征途日本召喚 作:猫戦車
フェン王国地域
中央暦1640年/西暦2022年 1月28日
後に、物事の解釈にやや強引なきらいのある日本のマスコミが、「フェン王国の戦い」とひとまとめにした戦闘は次のような経過で展開されていった。
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フェン沖北西海上
機体の下には無数の光を内包した蒼海が広がっていた。自らを飲み込む底なし沼にも、万物の母たる要素を内包しているようにも感じられる。
この日、航空護衛艦〈ひりゅう〉より発艦したF-14J改Ⅱの一機を操っていたパイロットの1人は、下に広がる海に対してそのような感想を抱いていた。
同時に、自らの任務によって多くの敵がその海へと没することのなることも理解していた。
何故なら、事前に割り振られたコールサインにてカットラス7と名乗っている彼と、後部座席にて火器管制を担当する後方員、そして彼らと共に編隊を組んで飛行する12機のF-14に課せられた任務は、ここから80マイル先にて遊弋するパーパルディア皇国海軍の竜母20隻の撃滅であったからだ。
航空戦が戦況を左右する現代戦において、竜母などという高価値目標(HVT)を放っておくだけの余裕は海上自衛隊には存在しない。
満載排水量9万トンに相当する大型空母である〈ひりゅう〉級を運用している海上自衛隊にとって、多数の艦載機を抱える空母の重要性は何よりも理解しているところだ。
彼に通信が入った。先頭を飛翔する編隊長機からだった。
『カットラス・リードより各機、発射ポイントまで残り4マイル』
それは、彼の座席のすぐ下に吊り下げられた銛が解き放たれることを意味していた。
より具体的に言うなれば、F-14J改Ⅱの胴体パイロンに6発懸架されたASM-2空対艦誘導弾である。
艦対艦誘導弾であるSSM-2と並行開発、配備がなされたこの対艦ミサイルを装備したF-14の数は8機であり、残りの4機は護衛として各機6発のAAM-4B空対空誘導弾に2発のAAM-5Bを装備している。
どれも木造船に用いるには過剰にも思える程の戦力であったが、陸上部隊にとって最大の脅威の排除としては許容可能な範囲のコストであった。彼らにとって、制空権の確保こそ最も優先される事項であったのだ。
それまで後方にて管制を担当するE-1D警戒管制機とやりとりをしていた後方員が声をかけた。
「カットラス、発射ポイントに入った」
「了解、発射する」
彼は対艦ミサイルに早期警戒機によるデータリンクによってディスプレイに映し出された艦影のデータを寸分違わず入力されているのを確認した後、他の編隊と歩数を合わせるように発射のボタンを押した。
機体に軽い振動が走り、合計約3トンの重量が機体下面から離れた。続いて他の編隊機も同じように発射を開始した。
直ちにターボ・ジェットに点火。そのまま低高度の巡航飛行へと移行する。この8機のF-14が放ったASM-2の総数は48発。うち9割の44発が正常に作動し、各機に割り振られた目標へと直進していった。
このうち、迎撃を受けたミサイルは1発として存在しない。
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7分後 パーパルディア皇国海上竜母艦隊〈ミール〉
この時、ニシノミヤコ沖合30キロに遊弋していたパーパルディア皇国竜母艦隊は極めて無防備と言える状態であった。
哨戒用のワイバーンロードが10騎上がっているのみであり、それ以外は目視による警戒しか行われていなかったからだ。
この海域に浮かんでいたのは竜母〈ミール〉を中核とする12隻の竜母と、最新の対魔弾鉄鋼装甲を有した100門級戦列艦〈フィシャヌス〉をはじめとした8隻の護衛戦列艦である。
計20隻の航空機動部隊の指揮を取っていたのは、この第二次フェン王国懲罰艦隊の副司令であるアルモスという男であった。
彼は通常の戦列艦に比べて二回り大きな船体を持つ〈ミール〉の甲板上にて、その練度を象徴するかの如く毅然と並んだ艦隊の全容を誇らしいものとして眺めていた。
その様子を隣で眺めている〈ミール〉所属の竜騎士長は思った。ああ、これはあの長ったらしい演説が始まるな。
「竜騎士長、やはり私は竜母こそ皇国海軍の要と思うのだよ」
竜騎士長の予想通り、アルモスはなにか確信めいた様子で彼に話しかけてきた。取り敢えず肯定を返す。
「仰る通りでございます」
「貴様もそう思うか。実に賢いな」
先見性と的確性に富んだ視点と判断を持つものの、やや尊大なところの多い副司令は続けた。
「ワイバーンロードは魔導砲の射程の遥か遠距離から攻撃を仕掛けられる。制空権さえ取れれば、我が方が一方的に敵を叩けるのだ。故に、皇国は覇道を歩めるのだ」
竜騎士長が彼の元に着任してから飽きるほど聞かされた台詞であったが、同時にその有用性は彼も認めるところであった。
偵察から爆撃までありとあらゆる任務をこなすこのワイバーンロードと竜母の存在無くして、皇国の覇権戦略の実施は不可能である。
皮肉なことに、アルモスの認識していた制空権の重要性を何よりも証明したのが、直後に艦隊へ襲来した亜音速誘導弾による鳥葬であった。
この時点で艦隊外周数キロまで接近していたASM-2に対し、目視による観測手段しか持たない竜母艦隊はなんら対抗する手段を持たなかった。
最初の被害を受けたのは〈フィシャヌス〉であった。彼女は外周を警護するため、最も艦隊から遠い位置に位置していたことにより、他のどの戦列艦よりも先に被弾した。
赤外線画像誘導シーカーを正常に作動させたASM-2は、ホップアップ軌道に移行して〈フィシャヌス〉上甲板を直上から貫いた。
弾体が船体内部まで侵入したのちに信管が作動、炸薬によってその運動エネルギーが周囲に拡散された。
この爆発により船体側面から爆炎が弾けるようにして爆ぜ、強烈な衝撃にて竜骨が容易くへし折れた。上部甲板にいた乗組員が爆風とその破片、そして僅かに残っていたターボ・ジェットの燃料による延焼を受けて絶命し、その中で本来指揮を取っていたはずの艦長以下無数の士官が消し飛んだことにより、艦内に広がった混乱を鎮めるものは消滅した。
そのため、彼女が海中へと完全に没するまでの3分間に艦内から逃げ仰せた乗組員は誰1人として存在しなかった。その殆どが〈フィシャヌス〉が沈む際に生じた海水の渦に絡め取られたのだ。
突如外周を警護していた戦列艦が爆沈したのに僚艦が驚愕した数秒後、彼らも〈フィシャヌス〉と同じ運命を辿った。防空網の突破を目的とした同時弾着能力に優れたASM-2の猛攻は、彼らに思考する暇すら与えなかったのだ。
結果、〈フィシャヌス〉被弾から30秒で護衛の戦列艦は全滅の憂き目に遭っていた。羊飼いの猟犬が狩られた後、羊の群れを守る者は存在しない。
竜母として最初に現代戦の洗礼を受けたのは〈ガナム〉であった。皇国の竜母としては標準的な性能を誇る彼女に対し、2発のASM-2が左舷から着弾した。装置の誤作動により、水平での着弾コースを辿っていたのである。
直後、右舷から裂けるようにして破口が生じ、そこから爆炎と共に無数の破片、黒焦げの肉片が海中へと没した。
彼女の船体は吹き込みすぎた風船のように破裂した。船体中央が消失した〈ガナム〉に、最早余剰浮力など残されていなかった。
アルモスは眼前の光景を現実のものとして捉える事が出来なかった。
それは側の竜騎士長も同様である。周囲の竜母が船体を裂かれ、閃光と共に膨れ上がるようのして爆ぜ、横転する最中、彼らは、どこか現実離れと思えるような感覚で目の前の虐殺の目撃者となった。
アルモスの脳内が最期に知覚した思考は、この一方的な攻撃が航空攻撃によって引き起こされた事象である事であった。これ以上の思考が続かなかったのは、彼が傍観者ではなく当事者になった為である。
〈ミール〉に到達したASM-2の数は2発であった。
うち1発のミサイルは急上昇の後に彼女めがけて急降下し、左飛行甲板に貼られた対魔弾鋼鉄装甲をティッシュペーパーの如く貫通し、何が起こったかわからないまま竜騎士達が待機していたワイバーン厩舎にて爆発した。
まず炸薬によって待機していたワイバーンロードが吹き飛ばされ、原型すら留めないままで隔壁ごと海中に叩きつけられた。
追い討ちをかけるように残燃料の爆炎が吹き荒れ、耐燃焼性を考慮して設計された木造の船体を嘲笑うように焼き尽くした。この時点でアルモス以下の司令部は全員、爆発によって生じた無数の破片によって引き裂かれ、全員即死していた。
彼女に破局を齎した1発目着弾の数秒後、介錯するかの如く船体中央に2発目が同じコースを辿って着弾した。これは艦中央部までめり込んだ後、彼女が大型艦だったが故に辛うじて健在だった竜骨を始めとした船体構造を完膚なきまでに破壊し尽くした。
〈ミール〉が完全に海中へと没したのがこの12分後であった。周囲には彼女の残骸に必死にしがみつく水兵で溢れかえっていた。救助する艦は存在しない。周囲に存在する皇国軍艦艇の全てが、この〈ミール〉が轟沈するまでの12分間で沈んでいた為だ。
結果、長時間の間直接海水に晒され続けた無数の乗組員は、その殆どが衰弱するか海魔の餌となった。僅かにフェン王国沿岸へと流れ着いた者も存在したが、住民に保護された者は数える程度であった。
この眼下にて繰り広げられた惨劇に何ら対処出来なかったワイバーンロードの竜騎士達も母艦と同じ運命を辿った。護衛機のF-14J改Ⅱによって放たれたAAM-4Bは正確に目標をシーカーに捉え、彼等竜騎士を乗騎諸共黒い花火に変えた。
皇国軍がこの事実を確認する事が出来たのは、通信の途絶を疑問に思った総司令官のシウスが派遣した4隻の戦列艦により、一連の戦闘の残骸が発見された時であった。
1時間後 ゴトク平野
航空支援を要請していた竜母艦隊から連絡が途絶えたが、この段階で作戦を中止する選択肢は存在しなかった。ベルトランは不確定要素を考慮しつつ、隘路から抜けたばかりの陸戦隊へゴトク平野への進出を命じた。
先頭には地竜32頭を立たせ、歩兵から砲兵の盾として運用していた。
強固な外皮によってフェン王国等の文明圏外国で運用されている弓矢での撃破が困難とされる地竜が地を踏み鳴らし進撃する様は、ベルトランを始めとした将兵の精神安定剤と化している。
「支援の戦列艦20隻、目視で確認しました」
側で書類を持ったヨウシがそう告げた。同じように確認すると、沖合に皇国の旗を掲げた戦列艦が見えた。既に砲門を開いて支援の準備を整えている。
その様子を一瞥したベルトランは、安堵したような表情を見せた後に命じた。
「よし、航空支援こそないが、これなら前進も可能だろう。総員進撃せよ」
司令官の一言により奮起した陸戦隊は前進を続けた。ベルトランは士気向上を目的として占領地における住民の扱いを部下に一存していた為、その勢いには些か獣欲めいた者が混じっていた。
しかし、彼らの進軍は途中で停止する事となった。
首都アマノキにて揚陸を完了し、ゴトク平野方面に展開していた陸上自衛隊第一大隊戦闘団所属の86式戦車1個小隊4両が、皇国軍に対する威力偵察を目的として接近していた為であった。
前方にて地竜を操っていた兵士が、突如として進行方向から響いてきた異音に気が付いた時には既に遅かった。
地竜を重大な脅威として認識した偵察小隊は、巧妙に車体を稜線に隠しながら射撃を開始した。
稜線から閃光が瞬くと同時に、前方を進撃してた地竜4頭が爆ぜた。
西側戦車が使用する弾薬としては些か旧式めいたJM33装弾筒付翼安定徹甲弾は、精々が弓矢程度の防弾装甲しか有さない地竜の身体を容易に貫通した後、地竜に盾としての能力を期待していた戦列歩兵の群れへとその運動エネルギーを叩きつけた。
兵士らが驚く暇すら無く、4秒の間隔にてもう4頭の体が抉れた。
ようやくベルトランが状況を把握出来たのが、合計で12頭の地竜が撃破された後に、偵察小隊の86式が陣地転換を行なっている最中であった。
「あれは……敵の地竜か!?」
ベルトランは混乱する思考の中で最適解に近い解答を出した。続いて怒鳴るようにして、側に控えていた魔導通信士に命じる。
「即座に沖合の戦列艦に連絡を取れ!砲撃支援要請、あの地竜を魔導砲にて撃破しろ!」
上官の怒号にも近い命令を受け取った通信士が焦燥に駆られながらも連絡を取ろうとしたが、突如として上空から飛来した轟音によって中断を余儀なくされた。
頭上を見上げる。灰色の機体に赤い丸を描いた機体が緩降下を開始していた。
〈おおすみ〉所属のFV-1J改8機が、翼下パイロンに4発のAGM-65F空対艦ミサイルを搭載して、航空攻撃なんて想定すらしてこなかった戦列艦20隻へと襲いかかったのはその直後であった。
あくまで小型艦艇を目標に導入されたAGM-65Fであったが、超音速で飛翔する対艦ミサイルに対する防御なぞ想定していない戦列艦相手には十分であった。
ベルトランが想定外の事態に困惑する中、彼の目に映ったのは一切の回避行動すら行えないままに誘導弾が直撃して轟沈する戦列艦の様子であった。
「……戦列艦、全滅しました」
ヨウシが顔面から血の気を引かせながら、どうにか眼前の惨劇を報告した。その声で幾分か正気を取り戻したベルドランは、震える声を抑えながら命じた。
「総員、防御体制を取れ。散開せよ」
このまま無闇に進軍しても全滅して終わる。そう判断したベルトランは損耗の抑制を図るべく行動した。
普段はマスケット銃の集中射撃を考慮して密集体系を取る戦列歩兵らが困惑しながらも散開し出したのもこの直後であった。彼の命令から1分も経たないうちに前方で1発の砲弾が爆ぜた。
数分後、地上を耕すような砲撃が陸戦隊の頭上に降り注いだ。部隊支援用に持ち込まれていた94式自走榴弾砲1個中隊6門による同時弾着攻撃である。
統一戦争前、数量に劣る陸上自衛隊特科部隊が人民赤軍の砲火力に対抗すべく射撃速度と射程、高精度を追求し、終ぞ統一戦争に参加することこそ叶わなかったものの、戦後の陸自特科戦力の根幹を担う主力自走榴弾砲として配備された本車によるクラスター砲弾の雨に対し、陸戦隊3000は何ら有効策を打てなかった。
上空からばら撒かれるように投射されたクラスター砲弾は、丁度兵士の密集していたベルトラン達陸戦隊司令部の頭上で炸裂した。
砲撃から身を隠すだけの壕を構築する暇すら与えられなかった彼等は、地上にて炸裂した無数の子弾の炸裂によって絶命した。
同時に、指揮官を失った事の把握すらままならない陸戦隊を襲ったのは、普通科大隊所属の120ミリ重迫撃砲の猛射であった。
点での攻撃より面での制圧に特化した迫撃砲による砲撃が加わり、その度に無数の兵士が吹き飛ばされる。
10分後、永遠にも続くと思われた鉄の雨が止んで、生き残った将校が何とか部隊を掌握し終えた際、陸戦隊に残された戦力は激減していた。
軽傷者含め戦闘可能な人員が500まで減少し、それ以外の殆どが死傷した陸戦隊に統率した行動を行うのは不可能だった。
降伏すら行えないほどの混乱の渦にいた彼等に終焉を告げたのは、仕上げと言わんばかりに移動を開始した第1大隊戦闘団本隊による攻勢であった。
86式戦車1個中隊を盾として押し出した彼等の攻勢に対抗し得る戦力は存在しなかった。
地竜は殆どが砲撃によって撃破又は無力化されていたし、魔導砲も殆どが砲手ごと吹き飛んでいた。
僅かに生き残った魔導砲が絶望的な抵抗を見せようとしたが、照準を合わせようして重機関銃に薙ぎ払われ、これとほぼ同時に陸戦隊は組織的な抵抗力を完全に喪失した。
まばらに生き残った兵士らが自衛隊に投降し始めたのが、最初の戦車による砲撃の1時間後であった。
自衛隊側はなるべく投降した将兵の保護に努めた。抵抗する気力の失せた兵士が殆どであったので、その収容作業は驚く程順調に進んだ。
陸自は事前偵察にて今撃破した敵が主力であることは把握していた。
大隊本部として使用されている指揮通信車の内部にて戦闘の終結を確認した大隊戦闘団指揮官の天野2佐は、現在アマノキにて退避している姪夫婦に危害が及ばなかったことを安堵し、深く息を漏らした。
しかし、その事実を知る者は指揮通信車内部にしか存在しない。
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2時間後 ニシノミヤコ沖合
この時、パーパルディア皇国第二次フェン王国懲罰艦隊の間には奇妙な空気が流れていた。
突如として哨戒中のワイバーンが消息を絶った点と、陸戦隊からの連絡が途絶えた点、そして竜母艦隊が何の反応も見せずに消えた点であった。
「指定海域に急行中の戦列艦4隻より報告、付近に無数の木片が浮遊中。同時に、我が軍将兵と思わしき遺体が多数浮遊との事です」
「分かった。生存者がいたら可能な限り救助するよう伝えろ」
本艦隊の総司令官であるシウスは、部下から齎された絶望的と思える報告に言葉を失いそうになりながらも、何とかそれを堪えて重苦しく答えた。
旗艦たる超フィシャヌス級戦列艦〈パール〉甲板上にて指揮を取っていた彼にとって、この数時間で皇国海軍が経験している事態は想像の範疇を超えていた。
つい2時間前、彼の上空を哨戒中であったワイバーンが突然爆散したのは記憶に新しい(シウスは終ぞ知ることは無かったが、この攻撃は航空護衛艦〈ひりゅう〉艦載機であるF-14J改Ⅱ4機によって実行されたものだった)。
彼は、自分らが想像もつかない存在と敵対してしまったのではないないかと焦燥に駆られた。
彼の思考は中断された。マストにて監視を行っていた見張り員が劈くような声で叫んだ為だ。
「ほ、報告!南西方に未確認艦11!いずれも大型艦です!」
彼は見張り員が驚愕の目で見つける方角に目を向けた。
そして、今度こそ本当に言葉を失った。
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20分後
艦内で最も分厚いヴァイタル・パートに防御されたCDC内は薄暗い灯りに包まれていた。
各員が戦闘配置に着いた室内では、逐一外部の情報が流れ込み、それを的確に処理し、分析する作業が絶え間なく行われている。
〈やまと〉砲術士としてこの室内でコンソールの管制を行う藤堂未来2尉も同様に配置に着いていた。彼は戦闘時、両舷に無数に林立する副砲群の一部の管制を任されていた。
「敵艦隊、徐々に戦闘隊形に移行しつつあり。砲撃開始距離まで残り2マイル」
「針路そのまま。両舷前進、最大船速」
周囲ではありとあらゆる号令が飛び交っていた。当然かも知れなかった。
護衛艦としての再就役以降、幾度となく省人化を繰り返してきた〈やまと〉でこそあるが、搭載する火器の膨大さからかCDC内にて勤務する人員の数は護衛艦の中で最多であるからだ。
彼は一旦顔を上げた。室内で一際存在感を放つディスプレイが視界に映った。CDC内の全員が確認出来る位置に設置されたそれには、こちらの艦隊の現在位置が記されている。
現在、〈やまと〉が指揮下にあるのがフェン王国沖に派遣された第2機動任務群であった。
本部隊は航空護衛艦〈ひりゅう〉、〈ほうしょう〉を中核とした総数21隻の空母機動部隊であり、うち〈やまと〉を中核とした11隻の分遣隊がパーパルディア皇国軍撃滅の為にニシノミヤコ沖に展開していた。
この中で最も強固な装甲を誇る〈やまと〉を先頭にして、
〈こんごう〉級護衛艦〈きりしま〉
〈あたご〉級護衛艦〈たかちほ〉、〈はぐろ〉
の3隻のミサイル護衛艦。
〈むらさめ〉級護衛艦〈むらさめ〉、〈はるさめ〉、〈いかづち〉、〈あけぼの〉、〈ありあけ〉〈ながつき〉級護衛艦〈ながつき〉、〈くれづき〉
の7隻もの汎用護衛艦が単縦陣にて航行していた。
残りの3隻のミサイル護衛艦と汎用護衛艦、2隻の打撃護衛艦は航空護衛艦2隻の護衛艦として後方に下げられている。
数的に言えば決して優勢とは言えない規模であったが、この艦隊に参加する自衛官らは敗北することを微塵も想像していなかった。
事前の戦闘において既存の攻撃が有効であると判断された為である。ならば自衛隊の敗北はあり得ないと見ていいだろう。
未来が他の自衛官と同様に勝利を確信しつつ、しかし実際に引き金を引く人間として緊張を覚えていたのを自覚した時、CDC中央にて指揮を取っている艦長からの号令が飛んだ。
「本艦射撃予定距離に接近、総員対水上戦闘用意」
これを受けて復唱と命令が全てのコンソールから響いた。
「総員対水上戦闘用意、全対艦兵装自由」
「両舷76ミリ砲、対艦砲弾装填用意」
「90式CIWS対水上モード。対艦徹甲焼夷弾装填用意」
「ファランクス対水上モード。レーダー用意」
「両舷203ミリ砲、対艦砲弾装填完了」
「1番主砲塔、砲弾装填完了」
「続いて2、3番砲塔、砲弾装填完了」
「機関全速。現在、速力31ノット、増速中」
「各砲最適射撃位置まで後4分」
「全対艦系統異常なし。対水上戦闘準備良し」
艦長は満足げな笑みを浮かべた。待ち望んだ瞬間はすぐにでも訪れた。シナプスが伝達しうる最大限の速度でそれを確信した彼は叫んだ。
「打方始め!」
「打方始め。各砲塔射撃開始」
CDCの水上区画から復唱が鳴り響いた。同時に、甲板作業員の退避を促すアラームが鳴り響く(尤も、戦闘行動中の〈やまと〉甲板からは全乗組員が退避していたのだが)。
未来は与えられた命令を復唱し、各個にて割り振られた標的に対する射撃を開始すべく、備え付けられていた発射トリガーを引いた。
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1分後 ニシノミヤコ沖合
その戦艦が眼前に思える距離まで接近した時、状況は急激に進展を見せた。
彼女がその長大な主砲を回転させたかと思うと、皇国海軍の有する魔導砲の最大射程圏外から砲撃を開始したのだ。
〈やまと〉発砲から数秒後、シウスの目前にて無数の水柱が林立した。〈やまと〉の砲撃によるものだった。彼の目には、着弾の衝撃にて横転しかかった多数の戦列艦が映った。
「馬鹿な……!?」
驚愕する合間にも、彼の指揮する皇国海軍は一方的に打ちのめされていた。
何とか戦列を維持して砲撃を仕掛けようとした戦列艦に76ミリ砲弾が直撃し、内部構造物と人員を滅茶苦茶にするかの如く炸裂した。
80式203mm60口径副砲による猛射が直撃した戦列艦など、その直撃箇所が抉れるように消失していた。単縦陣を敷いて航行する護衛艦の主砲が瞬く度、それと同じ数の戦列艦に閃光が走った。
最も悲惨であったのが、〈やまと〉の81式460mm60口径主砲3基9門に装填された榴散弾の直射を受けた戦列艦であった。ロデニウス沖海戦の結果を総括した海上自衛隊は、対地制圧用に開発していた榴散弾を対艦用途へと転用していたのだ。
予め定められた時限信管を炸裂させショットガンの如く放たれた弾子の、横殴りの暴風を浴びた戦列艦は、その船体に無数の破口を形成し、同時に内蔵された焼夷弾殻による燃焼によって艦内の全てを破壊し尽くした。
不幸にも最初に直撃を受けた100門級戦列艦の1隻は、一撃で蜂の巣のように船体に風穴を開けさせられた後、原型を留めぬまま黒煙と炎を噴き出すのみの存在と化して海中へと没した。
悪夢。皇国の歴史においてこれ程の悪夢が存在し得ただろうか?このように一方的に、反撃する暇すら与えられない程に叩き潰されるなど、あってはならない。あってたまるか!
シウスは叫びたくなった。発狂しそうであった。そしてそれは、旗艦〈パール〉艦長のダールも同様であった。戦闘開始から既に10分が経過していたが、既に100隻近い戦列艦が戦闘不能と化していたのだ。
彼に取っての終焉はすぐに訪れた。シウスには眼前の戦艦の主砲が自艦に向いているのに気がついた。長い棒のように見える主砲が回転し、点のように見える位置で停止した。
彼は声にならない叫び声を上げて艦長のダールを甲板に押し倒し、その上に覆い被さった。だが不幸だったのが、彼の行動は砲撃に対し何の意味も持たなかった点であった。
数秒後、〈パール〉に〈やまと〉主砲による砲撃が直撃した。皇国海軍において最も強固な防御を誇る戦列艦は、その舷側装甲を紙の如く引き裂かれながら消失した。無論、生き残った人間と呼べるべきものは存在しない。
旗艦〈パール〉の轟沈から30分後、パーパルディア皇国海軍183隻の全滅を持って海戦は終了した。フェン王国の戦いと称された戦闘はこの瞬間を持って終了し、残存していた皇国軍兵士はフェン王国側に投降した。
多くの者たちが、幻想を抱く暇もないうちに狂い、傷つき、倒れていった。
総数にて20万人近い皇国兵が、ニシノミヤコ沖に血肉を撒き散らし、海の一部となった。
彼等は皇国人として生まれ、魚の餌として死んだ。
この年、ニシノミヤコ沖の漁獲量は平均値を遥かに超えた。
〈ひりゅう〉級航空機搭載護衛艦→征途作中に登場する〈しょうかく〉級航空機搭載護衛艦の後継として建造された艦。〈しょうかく〉級に近い排水量9万トンの船体に4基の電磁カタパルトを搭載した大型空母。同型艦は〈ひりゅう〉、〈そうりゅう〉。
94式自走榴弾砲→史実の99式榴弾砲。北日本の砲火力に対抗するべく開発された自走砲。性能的には史実の99式と同一。
次回更新は少し遅れます。ご了承ください。