黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと ~転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ~   作:茉森 晶

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(026) 『昔話』

 

 

     *          *

 

 

 銀鼠寮にヨウジ達が帰り着いた時、門の前でユーオリアとその従者ウルクスが睨み合っていた。

 

「ただいま……って、何かあったのか?」

「ああ、おふたりとも、おかえりなさい。別に何もないですわ」

「お嬢様、考え直してくだされ。銀組(シルバークラス)に参加するだけなら、お屋敷から通えばよいことでしょう」

 

(ああ……(ファイネル)からの反対派代表ってわけか)

 

「もう決めたことですわ。お父様にも報告しましたし、あなたが口を出す段階ではありません!」

「旦那様は許されたわけではありません。国から黒魔女を保護することが認められたとはいえ、危険がついて回ることには違いないのですぞ!」

 

 もちろんユーオリアは、今まで家を出ての生活などしたことはない。

 家の者はほぼ反対していたが、国が味方についたことで押し切られた形だった。

 

「黒魔女あーにゃんの歌と踊り……正直、私も認めてはいます。が、お嬢様の身に危険が及ぶ可能性という面では話が別なのです!」

 

 ウルクスは複雑な表情で、アーネスとユーオリアの顔を交互に見る。

 

「別にアタシは、アンタに認めてもらわなくても結構よ」

「認める認めないの話はどうでもよいのだ! お嬢様が問題に巻き込まれぬよう……」

「やかましいオジサンね……もう歌ってあげないんだから。ふん」

「ぐう……ッ!」

 

 あーにゃんライブの魅力を知ってしまったウルクスは葛藤する。が……さすがに、ユーオリアのことが最優先だった。

 

「終焉の魔女ドレーザは、ただの昔話ではないのです。あーにゃん殿には悪いが、『黒魔女が災いを呼び起こす』という伝承も、迷信とは言えないもの。いや、もし迷信だとしても、ファイネル家の令嬢が関わるべきではないのです」

 

 そのキーワードに、ヨウジは昨日見た白昼夢のような現象を思い出す。

 

(アーネスが終焉の魔女に……魔王になっている光景。そんな未来にはならないと、忘れようとしていた。けど……)

 

「アーネスは……その『終焉の魔女ドレーザ』っていう昔話を知ってるのか?」

「……当たり前でしょ。この国で、知らない人間なんてそういないわ、うん」

 

 アーネスは短い溜息をつき、淡々と話し始める。

 

「千年前、世界には白魔法しかなかった。ひとり生まれた黒魔法使い、それがドレーザ。彼女は黒魔法でしかできない術で、この国を狙う魔族を撃退した。何度も国を救い、魔族は現れなくなった」

 

(え……ドレーザさん、魔王どころか勇者じゃん?)

 

「再び魔族が攻めてくる可能性に備え、ドレーザは数々の大魔法を開発。敵がいないのに大きくなり続ける力は恐れられ、人々は彼女の黒魔法が消えることを望んだ。白魔法使い達に、ドレーザの力を消して欲しいと……」

 

(なるほど……そういう理由があるのか。とはいえ、ドレーザの備えは決して悪いことじゃないように思えるけど)

 

 そこまで話し、アーネスは口を閉じた。

 悲しいのか、腹立たしいのか、複雑な表情でユーオリアを見つめる。

 ユーオリアはそれに何の合図を返すこともなく、続く物語を話し始めた。

 

「大勢の白魔法使い達が……ドレーザさんを捕らえに行きました。ドレーザさんは怒り、黒陽の魔狼ガルガモートを召喚します。ガルガモートはドレーザさんの潜在魔力をさらに引き出し、それにより、大魔法『リバラーヴルの太陽』が発動しました」

 

(ん……それって、俺が喚ばれた関係性と似てる? アーネスは……そのガルガモートって奴を()ぼうとしたのか?)

 

「大魔法『リバラーヴルの太陽』は、世界中の魔法を停止させる、というもの。白魔法使い達はみんな魔法が使えなくなりました。が……ひとりだけ残っていた白魔女の勇者メーシャによって、終焉の魔女ドレーザは倒され、月に封印されました」

 

 ユーオリアはそう結ぶと、あらためてウルクスに相対する。

 

「時が経ち、ドレーザの封印は解け、再び世界を終焉へと導く。月の色が変わって見えることが、その合図。そして、その変化は十数年前からすでに起こっている……ですわね?」

「そう……ドレーザはすでに生まれ変わっており、黒魔女の仲間を増やし、人々に復讐する準備を進めている……そう信じこむ民も多くおるのです」

 

(生まれ変わり……転生する魔法? 確かに、夢の中で魔王アーネスは『終焉の魔女の生まれ変わり』と言っていた。今のアーネス本人が気付いていないだけで、そんなこともあり得るのか?)

 

「お嬢様、私も人々の言うそのままを信じているわけではありません。が、多くの民衆が信じていることこそが危険。解っておられるでしょう?」

「そんな非魔法学的なこと……人々の意識が低すぎるのですわ!」

 

 ユーオリアはガッと石畳を踏み、もう『キレている』と言っていいくらいに声を(あら)らげる。

 

「現代魔法学では、黒魔法をあり得ない力ではなく自然なものと扱っていて、人々もその恩恵を少なからず受けているのです。学術的な真実を、人々に浸透させることが……現代人としての責務なのですわ!」

 

(なんというか……異世界の、魔法の見方が変わってくるな。ユーオリア嬢は……科学者なんだ)

 

 まだまだ転生2日目、ヨウジは必死に順応のための擦り合わせを繰り返す。

 25年ほど現代日本人をやってきたのだから当然の苦労だが、そういう作業も楽しく感じるくらいの余裕は出ていた。

 

「必要最低限の生活用品は、もう部屋に入れました。アーネスさん、相部屋となりますので、よろしくお願いしますね」

「ええー…………ヤだ」

 

 心の中で『もう仕方ないか……』と思っているのに、アーネスは素直になれず、言葉では拒否する。

 それを聞いて、ウルクスがオジサンらしく説教臭い声を上げた。

 

「『ヤだ』とは何ごとか! お主を立派な淑女(レディ)とするため、お嬢様は自室でもずっとひたむきに考えておられるのだぞ? それを……」

「ウルクス! やめてちょうだい! もう……帰りますよっ!」

 

 急に照れくさくなったのか、ユーオリアはウルクスの手を掴み、門を出る。

 その背中を、アーネスが呼び止めた。

 

「ユーオリア! これ……残ったお金!」

 

 ヨウジと二人分、持たせてもらっていた小遣い入りの財布を差し出す。

 食事代にしか使っていないが、もちろんその使った分もいずれ返す気概で、アーネスはまっすぐにユーオリアの目を見る。

 

「結構ですわ。何か入り用になることもあるでしょう」

「そんなの……それこそ『ヤだ』ね! アンタとは……対等でいなきゃダメなのよ!」

 

 その言葉に、またウルクスが教育的指導を入れようとするが、ユーオリアが制す。

 

「よい心がけですね。では、いつかそのうち、わたくしの家へ来て仕事をしてください。その前借りということで、いかがですか?」

「……い、いいわ。何でもやってやろうじゃない」

 

 返事を受け、ユーオリアは再びアーネスに背を向ける。歩き出してから、抑えきれずフフッとほくそ笑む。

 その小さな吐息を聞き、ウルクスは大きな溜息をついた。

 

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