黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと ~転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ~   作:茉森 晶

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【挿絵表示】
水着ユーオリア 画:亜方逸樹


(番外01-01)【前日譚】アーネス VS ユーオリア ROUND1 ファイッ!『お姉さんですからね』

 

 

 アーネスは黒魔女、ユーオリア・ファイネルは白魔女である。

 

 この『魔女』という呼称、単なる『女性の魔法使い』すべてに使われるものではない。

 誰が基準を決めるわけでもないが、女性魔法使いの中で、特に強力、もしくは一芸に秀でた者を、人々は『魔女』と呼ぶ。

 

 もちろん、男性にも魔法の才能に秀でた者はいる。

 それこそユーオリアの父、コアズ・ファイネルは国内でも屈指の高位魔法使いであり、経済的にも魔法学的にも国へ大きな影響力を持つ。

 が、『魔男』とは呼ばれない。

 あくまで『すごい女性魔法使い』が『魔女』と呼ばれ、特別扱いされるのである。

 

 その理由は、始まりの黒魔女ドレーザ。

 彼女を封印したとされる白魔女メーシャ。

 魔法の始まりとも言える物語が強い共通認識となり、一般常識として人々の身についていた。

 

 そして、それは単なる印象によるものだけではない。

 実際、強い魔法を発現させる才能は女性に多く、学術的にも『腕力で劣る代わりのアドバンテージ』のように扱われていた。

 

 

 

(わたくしは白魔女……秩序を作り、人々を導く力を持つ存在(もの)。ですが、その前に……ひとりの人間ですわ。黒魔女さんを死なせはしない。そして、簡単に犠牲を容認するような醜い集団が生まれるのを防ぐ……)

 

 アーネスがヨウジを召喚する日からおよそ2年前の話。

 ユーオリア(15)は、アーネス(11)が暮らす孤児院にやって来た。

 付き添うウルクスは大きな溜息をつき、諦め気味に言う。

 

「お嬢様の邪魔はせぬ、ただの付き添いが約束ゆえ、黙っておりましたが……やはり、黒魔女を保護するのは危険かと」

「同じようなことを何度も何度も……ウルクスって水属性では上位使用者のくせに、本当に非魔法学的ですわ!」

 

 ユーオリアはプクッと頬をふくらませ、鼻で溜息をお返しする。

 

「いいでしょう、わたくしが一歩引いてあげます。非魔法学的な口伝である『黒魔女が災いをもたらす』が本当だとして……ならばこそ、黒魔女の魔法を研究することがその対策になるの。理解できますわね?」

「お嬢様がすることではありますまい。今回、ご主人様がお許しになったのは『本人に会えば諦めるだろう』と、一度だけの約束だったからですぞ」

 

 この数日前、魔法騎士団【白夜】から派遣された騎士2名が、黒魔女アーネスを王都内の施設へ移すため孤児院にやって来た。

 が、アーネスは白魔法使いを敵視。断固拒否の意志を魔法で示し、追い払ってしまった。

 

「物々しい鎧をまとった男性が頭ごなしに連れ出そうとするからダメなのですわ。歳もそう離れていない女子同士なら、きっと心を許すはずです」

 

 そう言って孤児院の門をくぐる。

 ふたりの両足が敷地内に着いた瞬間、その足下に紫の魔法陣が浮き上がった。

 

「ッ! 『緋翼(ウイング)』!!」

 

 ユーオリアが(ロッド)に填まったクリスタルを二本の指でトトンと弾くようにすると、そこから白と赤の混じり合った炎が湧き起こり、一対の翼となって羽ばたいた。

 浮き上がる(ロッド)に右手でしがみつくと、今度は左手で忙しく指ジェスチャー。

 足先の気流が淡い緑色に輝き、健康的ムッチリな下半身をフワリと浮かせる。

 

「ぐわあああああッ!!」

 

 逃げ遅れたウルクスは、まるで底なし沼に沈むかのようにズブズブと魔法陣に飲み込まれていく。

 

(地属性? 情報では『風』が有力とのことでしたが……いえ、どちらだとしても対応できますわ)

 

 ユーオリアが浮遊したまま辺りを見回していると、柱の陰からアーネスがのそり顔を出した。

 

「ひとり逃がした……下がるぅ。発動時間をもっと短縮できてればな」

 

 開いた魔本を構えたアーネスが、面倒くさそうに溜息をつきながら現れる。

 その全身から滲み出るものを感じとり、ユーオリアはひとつ息を呑む。

 

(さすが黒魔女さん……膨大な魔力量ですわね)

 

 アーネスが一度魔本の(ページ)を閉じる。と、魔法陣が霧散した。

 その下はただの地面に戻っており、ウルクスは体を埋められ、首だけ生えた状態で身動きとれなくなっていた。

 

「クッ……このウルクス、一生の不覚!」

「何が『一生の不覚!』ですか。強引にわたくしの付き添いとして来たくせに、あっさり拘束されて……」

 

 ユーオリアは呆れた表情で、今度こそ敷地内に降り立つ。

 アーネスはとんがり帽子のつばで顔を半分隠し、包帯を巻いていない方の右目で白魔女を睨む。

 

「アンタ……子供のくせにイイ反応するじゃない、うん」

「お褒めにあずかり……って、いえいえ! あなたの方が、わたくしよりだいぶお子様ですわよ!?」

「同じ子供でも、知識や魔法の技量はアタシの方が上よ」

「そんなわけありませんが……わたくしはお姉さんですからね。そういうことにしておきましょうか」

 

 慈愛を感じさせる眼差しでニッコリ微笑んでみせるユーオリア。

 アーネスはイラッとしつつも平静を装い、白魔女(ユーオリア)の外見を上から下までチェックする。

 

「お嬢様、もう帰りましょうぞ! このような失礼な小娘……」

「ウルクス! あなた、ちょっと黙っててちょうだい!! そんな状態で、よく偉そうな口が利けますね?」

「むむむ……面目次第もございません……」

 

 ウルクスに苛立ち、ユーオリアの少し子供らしい表情が出る。

 が、すぐに余裕の笑顔に戻り、アーネスへと向き直った。

 

「挨拶が遅れました。わたくし、ユーオリア・ファイネルと申します」

「……行商人から貰った王都の情報紙で見たことある名前。いくつかの難病を治癒する可能性がある魔法薬の調合術式を発見し、若くして『魔女』と呼ばれるようになった……イイトコのお嬢様か」

「あら、ご存知だとは光栄ですわ。まぁ、目指すは【煌星(こうせい)魔女】なのですから、『誰もが知っていて当然』となるまで頑張らなくてはいけませんが」

 

 【煌星(こうせい)魔女】とは、各分野でトップ・オブ・トップの者に与えられる称号であり、世界で10名存在する。と言われている。

 『言われている』というのは、その多くが魔法への探求が行きすぎ、人里を離れ行方不明になっている者が多いからだ。

 魔法の深淵にのめり込み、賞賛されることなど二の次。狂気じみた研究者ともいえる女たち。

 

 なのだが、ユーオリアにとって煌星魔女(かのじょら)は、現代日本でいうなら特撮ヒーローのような憧れの存在だった。

 

「黒魔女さん、あなたは黒魔法を発現させた時点で『魔女』と呼ばれる。それはそうですわ、女性の黒魔法使いが特別な力を持つことは歴史が証明しています」

「だから何なのよ。魔女同士、お勉強会でもする? 黒魔女がどんな災いを呼び込むか確かめて、学会に発表とか?」

「……そう、わたくし達は魔女同士。ならば、魔法でひと勝負してみませんか?」

 

 ユーオリアの提案に、アーネスは目を丸くし、意表を突かれた表情を見せた。

 今まで、様々な種類の人間に襲われてきたアーネスだが、こんな正面から勝負を申し込んでくる者はいなかった。

 

(①バカ正直なバカなのか……②舐めてるのか……それとも、③この会話自体、何か特殊な法詞(フレーズ)を仕込んでるのか。②かな。若くして魔女と呼ばれる天才少女。自分の力を試してみたくてしょうがないってとこ? 若いって……めんどくさいわね)

 

 本ばかり読んできた結果、この頃からすでに、こましゃくれた思考になっていたアーネス。

 ユーオリアのことを実際年下かのように扱う。

 

「アタシは勝負なんかしたくないわ。アンタの自己満足に付き合わせないで」

「下世話ではありますが、わたくしに勝てたら金貨1万リィンを差し上げます。魔法の研究でいただいたわたくし自身のお金ですので、遠慮は要りませんわ」

「……アタシが負けたら?」

「ファイネル家の保護下となり、住み込みメイドとして従事してもらいます。待遇は正式な見習いと同等、もちろんお給金も出ますわ。きちんとしたマナーも身につくでしょう」

「何それ……怪しすぎるでしょ。アンタに何の得があるのよ」

「わたくしはあなたを買っている……要するに勧誘ですわ。悪いお話ではないと思いますが?」

 

 再び驚いたような目になるのを、アーネスは再び帽子のつばで隠す。

 

(この女……何か隠してるにしても、アタシに価値があると思ってるのね。そもそも、黒魔女の災いを信じてないのかしら?)

 

 無意識にユーオリアのことが気になり出していたアーネスだが、本人は絶対にそんな気持ちを認めようとしていなかった。

 

「アンタのメイドになんかなる気ないけど……お金は孤児院の足しになるしね。いいわ、白黒つけたげる、うん」

「受けていただき感謝しますわ。やはり、お金は大切……もちろんわたくしに勝つことがあれば、の話ですが」

 

 お互いにまだまだ幼い日のふたり。

 双方の意思が揃い、彼女達の小さな初対戦が始まる。

 

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