という訳で第12話です。
「……一先ず、情報を整理しましょうか」
「うん、そうだね……」
場所はアビドス高校の一室。私とホシノさんは対策委員会のメンバーに適当な理由をつけて2人きりで話をしていた。
「あの時、私達は砂漠の中を車で走っていた……それは間違いないですよね?」
「うん、それは間違いないよ。私も外の様子は見ていたし、学校までまだ時間はかかった筈だよ」
「ええ。ですが、気付けば私達はアビドス高校の校門前にいた……」
話の内容は、少し前に起きたあの謎の現象についてだ。確かに私達はまだ砂漠の中を走っていて、アビドス高校までまだ距離はあった筈だ。にもかかわらず、気付けば既に目的地のアビドス高校の校門前にいた。それこそ、まるで本当にワープしたかの様に。
「いやいや、ハモリちゃん。いくら何でもそんな漫画みたいな事が本当に起こる訳……」
「ええ、私も滅茶苦茶な事を言ってるのは分かってます。けど、そうでないならさっきのアレはどう説明するんです?」
車から降りた後、念の為にアビドス高校周辺を警備していたミヤコ達に確認を取ってみたが「気が付いたらいきなり現れていた」らしい。ホシノさんも不可解な現象を前に困惑し、口を噤んでいた。
「うーん、こういうオカルトじみた話、おじさん苦手なんだけどなぁ……」
ホシノさんが頭を搔きながらそう呟く。正直に言えば、この良く分からない状況に対して、私もホシノさんと同じ気持ちだった。
「(そう言えば、あの時……)」
ふと、車の中で私が「アビドス高校へワープ!」と冗談で言った直後に、ホシノさんが外の異変に気付いた事を思い返していた。
「(いや……まさか……?)」
自分でもあり得ないと思いつつも、目を閉じて意識を集中する。イメージするのは……"自分なら出来る"という認識のみ。
「ハモリちゃん……?」
急に黙り込んだ私にホシノさんが困惑した様に声をかける。私は構わず意識を集中させ、1歩前に進むと__________ホシノさんの"背後"にいた。
「ハモリちゃん!?」
「ここにいますよ」
突然姿を消した私に驚愕するホシノさん。私はすかさずホシノさんに声をかけると、ホシノさんは後ろを振り返り、信じられないモノを見るかの様に私を見る。
「ハ、ハモリちゃん今……」
「どうやら……私が原因みたいです」
そう言って私は1歩後ろに下がると……部屋の"外"にいた。そして扉を開けて、消えた私を探すホシノさんに声をかける。
「ホシノさん、ここですよ」
「……嘘でしょ?」
ホシノさんはあり得ないと言わんばかりに目を見開き、私を見ていた。
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「じゃあ、ハモリちゃんもよく分からないんだ?」
「ええ、私もついさっき使える様になったばかりなので……」
あの後、私はホシノさんに自分の身に宿った"力"について話をしていた。自分なら出来る、と意識した途端に自身に宿ったその力がどの様なモノなのか手に取る様に分かった。
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離れた空間を繋ぐ"門"を形成する力。
私は虚空へと手を伸ばす____その指先にある空間が波打つ水面の様に歪み、そこに手を入れると手が空間の中へ消えて行き____ホシノさんの"頭の上"に手が現れた。
「うへぇ……何かちょっと怖いなぁ……」
ホシノさんは虚空から現れた私の手を見て呟き、私は手を引っ込める。
「便宜上、私は"門"と呼称しますが……多分、あの時は私が無意識の内に門を作り出して、車ごとアビドス高校の前にワープしたのだと思います」
「うへぇ……本当に話がオカルトっぽくなっちゃったね……」
全くもってその通りであるが、私はこの力について心当たりがあった。
「(セリナワープ……というよりはシロコ*テラーのワープか?私の場合はそういう"神秘"という事なのか?)」
神秘。原作でも度々出ているこの単語について詳細は明らかになっていないが、作中の描写を見る限りだとゲームで言うMP、そしてキヴォトスの生徒が持つ特異性、異能の力と私は認識している。セリナのワープ、セイアさんの予知能力、ホシノさんやヒナさんの戦闘力、ミレニアムだとアスナ先輩の直感やノアの記憶力、コユキの暗号解読等がそれに該当するだろう。
「(戦闘は勿論の事だが、移動にも使えそうだな)」
考える事は色々あるが、この力を上手く使いこなせれば今後色々な面で役に立つという事は確かだ。
「(いっそのことこれでカイザー本社に侵入して情報抜き取ったり、ベアトリーチェの所へ先制攻撃を仕掛けたり……いや、よそう。流石に素人がC&Cの真似をしても失敗するだけだし、その前に力の検証も必要だろう)」
「……どしたのハモリちゃん」
ホシノさんに声をかけられ、一旦思考を中断する。
「ああ、すみません。ちょっと考え事を……」
「……おじさんも人の事は言えないけど、くれぐれも無茶はしないでね?」
どうやらホシノさんには見抜かれていた様だ。つくづく、自分は腹芸に向いてないと思い知らされる。
「はい、気を付けます……」
そもそも何故急にこんな力が身に付いたのか分からないし、何が出来て何が出来ないのか色々確かめる必要もある。ゲマトリアは論外として、ミレニアムにはこういうオカルトに詳しい"専門家"がいるし、ダメ元で相談してみるのもありかもしれない。
「(確か明日の診察リストの中には"彼女"がいたな……アポ取れないか聞いてみるか)」
取り敢えず、疑問は解決したので今日の所はこれで解散となった。尚、帰りにアビドス砂漠入り口付近をイメージしてみた所、問題なくワープ出来た。どうやら、一度行った事のある場所なら問題なくワープ出来るらしい。最初はそのまま駐車場にワープしようかと思ったが、人目を警戒してアビドス砂漠入り口付近にした。これで好きな時に柴関ラーメンに行ける事が分かったのは収穫だった。
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「よし、これくらいで良いかな」
翌日。私は歯科学部の診察室にて、これからやって来るある患者の為に準備をしていた。アビドスの方も気になるが、もし何かあればワープがあるので問題ない。
因みにこれは少し前にモモトークでホシノさんから聞いた話だが、先生と対策委員会、SRTは近日中に利息の集金にやって来るカイザーローンを追跡し、シャーレの権限で強制捜査を行い不正の証拠を押さえる計画を立てているとの事だ。また、先生はカイザーPMCとの衝突を想定して、私以外のシャーレ部員……シャーレ奪還作戦に参加したメンバーを通して各学園に援軍を要請するつもりらしい。原作と大分異なる展開になっているが、銀行強盗して後で色々言われるよりはマシだと自分に言い聞かせる。因みに私はセミナーに所属してる訳ではないので単独で参加する予定だ。
「(これが所謂バタフライエフェクトと言うヤツだろうか?思えばカルバノグの時も先生の動きが原作と比べるとやけに積極的だったし、今回もまるで本気でカイザーを潰そうとしている様に見えるが……そういう世界線という事なのか?)」
色々気にはなるが、先生がアビドスを救おうと動いているのは間違いないので、一先ずはそういうものだと納得する。
「(何れにしろ、時が来るまで私は自分の仕事をするだけだ。それに、今回の診察は前から楽しみにしてたからな)」
何せ、今回診察にやってくる患者は前世での私の"推し"の1人なので、正直に言うと今の私はかなり浮かれていた。
推しの口の中を観察し、推しの歯を綺麗にし、推しの口の健康を守る……これぞ所謂"推し活"と言うのだろう。
「(ユメさんの診察も対策委員会編が終わるまでは無理そうだし、それまでお預けをくらっている様な気分だったから今回の診察はまさに僥倖だ。ああ、ミレニアムに入学出来て本当に良かった……!)」
因みに記憶は殆どないのだが、実は私の生まれはミレニアムではなく百鬼夜行らしい。生まれてすぐに百鬼夜行からミレニアム自治区に引っ越したので、記憶がないのも当然だった。尚、その事をアヤメさんに話したら「へぇ、私と同じ生まれかぁ」と何だか嬉しそうにしていた。
「えっと……ハモリちゃん、何してるのかしら?」
ネネコ先輩が困惑した様子で私に声をかける。
「ああ、これですか?次に来る患者さんの為の準備をしている所ですよ」
「……診察するのにクーラーなんて必要かしら?」
ネネコ先輩が言う様に、歯科ユニットの周囲にはスポットクーラーが5台置いてあり、治療用チェアには冷寒マットが敷いてあった。
「患者さんが治療を受けやすい様に、環境を整えておくのも私の仕事なので」
「そ、そう……風邪をひかない様に気を付けてね……」
ネネコ先輩は何とも言えない微妙な表情を浮かべながら、その場を去って行った。まあ、普通は診察にクーラーや冷寒マットは使わないし困惑するのも無理はないが、今回に限ってはどうしても必要なのだ。
「ああ、楽しみだ。早く来ないだろうか……」
私はユメさんの32本の奇跡の歯並びを見た時と同じくらいに興奮しながら、診察の準備を進めていた。
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「ハモリ先輩、こんにちは」
しばらくして、遂に私の推しの生徒がやって来た。長いピンク色の髪を三つ編みにし、上半身のシャツをはだけさせ、ファスナー付きの黒いブラを身に付けた露出度の高い格好をした少女……特異現象捜査部所属の和泉元エイミだ。
「やあ、いらっしゃい。待ってたよ」
私は推しが目の前にいるという事実に興奮しながらも、冷静にエイミを治療用チェアに座らせ、クーラーの電源を入れる。私とエイミのいる空間の気温が瞬く間に下がっていく。
「ふぅ……涼しい」
「前回はかなり暑そうにしていたから色々準備しておいたんだ。冷寒マットの方はどうかな?」
「うん。こっちもひんやりして気持ちいい……ありがとう、ハモリ先輩」
エイミは治療用チェアに座って満足そうに頷く。大分気温が下がっていると思うが、思ったよりも寒く感じない。これから推しの口の中を見る事への興奮があるからだろうか。
「(前に親知らずを抜いた時のエイミの身悶えする様は最高だったなぁ……歯茎の中に埋もれていた親知らずを少しずつ砕きながら抜いていくのはお宝を発掘している様でワクワクしたし、親知らずを抜いた後のエイミのホッとした顔も思わず抱き締めたくなるくらい可愛かった……今日は一体、どんな顔を見せてくれるのかな?)」
因みに抜いたエイミの親知らずは本人がいらないと言ったので、私が代わりに記念品として保管している。ケースに保管された小さな歯を見る度に彼女の苦悶に歪んだ顔や息遣いが鮮明に頭に浮かび、それを肴にして飲む一杯はまた格別だ。勿論、アルコールではなくジュースであるが。他にもリオ会長やアヤメさん、他の生徒達の親知らずもキチンと保管しており、同じ様に歯を眺めながらチビチビとジュースを飲むのが私のささやかな楽しみの1つだ。
尚、前にアヤメさんに見付かった時には『何やってんのよこのド変態!?』と絶叫し、しかもちょうど見ていたのがアヤメさんの虫歯になった親知らずだったので滅茶苦茶怒られた。最悪処分される事も覚悟したが、アヤメさんは最後に呆れながら『あんたが変態なのは今に始まった事じゃないし、今回は許してあげる』と、何とか許して貰えた。
一先ず自分の性癖については一旦棚上げして、診察の前に当初の目的を果たす為にエイミに声をかける。
「エイミ。診察を始める前に、1つ頼みたい事があるんだけど良いかな?」
「内容にもよるけど……何?」
「______ヒマリ先輩に相談したい事があるんだ。アポを取りたいんだけど、お願い出来るかな?」
エイミの所属する特異現象捜査部の部長である明星ヒマリ先輩。私の神秘、というかワープ能力について相談するのに、オカルト知識と経験のある彼女が一番適任だと判断したからだ。
「部長に相談?良いよ、私から話しておく」
そう言うと、エイミはスマホを取り出し連絡を取り始めた。
「……部長から連絡来たよ。ちょうど今日は予定が空いてるから、診察が終わった後にでもどう?って」
「ありがとう。じゃあ、この診察が終わった後にお願い出来るかな?」
「うん。伝えておく」
一先ず話は通った様で一安心だ。アビドスの一件もあるし、早めに会ってくれるのはありがたい。
「さて、今日は虫歯や歯周病のチェックをして、それから歯の汚れや歯石をクリーニングしていくからね」
「うん、よろしく」
そして私は治療用チェアを倒してエイミを横に寝かせる。エイミの豊満なバストが重力に合わせて形を変え、ブラに付けられたファスナーがライトの光を反射しキラリと光る。
「じゃあ、口を大きく開けて」
「んぁ……」
エイミはゆっくりと口を開ける。ハリのあるピンク色の唇が上下に開口し、むわぁと可視化出来るくらいに質量のある吐息が広がっていく。ライトの光がエイミの熱の籠った口内を奥まで照らし出し、その全貌が露になる。私は自身の心臓が激しく鼓動するのを感じながら、エイミの口の中を覗き込む。
「(ああ……美しい。なんて美しい歯だ……)」
エイミの口の中はネネコ先輩やリオ会長に並ぶくらい素晴らしいモノだった。
唇のピンク色とコントラストをなしている真っ白な歯は親知らずを除いて28本。色も形も文句の付け所がなく、チェンバロの鍵盤を思わせる理想的な歯並びをしている。その歯を支える歯茎は炎症もなく血行の良い綺麗な色をしていて、力強く引き締まっている。歯茎の内側に鎮座するルビー色の舌は小さく収まり、別の生き物の様に蠢いている。表面は泡立った唾液が窪みに溜まり、数本の細い糸が開口に合わせて伸びている。ヌメヌメと粘りのある唾液が張り付いた肉壁は暖かい血の通った綺麗な色をしていて、触れるモノ全てを優しく包み込む触感を想起させる。喉にぶら下がる口蓋垂はやや太く、熱を帯びた吐息が喉の奥から出る度に小さく揺れている。
「(素晴らしい。洗練された工芸品を彷彿とさせる歯の造形に、力強い生命の息吹を感じさせる肉の色……合理主義なエイミらしい、機能美と美しさを兼ね備えた美しい口内だ)」
心の中で推しの口内を絶賛しつつ、私はデンタルミラーをエイミの口の中に挿入する。
右上の奥歯から前歯に向かって、1本ずつデンタルミラーの角度を変えながら丁寧に確認していき、反対側も同じ様に見ていく。上の歯が完了すれば、次は下の歯を見ていく。
目視での確認が終わると、次は口腔内スキャナーを口の中に挿入する。数分後、エイミの口内のデータが3D画像となってモニターに映し出される。
「よし、虫歯はなし。ちゃんと毎日丁寧に歯磨きをしている様だね」
「……前にハモリ先輩が歯磨き指導したからね」
エイミがジト目で私の事を見ているが、私にとって推しの美しい歯が虫歯になるという事はキヴォトスの滅びと並ぶ悲劇なので徹底的に歯磨き指導をした。使う歯ブラシや歯みがき粉の種類、歯ブラシの使い方までみっちり教えたお陰でこうして美しい歯を拝める事が出来たのだから私は大満足だ。そして虫歯チェックの次は、歯周病チェックだ。
「次は歯石がないか見ていくよ。歯茎の状態を確認するのにちょっと痛くなるかもしれないけど、我慢してね」
「わかった……ぁー」
エイミが口を大きく開ける。私はプローブとデンタルミラーを手に持ち、歯茎の状態を確認していく。
先程と同様に、右上の奥歯から順に歯周ポケットにプローブの先端をあてがい、深さを確かめていく。先端が歯茎に触れる度にエイミの顔が僅かに歪み、指先がピクッと反応している。戦闘中は効率重視で無駄のない動きを見せる彼女だが、こうして見るとただの女の子にしか見えない。私にはそれが何だか微笑ましかった。
「(しかし、今更ながらこの構図は何とも犯罪的なモノを感じさせるな……)」
診察台の上に半裸の少女が横たわり、その口の中を弄り回す……どうみてもヴァルキューレが突撃して来そうな構図だった。
「っ……ん……」
エイミがか細い声を上げ、僅かに身を捩るその姿を見る度に、私の心は熱く昂っていく。エイミの頰は赤く染まり、無防備に口の中を晒しているその顔は実に扇情的で美しい。
「(まあ、私がやってるのは健全な医療行為だし、何ら恥じる事もない。こうして可愛らしい少女の口の中を弄る事が許されるのは、私にだけ与えられた特権なのだから)」
元よりその為に歯科医になった訳だし、誰が何と言おうが私は私の生き方を貫くだけだ。そしてやるからには、全ての患者の口の健康を守る。それが歯科医になった私に課せられた義務であり責任であり、使命なのだ。
「(よし、歯石もそんなになさそうだな。プラークコントロールもしっかり出来ている様で何よりだ)」
エイミの歯茎の歯周ポケットの深さは浅く、歯肉炎は勿論、出血も見当たらないので歯周病の心配はなさそうだ。歯磨きだけしてれば良いと思われがちだが、デンタルフロスや歯間ブラシ等の歯ブラシ以外の清掃用具を使ったブラッシングに、汚れを溜めにくくする食生活、そして定期的なクリーニングが虫歯や歯周病の予防において大事な事なのだ。
「歯茎の方も異常無し。ちゃんとケア出来ている様でこちらとしても嬉しいよ」
「うん。歯の異常は放っておくと日常生活や任務にも支障が出るって、ハモリ先輩が教えてくれたからちゃんとやってるよ」
普段はボーッとしていて考えが読みづらいエイミだが、基本的に従順な質なのでちゃんと理由を説明すれば従ってくれる。歯科医としてもキチンと教えた通りにケアをしてくれる彼女の様な生徒の存在は大変喜ばしい。エナドリ常習犯のハレの様な他のミレニアムの生徒達もこの素直さを見習って欲しいものである。
「これから歯に付着した歯石や歯垢を除去して、歯のクリーニングをやっていくよ。まずは汚れの染め出しをやるから口を開けて」
「わかった。んぁ……」
歯垢染色液をエイミの歯に塗布していく。真っ白な歯が染色液のピンク色に染まっていく。
「これで口を濯いで」
「ん……」
エイミに水が入った紙コップを渡して、口を濯がせる。その後、手鏡を取り出して口の中を見せる。
「見える?このピンク色に染まった部分が歯石や歯垢が溜まっている所だよ。これから、この溜まった歯石や歯垢を除去していくよ。さあ、口を開けて」
「わかった。んぁ……」
量こそ少ないが、局所的に歯石があるので超音波スケーラーを使う。歯茎を傷付けない様に細い先端を歯周ポケットにあてがい付着した歯石を除去していく。エイミが歯と歯茎に伝わる振動に僅かに顔を歪めるが、私は手を休めず1本ずつ丁寧に歯石を除去していく。歯石が除去出来た後は、歯間ブラシやデンタルフロスを使い歯の隙間を掃除する。
「最後に、この専用ブラシを使って歯の表面に貼り付いた汚れを落としていくよ。その後にフッ素を塗って、歯のクリーニングは終わり。そのまま口を開けていてね」
私は研磨剤入りのペーストをエイミの歯に塗り込み、ブラシを回転させて歯の表面を磨いていく。ブラシが高速で回転し、ペーストが泡立ち歯の表面に付着した歯垢や着色汚れが剥がれ落ちていく。
「んっ……ぁ……」
ブラシが擦れる度に、エイミがピクッと反応する。その可愛らしい反応を楽しみながら、私はエイミの歯を1本ずつ丁寧に磨いていく。全ての歯の研磨が終わると、表面が滑らかになった白い歯が露になる。最後にフッ素を磨き終えた歯に塗布して、全ての行程は完了だ。
「これで歯のクリーニングは終わったよ。ほら、見違えたでしょ?」
「ん……前より口の中がスッキリしてる」
私は手鏡でエイミの歯を映す。磨き終えた歯の表面は陶器の様に滑らかで、真っ白に輝いている。エイミはモゴモゴと口を動かして汚れの取れた自分の口内を確認している。
「歯磨きを含めた諸々のケアはそのまま継続して、検診の方も3ヶ月に1回くらいのペースで受ける事をオススメするよ」
「わかった。今日はありがとう、ハモリ先輩」
エイミが小さく微笑む。私は彼女の可愛らしい笑顔と、彼女の美しい歯をより芸術的に仕上げた事への満足感で胸が一杯だった。
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「着いたよ、ハモリ先輩」
診察が終わった後、私はエイミに案内されミレニアム校舎の外にあるセーフハウスに辿り着いた。
「部長、入るよ」
扉が開き、私はエイミの後に続きセーフハウスの中に入る。中にはいくつものモニターとサーバーが並び、機械が排熱する時の独特な匂いがする。その部屋の奥に、車椅子に座り、白色で纏められた容姿を持ったエルフ耳の少女がいた。
「お待ちしていましたよ、白山ハモリ」
彼女こそが、エイミの所属する特異現象捜査部部長を務める明星ヒマリ先輩だ。名前と容姿は前から知っていたが、こうして顔を会わせるのははじめてである。
「はじめまして、ヒマリ先輩。今日はお時間をいただきありがとうございます」
「いえいえ。それで、私に相談したい事というのは?」
「……ねえ、部長。この部屋暑くない?クーラーつけていい?」
私が口を開こうとする前に、エイミが割って入る。良く見ると、その肌には僅かに汗が出ていた。
「エイミ、人が話している時に割り込むのは止めなさい。それと、そう言ってこの間部屋を極寒地獄に変えた事を忘れたとは言わせませんよ?」
「だって、暑いのは事実だし……」
ヒマリ先輩がエイミをジト目で見るが、肝心のエイミはダラダラと汗をかき見るからに暑そうにしていた。これが彼女の神秘なのかは分からないが、中々難儀な体質である。団扇でも持ってくれば良かっただろうか。
「ん……あ、涼しくなって来た」
すると、エイミは目を細めて満足そうな表情を浮かべていた。
「全く、あなたはまた勝手にクーラーを入れて……あれ、電源が入っていない……?」
ヒマリ先輩はクーラーのリモコンらしきものを手に持ち呟く。
「あの……どうかしました?」
「ああ、ごめんなさいハモリ。あなたの事をほったらかしにしてしまって……ん?」
ヒマリ先輩は私の方を向くと、眉をひそめ何故か視線を下に向けていた。
「……ハモリ。足元、気付きませんか?」
「足元……?」
私は恐る恐る自分の足元を見てみるが……特に何もなかった。強いて言えば、冷たい風が吹いているくらいで……
「(……風?)」
今いる場所は窓のない室内。出入口は閉じているにもかかわらず風が吹いていた。その発生源は……私の足元だった。
「(まさか、この感じは……!?)」
そして再び……新たな"力"が宿った事に気付く。
______
ありとあらゆる"風"の力。
瞬間、室内に風が吹き荒れる。
「……っ!」
「部長!」
部屋にあった資料や小物が風で飛び交い、エイミがヒマリ先輩に覆い被さり自ら盾になろうとする。
「(くっ……!止まれ……っ!)」
私が強く止まれと念じると、瞬く間に風は止み、室内は静寂に包まれる。私はヒマリ先輩達の元へすぐに駆け寄った。
「ヒマリ先輩!エイミ!」
「んん……大丈夫。部長も無事だよ」
「ええ、少々髪が乱れましたが問題ありませんよ」
どうやら2人とも怪我はない様で何よりだ。しかし室内は嵐でも起こったかの様に滅茶苦茶になっていた。
「……それで、ハモリ。相談したい事というのは、この事ですか?」
「……はい」
どうやら、また新たな謎が出来てしまった様だ。
アヤメ「……こんな物なくたって、見たいなら何時でも見せてあげるのに」←自分の親知らずを見ながら
ヒロインは複数人いてもOKか?
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YES
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NO