征途日本召喚   作:猫戦車

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征途×日本国召喚ってあんまないので書いた。RSBCや遥かなる星要素も随時入れていく予定。


第一章 興亡の国
戦闘前哨


クワトイネ国境付近 ギムの町より15キロ地点

中央暦1639年/西暦2021年4月12日 午前11時43分 

 

「アサヒカワ01、アサヒカワ01、こちらトマコマイ06。クワトイネ国境沿いに展開中の大規模歩兵部隊の越境を視認。彼我の距離、現在約5キロ。敵兵力は少なくとも旅団規模。主力は重装騎兵、その後方に無数の歩兵部隊を伴う。敵本体の前衛部隊と思われる。トマコマイ06はトカチへの火力支援を要請。別命なくば、支援射撃終了後、敵との交戦に入る。現在時、1143.送レ」

 

「トマコマイ06,こちらアサヒカワ01。了解。トカチは二分後に射撃開始。武運を祈る。送レ」

 

「トマコマイ06了解。終リ」

 

 日本国陸上自衛隊(JGSDF)クワトイネ援助部隊(JASCK)、第一独立装甲連隊隷下、第一戦車大隊第三中隊指揮官の一等陸尉・百田太郎は連隊本部との通信回路を切り替え、送信回路を中隊通信系にセットした。

 

 彼の86式戦車は指揮官用に通信機能が強化された特殊仕様で、搭載されているC4Iシステムにより友軍とのリアルタイムでの情報共有を可能にしていた。

 

 百田は伝えた。知性と緊張感のみを伝えるような声が無線機越しに響いた。

 

「06より全車、命令あり次第射撃開始、以上」

 

 無線機から指揮下の車両ーーそのどれもが86式戦車で構成されているーーからの応答の声が聞こえてきた。

 

 その声はどれも落ち着き払っていた。当然かもしれなかった。急遽編成されたこの第一独立装甲連隊、ベトナム戦争での結成時からの渾名にいうところのゴジラ・コマンドは、全国の戦車部隊でも指折りの第2機甲師団からの選抜部隊によって編成されていた。

 

 もともと戦場の花形でありスペシャリストである機甲科の上澄みであり、容易に代替できる代物ではなかった。

 

 百田は上半身を車長用ハッチから乗り出させると、双眼鏡を構え、敵の集団に焦点を合わせた。

 先ほど報告を行う前に眺めた光景、または連隊本部がUAVにて空撮して送ってきた画像とほぼ一致する光景が再び飛び込んできた。

 百田の想像以上に、彼我との距離は狭まってきている。

 先ほどの報告より1キロばかり狭まっている様に思えた。

 

 百田の率いる増強中隊(百田自身の戦車中隊に、二個普通科小隊と迫撃砲小隊、対戦車小隊が臨時に編成に組み込まれている)は、ロウリア国境付近を広く監視可能なギムから15キロ離れた小高い丘の西斜面上とその周辺に、連隊の戦闘前哨(COP)として展開していた。

 

 COPとは自軍部隊の前方にて展開する小規模部隊であり、主に偵察ならびにFEBA(戦闘地域の前縁)の欺瞞を担当する。

 本来、主戦闘地域の前方に置かれるCOPはここまで大規模なものではなく、少なくとも連隊から一個中隊14両の戦車を直掩に回すことはあり得ない。

 

 にもかかわらず、このロデニウス大陸に派遣された陸上自衛隊は、こうして百田にこれ程の部隊を預けている。全ては魔法という不確定要素の排除であった。

 

 今からおおよそ一年と半年前、ある海戦の目も眩むほどの戦術的勝利の代償として数十年にわたる祖国分断を経験し、祖国統一という輝かしい栄光を持って21世紀を迎えた極東の弧状列島が地球から姿を消し、同時に異世界へと転移した。

 

 最早人智の追いつかない程の国難を前に、国内は一時騒然となったが、それもクワトイネ公国ーーこの世界で初めて接触した国家ーーとの国交樹立を機として鎮静する流れとなった。

 

 中世レベルの文明力でありながら、億単位の人口を養える食糧生産力を有するクワトイネ、さらに今後数百年は資源に困らないとすら思えるほどに鉱物資源が豊富なクイラ王国との国交締結はまさに僥倖であった。

 

 転移直後に垂直に降下していた株価も上昇傾向に転じ、配給が実施されるほどに逼迫していた食糧事情も既に改善される結末となった。

 

 この状況に冷や水を浴びせる形となったのが、クワトイネ外交官及び、ロデニウス大陸周辺での諜報活動によってもたさられた情報ーー隣国ロウリア王国による武力侵攻の可能性であった。

 

公安調査情報局(SRI)経由で情報が伝わるにつれ、霞ヶ関は悪戯に殺虫剤を噴きかけられた雀蜂の巣の如き混乱に見舞われた。

 

 今の日本にとってこの両国は生命線であり、さながら病人の口に取り付けられた呼吸器にも等しい存在であったからだ。当然、それを毟り取られば国家の生命活動は停止する。

 

 百田らがこうしてこの地に派遣されたのはこのためである。クワトイネ政府は国交締結時、食糧援助の見返りとして幾つかの軍事支援を求めてきた。

 

 日本政府は国内の反発を押し切り、武器援助並びに緊急時における部隊派遣までを含む安全保障条約を締結し、半ばクワトイネに屈する形で彼らの要求の大部分を呑む形となった。

 古来よりこの世で最も強い者は、胃袋を掴んでいる者と相場が決まっているからだ。 

 

 今回、この第一独立装甲連隊を中核として派遣されたクワトイネ援助部隊の第一陣は、ロウリアがまず真っ先に奪取すると予想される戦略的要衝のギムの町を根拠地とし、第12空中機動旅団に加え第7機甲師団部隊を中核とした第二陣の到着までのクワトイネ防衛の任を与えられる形となった。

 

 連隊には100両前後の主力戦車と各種装甲車、それから自走砲に自走対空砲までもが配備されている。特に装甲戦力と火力に比重が置かれた編成であり、本来ならば旅団と称される程の総数6000強の隊員らも精鋭無比と言わんばかりの人員を集めている。

 

 さらに支援としてクワトイネ沖に派遣された海自の空母機動部隊艦載機の援護まで付いてくるのだから、ある程度の数的不利なら押し返せると、上の幕僚達は思っていた。

 

 百田は自隊の陣地を見渡した。普通科小隊は事前に構築した掩体へ姿を隠し、81ミリ迫撃砲を主体とした迫撃砲小隊は丘の反対側に陣を構えている。地面を掘り返して形成された個人掩体と交通壕が、それぞれ火線が効率的に並ぶように配置され、普通科の隊員らが既に機関銃や小銃を構え、今か今かと命令の時を待っていた。

 

 無論、百田らの戦車中隊も例外では無い。彼の乗機を含む戦車中隊の車両は、車体がすっぽり埋まるほどの深さに掘られた戦車壕へと身を隠し、偽装網をかぶせたうえで砲塔のみを突き出した状態で待機していた。

 

 それに対してロウリア側はこちらに気付いた様子はない。

 目視での航空偵察が限定的影響しか及さなかったのが要因か、それともたかだか数千の兵力しか存在しないクワトイネ側の抵抗など、先遣隊だけで数万は有する物量を持ってすれば一撃で粉砕できるだろうという驕りか、ともかく百田の中隊は発見された兆候は見られなかった。よく分からない魔法のみが気がかりであった。

 

 百田は再び双眼鏡を敵側へと向けた。先ほど見た通りの、どう見ても中世期の兵隊としか思えないような集団が目に映った。

 随分とまあ、大した量だ。百田は思った。

 確か確認できている敵の総数は約3万で、その大多数が歩兵だとは聞いている。しかし、ここは異世界である。我々はこの世界に対してあまりにも無知だ。魔法などという原理のわからないものが気がかりでしょうがない。

 

 同時に百田はこうも思った。畜生、どうして俺はあんな時代錯誤にしか見えない軍隊と戦争する羽目になってしまったのだろうか。そもそも、どうして俺たちはここにいるのだ?数か月前まで俺たち日本国民は、21世紀の文明を謳歌し、少なくとも表面上は平和に暮らしていたはずなのだが。

 

 百田の思考は途中で中断された。突如敵集団の先頭に閃光が生じ、続いて爆音と爆炎が一つ、彼の目と耳に飛び込んできたためである。支援砲撃として割り当てられた特科大隊の155ミリ榴弾砲、それの観測射撃であった。

 

「トカチ06、いいぞ。そのまま効力射、粉砕突破射撃だ」

 

 近くから気合の入った声が響いた。

 百田は声がした方角に向けて首を向けた。特科大隊本部から派遣されてきた観測班(FO)が、特徴的な観測機器を眺めながら後方の特科陣地に向けて報告をしていた。効力射、つまり全力で撃てとのことだ。

 

 それから2分後、先程の弾着観測射撃とは比べ物にならない、まさに鉄の雨ともいうべき砲撃がロウリア軍の先頭部隊を襲った。甲冑や盾が衝撃で空を舞い、幾多もの人の集団が細切れになる様が見てとれた。

 

 百田は少しばかり口元を歪め、すぐに元に戻した。敵は混乱しているのが手に取るようにわかる。向こうが冷静さを失えば失うほど、こちらの勝率は飛躍的に跳ね上がる。

 

 再び爆発音。射撃観測班の指示に従って放たれた砲弾が、いまだに混乱の渦に囚われたままのロウリア軍の直上で炸裂する。面単位での制圧に適した曳火射撃である。盾を構えて防御したつもりになっていた重装歩兵が、直上からの砲弾片を浴びて動かなくなる様が映った。

 

「!」

 

 しばらくの間敵兵の行動に意識を移していた百田は、しばらくするうちに敵の意図する行動に気づき始めていた。連中、これだけ撃たれて一歩も引かんとは。

 既に敵兵は散開を始めている。ただ一ヶ所に固まっていても何一つ益が無いと悟ったのだろう。彼我との距離は徐々に縮まっていった。

 

 百田は無線機のインカムに手を伸ばし、落ち着き払った声で言った。

 

「06より全車へ。射撃準備、繰り返す、射撃準備」

 

 彼はハッチから出していた上半身を車内へと戻し、内部から指揮を取ることにした。既に敵は混乱しつつも此方の陣地線に張り付きつつある。ならば、この戦車の火力を持って迎え撃つ他ない。

 

 この戦車ーー86式戦車は、登場から湾岸戦争や統一戦争といった名だたる戦場をを戦い抜いてきた主力戦車であり、後継への更新の進む今となっても数的主力を務める優秀な車両である。

 

 しかも、百田の中隊に属する86式は、2010年以降にC4Iシステム改修と新型砲身、砲弾への換装に加え、対ドローン、対戦車ミサイル用のアクティブ防御システム及びRWSの搭載が図られた最新のG型であり、2010年代の戦車に必要な性能を持つ車両であることを彼に確信させるに値するものであった。

 

「いいか、相手が密集している箇所や、将校らしき人間から狙え。向こうの指揮を崩壊させるぞ」

 

 彼は自身の中隊に向けてそう言い放った。兵達を指揮し、適切に統制する将校が欠けたとなれば、軍隊という組織はその作戦能力を大いに失う。中世の軍隊とくれば尚更だ。

 

 故に、彼は部隊の火力をもって敵指揮系統の一時的な混乱を狙った。上手い具合にことが進めば、我々は無駄な損耗を防げるかもしれない。

 

 86式の砲塔が旋回し、砲身が乱れつつも駆け足で突撃していく敵集団前へと向けられる。百田は冷静に指示を出した。

 

「中隊、対榴、正面射、撃て」

 

 ほぼ同時のタイミングで各戦車の砲身から閃光が迸り、少し遅れて轟音と白煙が辺りを埋め尽くす。敵から3キロの距離で放たれた対戦車榴弾砲は、弾道コンピュータによる正確な計算結果を証明するかの如き精度を持って、盾を構えて前進する敵の前方集団に叩きつけられた。

 

 閃光、爆発、そして衝撃。無数の榴弾の直撃を喰らったロウリア歩兵の一団が、その身体をバラバラに解体されて辺り一面に撒き散らされた。

 

 更に後方から81ミリ迫撃砲の効力射も叩きつけられ、命令無視で後退しようとする一部の兵士も吹き飛ばされる。ロウリア軍は混乱状態に陥っていた。

 

 それでも尚、自衛隊陣地に向けて進み続けた兵士らに向けて戦車、装甲車の車載重機関銃に同軸機銃、軽機関銃に自動小銃までの火器による猛烈な射撃が加えられた。

 

 彼らは巧妙に偽装された有刺鉄線により機動力を封殺され、戦史において類を見ない程の損耗をこの僅かな時間で経験することとなってしまったのだ。

 

 敵兵が訓練の目標よりもあっけなく倒れていく様を見て、再び戦果確認の為ハッチより上半身を外に曝け出した百田はそれを何処か醒めた様子で確認していた。これが戦争か、そう思った。

 

 同時に彼は敵の次の一手に警戒する必要が生じた。恐らく、このすぐ後に航空支援がやってくるだろう。もちろんそれは味方ではない。彼はインカムを握った。

 

「トマコマイ06、こちらアサヒカワ01。敵航空戦力の存在を確認、機数100、そちらに向かっている。海自の艦載機がそちらに急行中、2分以内に上空に到達する。それまで耐えたし」

 

「06了解、感謝する」

 

 連隊からの連絡の後、彼は中隊に指示を出し終えた直後に空を見上げた。耳が張り裂ける様なジェットエンジンの轟音、そのすぐ後に、百田の頭上を槍の穂先を寝かせたような形の、滑らかな曲線で胴体を構成した前進翼の双発機が数機、姿を見せつける様にして飛行して行った。

 




86式戦車→征途第3巻に登場する戦車。恐らくは史実の90式戦車に相当する。本作では2020年代でも現役で、なおかつ相当な改修の果てに運用されている。

第一独立装甲連隊→ベトナム戦争並びに湾岸戦争にて編成された陸自部隊。通称ゴジラ・コマンド。初代連隊長は福田定一(史実でいうところの司馬遼太郎)。本作ではクワトイネ派遣の際に再編成された。

百田太郎→原作より昇進している。
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