な、何よ、あらたまってマジメな顔で……」

「君がこれまで、どう生きてきたか……言える範囲で教えて欲しい。使い魔が訊くことじゃないかもだけど……俺、魔女の使い魔がどんなもんかわからないし」

 

 使い魔としては生意気すぎる口ぶりに、今さらながらアーネスは溜息をつく。

 

「……どうして聞きたいのよ」

「ずっとそばにいてサポートするんだから、君のことは何でも知りたいんだよ」

「な、何でも……」

 

 何を想像したのか、アーネスの顔が朱に染まっていく。

 が、ヨウジは真剣な眼差しでその顔を見つめている。

 

「…………淫獣……」

「…………は?」

「ご主人様に忠実じゃないし、いつかアタシを襲うつもりなんじゃないの? あ、それこそ大人の体にして……!」

 

 照れ隠しで、むしろ気まずくなるようなことを言い始めるアーネスに、ヨウジは一層真剣な顔で見つめる。

 

「オタクが推しを襲うなんて……そんな裏切り、絶対ない! それは信じてくれ!」

 

 超マジメに『絶対ない!』と言われ、アーネスは思わず頬をぷくーっと膨らませた。

 

(何よ……そんなに思いっきり否定しなくてもいいじゃない! アイドルのことは好きでも、アタシ自身のことは女と思ってないんじゃないの!?)

 

 ヨウジは至極マジメな話をしているので、とても理不尽な怒り。

 それはわかっているが、アーネスは初めての感情に翻弄されていた。

 

「はぁ……わかったわよ、うん」

 

 そんなモヤモヤを何とか抑え込み、アーネスは目線を逸らしたまま話し始める。

 

「名前はアーネス。姓は捨てたわ。魔力が発現した10歳までは、父親ひとりに育てられてた」

 

(姓は捨てた……? 父親は一体……いや、とりあえず聞こう)

 

「それまでは……貧しくとも普通に育ったと思う。けど、黒魔女だと判明して……父親はアタシを施設に預け、姿を消した。その施設が……あの村の孤児院よ」

 

 ところどころ言葉に詰まりながら、アーネスは話し続ける。

 

「以前は学校へも行ってたし、孤児院でも人並みの勉強はした。独自に魔法の研究も。友達もいなかったし、ほとんどの時間を読書に費やしてたわね、うん」

「……そっか」

 

(コミュ力低めで本の虫……でも、内気なわけじゃなく反骨心のある頑張り屋。月見坂なら、松坂ちゃんが近いかな。うん、全然イイ感じだ)

 

 神妙に聞きながら、アイドルとしての()()()を考えているヨウジ。

 アーネスがそれに気付いていたら、また不機嫌になっていただろうが、ここはセーフ。

 

「孤児院の院長は差別しない人だったけど……ほかの人間は虐めてきたり、見て見ぬ振りするクズばかりだった。そんな我慢の1年を過ごしていたら……ユーオリアが尋ねてきたわ」

「村の人が『召喚霊を出して大騒ぎした』って言ってたっけ……」

「『召喚霊バトルでわたくしに負けたら、ファイネル家の保護を受けなさい。メイドとして従事していただき、きちんとマナーを身につけてもらいます』って一方的にね。まぁ、負けることはなかったんだけど……」

 

彼女(ユーオリア)なりにアーネスのことを思っての行動なんだけど……あっちもあっちで不器用で不憫な子だな)

 

「そんな風に……黒魔女の存在を利用しようとする奴が来るんだって気付いて、アタシは孤児院を出て行った。院長先生に迷惑がかかるから……」

「出て行った、って……10歳そこらの女の子が、どうやって今まで生きてきたんだ?」

 

 一瞬、ヨウジの頭の中によくない想像が浮かぶ。が、アーネスはもっとたくましかった。

 

「村の近くの森に使われてない小屋があってね、そこに結界を張って住んでたわ。必要な物は……アタシを嫌ってた村人の家や孤児院から、バレない程度に拝借させてもらった。召喚霊を使ってね」

「そういえば……院長先生とそんな話してたっけ。ん? でも、俺が召喚されたさっきの家は、村の中だったけど……」

「だから、それは……ユーオリアが何度も探し出して挑戦してくるから! 位置を偽装したり、侵入者を他の場所へ飛ばしたり、色んな結界を試してるのに……ほんとしつこいのよ!」

 

(なるほど……やっぱユーオリア嬢、優秀な魔法使いなんだな)

 

「で……裏をかいて、村の中の空き家に居たってわけか。それにしても本当に、よく今までひとりで……」

「ひとりじゃないわ。院長先生は……何も言わなくてもアタシを助けてくれてたんだしね、うん」

 

 院長先生との会話を思い出しているのか、アーネスは少し微笑んでいるようだった。

 

(そっか……そうだな。そして、これからは俺が、保護者として、兄として、ファンとして、幸せな生き方ができるようにサポートしなきゃだ)

 

「アタシのことなんて、大体こんなもんよ。ほんと……読書と魔法の研究しかしてない、つまんない人間」

 

 そんな生き方のせいで、すっかりネガティブ気質になったアーネス。

 決して『そんなことないよ』と言ってもらうのを期待して言うわけではなく、ナチュラルにそう言えてしまっていた。

 だからこそ、ヨウジの次の言葉は、効果絶大だった。

 

「全然つまらなくなんかないぞ。もし、魔法の才能が無かったとしても、アーネスは価値のある人間だ」

「お、お世辞なんていいってば! 魔法が使えなかったらアタシなんて……」

「お世辞じゃない!」

 

 ヨウジの強めの断言に、アーネスはビックリした顔で姿勢を正す。

 

「アーネスは……生きてるだけで価値がある。これからは俺がそばにいて、それを証明する」

「…………あ……りがと……うっ……」

 

 すでに我慢とも思わないようになっていたはずの、でも、ずっと感じていたひとりの寂しさ。

 本当は求めていた、何でもない話を聞いてくれる家族のありがたさ。

 何より、自分の価値を認めてくれる人がいる、そう感じられる幸せ。

 悲喜こもごもの感情が入り乱れ、アーネスの涙腺が一気に崩壊した。

 

「ぐすっ……アタシ、ほんとは寂しかった! ヨウジが来てくれて……よかった……うぐぅぅぅっ!」

「……そっか、よかった。俺も……転生してきた甲斐があったってもんだ」

 

(ネガティブな涙じゃないとわかってはいても、女子の涙にはオロオロしてしまうな。男のサガなのか……)

 

 どう対応したものか、ヨウジが迷うその時、ドアをノックする音が響く。

 

「は、はい?」

 

 返事を待って開かれたドアから入ってきたのは――

 

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