征途日本召喚   作:猫戦車

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艦隊航空戦

グラ・バルカス帝国東征艦隊 空母〈アルゲニブ〉戦闘指揮所内

中央暦1642年 4月22日 午前6時

 

 ほぼ全速に近い30ノットを出しながら、ペガスス級航空母艦〈アルゲニブ〉含む空母6隻を中核とした機動部隊は、はるか500キロ彼方のカルトアルパス湾に向けて艦首を向けていた。重い爆弾や魚雷を抱えた、航空技術の発展と共に大型化の進んだ艦載機の発艦に必要な合成風力を作り出すためだ。

 

 〈アルゲニブ〉を筆頭としたペガスス級に配備された新型の蒸気カタパルトは有用な装備だったが、爆装したアクラブ艦上戦闘機やスピカ艦上攻撃機を短時間で射出するには、カタパルトだけを用いるよりも風の力を合わせて発艦させた方が効率的だった。

 

 前世界ユグトにて長年海の支配者として君臨し続けてきた帝国海軍航空母艦だけあって、飛行甲板上の航空機運用は見事だった。3基のインボード式エレベーターから引き上げられてきた機体が待機位置まで運び込まれ、同じくエレベーターで押し上げられた航空魚雷や弾薬を整備員がアクラブ戦闘機やスピカ攻撃機のハードポイントへと装着してゆく。

 

 〈アルゲニブ〉飛行甲板では、あちこちで整備の完了した機体がエンジンを作動させる音が上がり、今か今かと発艦の時を待っていた。

 アクラブが18機、スピカが24機。予備機を除けば、〈アルゲニブ〉が保有する艦載機の6割の機体が発艦準備を行なっていることになる。艦隊全体で見れば、述べ252機の戦闘機・攻撃機が飛び立とうとしていたのだ。

 

「何か異常は無いか?」

 

〈アルゲニブ〉の艦橋下部に設けられた戦闘指揮所内、その薄暗い照明に照らされた海図版を覗き込みながら、東征艦隊司令官のアルカイドが部下に尋ねた。

 

「いいえ、全てが順調です。あと10分程度で、全ての艦載機の発艦準備が終わります」

 

CAP(戦闘空中哨戒)機はどうした」

 

「うちからは既に9機が発艦して哨戒任務にあたっています。艦隊を合わせれば30機程度ですから、充分かと」

 

「なるほど、了解した。引き続き頼むぞ」

 

アルカイドはそう言うと、すぐさま目の前の海図版の方に意識を向けた。指揮所の中央を占める大きな図表の上には、自軍艦艇を示す青の駒が多数並べられていた。作戦行動中の東征艦隊所属艦艇を表したものである。

 

 現在、東征艦隊は二手に分かれて作戦行動中だった。一つは〈アルゲニブ〉らが所属する空母機動部隊、もう一つはグレートアトラスター級戦艦を中核とした水上打撃部隊である。いずれにしても、カルトアルパス湾に停泊しているであろう艦艇の攻撃の任務を受け持っている。

 

 作戦の概要としては、まず空母機動部隊の艦載機による波状攻撃で敵の抵抗力を削ぎ、その後水上打撃部隊がフォーク海峡を通りカルトアルパス湾に突入し、生き残った敵艦を一隻残らず沈めるといったものだった。

 潜水艦が作戦に含まれていないのは、彼らが先日のマグドラ群島襲撃の際、想定以上に弾薬を使い果たしたがため、一度後方の潜水母艦により補給を受けなければいけない状態に陥ってしまったからだ。

 

 勝ったな。アルカイドは艦隊司令としては好ましくないであろうことを思った。実際、彼が率いていた艦隊は勝利を確信させるだけに相応しい戦力と技量を兼ね備えていたし、作戦の障害となる事象にも見舞われず順調に事が進んでいたから、そう思うのは無理はなかった。

 唯一の気掛かりは日本の空母と戦艦各1隻を含む機動部隊が健在な点であったが、流石にこの戦力を覆しようはないと思っていた。

 

 この空母機動艦隊には6隻の空母の他に、護衛として重巡2、軽巡2、駆逐艦12の計16隻が護衛として随伴していた。これら水上艦艇には新型の対空レーダーとそれに連動した対空砲、機関砲が装備されていたことから、空母艦載機による防空も含めるならば、相当に分厚い防空哨戒網として機能するといえた。

 

 彼の楽観的にも似た態度が一変するのにそう時間はかからなかった。アルカイドが次の指示を出そうとした時、突如レーダー管制員から報告が上がったのである。

 

 室内に張り詰めた声が響いた。

 

「レーダーより艦長並びに司令、突如として画面から全ての反応が消失、応答なし。敵の電波妨害の可能性あり……」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 同時刻 マグドラ群島より東200キロ先の空域

 

 極めて統率の取れた編隊を組んだ2種類の機体は指揮官機から発せられた単音節の通信を受け取った後、なんの妨害も受けずに指定空域まで侵入した。

 この動きがグラ・バルカス帝国海軍に気付かれることは無い。編隊はレーダーを避けるために低空を飛翔していたし、彼らの支援として、事前に飛行していたE-1D早期警戒機と新明和E-3B電子戦機による支援を受けていたからだ。

 おそらく、敵はレーダーも無線も使えなくなっているだろう。

 

 FV-2Sが8機、F-14J改Ⅱが16機で構成された、日本国海上自衛隊航空護衛艦〈そうりゅう〉より発艦した艦載機編隊は、カルトアルパスから500キロ離れたマグドラ群島沖に展開する敵空母艦隊の撃破を目的として飛翔していた。

 

護衛のFV-2Sは空対空装備のみだったが、対艦攻撃役のF-14J改Ⅱには各機3発ずつ、計48発もの対艦誘導弾が積まれている。従来のASM-2ではない。その後継として最近になって全ての飛行隊に配備が完了したASM-3A超音速対艦ミサイルだった。

 

 このミサイルは発射後にインテグラル・ロケット・ラムジェットエンジンを用いて飛翔し、最大マッハ3以上の超音速で敵艦に突入する。日夜能力を向上させる人民解放海軍の防空網を突破し、戦艦、空母含む大型艦を確実に撃破する事を目的とした装備だ。これだけの高性能ミサイルが48発も積まれていたのには、彼らがこの任務に課されていた重要性の為だった。

 

 この時、カルトアルパス湾に派遣された護衛艦隊にとって最大の障壁となっていたのは、先日のマグドラ群島襲撃を敢行したグラ・バルカス帝国東征艦隊、その空母艦載機であった。

 衛星と早期警戒機からの情報を元に判断した結果、同艦隊は少なくとも300機以上の艦載機を抱えて行動中という事実が判明した。

 

 仮に向こう側に先手を打たせた場合、膨大な量の弾薬と燃料を消費しかねない。おまけに、敵は戦艦8隻を含む水上部隊を引き連れている。本来ならば負う必要の無いリスクを背負う必要は無い。

 護衛艦隊の目的はカルトアルパス湾からの脱出し、おおよそ数万キロ離れた第3文明圏へと引き返すことであり、容易に補給が受けれる環境では無い以上、不必要な弾薬の消耗は避けねばならない。何より、開戦初頭に首都に反応弾攻撃を行うような相手に攻撃を躊躇するような真似は、かつての統一戦争で合衆国海軍が反応弾攻撃により壊滅する様を間近で目撃していた日本と海自にとって、最初から選択肢に無かった。

 

 故に、護衛艦隊はまず空母を先に片付けなければならなかった。その最も有効的かつ確実な手段として考案されたのが、今回の〈そうりゅう〉艦載機による対艦攻撃だった。

 

「コルセア・リーダーより全機」

 

 発射ポイントまで差し掛かったタイミングで、編隊の最前列を飛翔していた隊長機より指示が入った。

 

「直ちに発射を開始せよ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

同時刻 グラ・バルカス帝国東征艦隊 空母〈アルゲニブ〉

 

 艦隊は突如として発生したレーダーの不調に混乱していた。CAP(戦闘空中哨戒)中のアクラブ戦闘機に連絡を取ろうとしたが、またしても通信が不調で繋がらなかった。

直後、艦隊前方の空に幾つかの爆炎が瞬いた。CAP機が撃墜されたのだ。

 

 この時点で艦橋か甲板上で作業していた士官らは艦隊が何者かによって攻撃を受けていると認識した。空母〈アルゲニブ〉内の戦闘指揮所がようやく具体的な指示を出せたのは、最初のCAP機撃墜から1分後のことだった。

 

「直ちに戦闘機隊は全機発艦せよ!何?通信が繋がらない?投光器と手旗信号でなんとかしろ!」

 

 アルカイドは半ば吠えるようにして指示を飛ばした。同時に、彼の頬を冷や汗が伝っていくのが分かった。レーダーも無線もまともに動かない中、対空戦闘なんてできるのだろうか?

未だ混乱中の艦隊、正体不明の敵、畜生め。

 

 彼がこう考えていた時、既に48発のASM-3Aは一斉発射されており、機械的な故障で墜落した2発を除く46発全てが艦隊へと向かっていた。発射後すぐに最高速度に到達するわけではないが、それでも3分後にはミサイルが艦隊に突っ込むと予想されるだろう。

 

 これに対し、空母機動部隊に所属する護衛の駆逐艦、巡洋艦は未だに探知すら出来ないでいた。レーダーが機能していない上に、超音速で飛翔するミサイルを目視で確認するのが困難だったからだ。ミサイルの性能を考えるのならば、ほとんど何も出来ていないのと一緒である。

 

 最初に被害を受けたのは、艦隊前方の防空を担当していた軽巡〈アルゴル〉だった。彼女は未だ視認出来ていない相手に対し、装備していた65口径10センチ連装高角砲10基と多数装備した40ミリ機関砲による対空射撃を開始しようとしていたが、既に手遅れだった。

 

 なんら効果のない対空砲火に晒されたミサイルは〈アルゴル〉の上部構造物中央に直撃した。巡洋艦としては比較的薄い彼女の外板装甲をミサイルの持つ運動エネルギーが容易く引き裂き、弾体が完全に艦内に侵入した時点で遅延信管が作動、炸薬によって周囲へのエネルギーを発散させた。

 

 この爆発により艦内指揮所は全滅、艦橋構造物は醜く膨れ上がり、先程ミサイルが突入した破口から内部の血肉を撒き散らすかのようにして破裂した。生き残った乗組員たちは必死にダメージ・コントロールを試みたが、続いて突入してきたもう1発のASM-3Aにより作業を中断せざるを得なくなった。

 

 何よりも不幸だったのが、2発目のASM-3Aが着弾し、弾頭がめり込んだ箇所が艦前方の主砲群……その直下にある弾薬庫だったことだ。弾薬庫の誘爆により船内に致命的な損傷を負った彼女は、乗員が艦内から退避する間もないまま、急速にその船体を水面下へと沈めていった。

 

結局、ペルセウス級防空軽巡洋艦の次女として生を受けた〈アルゴル〉は、同海戦におけるグラ・バルカス帝国海軍最初の喪失艦として記録されることとなったのである。

 

 次に命中弾を受けたのが、タウルス級重巡洋艦〈チャムクイ〉だった。この艦は〈アルゴル〉の被弾から僅か3秒後に1発のASM-3を特徴的な前檣楼に被弾していた。

 内部で起爆した弾頭は艦橋内に居た司令部要員を全て吹き飛ばし、艦の指揮機能の全てを破壊し尽くした。追い討ちと言わんばかりに突入してきたもう1発は艦中央部へとめり込み、炸裂と同時に不可逆的なダメージを船体に与えていた。彼女はまだ浮いていたが、最早軍艦としての機能は喪失したも同然だった。

 

 レーダーが効かない以上、目視で指揮を取るしかないと艦橋へと上がっていたアルカイドもこの一連の光景を目撃していた。もはや、どうしようもないように思えてきた。

 飛行甲板上では整備員達が慌てて爆弾や魚雷を取り外しているのが見えたが、既に手遅れのようにアルカイドは思った。

 

 最初、遠方で発生していた閃光はアルカイド中将が瞬きを行うよりも早いスピードで〈アルゲニブ〉へと迫ってきていた。幾つかの爆発が続いたのちに6隻のエクレウス級駆逐艦が船体を裂くよに爆発し、急速に水面の下へと引き摺り込まれていった。

 

 そして慌てて空母を守ろうと進路を変えていたレオ級軽巡洋艦になにか超高速の飛翔体が突き刺さったかと思った直後に爆発、そのまま横転した。

 さらにもう一隻のタウルス級重巡洋艦の前部主砲塔が吹き飛ぶほどの大爆発を起こした直後……ついに、放たれたミサイルが空母の群れに到達した。

 

 奇しくも、最初にミサイルが着弾したのは〈アルゲニブ〉だった。彼女の左舷側より突入したASM-3Aが側面に貼られていた装甲を食い破り格納庫内へ突入、駐機していたスピカ攻撃機を巻き込むようにして爆発、火災と爆風を格納庫内に飛び散らせた。

 被弾とほぼ同時に消火班による消火活動が開始されたが、誘爆した燃料と弾薬の影響でまともに機能しなかった。それどころか、誘爆と同時に艦内の電源設備が破壊され、通常のダメージ・コントロールすら覚束なくなっていった。

 

 続く2発目は強度甲板方式の採用された飛行甲板をその運動エネルギーによって貫通し、炸薬によって駐機中の機体を薙ぎ倒すように爆発した。急降下爆撃に備えて設計されていた甲板も、マッハ3で突入する対艦ミサイルの前には無力だった。

 

 〈アルゲニブ〉の破壊を不可逆的なものにしたのは、燃料タンクにガソリンを満載したアクラブ戦闘機やスピカ攻撃機が次々と誘爆を起こし、飛行甲板上にあるもの全てに炎と破片を振り撒いていた。

 

 彼女、いや東征艦隊にとってもっとも不幸だったのが、続く3発目が着弾した箇所が〈アルゲニブ〉のアイランド……つまり艦橋だった点だろう。

 艦橋を直撃したASM-3は煙突と一体となった島型艦橋の大部分を破壊し、内部に居たほとんどの人員を殺傷し尽くした。勿論、その犠牲者の中にアルカイド中将も含まれている。

 

 〈アルゲニブ〉の飛行甲板と格納庫内は火の海となっていたが、彼女はまだしぶとかった。生き残った乗組員達が必死になってダメージ・コントロールを行い、少なくとも船としての機能を維持していた。彼らの希望が完全に打ち砕かれたのが、艦首に突き刺さるように激突した4発目のASM-3だった。

 

 このミサイルが起爆したことにより艦首に大穴が開き、そこから30ノットで進む巨艦に見合うだけの海水がなだれ込んできた。幸か不幸か生き残った士官らが行動を起こそうとしていたが、応急措置を行うだけの人員と将校は既に甲板か艦橋内で吹き飛ばされるか、炎に巻かれて息絶えるかしていた。もはや〈アルゲニブ〉には浸水を止める手段は残されていなかった。

 

 〈アルゲニブ〉と似たような惨状は、他のペガスス級航空母艦5隻の艦内でも繰り広げられていた。周囲にはもはや無傷の艦艇は残されておらず、排水量の少ない駆逐艦などは既に7割近くが海面下へと姿を没していた。

 

 幾つか浮いている艦艇もあったが、その殆どがただ炎と黒煙を噴き出して浮かんでいるだけの物体と化していた。あるいは、甲板上のほとんどを炎上させながら高速で迷走するかの二つだった。

 

 火災と浸水がもたらした影響によって傾いた船体から黒煙と爆発、そして炎を噴き出すだけの物体と化していた〈アルゲニブ〉がマグドラ群島沖へと完全に没したのは、最初の被弾から数えて8時間後の出来事だった。

 

 彼女が沈没する際、周囲には生き残った艦船は存在しなかった。彼女を除く21隻全てが〈アルゲニブ〉より先に海底へと身を没していた。かつて艦隊が浮かんでいた海面は重油で覆い尽くされ、まばらな数の元乗組員達が救命ボートにしがみついている。まともな救援など望むべくも無かったから、彼らを待ち受けるのは溺死か海魔の餌かのどちらかであった。

 

 そして彼女が完全に海面下に姿を消した時、カルトアルパス近海での戦闘の趨勢は決していた。




ペルセウス級防空軽巡洋艦→RSBCの石狩級軽巡洋艦。
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