征途日本召喚   作:猫戦車

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空中管制

パーパルディア皇国 首都エストシラントより北西300キロ上空

中央暦1640年/西暦2022年 8月4日

 

 この日、航空自衛隊小松基地を根拠地とする第128空中警戒管制飛行隊のE-5F早期警戒管制機が、つい最近解放されたばかりのアルタラス沖上空を飛行していたのは、反撃に向け着々と戦力の集結を進めるパーパルディア皇国軍の監視を任務としていたからだ。

 

 アルタラスが1日で陥落したという事実は、それを知った皇国軍関係者の全てを驚愕させた後、彼等を様々な方向に突き動かすに至った。より具体的に言えば、自国の首都の防衛を固め始めたということだ。

 

 陸軍、海軍の各部隊がそれぞれ皇都防衛隊基地やエストシラント港に集結し、各種物資の輸送も大々的に行われている。最新鋭のワイバーンオーバーロードによる空中哨戒も実施されており、今までの皇国の軍事作戦の中でも最大級の警戒体制が敷かれていたのだ。

 

「連中、かなり警戒していますね」

 

E-5F早期警戒管制機の胴体内に操縦席と同じ向きで配された12のコンソールの1つ、空中目標用のコンソールのディスプレイを見ていた戦術統制幹部が言った。

 

「ワイバーン、おそらく報告に上がっていた新型のを20騎、常時空中待機させています。戦闘空中哨戒のつもりでしょう」

 

「首都と目と鼻の先に敵部隊が進出しているんだ」

 

統制指揮官が言った。簡易飛行服の胸に、ウィングマークと並べて統一戦争参加徽章を付けている1佐だった。曰く、かつてE-5Cで戦術統制幹部の1人として乗り込んでいたらしい。

 

「そりゃ神経質にもなるさ」

 

「海の方も凄いですね」

 

今度は別のコンソールに付いている幹部が言った。彼のディスプレイには、アルタラス島沖合に集結した海自空母機動部隊のE-1Dや偵察衛星からのリンクされてくるエストランシスト湾の状況が映っていた。

 

「隻数がおおよそ600隻以上。この殆どが戦列艦で、こちらの空母に相当する竜母に至っては60は確認できます。凄まじい数ですよ、これは」

 

「どれ、一度見せてくれ」

 

指揮官は自分のコンソールの定型パネルにあるボタンを押し、表示範囲を切り替えるとそれに海上目標を追加した。ディスプレイに無数の光点が映し出される。

 

「確かに凄まじいな、流石この近辺1の大国だけはある」

 

「これだけの戦力、明後日の攻撃で撃滅出来るんですかね?」

 

「出来るさ、我々には色んなアドバンテージが有る」

 

 幹部の1人の問い掛けに対し、その統制指揮官は余裕を含んだ様子で答えた。実際、自衛隊はこの2日後に実施予定の空海協同による作戦の成功を確実視していた。

 

 現在、アルタラス島沖合には航空護衛艦〈ひりゅう〉を中核とした第2機動任務群が、弾薬類や食糧の補給を終えて臨戦態勢にて展開している。総数21隻、これにアルタラス島の仮設基地に展開した空自のF-15CJ改Ⅱ42機等の支援が加わり、エストランシストにおける皇国の軍事力を徹底的に削ぐというのだ。

 

 作戦の概要はこうだ。まず第一段階として明後日の明朝6時、空自のF-15CJ改Ⅱによる制空権の奪取を実施。それと同時に海自の〈あきづき〉級打撃護衛艦のVLSに満載したトマホーク巡航ミサイルをエストランシスト近郊に存在する全ての皇国軍施設に向けて発射、同時に空自による空爆を実行する。

 これは転移後より進められてきた人工衛星網の構築がようやく形になってきたことにより実現されたものであり、本作戦に際して派遣された〈あきづき〉、〈ふゆづき〉は合計して256発ものトマホークを搭載して、同時多発的に皇国軍を叩こうというのだ。

 

また、これと同時に〈ほうしょう〉、〈ひりゅう〉艦載機による敵竜母への対艦攻撃が実施される。これにより無数のワイバーンロードを排除した上で、主力の艦艇群を投入するのだ。

 

 第二段階は海自艦艇による制海権の確保であり、これは〈やまと〉を中核とした水上部隊を編成し、艦載機による支援を受けながら皇国海軍主力を撃滅する。

 護衛艦の主砲を主軸として敵戦列艦を駆逐し、可能ならば残った地上施設への艦砲射撃も実施する。これにより皇国に否が応でも実力差を認識させ、講和の場に引き摺り出そうというのが、この作戦の最終目的なのだ。

 

 これで決着がついてくれればいいんだが、キーボードを叩いてディスプレイに表示されている皇国艦艇を確認していた指揮官はそう思った。彼の脳裏に浮かんだのは、かつて自分が1士官として従事した統一戦争の頃の記憶だった。

 

 その中でも彼の記憶に残っていたのが、戦争の終盤に〈やまと〉が実施した赤い日本の戦略打撃軍IRBM基地への艦砲射撃だった。彼はその作戦の管制を担当したE-5Cの戦術統制幹部の一員として一部始終を見届けていた。確か、〈やまと〉との管制を担当していたベトナム帰りの統制指揮官が、妙に懐かしい様子の表情を浮かべていたのを覚えている。

 

 彼は次第に感慨深く思えてきた。あの時、統一戦争の頃に感じた雰囲気に似た空気がこの機体内に満ちている。思えば、この付近の海域には〈やまと〉も〈ほうしょう〉も浮かんでいて、かつての第三次日本海海戦の様に戦闘に参加しているのだ。

 

 最も、彼があの頃から乗り続けてきたE-5早期警戒管制機は、当時とは少しばかり姿を変えている。具体的に言えば、機体上部に設置された大型の回転式3次元パルス・ドップラー・レーダーを新型のアクティブ・フェイズド・アレイ・レーダーへと換装し、各種データリンク改修を施しているF型だ。

 自衛隊においてP-5対潜哨戒機をはじめとした無数の派生型の一つは、幾多もの改修を受けて21世紀の空を飛翔しているが、この様子ならいつ退役するのか見当も付かない。少なくとも、俺が退役するまでは飛んでいるだろうなという確信が彼にはあった。

 彼は言った。

 

「おい、アルタラスの基地に哨戒の機体を増やすよう伝達してくれ」

 

「了解……いいんですか?」

 

 先程の戦術統制幹部が彼に向けて言った。彼は画面から顔を上げて応じる。

 

「ああ、どうせなら目は多い方がいい」

 

 そう言うと彼は若い戦術幹部の方に振り返った。こちらの命令を理解したのか、一度逸らした画面へと顔を下げ、回線をアルタラス島ルバイル基地の防空管制司令室へと繋いでいる。

 指揮官はその様子を少し眺めて、今まで無意識のうちにその幹部に関連する記憶を思い出した。そう言えば、この若手幹部は統一戦争の頃に世話になった上官の息子だったのだ。

 

 その証拠は顔立ち以外の随所に現れている。かつて自身の父親が使用していたコールサインを、その戦術統制幹部は今もそっくりそのまま使用しているのがいい証拠だ。

 かつてヴェトナムで田園や森林の上を飛んでいたと語っていた指揮官の面影を残した戦術統制幹部は、通信系統がつながっているのをきちんと確認して、喋り出す。

 

「ロプロス・コントロール、スカイキッド21よりタス01、状況038。リトル・フレンズをもう少し増やしてほしい」

 

「タス01了解。リトル・フレンズを上げる。コール・サインはガンサイト11、12。オーヴァー」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

パーパルディア皇国 首都エストランシスト 

中央暦1640年/西暦2022年 8月6日

 

 パーパルディア皇国第18竜騎士団第2中隊長のデリウスが、皇都エストランシスト南方の空域を20もの僚騎のワイバーンオーバーロードと共に哨戒していたのが、地平線の先が赤く照らされ始めた時間帯であった。

 その日、エストランシストの朝は嫌に思える程に晴れ渡っていた。デリウスの眼前に広がる空には雲一つ浮かんでおらず、基本的に視力の良い者が選抜されやすい竜騎士にとってはどこまでも見渡せるのではと錯覚すら思えるほどの光景が広がっていた。

 

 彼は極めて澄み切った視界の中で目を凝らした。自分達の他に飛んでいる者は、少なくとも確認できる範囲では存在しない。それを確認したデリウスは魔信にて僚騎に命じた。

 

「中隊長騎より各騎、これより反転し、他空域へと移動する。我に続け」

 

「了、直ちに移動する」

 

 彼の命令を受け取った中隊は直ちに乗騎の手綱を握り、半ば曲芸じみた動きを持って騎を反転させた。彼の隊は同竜騎士団においても有数の練度を誇る中隊であり、自らを精鋭と自負するだけの実力を遺憾なく発揮している。その中で熟練とも言える腕を持った竜騎士がデリウスに尋ねた。プレカートという男だった。

 

「中隊長、質問よろしいでしょうか?」

 

「どうした?答えていいぞ」

 

デリウスは自隊の中でも信頼の熱い部下の発言に耳を傾けた。そのままプレカートが話し始める。

 

「我々が迎撃の任に就いている日本についてなのですが、どうにも上の言っていることが信用ならんように思えまして。いくらなんでも損害が大き過ぎるように思えるのですよ。中隊長はどうお考えで?」

 

「なるほどな」

 

 それは前線で戦う兵士としては至極真っ当な質問だった。誰だって無知による致命的な失敗は避けたい。ましてや、失敗が死に直結する竜騎兵ならば尚更だ。それを充分に理解していたデリウスは、なるべく部下を安心させるよう意識して言った。

 

「俺も詳しくは知らん。確か航空機械が使用されたとの噂は耳にしている。だがなプレカート、我々が今乗っているのはワイバーンオーバーロードだ。ムーの戦闘機械に匹敵するぞ。我々の練度ならどうとでもなるさ。日頃の訓練の成果を信じろ」

 

 自身が信頼の置く上官の返答に対し、プレカートは俄に安心したような笑みを浮かべた。

 そしてその3秒後、彼の肉体は乗騎と共に爆ぜた。

 

「!」

 

 デリウスは目の前の情報を本当のことと思えなかった。一瞬の思考停止の後、自分達が攻撃を受けている事実に気付いたが、その時には既に何もかもが遅かった。

 

 この時、デリウスの中隊へと襲いかかったのは、航空自衛隊のF-15CJ改Ⅱ12機が約100キロの地点で発射した20発のAAM-4Bであった。その全てが正確に作動し、現代戦にとって静止しているに等しい目標へと喰らいつく。攻撃から10秒も立たないうちに、既に列騎の半数が黒い花火として空に散っていた。

 

「た、ただちに散か…」

 

 彼は動揺を隠しきれずとも最善を尽くそうとした。その努力が完全な無意味と化したのは、デリウスは目掛けて飛翔した1発のAAM-4Bの直撃によって、彼も黒い花火の一つとして砕け散ってしまったからである。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

10分後 皇都防衛隊陸軍基地

 

 ワイバーンオーバーロード20騎が撃墜された事実を最初に知覚したのは、皇都防衛隊陸軍基地にて航空管制を担当していたパイという女性魔信技術士であった。

 彼女が最初に違和感を覚えたのは、自身が眺めていた魔導レーダーの画面にて映っていた20もの光点(ブリッツ)が、瞬きする間に消失してしまったからだ。

 

 彼女はどうしようも無いほどの違和感を覚えていた。最初は誤作動を疑ったが、どうにも正常に作動しているようにしか思えない。そう思い立ったパイの動きは早かった。側に備え付けられた魔信機に叫ぶようにして言い放った。

 

「緊急事態発生!繰り返す、緊急事態発生!エストランシスト南方を哨戒中の第18竜騎士団第2中隊が消息を絶った。待機中の第1、第3中隊は即時迎撃に当たられたし」

 

 彼女が魔信機にて事態を伝えた直後、半ば血相を変えた彼女の上司が目の前に現れた。

 

「本当に全騎撃墜されたのか!?」

 

「ええ、魔導レーダーから反応が消失したのがその証拠です」

 

 パイは慌てた様子の上司に対し、なるべく冷静さを保つのを心掛けて言った。それに対する上司の返答は、彼女に対し些か不信を含んだようなものだった。

 

「20騎のワイバーンオーバーロードだぞ。ムー相手でも一撃でやられるとは考えずらい。レーダーの故障じゃあないか?」

 

「いいえ」

 

 パイは即答した。

 

「画面も正常に動いていますし、故障はありえないかと」

 

「つまり、貴様の言っていることは本当と言うわけだな」

 

 彼女の上司は事態の深刻さをようやく理解し、更に上の皇都防衛隊司令部へと魔信で連絡を取ろうとした。管制塔から見える滑走路上では、待機中のワイバーンオーバーロードが数十騎、慌てた様子で緊急発進を試みている。が、この時点で皇国軍の誰もが数分以内に破局が訪れるとは夢にも思わなかった。

 

 まず最初に攻撃の到来を告げる鏑矢となったのは、離陸中のワイバーンオーバーロードがひしめき合う滑走路に着弾した2発のトマホーク巡航ミサイルであった。爆発と轟音が鳴り響き、今まさに離陸しようとしていたワイバーンオーバーロードが1騎、爆発に巻き込まれて騎手ごと絶命し、墜落して地面に叩きつけられる。

 

 離陸しようとしていた竜騎士達は突然の惨状に混乱していた。その混乱から落ち着く暇も無く、更に4発のトマホークが飛来した。この4発は制圧用に弾頭を166発のクラスター子弾に変更した代物であり、未だに空に上がれないままでいるワイバーンオーバーロードの群れを撃破するには充分であった。彼らの頭上にて炸裂した4発のトマホークは、頭上から無数の子弾を降らせることによってその下の一切合切を引き裂くことに成功したのだ。

 

 管制塔の職員らは目の前の情報を処理しきれずにいた。その中でも幾つかの人間が他の皇国軍施設へと連絡をかけようとしたが、即座に返答が返ってきたのは少なかった。

 もしかしたら、このエストランシストに存在するすべての皇国軍基地が奇襲を受けているのかもしれない。パイはそう思ったが、彼女がそれをどうにかしようとするにはあまりにも遅かった。

 

 結局の所、最終的に基地へと到来したトマホークの数は24発だった。その大半は滑走路や竜舎といった防空設備の破壊に使用されたが、そのうち4発は管制塔の破壊に使用された。

 低空より飛来したトマホークは塔の根本に着弾、その基盤を徹底的に破壊し、その雄大な構造物を完全に崩壊せしめた。塔の中にいたほとんどの皇国軍人は、その崩落に巻き込まれる形で命を落としていた。

 

 この中でパイが生き残ったのは、まさに奇跡としか言いようが無かった。崩落の際、彼女が机の下に隠れたことにより、かろうじて瓦礫の下敷きになるのを避けられたからだ。

 彼女は自らも負傷しているのにも関わらず生存者を探したが、陸将メイガを始めとした塔内での生存者を見つけることが出来なかった。

 

 最早基地は黒煙を噴き出すだけの残骸と成り果て、陸上からエストランシストを防空する術は消失してしまった。なんとか生き残った人員による復旧が行われようとしたが、駄目押しと言わんばかりに飛来したF-15CJ改Ⅱによる誘導爆弾での空爆により、その殆どが作業中に命を落とした。皇国が負った損害はこれだけではなく、海軍本部もまた陸軍基地と同じく熾烈な空爆に遭っていた。

 

 それでも尚、多くの皇国軍人は己の使命を果たさんと足掻いた。湾内の竜母の殆どは報告を受けた段階で艦載騎の発艦を開始し、司令部が壊滅したにも関わらず、哨戒中の第3艦隊、停泊中の第1、第2艦隊は独自判断で出航を開始していた。

 誠に残念なのが、最終的に彼等の努力が全く無駄なものとなってしまった事だ。

 




E-5F早期警戒管制機→征途に登場するE-5C早期警戒管制機の改良型
元は川崎のGK520(昔国産哨戒機として計画されていた機体、現実だとP-3Cに敗れた)の哨戒機型であるP-5対潜哨戒機であり、これ元に設計された早期警戒管制機である。
F型はその改修機で、レーダーやエンジンにC4Iの強化が施されている

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