征途日本召喚   作:猫戦車

14 / 34
読者の皆様から評価や感想をくださって本当に嬉しく思っています。これからもご愛読いただけると幸いです。


前夜

旧アルタラス王国 首都ル・ブリアス ハイペリオン基地 属領統治機構

中央暦1640年/西暦2022年 4月22日

 

 パーパルディア皇国陸軍、在アルタラス統治機構軍に総数1万近い増援が到着し、その収容を完了したのは、この日の午後の日の傾き出した時刻であった。

 

 彼らは3日前にアルタラスへと上陸し、首都ル・ブリアス近郊に仮設されていた駐屯地へと移動した。

 

 元々の5000名近い陸戦兵力に加えられたそれらと、航空戦力の増強として派遣されたワイバーンロード120騎強により、旧アルタラス領に駐留する皇国軍の戦力は以前と比較するまでもなく圧倒的なものになったと言えるだろう。

 

 在アルタラス統治機構軍総司令のリージャック陸軍中将にとって、内地の戦力を引き抜く形で派遣されたこれらの増派戦力は心強いように思えた。

 

 火力の根幹たる無数の魔道砲に、総数200頭を超えるリンドブルム……諸外国において地竜と呼称されるそれの存在は、彼に絶対的な勝利を確信させるに足るものであった。

 

 同時に、彼は何故これ程までの戦力がこの島に送られたのかに対して一抹の不安を覚えた。

 

 通常の蛮族相手にこれ程までの兵力は必要無いであろうし、先のフェン王国の件もある。まるで他の列強国と戦争するかのような緊張感が彼にあったのだ。

 

「まったく、先が思いやられる」

 

「中将、どうしてそうお思いで?」

 

 彼の誰に聞かせるでも無い呟きに、つい先程急激に増大した事務処理を終えた副官が問い掛けた。その目には疲労が滲んでいる。

 

 急遽派遣された1万以上の大軍の統率など、世界に冠する五大列強の一角とはいえ骨の折れる作業であった。

 

「先のフェン王国の一件だよ」

 

 リージャックは淡々と話した。

 

「フェン王国相手にあそこまでの敗戦を喫するとは前代未聞だ。どう考えても普通では無い」

 

「他の列強国、例えばムーの戦闘機械が使用されたのでは?」

 

「それだけでこれ程の惨状になるとは思えん」

 

 彼の考察を疑う副官に対し、リージャックはそう返した。話は続く。

 

「ならば魔法帝国でも復活したのかと思ったが、それならば今頃世界はコア魔法に焼かれているだろう。しかし、ならば我々が敵対している存在はなんだ?」

 

「確かフェンで交戦したのは日本国という文明圏外国と聞いておりますが……」

 

「ああ、普通なら皇国を一時的にも打ち破るほど強力な国家に気付かない筈がないんだがな」

 

 一拍の間の後に、リージャックは話を続けた。

 

「これ程の戦力だ、次の戦は間違いなく勝てるだろう。だがな、正直に言えば、私は不安で仕方ない。祖国がどうも間違った道を歩んでいるような気がしてならん。未だにルミエスを見つけ出せんこともそうだ」

 

「ルミエス旧アルタラス王国王女に関しては全力で捜索を実施していますが……どうにも成果が上がりません」

 

「恐らくは既に海外へと逃亡したのだろう。まったく、これでは統治が上手くいかんぞ」

 

 2人は揃って眉間に皺を寄せた。数ある悩みの種のうち、フェン王国の件を除けば最も大きな課題と言えるのがこの件だった。

 

 パーパルディア皇国はアルタラス侵攻後に王族の全てを処刑したものの、国王の娘であるルミエスに関しては取り逃していた(この時点でリージャックは把握していなかったが、ルミエスは侵攻直前に民間船に偽装した船舶にて脱出、幾らかの漂流期間を経て日本に救助されていた)。

 

 これは今後の統治計画を根底から揺るがしかねない由々しき事態であった。

 

 パーパルディア皇国の統治における基礎は、言ってしまえばいかに抵抗する気力を削ぐかについてである。

 

 その手段の1つが現地統治者の徹底かつ苛烈な排除であり、そうでなければ現地民が生き残った統治者を主柱として反乱を発生させる可能性すら存在したのだ。

 

 故に、一度排除を決めたならば徹底的でなければならない。

 

 にも関わらず、その仕上げとも言える作業は全くと言っていい程進展が無かった。一応捜査は続けられていたものの、最早本来の意義を失って兵士らによる現地女性の拉致、暴行を助長する結果に終わっていた。

 

 リージャックは苛立ちを隠しきれない様子で言った。

 

「兎も角、捜索活動は怠らないよう伝えろ。それと、航空警戒の徹底と陣地構築も急がせろ」

 

 ︎︎彼が今しがた口にした事柄は、皇国が対列強戦において想定した作戦計画に沿って実行される作業の1つであった。

 

n万が一の敵上陸に備えて竜騎兵による哨戒飛行、戦列艦による洋上監視、沿岸の監視哨の設置と沿岸部への掩体の構築、これらの用意を基として敵の早期発見、撃滅を行う手筈であった。

 

 例え相手が此方より強大な陸軍だったとしても、地の利と此方の戦力の欺瞞、それと情報の伝達さえ上手く行っていれば十分に勝てるとリージャックは信じていた。

 

 それはある意味で正しいといえたが、彼が相対していた敵相手ではなんら意味をなさないものだった。

 

 彼は己の頭上に瞬く星の存在に気付かなかった。

 

 それは、皇都の天文学者において突然現れた天体として議論の対象となっていたいくつかの星の1つであった。

 

 それが転移による衛星網の喪失を復旧するために極めて迅速なペースで打ち上げが進められた偵察衛星の1つであり、アルタラスに駐留している皇国軍の動向の一切が監視されていた事実を、リージャックは終ぞ知ることは無かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

アルタラス沖北西80キロ 日本国海上自衛隊(JMSDF) 超大型護衛艦〈やまと〉艦橋

中央暦1640年/西暦2022年 5月22日 午前4:00

 

 アルタラス沖は1時間もすれば日の出が始まる時刻に到達していた。

 

 日本国海上自衛隊(JMSDF)第2機動任務群隷下の護衛艦は単縦陣を取りつつ、後続の輸送艦を先導するように航行していた。

 

 当然、戦闘態勢に移っている。艦隊旗艦の〈やまと〉は、マストに伝統の十六条旭日旗を掲げ、大和級戦艦特有の美しい曲線で構成された船体を疾駆させていた。

 

「接敵はどのぐらいになりそうかな?」

 

 その艦橋の左端にて、観戦武官として派遣されていたムー国海軍所属のミニラル大佐が双眼鏡片手にそう呟いた。

 

 眼前には未だ黒々としたままの海と、ほのかに陽光が立ち登ろうとしている地平線が見える。艦隊の先頭を突き進む〈やまと〉艦橋にて、その様子ははっきりと確認できるものだった。

 

「おおよそ1時間後になるでしょう。この艦はおおよそ25ノットで進んでいますから……日が昇る頃には戦闘が始まる筈です」

 

 ミニラルの呟きとも取れる問いにそう答えたのは、同じく観戦武官として派遣されていた戦術士官のラッサン・デヴリン大尉であった。

 

 極めて男性的な印象を抱える彼の返答に対し、ミニラルは海軍士官としては弛んだように見える体を向けて応じた。

 

「そうか、これだけの図体の割に随分早いのだな」

 

「なんせ、この船の最高速力は調子のいい時で33ノットと言っておりましたからね。正直言って、これと戦うとなるとぞっとします」

 

「同感だ。おまけにあの命中精度ときたもんだ、マイラス君がしきりに日本との関係強化を叫んでいたのにも納得がいくよ」

 

 ミニラルはそう言いながら、自身が目の前の戦術士官の友人である男の代わりに観戦武官として派遣されてからの一連の出来事……すなわち、自衛隊による圧倒的なまでの蹂躙劇を思い出していた。自然と、背筋に冷たいものが走るような気がした。

 

 彼がラッサンと共に日本へと派遣されてから目にしてきた戦闘は、それまで彼が海軍内で培ってきた常識を遥かに上回るようなものだった。

 

 自国のそれに比べて圧倒的な命中精度を誇る火砲など最たる例だ。異次元にも思える戦闘を経験した彼は、自国が日本と敵対した場合に絶対に勝てないと脳髄の奥まで刻み込まれたように思えた。

 

 同時に、彼はこうして自身の目でこれまでの事実を目撃出来たことに感謝したいとも思った。

 

 ただ日本の資料だけ渡されていたとしても、もしかしたら荒唐無稽に思えて信じきれていなかったかもしれない。ならば、これまでの記録をできるだけ詳細にまとめ上げるのが己の使命のように思えたのだ。

 

「マイラスの奴、上の頭の硬い連中をなんとか説得する必要があるって言っていましてね」

 

 ミニラルの返事に対し、ラッサンは遠い祖国で観戦武官の任を蹴ってまで日本との関係強化を買って出た親友の姿を思い浮かべて言った。その声色には何処か感傷にも似た感情が宿っている。

 

「まあ、これだけの技術の差を見せられたらそうもなるでしょう。今はあいつが上手くやってることを祈るしかありません」

 

「そうだな、ラッサン君」

 

 ところで、そう前置きしたのちにミニラルは話題を変えた。

 

「ラッサン君、アルタラス王国に駐留する皇国軍相手に、日本はどう勝つと思うか?」

 

 それは、彼らが数時間後に目撃するであろう戦闘についての問いであった。この日、日本国陸海自衛隊は依然として占領されたままであるアルタラスを解放する任を与えられ、こうして艦隊を進出させていたのだ。

 

 奇跡的ながら日本へと亡命を果たしたアルタラス王国王女を始めとした亡命政府の働きかけにより、幾つかの基地の使用許可を条件とし、日本国に対して極めて重大な害意を持つ敵の排除を目的として決行されたアルタラス王国解放作戦に際し、日本は一個機動任務群と陸上自衛隊水陸機動団約4500名を輸送艦〈おおすみ〉、〈しもきた〉、〈くにさき〉に乗せて派遣している。

 

 各種物資を積み込んだ6隻のPFI船舶(民間からチャーターした船舶)も含めれば6000名近い陸自隊員がアルタラス島に上陸する見込みだ。ミニラルは、戦術の分析を専門とするラッサンがこれらの戦力にどのような予想を立てているか把握することにしたのだ。

 

「ええと、そうですね」

 

 ラッサンは少し考える素振りを見せてから話始めた。

 

「まず、彼らの空母艦載機による徹底的な空爆、それと艦砲射撃が皇国の陸上部隊に加えられるでしょう。音速を超える戦闘機に超巨大戦艦による艦砲射撃……恐らくですが、この段階で皇国は同島における制空権を完全に喪失します。その後は陸上部隊を揚陸させたのち、首都のル・ブリアスまで部隊を進軍させると思われます。皇国の総督府や基地が集中していますから」

 

 少し会話を止め、一呼吸してから話し始める。

 

「その後は艦載機による爆撃と砲兵の支援、そして戦車を中核とした打撃部隊による攻撃で皇国主力は完全に撃滅されると思われます。そしてこれは完全に私の憶測なのですが……おそらく、首都解放までにかかる時間は上陸完了から1日とかからないでしょう。全土の解放も1週間もあれば達成されると思われます」

 

「成る程、分かった」

 

 ミニラルはラッサンの分析に納得したような表情を見せた。同じ軍人としても、戦闘の推移がそうなるような気がしていた。

 

 彼は思い出したかのように艦内にかけられた時計を眺めた。時刻は作戦開始時刻まで30分を切っていた。時計から目を離した彼の瞳に、少しばかり明るんできた空が瞳に映った。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

30分後 アルタラス島沿岸15キロ パーパルディア皇国海軍 戦列艦〈ヒデル〉

 

 夜が明け始めた空の下を、2隻の戦列艦が並び立って航行していた。パーパルディア皇国海軍アルタラス駐留艦隊所属の戦列艦〈ヒデル〉とその僚艦だ。

 

 皇国海軍の主力がエストシラントに移動を続けている最中、あくまで哨戒のためアルタラスに駐留する彼女ら2隻は沿岸監視を目的として、総数25隻のアルタラス駐留艦隊からのローテーションでの哨戒を実施していたのだ。

 

「なにか異常は見当たらないか?」

 

 皇国海軍艦艇としては比較的小柄な部類に入る50門級戦列艦の甲板上にて、〈ヒデル〉艦長のダーズがそう問い掛けた。

 

 それに対する見張り員の返答は否、普段となんら変わりないという報告であった。

 

 まあ、わざわざ敵がアルタラスまで殴り込んでくると思えない。上空を見上げれば、ワイバーンロードの哨戒飛行すら行われているのだ。

 

 この任務もいつも通り平穏で終わるだろう。彼はどこか楽観的にそう思っていた。

 

 彼はふと空を見上げた。赤らみ始めた空に2騎のワイバーンロードが飛翔していた。そして、そのワイバーンロードが同時に爆ぜたのも、彼が空を見上げた直後であった。

 

「……は?」

 

「報告!本艦右舷より高速で飛翔する物体が接近!」

 

 彼が困惑の表情を浮かべるのと、先程まであまり職務熱心とは言い難い態度で警戒監視を行なっていた見張り員が声を張り上げて報告してきたのはほぼ同時だった。

 

 この時、〈ヒデル〉含む2隻の戦列艦に高速で接近していたのは、輸送艦〈しもきた〉より発艦した2機のFV-1J改であった。

 

 翼下パイロンにハイドラ70ミリロケット弾ポッドを4基抱えている。機体はある一定の距離まで接近したのち、抱え込んでいたロケット弾を〈ヒデル〉めがけて叩き込んだ。

 

 無数の白条と共に矢状の物体が放たれ、それが右舷側の海面に着弾して無数の水柱を上げる。

 

 幾つかのロケット弾が〈ヒデル〉の船体に直撃したのは、最初のロケット弾が海面に着弾してから僅か3秒の間の出来事だった。

 

 船体に突き刺さったロケット弾は、〈ヒデル〉を前後に引き裂くように爆ぜた。

 

 数えるのも億劫になるほどの水柱が立ち昇った後、荒れた海面の上に残ったのはダーズ含む甲板乗員が全て薙ぎ倒され、船体が真っ二つに裂かれた〈ヒデル〉の姿だった。

 

 少し遅れて、僚艦も〈ヒデル〉と同じ運命を辿っていた。海上自衛隊がコストパフォーマンスを加味して実施したロケット弾による攻撃は、彼女ら戦列艦を沈めるには十分な成果を発揮していた。

 

 〈ヒデル〉はアルタラス島を巡る攻防において真っ先に沈没した艦として名を刻むこととなった。この出来事から1時間の間に、アルタラス駐留艦隊の全戦力が〈ヒデル〉と同じ運命を辿ることとなった。

 

 この〈ヒデル〉轟沈により、アルタラス島解放戦の火蓋が切られたのである。




アルタラス島の皇国軍→陸上兵力、航空兵力を原作より強化してる(なお自衛隊に勝てるとは
一言も言ってない)

ミニラル→原作ではラ・カサミの艦長を務めた人。本作ではマイラスが諸事情により本国を離れられないので代理として観戦武官として派遣された。今後のグ帝編にて活躍させようと思っている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。