征途日本召喚   作:猫戦車

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11月まで更新が遅れると言っていましたが、なんとか投稿出来そうだったので投稿いたします。
新章開幕です。これからも応援よろしくお願いします。


第二章  レッドサン・ホワイトクロス
供与兵器


日本 東富士演習場

中央暦1641年/西暦2023年 7月15日

 

『状況終了!繰り返す、状況終了!』

 

 ムー国陸軍独立第11戦車大隊第2中隊中隊長・アラステア・ロッシナ大尉は、自身が搭乗している61式戦車H型に備え付けられた無線機より流れる演習終了の知らせを、キューポラから上半身を乗り出して前方を確認していた状態のまま確認していた。

 

 空は既に晴れていたが、道脇の小さな丘の茂みに身を隠す様に設置された偽装網のお陰で、彼はそこまで眩しいとは感じなかった。

 

 彼の周囲を見渡せば、同じ様に偽装して掘った戦車壕へと身を隠している戦車の群れを目撃することが出来た。

 

 偽装網と車体と砲塔に貼り付けられた草木の隙間から、剣歯虎を模したデカールがちらりと映る。さながら自然に還ったような印象だ。

 

 アラステア大尉は一旦体を車内へと戻した。戦場におけるNBC兵器への対応を考慮して密閉された車内には、内部のむさ苦しい男達の熱気と臭いが充満していた。

 

 内部では何かが振動する様な音が鳴り響いていた。車体後部に設けられたV型12気筒ディーゼルエンジンによるものだ。

 

 車重50トン以上の鉄の塊を動かすのに最適化された発動機は、必ずしもそれを動かす人間にとって好ましいわけでない音を奏でていた。

 

 アラステアは前方をキューポラの覗き口より確認した。

 

 おおよそ1000メートル前方で、アラステアらと同じ装備の軍人と装甲車両が停止しているのが見えた。陸上自衛隊富士教導団、今回の訓練の対抗相手だった。

 

 彼の乗車していた61式は、この状況終了の命令が本部より下される少し前に、教導団所属の戦車によって撃破判定を受けていた。

 

 周囲のムー軍戦車も同じ様子で、合計すれば彼の中隊の8割近い戦車が撃破されたことになる。

 

(まったく、全然敵わなかったな)

 

 彼は先の戦闘推移を思い出し、同時に胸中にて自嘲した。教導団の戦車中隊と接敵した際、自身の想定よりずっと連携がうまくいかず、混乱が生じて思うような戦果が上げれなかった。

 

 その後に敵の戦車中隊から分派した一個戦車小隊が側面を突くようにして攻撃してきたことにより、彼の中隊の大半が撃破され、演習はムー側の敗北で終わってしまったのだ。

 

 同時にアラステアは思った。

 まあ、それもある意味で仕方ない。俺達ムー陸軍が戦車を扱い始めて、まだ四半世紀すら経っていないんだ。

 

 第一、俺らは機甲戦のノウハウ獲得も兼ねて日本まで派遣されてきたんだ。装備が同じだとしても、積み上げられてきたものが違う。

 

 

 彼を含めたムー国陸軍の一部隊が、こうして日本へと派遣されるに至ったのは、同国の安全保障環境の変化とそれに対応した防衛政策の転換、そしてそれに伴って日本との間で協議されていた供与兵器の運用法の確立を目的としてのものだった。

 

 元来、ムー国において地続きの脅威というものは数年前までは存在しなかった。

 

 隣接する列強国のレイフォル王国は旧態依然とした軍事力しか持たず、より上位の列強国たるミリシアルは彼方遠方に存在しているため、そこまで防衛を意識することは無かった。

 

 また、それまでのムーの外交方針により、第二文明圏から第一文明圏にかけての諸国の殆どが友好国であったことも、その意識に拍車をかけた。

 

 これら先進国にとって、ムーは永世中立を謳う極めて安全な国家かつ、大事な通商相手であったから、わざわざムーを侵略しようと考える者など出るはずも無かった。

 

 状況が完全に一変したのが、およそ3年前に突如としてレイフォルを制圧し、ムー大陸に橋頭堡を降ろした国家……グラ・バルカス帝国の出現であった。

 

 彼らは驚くべき速度を持ってレイフォル周辺諸国を併呑、隷属させ、第二文明圏にその覇を拡大していった。これがムーの警戒を強めた。

 

 彼らにとっては、今まで名前すら知られていなかった新興国が、常識では考えられない速さで隣国を侵略し、結果的に国境を隣接する羽目になったのだから当然であった。

 

 特に、ムー国軍統合軍内においてその傾向が強かった。統合軍内には情報収集、戦力分析を担当する部署が密集していたこともあり、次第にその動きは勢力を増していった。

 

 その中でも、マイラス・ルクレール大尉という技術士官の動きが顕著であった。

 

 彼は同時期に第3文明圏外にて現れた日本へと派遣されていたこともあってか、自国とグラ・バルカス帝国との技術格差とそれによってもたらされる結果について非常に敏感だったのだ。

 

 彼はまず第一に日本からの兵器導入を主張した。

 

 現在のムーが保有する技術力では、極めて高い水準の科学文明国であるグラ・バルカス帝国に対抗し得ないのは明確であったからだ。

 

 最初は大多数の軍人、官僚が反対した。

 

 当然であった。彼の唱えた方針は、明らかにこの国の国是に反しており、また遥か遠方の新興国に対する不信感も高かったからだ。

 

 だが、それらの声は次第に鳴りを潜め、代わりにより積極的な技術供与、軍事的連携を求める声が、主に財界や外務官僚を中心に上がってきた。

 

 前者は先進的な日本の軍事技術の民需転用による経済効果を期待してのものであったし、後者も似たようなものだった。

 

 懸念事項は日本がそう易々と武器供与や売却に応じるかどうかであったが、意外にも日本政府は乗り気であった。

 

 日本としても将来有望な市場であるムー大陸の安定は必要であると考えられていたし、何より、これらの兵器供与を足がかりにして、更なる新規市場の開拓すら行えるのではないかとの声も上がっていたからだ。

 

 結果として、当初どうにか歩兵火器の輸入を…… という内容ではじまったマイラスの持論は、時がつれて帝国の脅威が明らかになるうちに周囲を巻き込んで激烈さを増し、ついには数百両に達する装甲戦闘車両の供与、購入というところまで拡大してしまった。

 

 それはアラステア大尉が乗車している61式戦車もそうであった。

 

 第一回目の供与で彼らムー陸軍に供与された61式の総数は58両、おおよそ一個大隊に近い数が、その他整備機材と抱き合わせで与えられていた。

 

 陸自にとってはヴェトナム戦争以来の旧式であったが、アラステアらムー陸軍にとっては未来の新兵器と同義である。

 

 ムー陸軍は最初、これらの供与兵器を各方面軍に分散配置させ、全体的な戦力の底上げを行おうとした。

 

 しかし、議論を進めていくうちに様々な課題が噴出した。

 

 ムー陸軍はこのような超重戦車(あくまでムー陸軍はそう捉えていた)の運用実績など乏しく、そのまま分散配置したとしても稼働率を下げるだけで意味が無い、そのような意見が多数を占め出したのだ。

 

 こうした供与兵器に関連した問題に対処するべく編成されたのが、こうして東富士演習場に派遣されている第11独立戦車大隊であった。

 

 この大隊は供与された陸自装備を中心に編成された部隊であり、ムー陸軍において喉から手が出るほどに渇望した、装甲戦力の運用ノウハウを獲得し、同時に同国陸軍における虎の子として機能することを期待されていた。

 

 しかし、アラステアにはこの大隊がまともに戦えるとは思えなかった。

 

 事実、今日の演習では陸上自衛隊相手に完敗していた。

 

 全国から選抜されて日本へ赴いたのはいいものの、元々の装備、軍事体系の差や文化の相違などもあって、部隊の錬成は必ずしも上手くいっているとは言い難かったからだ。

 

 言うなれば、付け焼き刃の寄せ集めと評する他ないだろう。

 

 上も下も目紛しく変化する戦場に対応出来ていない。ムー陸軍は今回の供与の後、更に300両近い主力戦車の導入を検討しているとの噂は把握していたが、現状で上手く行くとは考え難い。

 

 まともに敵の機甲部隊と戦えるようになるのは、おそらく来年から以降になるだろう。アラステアはそう思った。

 

 ふと、彼の目に此方の陣地に向けて歩いてくる人影が見えた。つい先程まで模擬戦とはいえ戦闘をしていた相手、富士教導団の隊員だった。

 

 アラステアは一時的に思考を中断し、自らの乗車を降りて其の隊員の方へ向かった。元々、この演習の終了時にお互いの士官らで軽い講評に移る予定だったからだ。

 

 ノウハウの圧倒的に不足しているムー陸軍に対し、現役の陸自士官が実戦的な提言を行うことを目的としている。

 

「ああ、アラステア大尉」

 

 話しかけてきた自衛官は丸眼鏡をかけた中背中肉の男だった。

 

 肩の階級章は1等陸尉のもので、実質的にはアラステアと全く同じ階級ということになる。陸自の戦車帽と迷彩服に身を包んだ彼は感心したように言った。

 

「中々やったね。随分と上手くなっとる」

 

 アラステアは、目の前の彼とは僅かながらも見識があった。日本に派遣された際、隊員同士の交流の場で話しかけられ、そのまま顔見知りとなっていたのだ。

 

 その彼から称賛とも取れる言葉を投げかけられたが、アラステアにはそれが御世辞のように思えた。現に、今日の演習でムー陸軍は惨敗を喫している。

 

「いいえ、全然です」

 

 と、アラステアは言った。

 

「我々には何もかもが足りていません。ノウハウも、練度も」

 

「精々数ヶ月かそこらでこれだけ出来るんなら構わへんよ」

 

 目の前の男はそう言い切った。

 

「うちの中隊からも4両が撃破判定されとる。おたくの国が戦車を運用し始めて日が浅いのに、ここまでやれたら上出来や」

 

「自分の中隊は9両がやられていますが」

 

「自慢じゃあ無いが、うちら教導団は陸自随一の精鋭部隊や。それ相手に数ヶ月かそこらの訓練で戦える段階にまで行っとるのなら、随分頑張っとる方やろ」

 

 ここまで言われてはアラステアも口を噤む他無かった。同時に、自身が目の前の彼の言い分を額面通り受け取っていい立場に無い事も。

 

「まあ、楽観視しないことはえらいことや。悲観のし過ぎもあかんけどな。このままいけば……」

 

 男はそう前置きしたのち、話を続けた。

 

「あんた、いい戦車兵になるよ」

 

 アラステアは彼の言い放った言葉を、若干の疑念を押し込んで受け入れることにした。我々は未だ未熟であるが、言い換えれば伸び代があるとも言えるだろう。そう思えた。

 

 2人は軽い挨拶を交わしたのち、互いの部下に呼び出されてその場を去った。部隊は既に撤収作業が開始されていた。

 

 これから両軍合わせての大規模な講評を経て、来年の4月に帰国するまでに今のムー軍が抱える欠陥の隅々までを洗い出さなければならないのだ。

 

 現時点で推定されるグラ・バルカス帝国の戦車が攻めてきた場合、ムーで辛うじて対抗できそうな主力戦車は、彼の大隊が装備する61式だけだからである。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

樺太 豊原上空

中央暦1641年/西暦2023年 7月20日

 

 統一戦争以降、赤い日本の首都であり樺太の中心都市である豊原において更なる発展を見せたのが、近年において凄まじい勢いで規模を拡大していた航空産業であった。

 

 これは祖国統一後における同化政策と経済統合の一環として、伝統ある方の日本に比べ賃金の相対的に低い北側に数多の日本企業が進出したこと。

 

 またかつての国家航空振興協会によって行われた青少年教育により、樺太にはアンバランスに思える程に航空業に適した人材が存在していたことが要因である。

 

 結果として、今現在は日本の航空産業の中心は豊原へと移り変わるまでに至ったのだ。

 

 その豊原沖上空8000メートルにて、時速約900キロにて飛翔する機体があった。既に上空は青く染まり、機体が対流圏に留まっていることが機内からも理解できた。

 

 機内は外の轟音とは無縁に思えるほど静かであり、自らの耳に入ってくるのは心音と呼吸音のみだった。

 

 恐らく緊張によるものだろう、ムー空軍南部航空隊第106エヌビア空軍基地第33飛行隊所属のパイロット、パーテリム・サガン中尉はそう結論づけた。

 

 総飛行時間1000時間を超えるベテランである彼が、まるで訓練生時代のような緊張を覚えていたのは、彼が敬愛するムー国の期待を一身に背負って日本へと派遣されたこと、そして日本でムーに供与された新鋭機……FT-4M軽戦闘攻撃機の操縦訓練の最中であったからだ。

 

 FT-4Mは中等練習機であるT-4の改造機であり、元来より一部の高等練習機を予備機として使用してきた航空自衛隊が、中等練習機にも最低限の武装を施せるよう考慮して設計された機体である。 

 

 本機は20ミリバルカン砲を機内に1門内蔵し、ロケット弾に無誘導爆弾、短距離空対空ミサイルまでも運用可能な仕様となっており、日本政府はこの機体を40機以上、ムー空軍に対し供与する予定であった。

 

(まったく、マリンとは比べ物にならんわ)

 

 これが、新しく与えられた機体に対し、パーテリムが抱いた偽りならざる感想であった。

 

 実際、速度はレシプロ複葉機であるマリンなど足元にも及ばない程の高速であり、機動性も申し分無い。何より、元が中等練習機なのもあってか、FT-4は非常に操縦性が良好なように感じられた。

 

 当初、予備機保管指定されていたF-4EJ改ファントムの供与が延期され、代わりにFT-4があてがわれたのも自然な話である。

 

 F-4はムー空軍が扱うには過大が過ぎる機体規模であったし、操縦に若干の癖がある。

 

 ならば、まず先にFT-4によってムー空軍パイロットを慣れさせる必要がある……それが空自の出した結論だった。

 

(ここに来る前は、正直見縊っていたのだが……)

 

 日本へと派遣される前の自分を思い出し、パーテリムは少し後悔したような気分になった。

 

 ムーの科学力を何処か過信し、愛国心を人一倍持ち合わせていた彼が、飛行時間1000時間以上のパイロットを集めているという空軍上層部の指示により、小さな極東の島国に派遣されると聞いた時には軽く絶望さえした。

 

 しかし現実は違った。

 

 この国はムーどころかミリシアルすら実用化していない超音速機を平然と運用しているような国家であり、パーテリムはそれを初日に行われた空自のデモンストレーションによって否応に見せつけられていた。

 

 次元が違う、正に異世界の軍隊。

 

 しかし彼は任務を放棄することは無かった。

 

 これまで航空機を乗りこなしてきた経験と自負を持って、このFT-4を新たなる愛機として操るべく、出来る限りの努力を重ねてきたのだ。

 

操縦桿(スティック)を握る彼へ、インコム越しのくぐもった声が聞こえてきた。後席に座る空自の教官のものだった。

 

『今日の訓練はここまでRTB』

 

「了解。RTB」

 

 パーテリムは操縦桿を傾かせ、機体を豊原基地の方角へとターンさせた。

 

 十数分程度の飛行の後、彼の眼下には相当に発展した都市と、それの郊外に位置する巨大な空軍基地が見えた。

 

 かつての首都として300万人強が暮らす街並みと、ソ連を除く東側諸国最強を誇った空軍の元本拠地の現在である。

 

 管制塔とのやり取りの後、機体は素直に滑走路に着陸した。駐機場に機体を駐め、キャノピーを開けて地上に降りる。途中、パーテリムは付近に駐機していた別の機体に目が入った。

 

 その機体はやや丸っこい曲線で構成されたFT-4と違い、半ば芸術性すら感じさせる曲線美によって形成された大型の機体だった。

 

 青を中心とした迷彩塗装が施され、航空力学に基づいて設計されたボディを特別なものとしている。

 

 パーテリムが目撃したのは、航空自衛隊飛行教導群所属のSU-27Jであった。統一戦争後、赤い日本に残存していた機体のうち、研究用とアグレッサー用にと空自で運用されることになったうちの1機である。

 

 たまたま豊原に来訪していたその機体に、彼は一時的に目が釘付けになった。パーテリムは一度この機体を目撃したことがある。初めて来日した日、デモフライトで飛行する様を目撃していたからだ。

 

 もしかしたら、いつかあれと同じぐらいの性能の戦闘機に乗る機会があるかもしれない。

 

 それまでに、儂はこの機体をものにする必要が有る。パーテリムは胸中にて覚悟を決め、訓練を総括している空自教官に向き合った。




61式戦車→征途世界の自衛隊が保有していた戦車。重量50トン以上の車体と120ミリ砲を備えており、史実とは真逆の重戦車と化している。現在は富士教導団の一部部隊が保有しているのみとなっているが、ムーに予備保管車両が供与された。最新型のH型は爆発反応装甲といった防御力が強化されている。

FT-4M→征途世界のT-4練習機を改造した軽攻撃機。M型はムー国輸出仕様。本作のT-4は最初から攻撃機用途として使用されることを想定した設計がされている。

F-4EJ改→数十機近くモズボールされている。いきなり超音速機はハードルが高いので、FT-4Mで実績積ませてからの供与となった。

Su-27J→かつて北日本が使用していた戦闘機。現在は空自がアグレッサー機として使用中。

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