黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと ~転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ~ 作:茉森 晶
(ヨウジ! 来てくれた……ッ!!)
歓喜、安堵、恋心。
様々な感情パラメータが急変し、アーネスの目に涙がボロボロと湧き溢れる。
「な、何だテメエ! 黒魔女の仲間か?」
「こんな恥ずかしいセリフ言う気なかったんだが……まだ手加減とかできるほど器用じゃないんでな。死にそうだと思ったら全力で逃げてくれ」
ヨウジはそう言うと、アーネスに一番近いゲス男をロックオン。
一気に距離を詰め、アーネスに当たらないよう、まず足払いで倒す。
その勢いのまま縦回転に移行し、男の股間に雷撃をお見舞いする。
「ぴぎゃあッ!!」
痙攣する男を踏みつけ、まずはアーネスの身を庇うように立つヨウジ。
残るふたりを見据え、光る爪を交差させながら狙いを定める。
「クソッ……おい、お前の仕事だぞ!」
「わかっている!」
さきほど中途半端な良心を見せていた男が拳を握る。その指には、二つ目の黒い石の指輪が填まっていた。
石窯のフチに拳を打ちつけ、指輪の石にヒビを入れる。リファナで見たのと同じように黒い花が咲くと、男の腕を茨が這い上り、灰色のローブがその身を包む。
「こんな魔法に頼るなど……クソッ!」
灰色ローブの覆面男は、まるでボクサー崩れのストリートファイター。
両拳を前に出し、上下に揺れながらヨウジとの間合いを測る。
(格闘技……か? 指輪の力でパンチ力を強化してる……とか?)
どれほどの威力なのかと警戒し、ヨウジは距離をとったまま男の拳に注目する。
「…………フッ!!」
男が上半身を捻った瞬間、ヨウジは思わずガードを上げる。
が、その捻りにより振り上げられた蹴りから衝撃波が飛び出し、ヨウジの腹にヒットした。
「ぐう…………ッ!!」
思わず体を折り、ガードが下がるヨウジ。
「がはッ!!」
(ヨウジ!! しっかりして!)
たまらず吹っ飛び、食器棚に激突するヨウジ。
棚がヨウジの上に倒れ、飲み屋街とはいえ、ただならぬ物音になってくる。
「おい、誰か来たらマズい! 黒魔女を連れて逃げるぞ!」
「お前ひとりで行け! 戦いの途中で……逃げられるか!!」
指輪の男は本能剥き出しという顔つきで、ヨウジに追撃をかける。
残った男は任務遂行のため、テーブルの上のアーネスに駆け寄った。その時――
「ウォオオオオオオオッ!!」
食器棚が跳ね飛び、その中から現れたヨウジは、巨大な狼の姿となっていた。
「なッ……いつのまに召喚霊を!?」
一瞬怯むローブの男だが、すぐ手のひらに新たな魔法の
男の手にはボクサーのバンデージのような布が巻き付けられており、それが彼の
「俺は召喚霊相手でも、生身で勝ったことがある! ろくに詠唱もしていない召喚霊など……!」
「グァオオオッ!!」
ヨウジの巨体に店内の柱や家具がミシミシと……いや、すでに耐えきれず破壊が広がる。
(ヨウジ……正気を失ってる? ていうか、そのまま暴れ出したら建物崩れるわよ!?)
一度、魔力の
(ヨウジ、アタシは大丈夫! アンタが来てくれたから……もう大丈夫だから!)
しかし、アーネスの魔力は封じられたまま、ヨウジの心には届かない。
その時、
「そうだ……何のための精神操作魔法だよ。黒魔女! お前からこっちへ来い!」
アーネスの体がビクンと反応し、その上半身を起こす。
後ろ手に縛られているためノロノロとではあるが、テーブルの上から降りようともがく。
(ヤだ……こんな奴に操られるなんて! ヨウジ……なんとかしてよぉッ!)
アーネスが心の中で抵抗しながらもテーブルから降りようとしている時、灰色ローブの男は拳の炎をさらに大きく燃え上がらせていた。
「ハァ……ハァ……この狭い屋内、避けることなどできんぞ!」
練り上げた魔力をさらに増幅させ、男はヨウジに炎の拳を突き出した。
その瞬間、ヨウジは大きな口を最大まで開く。
「クォォォォォォ……」
遠吠えのような音は、まるでエネルギー砲のチャージ音のよう。
開いた口の中には、魔力を凝縮したような青い炎弾が浮かんでいた。
それを発射するための
「ワオン!!」
ヨウジの口から青い炎のビームが一直線に放たれ、射線上にいた男ふたりをまとめて撃ち抜く。
「はッ……かッ」
男達の纏っていた
すべての敵が倒れ、アーネスの体の自由が戻った。
(クッ……口のミストが解けない! 手も指までガチガチに縛られてるし……魔法なんて全然万能じゃないのよ! もーう!)
魔法の世界の住人だからこそ、『もっと便利になればいいのに』と思う。
それは、科学を享受する世界の人間と変わらない。
「グァオオオンッ!」
自分の力が抑えられず、苦しむような声を上げるヨウジ。
「んふぅ……ッ!」
アーネスは後ろ手に縛られたまま、
そして、接触状態で直接魔力を送り込むように、心の中で語りかけた。
『ヨウジ……さっきはごめん! なんでイライラするのか、自分でもわかってなかった……』
「グゥルルル……」
アーネスの声が聞こえているのか、
『
アーネスの表情は、普段ならなかなかできない柔らかく優しげな笑顔になっていた。
『アタシ達、家族みたいなものでしょ? だから……アタシがダメな時は、もっとちゃんと叱って……欲しい』
『この世界で生きてくために……ヨウジが必要なの。だから……ずっとそばにいて!』
まるで、寝る前に飼い犬をモフるような光景。
主人の言葉がわかっているのか、いや、そんなことはどうでもいいような、一緒にいるのが当たり前だというように目を瞑る大型犬の姿があった。
『ヨウジ……寝ちゃったの?』
アーネスが問いかけるのと同時に、
そして、瞬きの間に人間態に戻っていた。
「あ、れ……アーネス? ん? 俺……ちゃんと助けたんだっけ?」
「……んむー」
黒狼フォーム時の記憶がなさそうなことを確認し、アーネスはガックリうなだれた。
が……自分の言ったことを思い出し、急激に照れくさくなる。
(出会ってまだ二日だもん……ゆっくり理解し合えばいいわよね。アタシも、かんしゃく起こさないようにしないと……)