征途日本召喚   作:猫戦車

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奇襲前日

神聖ミリシアル帝国 カルトアルパス

中央暦1642年/西暦2024年 4月20日 

 

 この日、神聖ミリシアル帝国における代表的な港湾都市の一つであるカルトアルパスには、普段と比べて幾らか雑多めいたような雰囲気で溢れかえっていた。

 同都市にて開催される先進11ヵ国会議に際し、諸外国の外交官とその護衛の海軍艦艇が訪れ、その勇姿を見せつけるかの如く入港していったからだ。砲艦外交が依然として効力を発揮するこの世界においては当たり前の光景でもある。

 

 これら各国海軍艦艇の入港を、カルトアルパス港管理局局長のブロントは密かに楽しみにしていた。日頃訪れる商船ではない、最新式の戦闘に最適化された艦種の存在は、彼の胸中における少年的な部分を大いに刺激していた。

 同時に、彼はミリシアルの人間に共通して見られる尊大さも持ち合わせていた。つまるところ、自国の持つ強大な海軍力に全幅の信頼を寄せていたのだ。どうせなら世界最強と称される第零魔導艦隊がカルトアルパスに寄港すればいいのに、そう思っていた。

 

「第1文明圏トルキア王国軍、到着しました戦列艦7、使節船1計8隻」

 

「了解、第1文明圏エリアへ誘導せよ」

 

 彼は部下からの報告に淡々と返答し、各国海軍艦艇を誘導するよう指示した。なんてことはない、長年慣れ親しんだ動作に過ぎない。あまり変わり映えない艦影の群れを一瞥したのち、彼の視線は港の入り口へと向かっていた。

 

「第2文明圏ムー国海軍、到着しました。戦艦2、装甲巡洋艦4、巡洋艦8、空母2」

 

 部下の報告と同じくして、港内にムー国の戦艦を筆頭にした艦隊が進入してきた。自然とブロンズの視線が先頭の艦へと向かう。その一隻だけ他の艦と様相が異なっていた。彼の記憶が正しければ、その船は〈ラ・カサミ〉と呼ばれていた筈だ。

 

「あれが〈ラ・カサミ〉か?随分と様子が変わっているようにみえるのだが」

 

 しかし、ブロントはその艦をかつての〈ラ・カサミ〉と同一のものとは俄かに信じ難く思っていた。何故なら、2年前の先進11ヵ国会議の際に目撃した彼女と比べ、現在の〈ラ・カサミ〉の艦影には著しい変化が見られていたからだ。

 

 1番大きな変化が見られたのは上部構造物だった。西暦世界においてマック方式と呼ばれる設計へと変更がなされていたマスト前面において、絶えず回転を続ける対空捜索レーダー……OPS-24Bが設置されている。他にも、従来は露天下に置かれていた艦橋は窓と天蓋により覆われ、より存在感を増していた。  

 

 武装に目を向けるとするならば、まず大きな差異として挙げられるのが主砲の変化だった。前部の30・5センチ連装砲塔が、より軽量な印象の見受けられる203ミリ連装砲塔へと変更されている。

 80式試製203ミリ連装速射砲、次期ミサイル護衛艦における対地攻撃力向上が思案されていた際、Mk71jの連射速度向上を目的として連装化がなされた試作品を流用する形で搭載されていたのだ。

 

 後部砲塔に至っては既に撤去され、代わりに大きな筒を束ねた様な装置が設置されている。退役護衛艦から引き剥がしたハープーンSSMだ。他にも対空砲や防空ミサイル発射機が備え付けられているが、いずれにしても既存の装備の転用、もしくは試作品の試験的装備といった様相が強い。

 

 この前弩級戦艦が、言うなれば〈ラ・カサミ〉改と呼称すべき状態へと改造を施されたのには、日本、ムー国両政府の複雑な意図が絡んでいた。

 なるべく国家の威信を損なわない形での早期戦力化を望んでいるムーと、第3文明圏各国への輸出用の護衛艦に搭載される兵装の試験装備を行いたかった日本の利害が一致した結果、〈ラ・カサミ〉を日本で改修する奇妙な流れとなったのだ。

 

 無論、ブロントがその事実を知る事は無い。故に彼は〈ラ・カサミ〉の有り様をただ不思議に思うばかりだった。その疑念が跡形も無く消し飛んだのは、彼がムー海軍艦艇の次に港内へ進入してきた存在を認識してからであった。

 

「グラ・バルカス帝国到着、戦艦1隻のみ」

 

「嘘だろ……なんてでかい艦なんだ」

 

 無意識のうちに、ブロントの喉から感嘆の声が洩れた。当然かもしれなかった。たった今入港したばかりの戦艦〈グレート・アトラスター〉は、少なくともブロントが今まで見てきた戦艦の中で最も大きく、その威圧感に気圧されたからだ。男性の心層深くを俄かに刺激するような存在を初めて目にした様子としては、ある意味で標準的なものと言えるだろう。

 

 だが、ブロントが今日に体験する衝撃はこれだけではなかった。〈グレート・アトラスター〉の入港から少し時間の空いた後、続いて入港してきた艦隊の先頭を目にした直後から、彼の感嘆は驚愕へと変わっていった。

 

「日本国到着、戦艦1、巡洋艦9、空母1、油槽船1、客船1、計13隻です」

 

 今のブロントには部下の報告が聞こえていなかった。彼の視線は、全長こそ違うもののそれ以外の殆どが〈グレート・アトラスター〉と瓜二つの……超大型護衛艦〈やまと〉へと注がれていたからだ。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 同時刻 グラ・バルカス帝国海軍 戦艦〈グレート・アトラスター〉艦橋

 

 海面は安心すら覚える程に凪いでいた。コバルトブルーの水面が揺れ、その度に小さく白い飛沫が生まれ、消えていく。殆どの船乗りならば安寧を覚えるような状態だったのが、今日のカルトアルパス港の様子だった。

 

 しかし、戦艦〈グレート・アトラスター〉の前部艦橋、防弾ガラスのはまった窓越しに他の停泊している艦艇を眺めていたラクスタル大佐はその海面のように落ち着いた胸中ではいられなかった。自らの艦が停泊した直後に入港してきた日本の艦隊が原因だった。

 

「畜生、情報部の連中は何をやっていたんだ」

 

 彼は眼前に停泊する日本の艦隊を眺める度に歯軋りした。此方の最新鋭空母よりも巨大な大型空母、正確な用途こそ不明なものの、他国と比べて明らかに洗練されている様子の巡洋艦、そして全長こそ〈グレート・アトラスター〉より短いものの、まず間違いなく同等の砲戦能力を備えていると見れる戦艦。いずれも報告には上がっていない代物だった。

 

 今回、日本が先進11ヵ国会議の護衛として送り込んでいたのは、海上自衛隊唯一の超大型護衛艦〈やまと〉と最新鋭航空護衛艦〈そうりゅう〉を中心とした水上部隊であった。ミサイル護衛艦〈ちょうかい〉、〈ふるたか〉、〈あおば〉計3隻と汎用護衛艦〈きりさめ〉、〈しぐれ〉、〈あられ〉、〈にいづき〉、〈なつづき〉の5隻、更に打撃護衛艦の〈てるづき〉と補給艦〈ましゅう〉を含む12隻の相当な規模だった。

 

 これ程の規模の艦隊を日本が送り込むに至った理由、それには第2文明圏において軍事的行動を繰り返すグラ・バルカス帝国への牽制の意味合いがあった。これ程の遠隔地に艦隊を送り込む事の是非については一部より批判の声が上がっていたが、パーパルディアとの戦争の記憶の新しい大多数の国民は派遣を支持していた。

 

 ラクスタルにとってこの存在は全くの想定外であった。転移後のグラ・バルカスの諜報戦力はムーやミリシアル近辺に注力され、第3文明圏までは最低限の活動しか実施されていなかったからだ。ムー大陸よりあまりにも遠方であるため、わざわざ参戦してくる見込みも薄いという予測が裏目に出たのだ。

 

「まあ、相手はたかが戦艦1隻と空母1隻、流石に我々が負ける事は無いでしょう」

 

 ラクスタルが頭を抱える最中、砲術長のメイル中佐がそう言った。

 

「しかし、間違いなく今後のスケジュールに影響が出るぞ」

 

「それもそうでしょうが、我が方は空母6隻、戦艦8隻を持ってきているのです。多少向こうが優れていたとしても、数で圧倒出来ます」

 

「それはそうだが……」

 

 ラクスタルは口篭った。実際、彼も目の前の艦隊相手に負けるとは欠片も考えていなかった。

 今回、白銀の場合(ケース・シルヴァー)実施に伴い、カルトアルパス襲撃用として戦艦8、大型空母6を中核とした東征艦隊が編成、派遣されている。

 そのうち戦艦は〈グレート・アトラスター〉級が2隻、〈ヘルクレス〉級が2隻、後は〈オリオン〉級が4隻となっており、重巡洋艦6隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦24隻、潜水艦8隻を合わせた計50隻、空母含めたら56隻の大艦隊が、カルトアルパスより数百キロ先の海域にて待機していたのだ。

 

 冷静に考えるならば(多少の性能差があったとしても)余裕を持って勝てると断言できる規模であった。ラクスタルも自軍の能力を信じていない訳では無い。しかし、彼にはどうも自身の嫌な予感を拭えなかった。

 その予感が現実となる事を、この時の彼が知る由もなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

同日 23時50分

ムー アルー郊外

 

 月光がムーの大地を照らし、この一帯では唯一の高地である小高い丘からは国境線の様子が確認できた。青白い光によって浮かび上がる平坦な大地。所々に点在する木々、かつてレイフォルが存在していた時期に重要な交易路だった幹線道路。

 

 ムー陸軍アルー守備隊11偵察中隊のケイネス・ハイルデン軍曹は、土嚢と木材で周囲を覆った機銃座のスリットから国境線を監視していた。長い顔、細い眉毛の下にある落ち窪み気味の目が周囲の状況を間断なく観察している。

 彼の部隊はこれまで数キロ先のアルー駐屯地にいた。

 それが、昨日の昼過ぎになって急に国境の主防御線、前哨陣地への進出を命じられたのだ。ケイネスは、はっきりとした理由は教えて貰ってはいないが、

 

「日本からグ帝(グラ・バルカス帝国の略称)が動き回ってると教えられたらしい」

 

 という噂を古参の下士官から聞いていた。

 

下士官は守備隊本部の通信班に同期がいたことをケイネスは覚えていた。下士官の結束が固いことと情報伝達の早いことは、彼も自らの経験を持って十分に味わっていた。

 おそらくその噂は事実だろう、と彼は思った。よりにもよって先進11ヵ国会議中に、あの帝国はムーへ戦争を吹っかけるつもりらしい。

 

 ケイネスは双眼鏡で嘗めるように周囲を見回しつつ思った。この国境線の向こうには、グラ・バルカスの一個軍団相当が展開している筈だ。守備隊本部では、連中が砲兵と航空機の支援も受けていると判断している。それに対して、此方は一個連隊に支援部隊がまばら。きっと、ひどいことになるだろうな。

 

 ケイネスは双眼鏡を降ろし、隣で18型6・5ミリ重機関銃の配置についている兵隊を見た。月明かり以外、何の照明もないため、重機と顔の一部が青白く浮かび上がっている他は、シルエットしかつかみとれない。

 

 ケイネスは尋ねた。

 

「どうだ、恐いか」

 

「いえ、恐くないであります」

 

 若々しい声がそう答えた。だが、彼の顔は真っ直ぐに国境線へ向けられている。

 

ケイネスは兵の訓練が行き届いていることに感心した。

アルー守備隊は国境警備のために編成された小規模な部隊だが、地元志願者の割合が多いのもあって士気も練度も高い。装備は古いものの、ここ数年で更新は進んでいる。何よりも心強いのは、今年に入ってアルー守備隊に一個中隊が配備された新型戦車……41型イレール軽戦車の存在だった。

 

 兵士達は、この短砲身37ミリ砲と8ミリ機銃を備えた重量7トンの戦車に相当な期待を寄せていた。この戦車による支援さえあれば、グ帝相手でも戦える…… 少なくとも、古兵たち自身はそう考えている。

 

 本当にそうあって欲しいものだとケイネスは思った。

 グラ・バルカス帝国陸軍の装甲部隊は、推定で1個師団あたり100から300程度の戦車を保有しているらしい。それが束になって襲いかかってくるのだ。

 

 正直に言って、ケイネスには戦車と戦って勝つ自信はなかった。わずか十数両の戦車を除けば、火炎瓶と野砲ぐらいしか彼の部隊には有力な兵器がなかったからだ。ムーとグラ・バルカスの技術格差……向こうの戦車がどれだけ発展しているかを考えると、自軍の装備が役立つものなのかどうか不安だった。

 まぁ、日本からの情報共有によって新編された教範通り、陣前の低い位置に鉄条網を張ってはおいたが、本当に、あんなもので戦車の足を絡め取れるのだろうか。

 

 再びスリットに顔を向けたケイネスは、双眼鏡を構える前に瞼を揉みほぐした。栄養状態が悪いため、ビタミンが不足し、鳥目がちなのだ。

 その時、遠くから低い、乾いた音が聞こえた。

 

「?」

 落ち窪んだ目をしかめてケイネスは音のした方向をみつめた。何も見えない。何も聞こえない。

 

(そら耳か)  

 

 彼がそう思った時、国境線の向こう側に閃光がきらめき、再び乾いた低音が聞こえた。

 ケイネスは思った。砲声だ。

 

その判断を裏付けるように、前方数キロの平地付近で閃光がきらめいた。続いて爆音。連続したものではない。照準を定めている。まもなく、効力射……本格的な砲撃を始めるだろう。

 

 ケイネスは野戦電話を取った。空気がキナ臭くなる感触を覚える。背筋が震えた。

 彼は叫ぶように報告した。

 

「西部陣地第二銃座より本部、国境西、平野部より着弾あり。グラ・バルカス軍による攻勢準備射撃と認む」

 

彼がそこまで言った時、国境線の向こうに連続した砲声が響き、地平線が明るくなった。

第一次新世界大戦が始まったのだ。




ラ・カサミ改→日本によって改造されたムーの戦艦。原作とは改装内容がかなり違う。詳しい装備に書いては後日記載。

80式試製203ミリ連装速射砲→ズムフォルト級駆逐艦を筆頭に水上火力支援が注目されていた時期に〈やまと〉の退役後を睨んで試作された砲。途中で実用性が疑われて試作止まりで終わったが、今回〈ラ・カサミ〉改に流用された。

41型イレール軽戦車→ムーが開発した軽戦車。見た目も能力もルノーFT17に近い。いわばムー製ルノーFT17。
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