征途日本召喚   作:猫戦車

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RSBC要素が増えてきたのでタグにレッドサンブラッククロスを追加します。


ビーチ・ヘッド

旧アルタラス領 ル・ブリアス近郊

中央暦1640年/西暦2022年 5月22日

 

 この日、アルタラス全土に展開する皇国軍将兵にとって考えうる限り最悪の目覚ましとなったのは、沖合に展開した2隻の航空護衛艦から発艦した戦闘機による攻撃であった。

 より具体的に言うのであれば、低空侵入を果たしたFV-2S垂直離着陸戦闘攻撃機による空爆と、追い討ちをかけるが如く発進したF-14J改Ⅱによる爆撃である。

 

 これらの戦闘機は発見による通報が追いつかない程の速度で瞬く間にアルタラス上空へと侵入し、目標地点にて翼下パイロン及びハードポイントに抱えた無数の誘導、無誘導爆弾を投下した。その殆どが目標、またはその近辺に着弾し、付近に待機していた皇国兵の大半を殺傷した。

 

 特に熾烈な攻撃を浴びせられたのが、同国首都近郊に設けられていたハイペリオン基地である。

 ここは同島に配備されていたワイバーンロードの大半が集結しているのが確認されており、故に最優先で攻略する必要があると判断されたのが主な要因だった。

 

 まず哨戒中だったワイバーンロード6騎がAAM-4Bにより数秒以内に撃墜されたのち、制空隊と交代するかのように侵入してきたFV-2Sヴァルキリー12機が瞬く間に飛来した。前進翼の機体に無数の爆弾を抱えた戦乙女の編隊は、届きもしないマスケット銃による対空射撃を意にも解さずにその暴力を解き放った。

 

 ワイバーンロード用に延長改修の施された滑走路上で無数の爆発が生じ、数秒後には同様の爆発がワイバーン厩舎にて炸裂した。アルタラス島での防空を期待されて派遣されたワイバーンロードの殆どは、その飛行性能を何一つとして活かせないままに地上で肉塊と果てたのだ。

 

現地の総司令官であるリージャック陸軍中将が奇襲に気がついたのもハイペリオン基地空爆とほぼ同じ時刻であった。彼が優秀であったのは、報告からすぐさま攻撃を日本のものと認識した点で、同時に更なる情報収集を命じたのも同様だ。

 

 熾烈にも思える空爆が去り、被害状況が彼の元へと入ってくるようになると、リージャックと奇跡的に空爆から逃れた陸軍将校らは揃って顔を歪めた。あまりにも損害が膨大に過ぎたからである。

 

 特に、航空戦力の損耗が激しかった。文字通りの全滅。つまり、皇国は同島における制空権を完全に喪失したことになる。陸軍戦力もかなりの打撃を受けており、北部基地に配備されていた1万の兵士のうち4000名が死傷、地竜の数も100頭近くまで数を減らしていた。

 

 リージャックは、北部基地の負った損害を確認したのち、海岸線に配置していた部隊に対しての連絡を取った。意外なことに、沿岸部の拠点はハイペリオン基地ほど熾烈な空爆には遭っていない。リージャックはその事実を不審に思いつつも、総数5000に地竜56頭、その他無数の魔導砲を有する沿岸部の部隊へと戦闘準備を出した。

 

 しかし、沿岸部の部隊の平穏は長く続かなかった。〈やまと〉に先導される形でアルタラス沖へと突入した護衛艦群による艦砲射撃であった。以前より着上陸に備えて魔導砲陣地に塹壕を構築していた皇国兵4000を襲ったのは、一隻で7個師団の砲撃に相当すると言われる戦艦の砲撃だったのだ。

 リージャックの元に最後に届けられた沿岸部の報告からは、沖合に巨大な艦船を目撃したと言う一言だった。それ以降、向こうからの報告はまるっきり途絶えてしまった。

 

海上自衛隊の輸送艦による水陸機動団の揚陸が始まったのは、これから1時間後の出来事である。

 

 

旧アルタラス領 ル・ブリアスより北側40キロ地点 

中央暦1640年/西暦2022年 5月22日 午前8:00

 

 

 前方には砂糖を敷き詰めたような海岸が白く陽光を反射し、周囲には淡青色にゆたう海面があった。空は快晴に近く、ついさっきまで先程まで赤く染まっていた頭上の大気も、下の海面に溶け込むような青色をしていた。

  

 その凪いだ海面を真っ白な飛沫を上げながら海岸へと揚陸艇が突っ込むように移動していた。

 生まれの合衆国においてLCACと名付けられたそのホバークラフト型の揚陸艇は、戦場でなかったのなら有数の海水浴場となったであろう砂浜へと乗り上げ、前方のランプを開いた。

 

 船体中央の車両用甲板に搭載された陸上自衛隊水陸機動団戦車大隊所属の07式戦車、その砲塔上部に設置されたキューポラから顔を出していた加藤伸郎2等陸尉は、いきなり視界が広がったことを確認したのち、その巨体を車内に押し込め、かろうじて両目から上だけをハッチから出した状態で操縦士に命じた。

 

「戦車前へ」

 

 07式戦車はランプを駆け下り、履帯に砂をつかむと、それを猛烈な勢いで後方に吐き出しながら前進を開始した。加藤は、周囲の状況を確認したのちに車体を右に向けるよう指示を出した。

 すでに海岸は先んじて上陸を果たした普通科によって制圧されており、LCACの周囲をAAV-7が囲むように展開している。集結の後に加藤の戦車が進む先には、先程の砲爆撃にて黒煙をあげている敵陣地らしきものだった。

 

 加藤らはアルタラス島に上陸する部隊としては第2波として位置付けられていた。

 具体的に言えば、水陸両用車に搭乗した普通科隊員による着上陸地点のある程度の安全が確保されたのち、その普通科隊員の援護と橋頭堡のより盤石な確保を目的として投入される部隊であった。この第2波の後に続く形で、より規模の大きな第3波が上陸する。

 

 加藤の戦車を下ろしたLCACは、他の物資を全て降ろし尽くしたのを確認したのちに、滑るように砂浜から海面へと後退し、後続の戦車を降ろすべく母艦へと戻っていった。

 86式の後継として全国展開を考慮しての44トンの比較的軽量な設計である07式といえど、せいぜいが70トン前後までの積載量しかないLCACでは1輌しか運べない。輸送艦に搭載されている彼の戦車小隊の全てが陸に揚がるには、しばし時間を必要とするだろう。

 

 まったく、全てがもどかしく感じる。密閉された車内にただよう澱んだ空気の中で、彼はただ待つ他ない時間をもどかしく感じながら思った。

 別のLCACで上陸を果たした彼の小隊の戦車と合流を果たし、残りの車両の揚陸が完了したのがその10分後だった。小隊から中隊、中隊から大隊へと合流を果たすうち、時間は加藤がアルタラスの土を踏んでから30分以上が過ぎようとしていた。

 

 集結が完了した直後、既に陸へと揚げられていた司令部から彼の小隊に進出命令が降った。内陸へと進出した偵察隊が幸か不幸か空爆から逃れた皇国部隊を発見したとのことだ。

 規模は歩兵300、地竜22頭。そのままの戦力では危ういと判断した偵察隊は、揚陸された中で最大の火力……つまるところ、加藤の指揮する戦車小隊による救援を求めた訳だ。

 

 加藤は自身の小隊に移動を指示した。V型8気筒ディーゼルエンジンが唸り、鋼鉄の塊が内陸へと突き進む。指定された座標への移動は、移動を開始してから10分以内に完了した。

 

 開けた荒野が広がる前方に、加藤はハッチから視認した視界の隅に目標を発見した。距離はおおよそ2キロ。報告の通りの規模……いや、少し数が減っている。地竜の数が、18頭まで減少していた。

 偵察隊の先制攻撃により、訳も分からぬまま数十名近い皇国兵が倒れたらしい。

 彼は敵の様子を確認したのち、各車に目標を割り当て、砲塔を旋回させた。07式が主力戦車の中でも特に優れたC4Iシステムを搭載していたこともあり、数秒程度で射撃準備は完了した。

 

「小隊、対榴、正面射、撃て」

 

 加藤は普段の訓練において染みついた動作を完遂し、それの証明として隷下の07式から砲火が走った。本土においてのより円滑な戦車運用を目標として開発された主力戦車の砲撃は、同世代最軽量の車体重量をものともしない正確さを持って地竜へと対戦車榴弾を直撃させた。

 

 2キロ先から爆炎が上がった。部隊が盾にするように展開していた地竜のうち4頭が、頭部を抉れるようにして倒れていた。周りに、黒と赤が混じった人型らしきものが転がる。

 その僅か3秒後に、自動装填装置によって迅速に装填された対戦車榴弾が再び放たれた。今度は何が起こったのかすらわからないまま静止していたもう4頭が吹き飛び、周囲の随伴歩兵が慌てふためいたように逃げ始めていた。

 

「全車前へ。追撃する」

 

 加藤はここで接近を選んだ。命令は偵察隊の援護であるし、戦車の対歩兵における最も強力な武装は、その長大な主砲と比較するとあまりにも小さく見える同軸機銃だからだ。

横隊を組み、高速で移動する無限軌道により砂塵を巻き上げながら、4両もの07式が前進する。

より徹底的な掃討を選んだ指揮官の命を受けた各車は、極めて機械的な動作を持ってそれを実行に移そうとしていた。

 

 戦闘の趨勢は既に決していた。小隊の接近する最中の行進間射撃により、僅か3分も経たないうちに全ての地竜がその存在を黒焦げた蛋白質の塊へと姿を変えてしまったからだ。生き残った戦列歩兵の一団が抵抗を試みようとしたが、同軸機銃に砲塔上部備え付けの重機関銃の猛射を浴びせられ、なすすべもなく打ち倒されていった。

 

 加藤はハッチを開け、普段は眠たげな様子の眼で周囲を見渡した。あちこちから硝煙の臭いと肉の焦げた嫌な臭いが漂ってくる。彼の小隊はこの戦闘で圧勝を収めた。これはその勝利がもたらしたものだった。

 同時に、彼はこれと同じ戦闘がもう何度かあるだろうと確信していた。古来より、沿岸部に上陸した敵を撃滅するのに最適な瞬間とは、敵が上手く態勢を整えていない上陸直後を狙って海へと追い落とそうとすることである。上もそれを狙って一気に敵を殲滅するつもりなのだ。

 

 彼の予想が確信に変わったのが、この戦闘が終結して僅か1時間足らずの間だった。今まで上空監視を行ってきた無人偵察機のうち1機が、首都ル・ブリアスより進軍する皇国軍大部隊を察知したためである。

 

 

旧アルタラス領 ル・ブリアス近郊 ハイペリオン基地

同日 午前9:30

 

 偶然にも爆撃を逃れた司令室内のリージャック中将の元に敵部隊上陸の報が届けられたのは、最初の爆撃からおおよそ3時間後の出来事だった。総数は不明なれどもその数膨大、敵先頭に地竜らしき物体あり。

 半ば箇条書きでまとめられた簡素な報告書を読んだリージャックは、あまりにも直視したくない現実に目眩を感じるのを抑え、眉間の皺を摘んでため息を吐いた。

 

 既に海岸の防衛線は突破され、ここル・ブリアス攻略へと動いているのが容易に想像がついた。なんとか空爆を逃れた部隊を再編成し、決戦に備えているものの、あれだけの攻撃力を持つ敵相手にまともに戦えるかは疑問符がつく。

 

「ここは市街地にて展開し、少しでも相手方の火力を相殺すべきです」

 

 室内の参謀のうち1人がそう声を上げた。かつてフェン王国での戦闘の戦力分析を行っていた大尉だった。自然と室内の人間の視線が集まり、いくつかの質問が飛んだ。

 

「どうしてそれが有効と思った?」

 

「私が思うに、日本はその兵器の強大さに対して過度なまでに人道を重視する節があるように思われます。その証拠に、ル・ブリアス市内に対しては一切の攻撃がなされておりません。ならば、我々は一旦市街地へと下がって旧アルタラス国民を盾として扱ってしまえばいいのです」

 

 悪くない案だ。リージャックは挙げられた案に対してそう思った。少なくとも、このまま討って出るより勝算は高いように思えた。彼の案を採用しようと思い口を開こうとしたその時、慌てた様子の皇国兵が1人、司令室内に駆け込んできた。

 

「ほ、報告!報告であります!」

 

「待て、落ち着け。ゆっくりと話せ」

 

リージャックに諭すように促されたその皇国兵は、動悸を抑えるように目一杯息を吸い込んで、ゆっくり吐き出した。そのまま落ち着かせるようにして話す。

 

「……ル・ブリアス内で大規模な現地人の反乱が発生。市内は大混乱です」

 

 耳を疑いたくなるような報告であった。最悪の出来事が、最悪のタイミングで発生してしまった。リージャックはうめきそうになりながらも再び問い掛けた。

 

「……規模は?被害状況はどうなっている?」

 

「数に関しては計測不能。雪だるま式に膨れ上がっております。既に属領統治機構には火がかけられています。シュサク長官の安否は不明。既に殺害されている可能性もあります」

 

「畜生、流れが早すぎるぞ」

 

リージャックは低い唸りを漏らした。途中で溜息に変わる。

すべての希望は潰えた。皇国軍にとっての安全地帯は消失した。住民全てが敵対している状況下で市街地への篭城など出来るはずがない。戦闘によって蜂起した民衆を排除しようものなら、恐らくはその最中に上陸した敵の攻撃を受けて終わるだろう。

 

 ならば、残存兵力で取れる手段は一つしかない。残りの部隊によって上陸地点へと進撃し、態勢の整っていない敵を海へと追い落とす他なかった。たとえそれがどれだけ実現の難しい作戦であったとしてもだ。

 

 思い立ったが早いか、リージャックは即座に沿岸部への進撃を命じた。同時に気付く。

 自分たちが置かれた状況はかつてのアルタラス王国軍のそれに酷似していたのだ。

 リージャックは自嘲した。皮肉なものだ。散々と蛮族の王と嘲笑してきた存在と同じ状況に置かれてようやく気付くとは。もしかしたら、我々の末路も全く同じかもしれないな。

 




07式戦車→史実における10式戦車。名前の由来は佐藤大輔氏の仮想戦記レッドサンブラッククロスに登場する七式中戦車。基本性能は10式とほぼ変わらない。86式戦車や61式戦車の後継。

水陸機動団→史実より規模が大きい。普通科支援用に戦車大隊が存在する。

加藤伸郎→レッドサンブラッククロスに登場する人物。本作では陸自の水陸機動団の戦車大隊にて小隊長を務めている。
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