黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと ~転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ~ 作:茉森 晶
パン屋にカフェが併設されたような店に入り、勝手がわからないアーネス&ヨウジは結局フルードと同じランチセットを注文。
焼きたてパンにバターとハチミツを塗ったもの、具だくさんなカボチャスープ。
店長のおばさんが豪快な人で、大サービスの大盛り仕様になっていた。
「わぁ……ハチミツバター大好き!」
「それはよかった。けど……全部食べられる?」
「余裕よ! ヨウジが無理なら、アタシが食べてあげる、うん!」
好物を前に機嫌をよくしたアーネスの明るい声を聞き、ヨウジとフルードは顔を見合わせホッとする。
「あ……ごめんなさい、アタシ、子供みたいにはしゃいじゃって」
ハッと我に返ったアーネスは、照れくさそうに俯いた。
「いいじゃんか。やっぱ人はみんな共通して、好物を食べる時が幸せだもんな」
ヨウジ的には『昼飯としてはちょっと甘そうだな……』と思いつつ、アーネスの可愛らしい所が見えて、大収穫だとも思う。
「あらためて、誘ってくれてありがとうございます。お察しの通り、あまり人付き合い得意じゃないので……なんだか遠慮がちになってすみません」
そう言いながらも、さらに遠慮がちに笑みを浮かべるフルード。
「でもアンタ、寮ではあのディントと一緒にいるじゃない。友達なんでしょ?」
「ディント君は……誰かいれば声をかける人なので。たまたま昨日今日と、僕だっただけですよ」
(意外な組み合わせとは思ってたけど、実際そんな特別仲いいわけじゃなかったのか。まぁ……ディントがアレだからな)
「
だいぶ打ち解けてきたんじゃないかと思ったことと、寮内でないこともあり、ヨウジは少し突っ込んだ話を仕掛けてみる。
「僕は……たまたまですよ。普通科にいたんですが、偶然大きな魔力を発現させたことがありまして。調べた結果、他人の魔力を分析することに秀でているらしくて……」
「アンタ……アタシを初めて見た時、かなり驚いた顔してたわよね?」
「……はい。アーネスさんの魔力量が高いことは魔法使用者なら判ると思いますが、あなたは昨日今日と魔力を減らしている状態でしたよね?」
「やっぱり……わかってたのね」
「僕は、他人の魔力の総容量や、魔力の質というか内訳みたいなものを読み取ることができるんです」
意外と話してくれるフルードに、すっかり信用してもらった気になり、ヨウジは少し会話が楽しくなってくる。
「イメージしにくいけど……それって特別なことなんだ?」
「そうね……もし敵対勢力の中にいたら、真っ先に潰しておきたいかもね、うん」
「か、勘弁してくださいよ。本当に大した力じゃなくて……
フルードはそう言って、文字通り少し縮こまって見せる。
「ただ、価値があるとされる限り、国に補助してもらうつもりです。恥ずかしながら……裕福な家じゃないので」
(そっか……苦学生って感じなんだな。いや、俺達も同じ身分か)
「その……色々、態度悪くて……悪かったわよ、うん」
アーネスがパンを手放し、視線は向けないままボソボソと呟く。
好物による効果なのか、そんな意外な言動に、ふたりは言葉を忘れてアーネスの次の言葉を待つ。
「アタシは……黒差別する奴を嫌ってるけど、たとえそういう奴がいても自分から攻撃したりしないわ。アンタは白だけど……差別しないんでしょ?」
「僕は……『敵を作らないように』とばかり考えて生きてきたんですよね。もちろん、誰かを差別なんてしません」
自虐的な笑みを浮かべ、フルードは慎重に言葉を選ぶ。
「でも、正直、怖がってはしまうんです。アーネスさんは、基本すべての人を憎んでいるでしょうし……」
「だから、それは……!」
「そう……それは、そもそも一般の人々が自ら生み出した憎しみです。アーネスさんは悪くない」
努めて笑顔でいようとするフルードだったが、その笑顔に寂しさの色が混ざるのを隠せなくなっていた。
「僕は……白魔法使いの中で虐められていました。だから、アーネスさんの気持ちが少し解る……いえ、『少し』と言うのもおこがましいかもしれませんが」
何か口を挟みたくなるが、アーネスは何も言えず、とにかく彼の言葉を聞く。
「だからこそ、怖いんです。どれだけ負の力を秘めているか……自分を基準に想像してしまうから」
フルードが恐れているのは、黒魔女なのか、自分自身なのか。彼自身にもわからなくなっていた。
「アンタがアタシを怖がるのを責めたりしないわ。笑顔を作って、うわべだけの付き合いをするのも別にいいと思う。だけど……アンタを見てると、このままじゃダメな気がする」
共感できる人間に出会い、心の中で何かが変化しているのか、自分のことを棚に上げ、アーネスは説教めいた言葉を送る。
「あなたは力があるから……仲間もいるから。僕は……弱い。でも、弱い自分なりに乗り越えていきますよ」
最後は、暗くなった雰囲気を吹き飛ばすように明るい笑顔になってみせるフルード。
その気遣いを察し、ヨウジ達も普通の食事へ戻っていく。
アーネスは結局、自分の分をギリギリ食べきれず。残った料理は、ヨウジがおいしくいただきました。
* *
「すみません、ご馳走になってしまって。色々話せて良かったです」
「いや、こちらこそ。それに、オゴリといっても借りてるお金だしな……」
なんとなく日本人同士のやりとりっぽさを感じ、ヨウジは少し嬉しくなる。
「それじゃ、僕は寄る所があるので。あらためて、これからよろしくお願いします」
そう言って、フルードは帰り道とは逆方向へ去って行った。
なんとなくその背中を見送ってから、ヨウジ達は帰り道を無言で歩き出す。
少し賑やかな通りに差し掛かった頃、ようやくアーネスが口を開いた。
「白の中でも……虐められる白がいるのね。きっとアタシの方が大変だと思うけど、でも、そんなの本人にしかわかんないわよね、うん」
「……そうだな。俺も、その当時は『なんで俺だけが』って気持ちだったけど、世の中に同じような悩みを抱える奴がたくさんいるんだ」
(思い出したくもないし、これからをイイ人生にするためにも、こんな暗い話したくはない。けど……乗り越えていくために、話すことも必要なのかもな)
「でも、それって……その悩む人より、もっと多い数のイジメる人間がいるってことよね」
「まぁ、そういうことかな。社会性を持つ動物には『マウントとる』本能があるってことで……」
「やっぱり……
隣を歩くヨウジを上目遣いに見つめるアーネス。
言って欲しい返事前提で投げかけられた質問に、ヨウジは少し考えて口を開く。
「……居続けようよ。そんな心ない奴らに負けを認めて、アーネスが隠れ住まなきゃならないなんて、おかしいだろ?」
「それは……そうだけど」
「何より……俺がいる。いや、俺だけじゃない。アーネスの味方は、どんどん増えていくさ」
「…………はぁ……。それができるのが『アイドル』……なんでしょ」
「その通り!
まっすぐ前を見つめるヨウジの横顔を見て、アーネスはまたひとつ溜息をつく。
(『俺がいる』だけでいいのに……。どうして、そういうのがカッコいいってわかんないのかしら)
「大丈夫、アーネスは十分魅力的だから。いつかきっと……」
(なーんて……そう言わない理由もわかってる。ヨウジは『カッコ良くしよう』なんて思ってないんだもん)
女性の前ではカッコつけたくなってしまうのは男のサガ。
それをしないヨウジに、アーネスは媚びない清潔感を覚えていた。
だが、それは女嫌いでこそ自然にできるのであり、なかなか噛み合わないもので。
「ほんと……アイドル馬鹿よね。アンタはいつまでも変わらなそう」
「安心してくれていい。『推せばひとすじ単推しで!』 推し変なんてありえないからな」
「オシヘン……って何よ?」
「この場合、俺がアーネス以外のアイドルを好きになる……まぁ、浮気って感じかな」
「ふ、ふーん。どうでもいいけど……」
アーネスはそう言ったが、『アーネス以外のアイドル』というワードに、今後、自分以外のアイドルが現れる可能性について考えていた。
(アタシがアイドルとして認知されていくとして、誰かが模倣してくることは十分考えられる。いや、それどころか、いつかアタシに愛想を尽かしたヨウジが、新しいアイドルを覚醒させたら?)
ヨウジはそんなこと考えていないのだが、ネガティブ気質ゆえの想像は膨らんでいく。
あらためて、アーネスは【アイドル】という不思議な概念を見つめ直すことにした。