黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと ~転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ~ 作:茉森 晶
アーネスはヨウジの手を引き、裏路地に来ていた。
意図が掴めず、ヨウジはしばらくモジモジしているアーネスの言葉を待つ。
「あの…………あ、ありがとね。ちゃんと助けに来てくれて」
「へ?」
「『へ?』じゃないのよ! ちゃんとお礼言えてなかったから!」
「ああ……確かに、バタバタしてたからな…………あ、いや、そう、そうだ! そもそも、あんな風にひとりになっちゃダメだろ! 間に合ったからよかったものの……」
(どうせ『アイドルとして商品価値がなくなる』とか言うんでしょ。いいもん、今はまだそれで……)
「経緯はどうあれ……この世界で、アーネスは俺のすべてなんだ。絶対に、いなくならないでくれよ!」
少し照れるような、でも真剣な目で、ヨウジは言った。
予想と違う返しに、アーネスはしばし固まってから答える。
「な、何よそれ。『すべて』だなんて……誇張しすぎ」
「誇張じゃない。俺は……人と接するの下手だし、実際、君にもイヤな想いさせてる。けど……この世界に使い魔として生まれて、アーネスのために生きるって決めたんだ」
(やめてよ……なんでそんなクサいこと言うの? 昨日もうっかり泣かされたけど……不意にまっすぐな言葉投げつけてくるの、ほんと困る!)
「だから……何か気に入らなかったとしても、今回みたいに逃げるのはやめてくれ! もし次また逃げたら……って、ちょ、ちょっと?」
いつのまにか、アーネスはまた泣かされていた。
必死で堪えるも、後から後から雫が生まれてくる。
「ぐすっ……ごめん……なさいッ! うええぇ……!」
「な、泣くなって! いや、怖い目に遭ったんだし、しょうがないか……」
(そうよ……アタシ、『ヨウジを召喚した責任がある』とか言ったくせに、ヨウジのこと全然考えてないんだ。『アタシのこと考えろ』って、自分の要求ばっかり……)
ゴシゴシと涙をこすり、アーネスはしばし思い詰めたような顔で考える。
そして、ひとつ頷くと、決意したような眼差しをヨウジに向けた。
「昨日言ってた……路上ライブ? だっけ?」
「ん? ああ……悪かったよ、そんなことばっかり言って」
「アタシ、やるわ。今から。うん」
「へ? ど、どういうこと?」
「いいから! 早くアタシを……アイドルにしなさいよっ!」
「ユイット、
「いえ、まだ出てきませんが……」
アーネス達に遠慮し、その場で待っていたユイットだったが、そろそろ路地裏の向こうを確認しようか迷っていた。
「やはり付き添われるのがイヤで、勝手に帰ったのではないか?」
「ちょっと確認しま……あっ!?」
ユイット達の見ている前で、路地裏から強い光が噴き出した。
「何か魔法を? まさか、男達に黒の指輪を仕込まれていた、なんてことは……」
光が消えるのを確認し、ふたりが路地裏の入口に駆け寄る。
と……その暗がりから、アイドルが現れ、ペコリと一度お辞儀した。
「アーネス……またヨウジの魔法で変身したのか」
野次馬を含め、様々な一般市民が遠巻きに見守る酒場通り。
「アタシ……今からここで歌うけど、いいかしら」
「アイドル活動……というやつか。大道芸などは自由に行われているが……あのような事件のあとだからな」
「今じゃないとダメなの。アタシの意志を……歌で示したいから。お願い」
リファナの中では、『歌魔法により一般市民を精神操作する』という可能性を完全に捨てきれていなかった。
が、今のアーネスに悪意を感じていないのも確かだった。
「好きにするがいい。我々は周囲を警戒しておこう」
「……ありがとう」
アーネスは今一度頭を下げ、店先から群衆側へ顔を向ける。
捕り物の様子を見に集まった野次馬は、異世界のきらびやかな衣装を着た美少女が気にならないわけがなく、すでに多くの人がアーネスに注目していた。
「はぁ……やっぱり度胸が要るわよね」
そこに立つ自分に呆れるような笑みを浮かべ、マイク代わりのロッドを強く握る。
そして
『ヨウジ、歌と振付は大丈夫よね?』
『うん……音に合わせて記憶の映像を共有させるのは、感覚的に掴めてきた』
『しっかり頼むわよ。思う通りのライブになるかどうかは、アンタ次第なんだからね』
そんな言い方をしてはいるが、アーネス自身もかなり気合は入っている。
『本当に……よく提案してくれたよ。アーネスは……スゴいな』
『ふふっ……ヘタな歌と踊りで、みんな呆れるかもね』
『心を込めて、一所懸命パフォーマンスすれば、絶対大丈夫だ』
1stライブでは、ヨウジに操られるままパフォーマンスした。
が、アーネスは今回、歌と振付の情報をリアルタイムで共有し、自分自身で歌い踊ることを選択した。
(恥ずかしいけど……自分の表現じゃないと意味ないもんね。ヨウジ……ちゃんと見ててよ)
路地裏に残ったヨウジは
(まだ日も経ってないのに……
できるだけ平静を保ってはいたが、その目には色んな感情がごちゃ混ぜになった涙が浮かんでいる。
(実質、
「行け! アーネス! 俺がついてるぞ!」
アーネスはひとつ深呼吸し、