征途日本召喚   作:猫戦車

13 / 34
ちょとレミールの知能指数を下げすぎた気がしました。もうどうしようもないので彼女にはこのまま突っ走ってもらいます。


反応

パーパルディア皇国 首都エストランシスト 第一外務局

中央暦1640年/西暦2022年 1月28日

 

 パーパルディア皇国軍フェン王国懲罰部隊壊滅の一報が入った直後、第一外務局の一室に鳴り響いたのは、棚に飾られていた白磁の食器が無惨にも割れ、極めて手入れの行き届いた床へと無数の破片を散らす音であった。

 

 室内にて会議を行なっていた無数の局員、そして凶報をこの場に居合わせる全員に伝達した若手局員の視線がある一点に集中する。

 

 無数の破片が足元に散らばるのを気にも留めず、般若にも喩えられる程に顔を歪めた彼女……女性皇族であるレミールが立っていた。

 

「れ、レミール様。そこは破片で危のう御座います。如何か其処から御避けになって……」

 

「そんなことはどうでも良い!!」

 

 異様な雰囲気を纏った上司に恐れ慄きつつも、周りに皿の破片が散らばる中に佇むのを見かねた若手幹部の忠言をレミールは一蹴した。

 

 続けて、怒気を露わにして言い放つ。

 

「一体これはどういう了見だ!?高々蛮族相手に、この皇国が敗れただと!?アルデ!!」

 

 彼女の怒りの矛先は、実質的な皇国軍最高指揮官であるアルデへと向けられた。

 

 想像外の報告で一時的に静止状態に陥っていた彼は、自らの上司でもある若き女皇族の罵声に対し、混乱でしどろもどろになりつつも答えるしかなかった。

 

「大変申し訳御座いません!直ちに軍を再編し、万全を尽くしたのち、今後二度とこの様な事態に陥らぬ様最善を尽くします!」

 

「相手の戦力を見誤るからこの様な事態に陥るのだ!おのれ、蛮族共め……!」

 

 レミールの怒りは止まる事を知らなかった。

 

 頭部へ血液が昇り、両の目の血管がくっきりと血走っている。そんな凶相とも言うべき有様の主君が当たり散らす様を、第一外務局長のエルトは一歩引いた場所からため息混じりに眺めていた。

 

 この日、パーパルディア皇国における外交・軍事部門の重鎮と言える閣僚が第一外務局長室にて会議を行なっていたのは、フェン王国陥落を見据えて今後の戦略を練るのを目的としてだった。

 

 フェン王国首都アマノキの陥落後、残っていた日本人をどの様に殺すかについてレミールが熱弁していたのが、今からちょうど数えて10分程前である。

 

 薄々、カイオスが第3外務局長を更迭された時から嫌な予感はしていたのだ。そしてそれは現実のものとなって彼女の目の前に立ち塞がった。フェン懲罰部隊の壊滅と共にだ。

 

 おまけに、直前には次長ハンスからムーに関する緊急報告書を受け取り、フェン王国での戦闘で日本が勝利するという予測をムーが立てていると把握したばかりである。

 

 まさか、報告からそう間の開かないうちに結果が降りかかってくるなど、いくらなんでも予想外だ。

 

 あの時、この感情が知性に優越した女性皇族が第一外務局にまで押しかけ、文明圏外国相手に無駄なリソースを割くなと言って日本に対する調査を中止させなければどうなっていたのであろうか?

 

 少なくとも、フェン王国内の日本人を皆殺しにするという馬鹿げた案が採用されることはないだろう。

 

 彼女は皇国に忠を誓った官僚であったが、自国の横暴とも呼べる所業に眉を顰め、なるべく自重させるよう努めるだけの理性は持ち合わせていたのだ。

 

 緊急報告書には(彼女ら外務局の一部が危惧していた通り)ムー国による関与が疑わしいとの記載があった。

 

 これが本当ならば、皇国軍のあらゆる装備が日本に対して劣っているという事実となる。

 

 いや、もっと酷い事態になるかもしれない。

 

 何故なら、彼女がレミールによって破棄される前に集めていた資料の中には、まるで古の魔法帝国を彷彿とさせる兵器群の存在すら示唆されていたのだから。

 

 エルトが今後の対応についてどの様にするか頭を悩ませている最中、突如として何か思い立った様にレミールが叫んだ。その目には狂気が宿っていた。

 

「よろしい、殲滅だ、殲滅戦だ。日本国という存在を、未来永劫根絶やしにしてくれるわ!」

 

彼女は感情のマグマで焼け爛れた脳から考えうる限りで最悪の結論を導き出した。

 

「エルト!」

 

「は、はい!」

 

 レミールより怒りの矛先を向けられたと錯覚する程の怒号を受けたエルトは思わず上擦った声をあげた。

 

「これ以上の敗北は皇国を根底から揺るがしかねん。私は陛下に殲滅戦の許可を貰いに行く。直ちに準備を開始しろ!アルデもだ!」

 

 誰もが反対する暇すら与えず、極めて感情的な態度を持ってレミールは部屋から退出した。急にしんと静かになった室内には、ただ口を噤んだままの外務局員が残された。

 

 エルトは思った。ああ、もうこれは駄目かもしれないな。落とし所が無くなってしまった。

 

 後の歴史において、最悪と評される決定が下されたのはこの直後の出来事であった。

 

 感情の赴くままに皇帝から許可を取り付けたレミールは、は日本国大使を外務局まで呼び付け、日本民族に対する民族浄化を宣言したのだから。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ムー国 首都オタハイト ムー総括軍本部

中央暦1640年/西暦2022年 2月1日

 

「現在、我が国が置かれている状況にはいくつかの誤解が存在します」

 

 薄暗い室内で唯一灯りの灯っている場所……演台に立った男が、居並ぶ背広姿の男の群れに向かってそう言った。

 

「特に、依然として旧レイフォル領を占領している第八帝国について、最も大きな誤解が存在しています」

 

「今日明日にでもムーに侵攻するとでもいうのかね?マイラス大尉」

 

 誰かが質問した。どうにも疑わしい、そう言わんばかりの声色だった。

 

 質問を投げかけられた演台上の男……ムー総括軍所属、マイラス・ルクレール大尉は、これ以上口を挟まれぬよう早口で返した。

 

「いえ、流石に今日明日に攻め込むといった事態はあり得ないでしょう」

 

 しかし、彼はそう前置きして告げた。

 

「1年後2年後にどう転ぶかは依然として不明です。それにつきましては後程ご説明致します」

 

 彼がいるのはムー総括軍本部の会議室の一室である。

 

 部屋の中には前述の通り、陸海空軍から出席した様々な将官、技術士官が30名ほど、それに10名程度の政府関係者が存在する程度だ。目的は、レイフォルの滅亡による安全保障環境に対するものであった。

 

 おおよそ半年前、突如として第八帝国、またの名をグラ・バルカス帝国と名乗る新興国家がレイフォルに宣戦布告し、わずか1週間足らずにレイフォル正規軍を撃滅した後、その全土を占領したのが発端であった。

 

 レイフォル属国のパガンダ王国の致命的なまでの愚行によって生じたこの戦争により、今まで周辺に対等な軍事力の存在しなかったムーの安全保障環境は劇的に変化した。

 

 瞬く間に正体不明の軍事国家と国境を接することとなったのである。

 

「率直に申し上げますと……我が国の防衛戦力に問題があります。このままでは、我が軍はなんら有効打を与えぬまま国土を失陥する可能性すら存在するのです」

 

 マイラスは配布された資料のページをめくるように指定した。殆どの者が言われたページをめくると、そこには一枚の魔写が印刷されていた。

 

 そこに写っていたのは一隻の戦艦であった。ムー国の保有するそれではない。極めて重厚な艦橋に、無骨ながらも美しさを感じさせる細長い船体、何よりサイズが違った。

 

 魔写に写された戦艦は、自国の保有する〈ラ・カサミ〉級戦艦の倍以上の全長を有していたのだ。

 

「それはレイフォル沖で魔写で撮られたものです。赤い丸に白の十字が入った旗を掲げている以上、これは件のグラ・バルカス海軍のものと考える他ないでしょう」

 

 室内に広がったどよめきが収まった後、マイラスは続けた。

 

「少なくとも、この戦艦は40センチ以上の砲を搭載していると見ていいでしょう。なんせ、目測で280メートル以上はあるのですから。おまけに速力も30ノット以上を確認しています。我が国の戦艦では、射程内にすら辿り着けずに全滅する可能性すら存在します」

 

 海軍関係者からため息のようなものが漏れ出た。自らの海軍がこの戦艦に相対した際、戦闘がどのように推移するのか容易に想像がとれたのだ。

 

 恐らく、栄光のムー機動部隊は戦艦一隻に追いつけすらせず、射程外から一方的に叩かれて終わるだろう。そうなる確信があった。

 

「更に、彼の国は航空戦力においても優越している可能性が存在します。我が国に亡命してきた旧レイフォル軍士官の一部の話では、ワイバーンロードの2倍以上の速度で飛翔する飛行物体により制空権を奪われたとの報告が上がっています」

 

 マイラスの発言を聞いた空軍将官の1人が、資料に添付されたスケッチを一瞥し、小さな叫び声を上げた

 

 そこには、ムー国において実験機段階の全金属翼製単翼機が簡易的ながらも明確に描かれていたのだ。

 

「つまり……我々のマリンでは勝ち目は無いという訳だな?」

 

「ええ。精々が時速380キロのマリンでは、最低でも500キロ以上の高速が予測される帝国機相手では勝ち目は薄いでしょう」

 

 顔を青くした空軍将官の質問に、マイラスは全く正しいことを言うような態度にて断定した。そして、その内容は寸分違わない事実であった。

 

「陸についても同様です。彼らはこの数ヶ月でレイフォルに少なくとも30万強の陸軍部隊を送り込んでいます。先程と同じくレイフォルでの生き残りによる話では、帝国は我が軍における戦車に相当する兵器を実戦に投入しております。それが30万以上、増加規模を考えるならば最大で70万を超えるかもしれません」

 

「我が陸軍も予備役を加味するならば100万近く動員できるだろう」

 

「歳を取り、家族を持った、最新の軍事技術を知らない男たちが100万です」

 

 マイラスは断言した。

 

「数ヶ月の教育を加味すれば実戦投入も可能でしょうが、彼の国の侵攻速度を考慮すると動員中に戦争が終わりかねません。おまけに、我が軍の最新装備も帝国に対して優位であると言い難い。何より、航空戦力に劣っている以上は数の有利も減殺される場合があります」

 

「じゃあどうすればいいのだ!」

 

苛立ちの混じった1人の陸軍将官の声に、マイラスはそれを待っていたと言わんばかりに返した。

 

「帝国は我が国より進んだ技術を有しております。この技術的劣勢を覆すため、私は日本国との軍事協力を締結することを提案します」

 

 今度は政府関係者の方からどよめきが上がった。外務省から出向してきた官僚の1人が反論した。

 

「今まで我が国は永世中立国として成り立ってきたのだぞ。それを手放すのー」

 

「最初に申し上げた通り」

 

 マイラスはそれを強い口調で遮った。

 

「かの帝国は現在、我々単独では対抗不能な程の戦力を保有しており、尚且つ今後どのような行動を起こすか不明です。最悪の場合、資源や労働力確保を目的として我が国に侵攻する可能性すら存在します。彼らの兵器は我々と同じ、化石燃料で動くと予想されてますからね」

 

「すまない、疑問があるのだが。なぜ日本なのだ?」

 

「それには理由が有ります」

 

 マイラスは続けた。

 

「彼の国は我々を軽く凌駕する程の軍事技術を保有しています。場合によっては、かの魔法帝国に匹敵すると予想される程の。少なくとも、我々が調査した範囲では第八帝国が衛星軌道に何か打ち上げた話も、正確無比な誘導弾を配備しているという報告は上がっておりません……まあ、そのうち出てくるかもしれませんがね」

 

 畜生、なんて連中だ。

 室内から技官を中心に悔し混じりの声が上がった。

 

「日本は先に上げた2つを両方とも保有しています。勿論、我々の延長線上に存在する技術も。これを活用しない手は有りません。彼の国には技術の拡散を防ぐ法律が存在すると確認されていますが……同時に、彼の国はロデニウス大陸の2カ国に対して軍事協力を行っています。ならば、我が国にも交渉の余地はある筈です」

 

話は続く。

 

「彼の国は貿易立国ですから、第二文明圏が安定していないと商売にならないことを理解していないとおかしい。そこをうまく活用すれば軍事協力まで漕ぎ着けるかもしれない。いや、最悪情報共有のみでもいいのです。何故なら、今存在する国家の中で最も情報収集に長けてると言っても過言では無いのがあの国なのです。なんせ、この星の軌道を支配しようとしているのは彼らなのですから」

 

質問が発せられた。

 

「具体的にどうするのだ?」

 

「それについては今から説明いたします」

 

 マイラスは一度、深く息を吐いたのちに話し始めた。

 

「まず空軍に関してですが、現在のマリン後継機として、1000馬力級エンジンを搭載した全金属単葉機を来年末までに初飛行させます。エンジンを筆頭に一部日本からの技術協力が必要とのとこですが、かつての日本が保有していた機体の設計を流用できるよう交渉が成功すれば、いくつかの遅延があったとしても十分に可能との報告が出ております。これと並行して日本から戦闘機を含む航空機を輸入し、前者のマリン後継機を数的主力、後者の輸入戦闘機を質的主力として並行配備することを目標とします」

 

次にですが、彼はそう言って続けた。

 

「海軍艦艇に関しては、一部艦艇の日本でのFRAM(近代化改修)を行い、同時に彼の国の旧式艦を輸入し、そのノウハウを取得するのを目標としましょう。艦隊の更新にはどうしても時間が掛かりますが、我々に10年20年と時間をかけて艦艇の更新を行う余裕はありません。ならば、一部の艦をこれからの戦闘に耐えうるべく改修し、それにより得られたノウハウを海軍内で共有することで、仮想敵に対してある程度の対応が可能とするべきです」

 

「私も使節団の一員として派遣されたことがあるが、我々の装備と彼らの装備は相当に違うぞ。本当に上手くいくのか?」

 

「仰る通り、我々が日本の装備を上手く扱えるとは限りません。しかし、今からグラ・バルカス相手に優位に立てる艦艇の整備が我が国の独力では難しい以上、日本と共同して改装艦艇を整備していく他無いと思います。最悪、元の船体に高射機関砲を据えつけるだけでもいいのです。我が国のそれより、ずっと高性能でしょうから」

 

 マイラスはそう言ったのち、しんと静まりかえった聴衆の方を眺めた。ようし、誰も俺の発言を聞いてるな。日本から帰ってからこの時のために色々手を回していたんだ。お陰で、日本への観戦武官には行けなかったけど。話は続く。

 

「多分、1番上手くいくのは陸軍装備関連でしょう。小銃や機関銃、あるいは戦車や榴弾砲といった装備は、海空のそれに比べて比較的扱いが容易ですから。もっとも、この手の兵器は相当数を導入せねばなりませんから、必然的に我が方のそれとハイローミックスになるでしょう。向こうから各種旧式兵器を輸入し、同時に新型をこちらで開発、並行配備する。流れは前の2つとそう変わりません」

 

マイラスは言葉を切って周りを見渡した。さて、信じてもらえたか?

 

 反応はなかった。皆一様に、何か重大な決断を迫られたような顔をしていた。それをじっくりと見たマイラスは、最後の一押しと言わんばかりに言い放った。

 

「これらが行われなければ、数年以内にムーは滅亡します。御清聴ありがとうございました」

 

 室内にまばらな拍手が響いた。




ムー→原作より危機感強め。今の段階で強化しないと今後やりたい展開が破綻しかねないので日本からの技術導入によって各種新兵器を開発、導入することで強化することにした。〈ラ・カサミ〉改は経緯やスペックこそ違うものの登場させる予定。

グラ・バルカス帝国→これも原作から大きく改変予定。原作通りだと日本がただボコボコにして終わるので、色々と強化する予定
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。