黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと ~転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ~ 作:茉森 晶
「行くわよ、一番手っ取り早いやつ! 使い魔ヨウジに眠る命の力よ……アタシの声に応え、その息吹を聴かせよ! 『
「うぐッ?」
陽司の心の準備もそこそこに、アーネスは魔力を
小さなワンコの体の中で何かが弾けた。
「ぐぅゥ……ウウウッ!」
首輪についた錠前がバキンと音を立て弾け飛ぶ。描かれていた魔法陣だけが巨大化し、それもまたガラスのように砕け散る。
マスコットキャラのようだったヨウジの体がグングン巨大化し、いかにも狼という荒々しいフォルムへ。
「グオオォ――――――――ン!!」
象ほどもありそうな体躯の黒狼が威嚇するように一度吠えた。
急激に自分の中から溢れ出したパワーに、ヨウジは自然と猛獣らしい咆哮ができていた。
黄玉色の澄んだ眼光、鋭い牙と爪。
砕け散った魔法陣は再構成され、まるで首輪代わりのごとくリング状に光る。
先程までの可愛らしさは微塵もない、臨戦態勢の巨獣がアーネスを守るように立つ。
(目線……高ッ? 俺、デカくなったのか。使い魔としての戦闘用フォームってこと?)
自分の前脚をまじまじと見るベタな反応をしたあと、後ろ脚2本で立ってみたり、伸びをしてみたり、ドンドンと軽くジャンプしてみたり。
やはり冷静に対応できてしまうヨウジは、自分の体術をどう落とし込むか考えていた。
「やっぱ四つ足の方が動きやすいようになってるんだな。慣れれば、やれそうだ」
「は、はは……ほら、だから言ったじゃない! アタシが
アーネスが当初予定していた進行に近づいた現状。
ホッとしながらも、自分を落ち着かせるようにひとつ深呼吸する。
(とはいえ……正直、思ったより大きくて、ちょっと怖いわ! アタシに服従もしてないみたいだし、大丈夫かしら……)
一方、白魔女ユーオリアは、ちっこかわいい犬っころの突然の変身に、表情を変えず微動だにしていなかった。が――
(か…………かわいくないのですけどぉぉぉぉぉッ!!)
心の中で、魂の叫びが響き渡る。
(可愛くなくなった上に……なんて威圧感! 圧倒されて体が動かない! こんな強い魔力……七神竜クラスを上回る? アーネスさんはあの幼さで、すでにお父様と同等の魔法使いということ? そんなの……非魔法学的ですわっ!)
「す、少しはいい勝負ができそうですわね。それでも、フェルオースさんにはかなわないでしょうけど!」
アーネスはユーオリアに向き直り、ニヤリ口角を上げた。
「ユーオリア、今日もアンタの負けよ。白黒つけてやる!」
自信満々の笑顔になるアーネス。
対するユーオリアはあくまで表情を崩さず、脳内でグルグルと後の試合展開イメージを組み直す。
(
「フェルオースさん! まず村の外……森の中へ!」
ユーオリアが叫ぶと、
「フフン、慌てない慌てない。ヨウジ! ちょっとジッとしててね」
アーネスは魔法陣に手をかざし、ひと回り小さな魔法陣を重ねがけ。
それを
手元の魔法陣を、まるでゲームのコントローラーかのように操作する。と、アンテナ代わりなのか、たてがみが『接続OK』とばかりに光のサインを返す。
陽司は、その指示が頭ではなく体全体に聞こえているようだった。
声に出すよりも早く、魔力の
「ふむ、なるほど…………なッ!!」
カウンターで合わせようと
その瞬間、目の前で
目で追えないほどの速さで身を伏せ、攻撃の下に滑り込んだ
「キュオオオオッ!!」
たまらず吹き飛ぶ
ドズンと爆音を上げ倒れ込んだのは、一所懸命走って移動してきたユーオリアのすぐ目の前だった。
「ひぃいッ!!」
うっかり悲鳴を上げてしまい、咄嗟に自分の口をふさぐ。
「フェ、フェルオースさん! 高く飛んでください! 空から遠距離攻撃主体で戦うのです!」
そこから、地上の
「キュアッ!!」
口から炎が絡みついた光線が放たれる。
その瞬間、アーネスは魔力の
『ヨウジ、
『魔法の使い方なんてわかんないぞ』
『今はアタシの魔法をアンタが使うの! いいから浮かんだ通りにして!』
その間、0.03秒。
実際にはこんな会話ではなく、ひとりの人間が瞬時に判断するのと同じような、無駄のない通信が行われていた。
「フウッ!!」
光線が目の前に迫る中、
黒光りする魔法陣がスタンプされ、激しい縦揺れとともに、巨大な土くれの盾が地中から飛び出す。
盾は光線を正面から受け、攻防一体、その勢いで光線を押し返しながら上空の敵を突き上げた。
「クオオッ!」
「ひゃああッ!! こ、こんな……こんなはずは……」
実は、フェルオースを実戦で召喚するのは初めてだったユーオリア。
その
『天聖竜クラスが召喚できさえすれば先手必勝』と甘めに考えていたユーオリアだが、すでに勝てるビジョンが見えなくなっていた。
「アーネスさん! 今日のところは引き分けということに……キャアッ!?」
ユーオリアの目の前に、
もちろん、軽やかなのは所作だけ。ズシンと地が響き、ユーオリアはその場にへたり込む。
「ひッ……す、すみません! まいりました! わたくしの負けですわ!」
「………………」
いつからか、アーネスは虚ろな目でその光景を見つめていた。
敗北宣言は
「た……たすけて……!」
絶望顔のお嬢様を見下ろす
(何だ……俺、眠いのか? さっきまで感じていたアーネスからの通信は途絶えて……代わりに、違うチャンネルの電波が流れてくるような感覚……が……)
彼の意識もまた、アーネスと連動するように朧気になっていた。