征途日本召喚   作:猫戦車

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魔女

ロデニウス大陸沖 日本国海上自衛隊〈やまと〉

中央暦1639年/西暦2021年 4月15日

 

  なんて数だ。海が船で埋まっていやがる。

 

 〈やまと〉艦内において最も状況把握が容易な場所として、戦闘指揮所(CDC)へと案内されたブルーアイは、薄暗い室内の大型スクリーンに映し出された、今しがたこの艦隊が対峙している脅威の全容を把握し、つい先程まで抱いていた楽観的な予測が急速に萎んでいくのを感じた。

 

 いくらこの船が大きかろうが、流石にこの数を相手するのは不可能ではないのか?どうやってこれだけの数相手に戦えばいいのか?

 

 おおよそ戦意の足りていると言えない、弱腰にも似た思考が脳裏をよぎる。思わず、彼はCDC内で指揮を取る〈やまと〉艦長に向けて話しかけていた。

 

「艦長、本当にこれだけの船で足りるので?」

 

「我々はただ任務を遂行するのみです」

 

 〈やまと〉のハルナンバーとシルエットの刻印がなされた紺色の識別帽を被っている艦長は、多くの日本人に共通するように具体的な結論を避けた、それでいて確かな自信と覚悟を持ったような物言いで返答した。

 

 どうやら、彼らはどうなろうとも最後まで戦い抜くつもりらしい。

 彼はCDC内の乗組員に対し、少しばかり独特のアクセントな声で言った。

 

「先程の哨戒ヘリに対する攻撃から見るに、相手は引く気は無いだろな。状況は?」

 

「敵艦隊、我の全火器射程内です。いつでもいけます」

 

「了解。射撃を許可する」

 

 艦長の命令が発せられたのと時を同じくして、この恐るべき艦は瞬時に脅威度を搭載したコンピュータ・システムによって判定、自動的に目標を過剰なまでに搭載した主砲に副砲、近接防御火器へと割り振っていく。

 

「主砲各砲塔、全火器、射撃準備完了」

 

「射撃開始。繰り返す、射撃開始」

 

 無数の号令がCDC内を飛び交う中、ブルーアイはある一点のモニターに映し出されたそれを眺めていた。

 

 それは前甲板全体が映るように装着された定点カメラからの映像であり、被弾時の損傷具合を確認するのが目的のその映像には、後部甲板にて目撃したあの極大な主砲塔が2基、背負い込み式で設置されているのが旋回している様子が映し出されていたのだ。

 

 放物線を描くように投弾する必要すら無いと言わんばかりに砲身の水平を保ったまま旋回し終えたとき、艦長が短く、しかし力強く言い放った。

 

撃て()ぇ!」

 

 艦長が叫び終わる前に、前甲板で発生する巨大な火炎と轟音、そして黒煙が、映し出される映像と振動、そして防音されても尚聴こえる砲声によってCDC内の人間にも衝撃を伝えた。

 

 46センチ砲が、18インチ砲が21世紀に入って初めて対艦用途に用いられた瞬間であった。

 

 効果は絶大であった。一斉射で放たれた9発もの砲弾はロウリア艦隊に対してその異常なまでの破壊力を叩きつけ、純粋な運動エネルギーと1トン近い炸薬の炸裂による衝撃で至近弾のみですら転覆、航行不能となる船を無数に出してしまう結果となった。

 

 ブルーアイはその中で自船の至近距離へと着弾した船が衝撃によって引き起こされた波で転覆する姿、その近くで砲弾片を喰らって船体が真っ二つに裂けた船、そして直撃によって存在が消滅した船を目撃し、驚嘆した。無慈悲で、何よりも暴力的で、それでいて何故か美しくも感じていた。

 

「18インチ!」

 

 ブルーアイは鼓膜と脳裏に焼き付いたエネルギーに男としての何かを感じ、乗艦時にこの艦の主砲口径として説明された単語を叫んだ。彼にとって18インチとは、この艦を表す単語そのものであった。

 

 それを聞いたCDCの人々が彼に笑みを向ける。オリエンタル・スマイルではない。大切な玩具を友達に見せびらかした時の様な顔だ。

 

 艦長が少し独特な声で言った。

 

「我らがクラブへようこそ。ミスター・ブルーアイ」

 

ーーーーーーーーーーー

 

ロウリア王国東方征伐海軍 1時間後

 

 周囲は地獄と形容する他ない有様であった。

 

 先頭にて舵を取るあの巨大な船から、多種多様な破裂音と閃光、そして白煙が放たれるたび、味方が有するガレー船の数隻が、原型も留めずに沈むか、もしくは見るも無惨な有様となって沈むかのどちらかだった。

 

 前部後部合わせて9門の、ショットガンの水平撃ちかの如く放たれた〈やまと〉の主砲が着弾するたび、まとめて数隻が着弾の衝撃によって生じた水柱の奥底へと消えた。

 

 前後部に加え両側面に設置された8インチ速射砲のうち3基による正確なまでの射撃は、この鹿撃ちにも似た虐殺劇から逃れようとする船を一隻一隻づつ丁寧に刈り取っていく。

 

 口径こそ主砲並びに副砲に劣るものの、速射性において他を圧倒する76ミリ速射砲など、その圧倒的は連射力を持って流れ作業かの如くロウリア船を海底へと沈めていった。

 

 〈やまと〉の射撃に呼応して、後ろを航行していた大型ミサイル護衛艦〈きりしま〉、汎用護衛艦〈きりさめ〉も射撃を開始した。

 

 13500トンの大型艦として進水した結果、前後に1門づつの8インチ砲を搭載した〈きりしま〉、Mk45 5インチ速射砲1門を有する〈きりさめ〉の射撃が加わったことで、ロウリア船の撃沈スピードは飛躍的に向上した。

 

 更に後続の4隻の汎用護衛艦が戦列に加わり、射撃の密度が向上した結果、既に半数以上の船舶が撃沈、または無力化されており、誰の目に見てもロウリア側の敗北は明らかであった。

 

 この時最も悲惨な運命を辿ったのが、未知の兵器に対してロウリア海軍の意地を見せたらんと〈やまと〉に接近し、彼女の側面に搭載された90式35ミリ高射機関砲の直射を喰らった船である。

 

 苦痛を感じる暇すら無く絶命する程の破壊力を持つ主砲と違い、35ミリ機関砲は恐ろしいまでの火力を持ちながら当たり所によっては息が残ってしまう場合が存在する。

 

 その場合、不幸にも砲弾が掠り、四肢か身体を失ってしまった水兵の苦痛が収まる瞬間とは、乗船が沈んで自らが溺死するその瞬間のみであった。

 

「なんという事だ、これは」

 

 そしてその蹂躙劇を特等席で眺める羽目になったシャクーンは、目の前の現実を受け入れがたく思い、呻いた。

 

 先程、敵の増援としてやって来た4隻による砲撃も加わったこの虐殺は、彼が腐心して育てた海軍の全てを壊し、凌辱し、徹底的に嬲るようなものであった。

 

 既に艦隊の約半数が轟沈かなんらかの損傷を負って戦闘不能となっていた。

 

 こちらのバリスタなど掠りもしない。掠ったとして、船体を鋼鉄で構成している護衛艦には傷一つすら付かない。物量を過信して波状攻撃をかけた結果がこの有様であった。

 

 それにあの船、先頭を突き進む海上要塞と許容するしか無いあの船。後続の船が小舟に見える程に巨大なそれにより、少なくとも数百隻のガレー船が沈められたのをこの目で目撃したシャクーンは、血の滲むほどに拳を握りしめて小さく呻いた。

 

「畜生、魔女め」

 

 魔女。そう形容する他ない惨状を、かの船は今もロウリア側に与え続けている。

 

 船乗りの共通認識として、己の駆る船は女性であり、母なる海を共にする伴侶であった筈だ。

 ならばあの船はなんだ?あれ程の破壊と暴力を振るう船など、御伽話の中の魔女としか形容できるはずがない。

 

 シャクーンは思った。もしも100騎でもワイバーンがロウリア海軍(われわれ)の支援に振り分けられていれば、もしもあの魔女の船さえいなければ、せめてもう少し()()な結末だったのだろうか?

 

「全軍、撤退だ。即座に反転し、戦域からの離脱を果たせ」

 

 シャクーンは撤退を決断した。最早これ以上の損害を許容など出来るはずもなかった。彼の命令を聞いた魔導通信士は即座に隷下の船舶に伝達すべく行動を開始した。

 

 しかし、彼の判断は遅かった。魔導通信士が魔信を起動して命令を下達するほんの数秒前に、彼の乗船していた船に向けて放たれた8インチ砲弾が、彼とその部下共々を炸裂と同時に原型すら留めずに殺害してしまったからである。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

同時刻 日本国海上自衛隊〈やまと〉

 

 艦の航行を担当する第2艦橋から送られて来た画像を見るや否や、〈やまと〉CDC内は途端に歓喜の声で包まれた。その画像が映し出された1つのスクリーンからは、先程まで戦っていた無数の帆船の群れが踵を返し、まるで蟹の赤ん坊のように散り散りとなって霧散する様子が見てとれた。

 

 CDCはある種の熱気に包まれていた。彼ら彼女らはこれ程までの至近距離での砲戦など経験したことがなかったのだから、一戦を終えた結果としてのある種の昂りを抑えきれなくなっていたのだ。

 

 その熱気に引き込まれたのはブルーアイも同じであった。彼は与えられた玩具が自分の想像以上に楽しいものだった時の幼児のように目を輝かせていた。仇敵ロウリア海軍が蜘蛛の子を散らすように逃げ帰る様と、この〈やまと〉の勇姿にだ。

 

 その〈やまと〉艦長はこれらの光景をどこか達観したような感覚で見ていた。

 

 普段だったら、このCDC内の全員を叱りつけているところだが、今回ばかりはあえて黙認することにした。かつて三等海尉として〈あきづき〉に乗艦して統一戦争を迎えた彼も、海戦が終わった直後は似たような状態になっていたことを思い出したからだ。

 

 彼は軽く咳払いし、漂流者の救助に対しての指示を出した。

 

ーーーーーーーーーーーー

クワトイネ公国 マイハーク港 輸送艦〈しもきた〉甲板上

中央暦1639年/西暦2021年 4月16日

 

 クワトイネ公国沿岸部に位置する経済都市マイハークの北部の入江に、そのままマイハーク港と呼ばれる港が存在する。

 

 従来、マイハーク城や町の四方に存在する監視塔から一望できるその場所からは、ここを根拠地とするクワトイネ海軍の艦艇や、周辺の文明圏外国へと食糧輸出を行う商船といった無数の帆船が類をなしていた。

 

 この都市と港湾はクワトイネ有数の経済都市であったが、それでもあくまで文明圏外国の範疇と言って差し支えない規模であり、停泊する船も数十メートル程度の小ぶりな帆船が殆どであった。

 

 しかし、日本国陸上自衛隊(JGSDF)クワトイネ援助部隊(JASCK)総司令官の大内田和樹陸将がこのマイハーク港に停泊する輸送艦〈しもきた〉甲板上から眺めている景色は異なるものであった。

 

 湾内には無数の仮設桟橋が設けられ、そこから民間のを一時徴用したRORO船が直接73式大型トラックを降ろしているものや、岸壁に備え付けられたガントリークレーンから無数のコンテナを降ろし、地上部隊に必要な物資を無数に荷上げしていた。

 

 これらの物資は現在戦闘中の1装連(第1独立装甲連隊)並びに、現在揚陸中の第7機甲師団を含む第二陣に対する後方支援に該当するものであった。

 

 ここ一年で急速に整備されたクワトイネの道路網と鉄道網に支えられる形で、陸自の部隊補給は成り立っており、既に必要十分と言える量の物資の揚陸は完了して、追加の物資もまた揚陸が開始していた。

 

 しかし、クワトイネ内における全陸自部隊の全てを指揮する大内田からしてみれば、これらの作業は全くと言っていいほど円滑に進んでいなかった。揚陸の次の段階、物資を前線に運ぶ過程において問題が発生していたのだ。

 

 戦前から道路整備の始まっていたクワトイネと言っても、その殆どは乗用車の使用に耐えれる代物でなく、前線に各種物資を届ける血管の役割を果たす輜重段列、補給拠点の業務がうまく働かなくなってしまっていた。

 

 食糧や弾薬、燃料を運ぶ動脈としての役割はある程度果たせていたのだが、機械的損耗によって故障した車両の後送や、軍隊を動かすと必ず発生する負傷者の後送などの静脈としての役割が滞る箇所があり、また機械的故障にて落伍した車両の回収にも遅れが生じている程だった。

 

 もっとも、これらの問題については完璧とは言えないものの数日以内の解決の目処は立っていた。CH-47を始めとしたヘリによる空輸に加え、到着した第7師団の施設科による後方連絡線の修繕、改築が実施される予定であったからだ。

 

 普段は城塞都市エジェイに設けられたJASCK司令部に篭りきりの大内田がマイハークの〈しもきた〉まで訪れたのは、こららに関する打ち合わせの為であった。

 

(1装連(ゴジラ)は上手く持ってくれているな。作戦は、少なくとも1ヶ月後か)

 

 大内田は、あまりにも複雑で煩雑な兵站に関する事象から戦闘の状況へと思考を移し、現在の戦闘推移について再確認した。

 

 現在、自衛隊は各地で再集結を図るロウリア王国軍に対し、海空自による爆撃か陸自による砲撃によって移動中に排除することで出来るだけ直接的な戦闘を避けていた。

 

 現在前線を張っている陸自部隊は第1独立装甲連隊のみであり、ギム攻防戦のような大規模な戦闘をそう何度もこなせる余裕は無い。故に、大内田ら司令部に求められたのはそもそもロウリアを戦闘を成り立たせる状態にしないことであった。

 

 ワイバーンならば離陸前に、歩兵部隊であるならば移動中か、もしくは夜間休息中かのどちらかにおいて空爆か普通科と機甲科の協働しての強襲で排除し、こちらに対抗できるだけの大軍を集結させないことを目的としてする他なかった。

 

 結果として戦死者はゼロ、負傷者も数える程度しかいない程に部隊の損耗は保たれていた。

 

 しかし、それではいつまで経っても戦争が終わらず、ずるずると弾薬と燃料を損耗するだけであり、何処かのタイミングでの決着が大内田らには求められていた。

 

 故に、第7機甲師団の完全な到着を持って、陸自はロウリア領内侵入を伴う大規模な攻勢へと移ることを決断した。

 

 同時に派遣される第12空中機動旅団によるロウリア首都制圧、それに呼応してのロウリア地上軍撃破、これらを主目標とした作戦の実施によって、敵国の完全な無力化を図る予定であった。

 

 ふと、彼の頭上を轟音と共に飛び去っていく機体が2機、胴体及び翼下パイロンにレーザー誘導爆弾を装備したF-15CJ改Ⅱ戦闘爆撃機の姿が見えた。

 

 非公式な愛称としてイーグルプラスと呼ばれるこの機体は、二次元推力ノズル等の近代化改修にて超音速巡行能力と対艦、対地能力を獲得した結果として、本土から空中給油機を経由して日夜ロウリア爆撃に勤しんでいる飛行隊のものであった。

 

 作戦開始まで、どれだけロウリアを削り取れるのか。大内田は心配こそしつつも、来るべきその日に向けての準備を欠かさないよう決心した。




F-15CJ改Ⅱ→征途第2、3巻に登場するF-15CJ改の改造型。二次元推力偏向ノズルや新型エンジン等の換装が行われ、超音速巡行能力や対艦、対地攻撃能力を獲得している。愛称はイーグルプラス。
 
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