黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと ~転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ~ 作:茉森 晶
「誰にも見られなかっただろうな?」
アーネスが連れ込まれたのは飲み屋の裏口で、その厨房らしき部屋には合わせて4人の覆面男がいた。
店は休業中。表は閉め切っているようで、まるでこの時のために用意されたかのようなアジト。
「見ろ、やっぱ魔法耐性が高ェ。3人で重ねがけしてなけりゃ、封じられなかったか」
アーネスへの魔法封じの掛かり具合を見て、ひとりが呟く。
アーネスを後ろ手に掴む者、目の前に立つ者がひとりずつ。
そして、もうひとりは少し離れて後ろ向き、ブツブツ言いながら何か準備している。
「まだ子供じゃないか。魔力が高いようにも見えんし……本当に黒魔女なのか?」
(やっぱり、最初から
今までにも襲われはしたが、大抵は精神的に危うい直情的な者ばかりだった。
アーネスはこの4人の男たちに、かなりの違和感を覚えていた。
「あとは、引き渡しの時間まで逃がさなきゃいいだけ。余裕だな」
(引き渡し……雇われてる?
できる限り冷静になることを心がけ、男たちの言動や部屋の作りを確認する。
が、つい『ヨウジが選んでくれた服を触るなバカ!!』と、頭に血が上るアーネス。
(
気付かれないよう、指先の小さな動きだけで風の魔力を練り上げ凝縮させる。
次に、魔力の出力を一気にMAXへ――
「……を断つ。我が声はその者を従者とし、ひととき意のままに! 『
その手の指には、黒い花の指輪が填まっていた。
「んう…………ッ!!」
アーネスの体はビクンと跳ね、脱力して完全に背後の男に体重を預ける。
違法とされている精神操作系の魔法だった。
「詠唱に時間かかりすぎだろ……。今コイツ、何か魔法を使う気だったぞ?」
「ハァ……ハァ……禁止魔法なんてやってないんだからしょうがないだろ! 指輪の力で何とか発動できたが……あっ!?」
男の指輪が、パンと音を立て砕け散った。
大した力もない粗悪品だったのか、禁止魔法がそれだけ負荷がかかるものなのか、その場にいる誰にも判らなかった。
「ここまでの処置、本当に必要なものなのか?」
「『傷つけるな』って条件の上、俺らレベルの魔法封じじゃ抑えきれねえって話だからな。いいから早く縛れ。指が使えないように後ろで両手を握らせて、だぞ」
動けなくなったアーネスは後ろ手に縛られ、テーブルの上に寝かされる。
(油断した……様子見ず、最初から全力で抵抗してれば……ッ)
何もしたくなくなるような全身の
アーネスは唯一自発的に可能な行動、呼吸を何とか整える。
(『
泣きたくなるのを必死に堪え、『絶対に助かるんだ』と自分に言い聞かせる。
「これで……金が入るんだよな。この子には悪いが……」
悪党のひとりには違いないのだが、男は葛藤するような声で呟く。
「今さら偽善者ぶんじゃねえよ。そんな考えしてると、逃げ切ったあとでも苦しんで生きるだけだぞ」
「あ、ああ……そう、だな」
悪党ひとりひとり、それぞれ違う事情があるのかもしれないが、そんなことはもちろん言い訳になるわけもなく。
アーネスは『4人とも等しくぶっ潰してやる』と怒りを燃やしていた。
「なあ……とにかく傷つけず引き渡せばいいんだろ? ちょっとくらい遊んでも……いいよな」
一番悪人らしい下卑た男の言葉に、アーネスはハッとする。
今回は純粋に黒魔女の力を狙う者たちであり、当面、危害は加えられないかと考えていた。
そもそも、性的な目で見られる可能性など、頭からすっかり抜け落ちていた。
「いや、それは……『傷つけない』という条件に反するんじゃないのか? というか、こんな貧相な体の子供だぞ。心が痛まんのか」
「というか……お前、災いが怖くねえのか? 呪い殺されるぞ」
「へへ……そんなの迷信だよ」
黒魔女が災いを呼ぶ、という伝承を『迷信だ』と言ってくれるのが悪人だった、という皮肉。
アーネスは焦り、かけられた魔法を破ろうと気合を入れる。
(『子供に見られたくない』と思ってたけど……こんな知らないオッサンに女だと思われたいわけじゃない!)
焦れば焦るほど呼吸が乱れる。そんなアーネスの脚に男の手が触れた。
(助けて…………ヨウジッ!!)
――コンコン
店の裏口がノックされ、4人の男はピタリ動きを止める。
取引の時間はまだ先であり、今の時間に訪れる者などいないはずだった。
男たちは何も聞かされていなかったが、危ない案件という認識はもちろんあり、何らかの妨害ではないかと予想する。
リーダー格の男がドアに近づきながら、ブツブツと詠唱を始める。
その手にパリパリと雷系の魔力が集まり、スタンガンのような魔法が準備される。
いつでも撃てるよう構え、その逆の手でドアノブを掴――
バキャッ!!
「ぐあッ!!」
突然、紫の光刃3本がドアを切り裂く。
ドアの前で迎撃体勢だった男はその雷撃を受け、その場に崩れ落ちた。
壊れたドアを蹴破り、入ってきたのは――
「よくも俺の推しに……怖い想いをさせてくれたな」
サイリウムを指の間にはさむかのように魔力で光の爪を両拳に生やしたヨウジ。
その髪はザワザワと逆立ち、激しい怒りが目に見えてわかるようだった。