黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと ~転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ~   作:茉森 晶

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(024) 『それぞれの距離感』

 

 

 ぷりぷりアーネスを見送って、食堂に戻るヨウジ。

 その難しい顔を、ディントがすまなそうに見上げてきた。

 

「なんか、また機嫌損ねちゃった?」

「いや、(ディント)じゃないと思うけど。まぁ、色々あって不安定なのかな」

 

 アーネスが抜けたその場4人のうち紅一点ユーオリアは、無意識の女の勘というか、念を押しておく必要があるような気がしていた。

 

「あらためて、わたくしはヨウジさんを恋愛対象として見ていません。女性恐怖症みたいなものは簡単な問題ではないでしょうけど、怖がらず会話してくださいね」

「あ、ああ……お気遣いどうも」

 

(好意を持たない女性ならバンバン話せる……という理屈ではないんだけどな)

 

「ねーねー、もしかしてユーオリア様は彼氏いたりするの?」

 

 相変わらずの気軽さで、ディントは手を上げて質問する。

 

「何を低俗な……あなたに関係ないでしょう」

「冷たいなー。まぁ、普通の家の生まれの俺なんかとは付き合えないか」

「家柄以前に……あなた、黒魔法使いなのでしょう? わたくし自身は黒魔法差別したりはしませんが、白魔法使いでないと家が結婚を許しませんので」

 

(サラッと言ってるが……やっぱそういう『家で結婚相手決まる』って感じなんだなぁ)

 

 ヨウジがカルチャーギャップを感じていると、ディントは何か謎が解けたかのような気付きの顔で再質問。

 

「結婚できなくても、付き合うことはできると思います! 俺、結婚しろとか言い出さないから。どう?」

「何が『どう?』ですか! お付き合いするということは、結婚前提に決まってますわ!」

 

 まるで、わざと嫌われに行っているとすら思えるディントのムーブ。

 冷静に努めているつもりのユーオリアも、語気がどんどん荒くなる。

 

「なんだよー、そんな色っぽい服は着てくれるくせに、お堅いなー」

「なッ……低俗な目で見ないでくださいます!? わたくしが体を強調する服を選ぶのは、人体が芸術だからです。あなたのような芸術を解さない方に見せるためではありませんわ!」

 

(ああ……なるほど。漫画アニメなら、お姫様でも内気な子でも胸を強調したりして『まぁ、そういうもんか』と無意識に見てたけど、今居るここは『違う現実(リアル)』。ユーオリア嬢なりのこだわりが、ちゃんとあるものなんだな)

 

「うーん……現実(リアル)かぁ。アニメみたいなのでいいんだけどなぁ」

「ん……ヨウジさん、何かおっしゃいまして? 質問があれば言ってください。ディントさん(このひと)よりもっと発言していただかないと!」

「あ、いや……す、すみません」

 

(いかんいかん……『アニメみたいな』とか、こんなワードが出てる時点で、元の世界に未練があるってことだもんな)

 

 一日も経っていない今、未練がないわけないのが普通だろう。

 そう考えると、やはりヨウジは以前より前向きな性格になっているのかもしれない。

 ディントの相手をするのに疲れたユーオリアは深く溜息をつくと、空気を入れ換えるかのように、奥に座るフルードの方を見やる。

 

「フルードさん、あなた、今日ご予定は?」

「え? あ、いえ、特にないですけど……」

 

 予想外に名を呼ばれ、フルードは考える間もなく答える。

 

「アーネスさんとヨウジさんに、ひと通り街を案内してください。あと、校舎の場所もですね」

「ぼ、僕だけですか? ユーオリアさんは……」

「わたくしは予定がありますので。ディントさんには任せられませんし、あなたしかいないのですわ」

 

 フルードは一瞬悩むような顔をしたが、すぐに笑顔を作る。

 

「学校までの道のりを案内すればいいんですよね。わかりました」

 

 

     *          *

 

 

 嫌がるアーネスを何とか説得し、三人は寮の外へ出た。

 ヨウジとフルードが並んで歩き、アーネスはヨウジの影に入るように後ろをついて行く。

 まだまともな服を持っていなかったヨウジは、ユーオリアに用意されたきらびやかな服の中から、できるだけ地味でラフに着こなせそうなものを選び、なんとか落ち着けた。

 

「悪いね、休みの日に付き合わせちゃって。本当に予定なかったの?」

「ないわけではないですが……急ぎの用というわけでは。大丈夫ですよ」

 

 フルードは穏やかな笑みを作る。表情も口調も好感しかなかったが、何かの心情が表れているのか、手持ち無沙汰な指がブレスレットを擦っていた。

 

「えっと、何から案内しようかな。気になる所があったら、言ってくださいね」

 

 銀鼠寮は住宅地の終端というような立地で、遠くに見える王城へ近づくに連れ、賑やかさが増していった。

 様々な食料品や雑貨を扱う店が並ぶ商店街、テラスのある飲食店や焼き菓子を売る露店。

 ヨウジにとっても、ちょっとした海外旅行に来たくらいの街並みと見え、特に不自由はなさそうに見えた。

 

「ユーオリアにお金は借りたけど、無駄づかいできる身分じゃないしな。とにかく道を憶えよう」

「おふたりとも……ユーオリアさんと親しいんですね?」

「え? あ、いや、俺はアーネスのついででお世話になってるだけなんだけど……」

 

(そういえば……疑問にも思ってなかったけど、言語ってどうなってるんだ? 自分で認識できないものの、自然とコッチの言葉を使ってるよな。なんとなく漫画アニメの感覚でファーストネーム呼び捨てしてたけど……『ユーオリアさん』の方がいいか?)

 

「何よ、フルード(アンタ)も詮索したいんじゃない? あんまり自分のこと話したがらないくせに」

 

 アーネスが仕掛けた。フルードはビクッと体を震わせ、アーネスと目を合わせずに答える。

 

「すみません、確かに詮索でしたね。今のはなかったことに……」

「ユーオリアは『ユーオリア』よ。王都(こっち)じゃ有名人かしらないけど……アイツは黒魔女のアタシを力尽くで保護しようと、ずっと狙ってきた人身蒐集家の変態よ。呼び捨てで十分、うん」

「え、ええっ? そうなんですか?」

「アンタ、そんな世界があることも知らないようね。アタシはたくさん本を読んできたから、人間にはそんな暗く汚い面があることも知ってるの。子供扱いしないでよね」

 

 ヨウジの背中に隠れ、かなり距離を開けながら、アーネスはドヤ顔で言い放つ。

 

「子供扱いだなんて……僕はアーネスさんをスゴい人だと思ってますし」

「……ふん、どうだか」

 

(黒魔女として迫害されてきて、そこに本の知識で頭でっかちになって。このひねくれキャラはバラエティとして武器になるが、もう少しエンタメ化していかないとなぁ……)

 

「それと……ヨウジは使い魔としてアタシが契約した異種族の戦士。文化の違いで対等に接してくるけど、アタシがご主人様なんだからね」

「そうなんですか。文化の違い……なるほど」

 

(『異種族の人間が使い魔として契約』という設定なのか? そんな感じもOKな世界なのか? って……そういう大事なやつは、事前に打ち合わせしといて欲しい……)

 

 手探りでお互いの距離感を作りながら、三人は街中を散策した。

 診療所や騎士団詰め所、武器屋や魔法専門店、少しルートを外れると酒場の多い繁華街があること、必要な位置関係を詳しく教わりながら、いよいよ目的地に到着した。

 

「この坂を上ると……僕達の通う銀組(シルバークラス)の校舎があります。小高い山になりますが、そこまで広い敷地ではありません」

 

 フルードの説明通り、木々の生い茂った山の中へ続く坂だけがヨウジ達の目の前にあった。

 住宅地の街並みからさほど離れてはおらず、そんなエリート育成校があるとは思えないのどかな風景。

 

「あとは行けば判りますので、明日、試験の時にあらためてどうぞ」

「ああ、ありがとう。助かったよ」

 

 フルードの、顔に出してはいないが『できれば他人と関わりたくない』という意識を、ヨウジもなんとなく感じ取っていた。

 

(日本人的過剰な気遣いかもしれないけど、俺も元々そういうタイプだし、無理に付き合わせるのもな)

 

「じゃ、僕はこれで……」

「待ちなさいよ!」

 

 笑顔で愛想するフルードを、ヨウジの後ろからアーネスが呼び止めた。

 

「もうお昼だし……一緒にゴハン食べたらいいじゃない、うん」

「え? いや、そんな……僕なんか邪魔だと思いますし」

「邪魔じゃないわよ。いいから……もう少し付き合いなさい」

「は、はあ……じゃあ」

 

 意外な人からの意外な提案に、フルードは戸惑いを隠せず、それでも笑顔で答えた。

 

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