黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと ~転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ~ 作:茉森 晶
本来なら、客席からファンの歓声が起こるところだが、たった3人(白竜含む)の観客は呆気にとられた顔で
「それでは、聴いてください!」
「『Black Heart White Sun』」
アーネスが目を閉じると、どこからともなく楽器の演奏が聞こえてくる。それは月見坂88の4thシングルにあたる楽曲。
魔法による壮大な音源再生。自然界の
スカートの裾を振り、優しく優雅なダンスを踊るアーネス。
イントロが終わると、目をパッチリと開き、眩しい笑顔で歌い出した。
――ねぇ、これから始まる私達の物語――
――どんな展開になるのかな――
――人を誘惑するモンスターがいて――
――君がまんまと虜になっちゃうピンチ――
――私は嫉妬深い性格で――
――怒っちゃうかもしれないな――
――Black Heart White Sun――
――この心に光照らして――
――君の魔法で塗り替えてみて――
――君とずっとこの世界で生きていきたいから――
――何があっても君を信じるから――
――そばにいて――
輝きの中、アーネスは歌い舞う。その姿はまさしくアイドル。
(アタシの体、こんな風に動けるものなの? 踊りなんて、真似事でも全然ダメだったのに……)
頭の中に振付の情報が流れ込み、その通りに手足が動く。
とはいえ、それは、成長した体がダンスに対応できるコンディションだということ。
(知らない歌が喉から生まれてくるのも、すごく気持ちいい! 歌うって……こんなに気持ちいいことだったんだ。上がるぅ!)
本人も気付いてはいないが、その歌声には、人に聞き取れない音がひとつ溶け込んでいた。
それは、魔力が音波として出力された
そこに書き込まれているのは、これまでアーネスが育んできた感情が圧縮されたもの。
今、
「うっ……胸が苦しいですわ…………涙が……止まりません……っ!」
胸をギュッと押さえながら、ユーオリアはボロボロと涙を溢れさせていた。
が、その表情は、最高に嬉しくなるプレゼントを貰った時のような笑顔だった。
(アタシを見る人が笑顔なの……嬉しい! もっと……もっと、アタシを見て!)
歌うアーネスの笑顔も、人生すべてに感謝するように弾ける。
それを照らし出すライトアップ。水蒸気スモーク。
陽司が転生前に見てきた
それもそのはず、魔法初心者が自己流で出したステージ演出なのであり。
だが、それは、ユーオリア達にとっては衝撃的な視覚情報だった。
「綺麗……まるで天使が舞っているようですわ……」
「な、何なのだ、この歌は……私はなぜ、涙している?」
「キュウ~……!」
そんな3人の観客とは少し離れた裏方の位置から、
本来なら、ライブを統括する監督の仕事だが、あくまで一オタクとしてブレードを振り、推しを支えるスタイル。彼の矜持の表れだった。
「ありがとうございました!」
曲が終わり、アーネスは息を切らしながら頭を下げる。
ユーオリア、ウルクス、果てはフェルオースまでもが拍手で讃えた。
「アーネスさん……なのですよね? とても綺麗になって……それでいて可愛くて。こんなの……非魔法学的ですわっ!」
「黒魔女の幻覚魔法による精神攻撃……そう思っているのに、このウルクス、あらがえん! アーネス、いや、あーにゃん……応援せねば!」
「キュキュウ~~~ッ!」
初ライブの証人となったそんな観客達に……ヨウジは高々とペンラを掲げ、声をかけた。
「君らの胸の中に生まれたその気持ちは……『推しごと』へのヤル気。
「オタク……よくわからないですけど、なんだかしっくり来る言葉ですわ」
今まで陽司が避けてきたファン同士の交流や共感。
今、それをあらためて感じ、ヨウジはこの世界でやるべきことを再確認する。
(アーネスが、この国でトップアイドルになるのを見届ける。人々に忌み嫌われる黒魔女が、逆に、希望を与え愛される存在になるんだ。まずは、このファン第2号~第4号にファンサを……)
「ハッ…………あ? え……ひッ!」
「!? アーネス!?」
突然、アーネスは我に返ったような顔になり、ステージ上で倒れた。
亀のように縮こまりブルブル震える彼女に、ヨウジは慌てて駆け寄る。
「ど、どうした!? まさか無茶な魔法で、体に影響が……!?」
「はッ……はッ…………………………恥ずかしいッ!」
ヨウジの
パフォーマンスしている最中は表現する喜びも湧き上がっていたが、魔法の効果が緩んだ瞬間、まとめて羞恥心が襲いかかってきた。
「ビックリした……何だ、よかった」
「よくないわよ! てゆーか、体もあちこち痛いんだけど!?
「トレーニング不足だな。『可愛けりゃなれる』と思ってる人もいるけど、アイドルというのは、テレビだけで見てるだけじゃわからない体作りとか
「??? ちょっと! わけわかんないことばっか言ってないでよ!」
アーネスが駄々をこねるのを呆然と見ていたユーオリアだったが、そこでハッと我に返る。
「わたくしが見ていたのは……幻覚魔法? いえ……」
恐る恐るという表情で、アーネスに近付く。
いい意味でも悪い意味でも、近付きがたいオーラを感じていた。
「アーネスさん……まさか、時を操作するような超高等魔法まで使えるのですか?」
「そ……そうよ! アタシ、アンタ達とは違う規格外の魔法があるのよ! これ以上つきまとうなら――」
啖呵を切っていたアーネスが、まるで一時停止ボタンを押されたかのように一瞬止まり、すぐまた動き出す。
「一生、アタシを推したくなる魔法かけちゃいますからね☆ これからも、よろしくお願いしまーす!」
突然ウインク&リップサービスしだすアーネスに、目を白黒させるユーオリア。
ヨウジが再び
「アイドルにとって、ファンは何よりも大切な存在。その気持ちを100%にできないアイドルもいるだろうけど、それを見せないようにすることが義務だ。まずは、そういう基本の精神を身につけてもらわないとな……」
「え……ワンちゃんさん? 今、何とおっしゃいました?」
「おっと……いや、俺はしがない一ファン。君達が新規ファンとして続いてくれたら嬉しい、とね」
「そ、そんな言葉でしたかしら?」
なんとか誤魔化そうとしていると、またアーネスへの魔法効果が緩む。
またもや思ってもいないセリフを言わされ、アーネスは爆発寸前だった。