黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと ~転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ~   作:茉森 晶

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(023) 『俺はオオカミじゃないぞ』

 

 

     *          *

 

 

 ヨウジ達3人が食堂に着いた時、昨日と同じようにディント&フルードも朝食をとっていた。

 ディントは相変わらずの調子で明るく手を振って挨拶してくる。が、それを適当にスルーし、ひとまず少し離れた席に3人分のトレイが置かれる。

 

「魔法使い同士、なんとなく魔力量を感じ取ることはできるわ。見る(その)能力も人によって違うけど……昨日からあまり回復してないことは気付かれてるかもね、うん」

 

 アーネスは彼らの方を見ることなく、小声で話し始める。

 

「まぁ、その警戒は必要だろうけど……これじゃまともに他人(ひと)と話せないぞ?」

「話せなくていいのよ! これまでだってそうだったし、それに今は……アンタ達もいるし」

 

 言葉の端に、無意識でも仲間のありがたみを感じていることがわかる。アーネスとしては大きな進歩。

 

「魔力が無くて不安になる気持ちはわかりますけどね。そのための使い魔(ヨウジ)さんでしょう。守ってもらえばいいですわ」

「それはそうだけど……」

 

 コーンフレークのようなものと新鮮なフルーツが入った器をスプーンで掻き混ぜモゴモゴ言っていると、すでに食事を終えたディントがアーネスの隣に座ってきた。

 

「おはよ! もしかして俺、避けられてる?」

「避けるも何も……アタシはアンタと仲良くするなんて言ってないわよ」

「えー、悲しいな。今日学校ないし、みんなで遊びに行かない?」

 

 アーネスの拒絶をものともせず、ディントは馴れ馴れしく言い寄ってくる。

 その隙間にヨウジが割って入り、やんわりと(ディント)を制した。

 

「悪いね、アーネスは人見知りなもんで……(ディント)のノリはまだ早いかな」

「っと、ごめんごめん。わかってはいるんだけど、頭より先に口が動いちゃうんだよなー」

 

 てへぺろとでも言いそうな顔で、ディントは1席分だけ離れる。

 アーネスと同じく、(ディント)を快く思っていないユーオリアが、ひとつ溜息をついた。

 

「まったく……そんな軽薄な振る舞いばかりでは、人に信用されませんよ? 改めた方がよいですわ」

「ユーオリア様にも怒られちゃったよ。いや、気をつけますって」

 

(ユーオリア嬢なんて、一番嫌いそうなタイプだよな。とはいえ、これからこの寮で何度も顔を合わせるわけだし……)

 

 そこに座る3人と離れた席で窺うフルードまでをあらためて見渡し、ユーオリアは本題に入る。

 

「明日の午後、アーネスさんとヨウジさんには、銀組(シルバークラス)の編入試験を受けに行ってもらいます。怖いくらいに……すんなりと話が通りましたわ」

「試験……マジかぁ。魔法に特化したクラスなんて、初心者の俺が受かるもんなのかな」

 

 『試験』と聞いて、当然ながらヨウジの不安が増大する。

 

「ご心配なく。入学することは決まっていますので、おそらく簡単な確認、面接試験でしょう。ヨウジさんの国民登録も済んでいるはずですし、問題ないですわ」

 

(まぁ……それはそれで緊張するんだけどさ)

 

「準備が整い次第、わたくしも銀組(シルバークラス)へまいります。それまで、問題を起こさないようおとなしくしていてくださいね」

 

 ユーオリアがサラッと告知したのを聞き、アーネスは不満げに口を尖らせる。

 

「ユーオリアも同じ(クラス)に入ってくるってこと? そんな勝手なことしていいの? 金のチカラで好き放題なの?」

「違います。わたくしは自分の学科での課程を終えており、他学科への出入りが自由なのです。それこそ銀組(シルバークラス)は……模範生として講義を依頼されたこともありましたが、危ない方々がおられるということで辞退していたのですわ」

 

(なんと……思ってる以上に優秀な人物なんだな。世界のことやアーネスのことも考えてくれてるし、パーフェクトお嬢様か)

 

 ヨウジが感心していると、ディントが背筋を伸ばし手を上げた。

 

「ユーオリア様ー、俺は危なくないだろ? こんなに気さくで」

「あなたは……それ以前の問題ですわ。まぁ、男性は皆オオカミ、女性という子羊を狙っていると聞きますが」

 

(ベタな箱入り娘らしく、ガッチガチの貞操観念。うむ、それでこそだな)

 

「いやー、ひどい偏見だなぁ。ヨウジはどう? オオカミな男なのか?」

「え? いや……俺はオオカミじゃないぞ。むしろ、女性は苦手なくらいだし……」

「へ? 女性が苦手って……ほんとかー?」

 

 経験上、隠していても余計ややこしいことになると感じているヨウジは、『やべー女に好かれる女難体質』であることを簡単に説明する。

 そして、『アイドルという存在に救われたこと』『アイドルだけは、恋愛とは違う形で好きになれる』ということも。

 この世界にアイドルの概念を少しでも根付かせるためには、自分(ヨウジ)自身はドン引きされようとも、そんなリスクなど気にしてはいられないのだった。

 

「なるほど……その女難体質が事実でしたら、ヨウジさんに好意を持つ女性はもれなく異常人格の危険人物、ということですわね」

「いや、待ってくれ! そこまで言うわけじゃないんだけどな。そういう女にばかり狙われた……というデータから、俺がそう思ってるだけで」

「まぁ、そのような能力もこの世にはあるかもしれませんし。とにかく、よかったですわ。わたくし、まともな人間だと自信を持ってよいようで」

 

 ヨウジとしては、ユーオリアも『やべー女寄り』だと感じているのだが、『惚れられないに越したことはない』と、心の中でホッとする。

 

「ふふっ……それ、面白すぎるな! つまり、ヨウジと一緒にいれば、異常な女は君に行く。ってことで、君を好きにならない子を狙っていけばいいってことだよな?」

 

 ディントはヨウジの肩に腕を回し、スキンシップ全開でグイグイ来る。

 

「いや、だから……俺がそう思ってるだけで、保証なんかないから!」

「ヨウジ、あらためて気に入った! 今、彼女いなくてさー、頼りにしてるよ。これから末永くよろしくな!」

「俺は、お前のカノジョ選別レーダーじゃないぞ……」

 

(やっぱコイツ……苦手だな。男のくせに香水っぽい匂いもするし、奥の体臭もなんか違和感が。魔法で何か加工してる? まだ魔力の匂いとかはわかんないが……)

 

「…………もーう!」

 

 ディントに絡まれ苦笑いしているヨウジを尻目に、黙々と朝食を食べていたアーネスが頬を膨らませて立ち上がる。

 そのままスタスタと食堂を出て行くので、追いかけたヨウジは廊下で呼び止めた。

 

「アーネス、どうした? 学校や街のこと知らなきゃいけないし、話を聞いてた方がいいよ」

「そんなの……使い魔のアンタが聞いておけばいいのよ、うん」

 

 13歳の女の子らしく不機嫌を隠さず、ヨウジから顔を背ける。

 

「そんなこと言うなよ。慣れない世界に突然来て、なんとか対応しようと頑張ってるんだから……もっと気遣ってくれ」

「悪かったわよ! 勝手に召喚して!」

「いや、そういうこと言ってるんじゃ……どうしてそんなに機嫌悪いんだ?」

「アタシだってわかんないわよっ!」

 

 理不尽な憤慨に、ヨウジはもちろん、当のアーネスも戸惑う。

 引っ込みつかず、そのまま自分の部屋へ戻っていくのを、ヨウジは仕方なく見送った。

 

(うーん……年頃の娘を持つ父親の感覚って、こういう感じかな。って、こんな風に考えてると、また逆撫でするか。わからん……)

 

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