征途日本召喚   作:猫戦車

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上陸

フェン王国 ニシノミヤコ

中央暦1640年/西暦2022年 1月18日

 

 陸戦部隊の揚陸は、最初の1時間を除いて順調に進行していた。

 

 フェン王国西部に位置する都市、ニシノミヤコへの強襲上陸を仕掛けたパーパルディア皇国陸戦隊の、数少ないフェン王国軍守備隊との海岸堡を巡る戦闘は、その1時間を持ってほぼ終了していたからだ。

 

 第二次フェン王国懲罰部隊として編成された彼らは、総数200隻近い戦列艦と20隻の竜母に搭載されたワイバーンの支援の中、木造帆船ながら極めて先進的な設計を有した揚陸艦101隻へと分散して強襲を果たした。

 

 第一梯団として送り込まれた陸戦隊員1000名が、装備と数に劣る王国軍の激しい抵抗を受けたのは、彼等が唯一上陸可能な広大な砂浜へと足を下ろし、度重なる船酔いから解放されたその瞬間であった。

 

 このニシノミヤコに布陣していたフェン王国軍は、上陸に対する備えとしては正解に近い布陣を敷いていた。すなわち、航空偵察に対する戦力の隠蔽と、水際阻止の徹底である。

 

 彼等は歩兵200名を海岸線にて構築した壕の中へと配置し、未だ戦闘体制の整っていない陸戦隊の接近と共に斬り込みを敢行した。

 

 戦列艦による砲撃と、竜母艦載騎による空爆の成果を過信していた皇国軍にとって、この奇襲は想定以上の衝撃であった。

 

 現場指揮官がどうにか混乱を落ち着かせ、円陣を組んでの反撃に移った時、既に300名もの戦列歩兵が王国兵の曲刀にて首を刎ねられた後であった。

 

 結果、マスケット銃による統制射撃によって王国兵を完全に排除し終えた後、第一波の陸戦隊の4割が死傷するか戦闘不能になったのだが、残り6割の陸戦歩兵と後続の2000名の兵士らを阻む手はフェン王国側には残されていなかった。

 

 陸戦隊指揮官、ベルトラン准将がフェン王国の土を踏んだのはこの戦闘が一段落した直後であった。

 

 未だに双方の死体が海岸に転がる最中、第二梯団として地竜を中核とした部隊が揚陸するのと同じタイミングであり、死屍累々といった有り様の第一波の部隊を一瞥した彼は、落胆とも自嘲とも取れる溜息を漏らした。

 

 フェン王国相手にこの有り様か、事前偵察に力を入れるべきだったな。これから先、王国の主力と相対して大丈夫なのだろうか?そう胸中にて悲観を溢す。

 

 あまり優れた様子のない指揮官を見かねたのか、彼の部下であるヨウシ陸戦策士が話しかけてきた。

 

「陸将、そう悲観することはないでしょう。既に敵の抵抗は皆無、揚陸もつつがなく進行しております。何より、フェンにはリンドブルムとワイバーンロードに抗しうる戦力はありますまい」

 

「そのフェン相手にこれだけの損害を出しているのが問題なのだよ」

 

 彼は硬い表情を崩さず続けた。

 

「監察軍はワイバーンを持たないフェンに、20騎も叩き落とされたそうじゃないか。戦列艦も半数が沈んだ。ならば、似たような事態が再び起こらないと誰が保証してくれるのかね?」

 

「あれはガハラの風竜の存在が大きいでしょう。ワイバーンは、上位種たる風竜を本能的に恐れますから。それに、我が皇国軍は本作戦において一切の妨害をフェン水軍から受けておりません。ならば、現有戦力のみでフェンを降すのも可能でしょう」

 

「そうか、そうならいいのだがな」

 

 皇国軍士官にありがちな過信を語るヨウシに対し、ベルトランはやや覇気に欠けると評されかねない態度で返した。

 

 両者の態度は2人が同部隊に着任し、共に部隊指揮を担当するようになってからのものであった。積極的なヨウシと慎重的なベルトランの指揮は、お互いがよい相互作用を起こす場合の方が多かったのだ。

 

「陸将、各部隊の集結完了。物資の集積も終えております」

 

 既に揚陸を完了した部隊からの連絡が入ったのはその直後であった。ならば指揮官が命じるのは一つしかない。ベルトランは淡々とした口調で言った。

 

「了解。各隊前進せよ」

 

 ああ、それとだ。命令を聞いた部下が戻ろうとした時、ベルトランは何かを思い出したかのように付け足した。

 

「市街地制圧時に日本人と名乗る者達を捕えろと外務局から通達が来ている。可能な限り捕縛し、一箇所に拘束しておけ」

 

 彼の命令は幾多もの士官を経由し、近世期に相当する軍隊としては異例とも思える速さで末端の兵士まで行き渡った。つつがなく行われたニシノミヤコの西城制圧後、彼らは市街地の掃討にてくまなく日本人を探した。

 

 しかし、現実はこの命令を出した外務局の女性皇族の思い描いたような図を描かなかった。

 

 数日前に発令された日本政府からの退避命令により、全ての日本人観光客がフェン王国人の手を借りてニシノミヤコから脱出、そのまま首都アマノキに退避していた為である。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

フェン王国 首都アマノキ沿岸

中央暦1640年/西暦2022年 1月25日

 

 揚陸作業とは極めて慎重かつ安全な動作を持って実施されなければならない。

 

 ありとあらゆる軍事行動に必要な物資と人員を満載した揚陸艦、そしてそれらを満載して岸壁から砂浜に積み荷を降ろす揚陸艇とは、その作業中にどの様にしても無防備となるからだ。

 

 つまるところ、壊滅に多大な量の鉄と血を要する敵を削り取るのにこれ程適した時間は存在しない。

 

 また、この様な人為的影響を除いた場合でも天候等の自然的要因も負の影響を与える。積荷を陸に降ろす一点を取っても、荒天下においてはその安全かつ迅速な実施が不可能であった。

 

 その視点で言えば、フェン王国首都アマノキ沿岸2キロに展開した揚陸艦〈おおすみ〉は極めて良好な条件下にて物資輸送を行えていると言って良かった。天候は晴れ、波高も風速も低調であり、何より脅威たる敵が存在しない。

 

 日本国海上自衛隊(JMSDF)藤堂雪江(ゆきえ)3等海尉が、自艦が極めて安全な状態を維持しての作業が出来ることを安堵していたのは、ウェルドックにて2隻のLCACによる揚陸作業がひと段落し、揚陸指揮を担当していた彼女の所属する分隊に余裕が生まれた一刻であった。

 

 薄暗いウェルドック内に、大きく開いたランプドアの外から光が差し込んでいた。その先には、砂浜にて無数の点として存在する濃緑色の集団が続々と集結している。

 

 フェン王国における邦人救出部隊、純軍事的に言うところの増強普通科大隊戦闘団が陸へと荷を下ろしていたのだ。

 

 大型の港湾設備を有さないフェン王国において、開けた砂浜さえあれば揚陸する土地を選ばないLCACを2隻運用可能な〈おおすみ〉級が駆り出されるのも必然的である。

 

 なにしろ、海上自衛隊において一個普通科大隊と機甲科、特科の支援部隊を含めた大隊戦闘団1500名を港湾インフラの存在しない地域に揚陸する点に関して、満載排水量3万5千トンを誇る彼女らの右に出るものは無かったからだ。

 

「これで、粗方の作業は済んだわね」

 

 灰色の鉄帽に同色のライフジャケットを着込んだ雪江は、揚陸順に記載された物資リストを一瞥し、自らに課せられた作業の大多数が終了したことを確認した。

 

 新任幹部としてウェルドックでの作業の監督を任されていた彼女にとって、作業の終了とは肩の荷が幾分か降りることを意味する。

 

 既にウェルドック内にはLCACが2隻、束の間の休息として待機している。首都アマノキに集まりだしていた邦人の救出を艦載ヘリのCH-47JAにて実行したのち、数えるのも億劫になるまでの往復を繰り返して部隊揚陸作業を開始したのが先日からの出来事である。

 

 母艦と本土を往復する様にして行われた邦人の輸送作業は、この〈おおすみ〉乗員から見ても極めて稀と言える頻度にて実施されていた。

 

(それでも、まだフェンには300人ぐらい残っているのが厄介ね)

 

 しかし、完全な任務達成……つまるところ、フェン王国から全ての日本人の安全を確保するという任務には未だ時間がかかっていた。

 

 国交開設による情報インフラの提供によって観光客に速やかな避難指示を発令したのはいいものの、それでも尚、いくつかの理由による遅延というものは存在していた。どうもアマノキに相当数が集まり出したらしいが、それでも完全な撤収は相当な時間を要するだろう。

 

 まあ、その点に関してはどうにかなるだろう。彼女は目の前の現実に対して何処か楽観的に見ていた。生まれつきの性格に加え、船乗りに共通する自らの乗艦に対する様々な形での信頼がそうさせた。

 

 そして、彼女の乗艦である〈おおすみ〉はその信頼に値するだけの能力を有する船であった。

 

 諸外国において強襲揚陸艦と称される全通甲板を搭載した大型輸送艦の〈おおすみ〉級が建造された背景には、統一戦争終盤にて実施された赤い日本の首都豊原への強襲上陸、それに伴う若き指導者の捕縛作戦の戦訓によるものであった。

 

 この作戦に際し、陸上自衛隊は本州にて待機していた予備戦力の過半を民間徴用の輸送船に乗り込ませ、戦車等の重装備に関しては数少ない戦車揚陸艦にて上陸を実施した。

 

 戦力の殆どを北海道へと振り分けていた人民赤軍は、それに対抗し得るだけの戦力を保持していなかったのが事実だ。

 しかし、それの揚陸に伴う時間は現代戦においてあまりにも遅かった。

 

 2個増強大隊からなる豊原強襲上陸部隊が完全な戦闘状態を整えたのは、上陸開始から12時間が経過した後であった。

 

 この時、首相官邸内の地下壕にて指揮をとっていた筈の若き指導者は、自衛隊の強襲上陸の報を聞いて豊原市街を脱出していた。その事実に気がついたのは、僅かな敵兵を掃討し終えた自衛隊が豊原を占領した後であった。

 

 結果的にSRIによる捜査協力を経て若き指導者は捕縛されたものの、ボタンを一つでもかけ間違えれば祖国統一という半世紀の課題が永遠に終わることのない結果として残る可能性が存在したという事実に、市ヶ谷の首脳陣と言える存在たちは恐怖したのである。

 

 統一戦争終結後、戦力投射の困難な離島への展開と国際貢献活動の拡大を名目に本級の建造が開始されたのも当然の成り行きであった。強大な合衆国海軍の欠乏という状況に気を良くした大陸の増長もそれを後押しした。

 

 惜しむべきは、陸上自衛隊の戦力改編に伴う多数の装甲戦闘車両(AFV)の増産と、海自ミサイル護衛艦の追加建造による予算措置に伴い、当初FV-2垂直離着陸戦闘爆撃機30機以上を搭載する満載排水量5万トン計画案から、既に旧式化していたFV-1Jの改良機を近接支援用の艦載機として用いる3万5000トン案への変更を余儀なくされた点だろう。

 

 計画値から縮小した点こそ無数に存在したものの、21世紀初頭に就役した〈おおすみ〉は自衛隊の要求する性能に恥じないだけの力を有していた。

 

 ヘリによる空中機動からウェルドックを使用した強襲上陸に用いれるだけの汎用性を有した彼女らは、徐々に南方へとシフトし始めていた自衛隊の戦略、その土台を支えるだけの役割を担っていたのである。

 

 雪江はこの船を何よりも気に入っていた。度重なる延命によって未だに第一線にて存在を主張するFV-1J改を8機、その他艦載ヘリを含めれば合計20機前後を搭載可能な航空機運用能力、そして完全武装の普通科大隊を国土のあらゆる箇所に降ろせるだけの展開能力こそ、自衛隊の行動の根幹を成すのに必要不可欠だと信じていた。そして、その認識は概ね事実と言える。

 

 新任幹部としては稀な様子の彼女に声がかけられたのは、リストの内容を全て確認した直後であった。

 

「藤堂3尉、陸より指令です」

 

 声の主は、雪江が着任時より世話になっている海曹の1人であった。彼女にとっても気のおける部下に、その指令の内容を促す。

 

「続けてちょうだい」

 

「本日1600より、新たな邦人避難者の輸送作業を実施する。我々には避難者の誘導を担当しろ、とのことです」

 

「ありがとう、助かったわ」

 

 彼女は軽く礼を言い、直後に右腕の腕時計を一瞥した。現時刻は1457。開始時刻までまだ1時間の猶予が存在する。ならば、そう慌てることはない。そう思った。

 

 同時に、彼女は自らの仕事が雪の積もるように増えていく現状に対し、僅かばかりの落胆を見せていた。いや、正月休みが終わった頃からフェン王国への派遣の話が隊内で噂されるようになった後、1週間前に大慌てで陸自の部隊を積み込んで出航した時から、彼女の中にはうっすらとした不満が溜まっていたのだ。

 

 まったく、どうせならもっと丁寧に計画してやれればよかったのだけれど。

 

 まあ、日本を植民地化するという要求を吹っ掛けた上、フェン王国内の日本人全員をスパイ容疑として拘束するなんて向こう側は言い出したらしいし、お偉いさんが焦る気持ちはわからなくもないのだけれど。彼女はそう思考したのち、再び陸に目を向けた。

 

 このまま致命的な齟齬が発生しないのであれば、あの揚陸した部隊は数日以内にフェン王国内の脅威を取り除くだろう。

 その際には、この〈おおすみ〉艦載機も戦闘に参加するかもしれない。

 

 そう言えば、これから3日後にフェン沖に遊弋するパーパルディア艦隊に、海自の機動任務群による殴り込みが実施されると聞いていた。恐らくではあるが、あの〈やまと〉も参加するだろう。

 そしてそれは、信じられない程に一方的な結果で終わる筈だと雪江は思っていた。

 

 彼女の予測は極めて正確に的を射ている結果となった。

 

 この日より3日後、フェン王国のゴトク平野にて大規模な戦闘が発生し、今後の趨勢を決定付ける結果となった為であり、その一翼を担う結果となったのが、あの老嬢とも呼ぶべき戦艦の存在であることが明白だったからである。




〈おおすみ〉級輸送艦→海自が統一戦争後に建造した強襲揚陸艦。史実のと違い排水量が3万トン以上になっていて、1500名の陸自隊員の輸送能力に加え、軽空母としても使用可能な能力を持つ。主な艦載機はFV-1J改で、これは統一戦争時に退役しかかったFV-1Jの延命、改良型であり、レーダーにエンジンの換装、各種搭載弾薬の拡大によって近接航空支援に用いるのに適した機体として生まれ変わっている。ちなみにFV-2は離着艦こそ出来るものの、機体サイズの問題もあって基本的に搭載されていない。
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