キヴォトスの歯医者さん   作:ニシキ

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ハモリ「思った事をちゃんと口にするのは大事な事だ」
という訳で第13話です。


白山ハモリの告白

 

 

 

「成る程、事情は把握しました。あなたはあなたの身に宿ったその能力について詳しく知りたい、という事ですね?」

「はい、ヒマリ先輩はこういうオカルトにも詳しいと聞いたので」

 

場所はミレニアム校舎の外にある特異現象捜査部のセーフハウス。あの騒ぎの後、私はヒマリ先輩の指示の下、エイミと共に荒れた部屋の片付けを行った。そして現在、私は椅子に腰掛け机を挟んでヒマリ先輩と向かい合っていた。

 

「しかし、改めてみると不思議な能力ですね……」

 

そう言うヒマリ先輩は、横にいるエイミに視線を向ける。

 

「ふぅ……ひんやりして気持ち良い……ハモリ先輩、もっと温度下げられる?」

「ああ、これくらいでどうかな?」

「うん、良い感じ……」

 

私は門を形成し、エイミの頭上に手を転移させ、そこから冷たい風を送っていた。部屋の片付けが終わった後に試してみたが、風の出力や温度は自由に調整出来るらしい。思えばエイミの歯科検診の時に寒く感じなかったのも、無意識の内に温度調整を行っていたからだと思われる。エイミは私の手から放たれる冷風を浴びて、満足げに頷いていた。

 

「……因みに、能力を使う際に何か気になる事はありますか?」

「今こうして継続して使ってますが、特に疲れや違和感はないです。大雑把にイメージするだけでもその通りに使える感じで」

「ふむ……という事は、解釈次第で能力の拡張も可能かもしれませんね」

「解釈、ですか?」

「ええ。話から察するに、あなたの能力はあなた自身のイメージが強く反映されていると見受けられます。つまり、そのイメージを拡大解釈すれば更に出来る範囲も広がると思われます」

 

ヒマリ先輩の言葉に私は考える。そもそも自分は能力を使った時に何を思ったのかを。

 

「(思えばはじめて意識的にワープを使った時も、自分なら出来るとイメージしたのがきっかけだったな……)」

 

物は試しと思い、早速思い付いた能力の使い方を実践してみる。フワッと風が私の全身を包むと……身体が"透明"になった。

 

「これは……!」

「ハモリ先輩が透明人間になっちゃった……」

 

私がまず考えたのは"風"の指す範囲だ。例えば"空気"も操れると仮定して、空気の分子を操作し、光が自分を"迂回する"様に屈折させれば透明に見えるのではないか、と素人なりにミレニアム生らしくそれっぽい理屈を並べてやってみたのだが、思いの外あっさりと出来た。そして透明化を解除してヒマリ先輩に声をかける。

 

「……出来ました」

「そ、その様ですね……」

 

ヒマリ先輩はまさかいきなり出来るとは思わなかったのか、目を丸くしていた。

 

「(一度慣れてしまえば後は簡単だな……)」

 

ワープの時もそうだったが、能力を実際に使う時に自分なら出来るという認識が大事な様に感じた。現に今の透明化だって科学的な根拠はこじつけで、何となくこれなら出来そうだと思ったら出来てしまったのだ。

 

「(んー……こうもあっさり出来てしまうと、何だか拍子抜けだな)」

 

私は新しく手にした力に対して変に怖じ気付いていただけなのかもしれない。そう、イメージが大事だと言うのら、それこそ何だって出来る筈だ。カイザーだろうが、ベアトリーチェだろうが、色彩だろうが、邪魔する者は全て叩き潰してやれば良い。私にはそれを可能にする力があるのだから……そう、力が

 

「(_______っ、待て。私は今、何を考えていた?何を、しようとしていた……?)」

「ハモリ、どうかしましたか?」

「あ、いえ……ちょっと考え事を」

 

何だか自分らしくない思考に違和感を覚えながらも、私はヒマリ先輩に向き合う。きっと新しく手にした力に舞い上がっていたのだろう。自戒せねば、と自分に言い聞かせながら。

 

「まあ、突然その様な能力が身に付いたとなれば戸惑うのも無理もないでしょう。先程の様に暴発する可能性も考慮すれば、この超天才清楚系病弱美少女ハッカーにアドバイスを求めたのも良い判断です」

「(原作でも度々口にしていたこの妙に長い肩書きに対してツッコミを入れたくなるが、ここは黙っておこう)」

 

本人の性格は兎も角、天才を自称するだけの知識と技術を持っているのは間違いないし、先程の能力の解釈というアドバイスも自分だけでは恐らく気付かなかっただろう。こういう自分だけでは気付けない第三者の意見というのも貴重な情報である。

 

「まあ、確かにいきなり目的地にワープしたり、風が吹いたりするのは勘弁して欲しい所ではありますね……」

 

現に初めてワープした時もホシノさんが気付かなければ事故を起こしていたかもしれないし、今回の暴風騒ぎも下手をすれば怪我人が出ていたかもしれない。今後、同じ様に能力が暴発する可能性もないとは言い切れないし、備えは必要だろう。

 

「そういえば、能力が発現したのもつい昨日だと言ってましたね。その前兆と言いますか、何か変わった事はありませんでしたか?」

「変わった事、ですか……」

 

言われてみれば、急に能力が発現した理由も分かっていない。元々そういう神秘を持っているのなら、もっと早い段階で能力に目覚めても可笑しくはない筈だ。だが、特に変わった事など……いや、1つだけあった。

 

「……今回の事と関係があるかは分かりませんが、1つだけ……夢の中で、百合園セイアさんに出会いました」

「……はい?」

 

私が口にしたその名を聞いて、ヒマリ先輩の表情が固まる。

 

「あの……それは、トリニティのティーパーティーに所属している百合園セイアさんで間違いないですか?」

「はい、間違いないです。本人曰く、突然私の夢と繋がったらしくて……」

「……その話、詳しく聞かせていただいても?」

 

私は夢の中で起こった出来事について、ヒマリ先輩に全てを話した。

「成る程……キヴォトスの滅び、ですか。そして、あなたもそれが何なのか知っている、と……」

「はい。その原因の中には、ヒマリ先輩達が調べている事が関係している事も含めて……」

「…………」

 

私は夢の中でセイアさんと出会い、彼女が夢の中を彷徨っている事、彼女がキヴォトスの滅びの未来を見た事……そして、私自身もまた彼女と同じくこのキヴォトスの未来を知っている事、全てを話した。

私の話を一通り聞いたヒマリ先輩は神妙な表情を浮かべ、横にいるエイミは何かを考える様に黙っていた。

 

「(セイアさん以外で原作知識について理解を示してくれそうなのがヒマリ先輩やリオ会長くらいだからな……先生にもちゃんと話すべきだが、流石に今はアビドスのゴタゴタが片付いてからでないと話せそうにないし……)」

 

私は前から原作に介入するにあたって、自分がどの様に動くべきか考えていた。いくら原作知識があっても、私1人だけの力では限界があるという事はアビドスの一件に関わった時によく理解した。

だからこそ、情報を共有し協力してくれる仲間の存在が必要だと私は考えた。勿論、言った所で必ず信じてくれるとは限らないし、逆に余計な混乱を招く可能性だってある事は理解している。かといって、情報を出し渋ったが為に取り返しのつかない事になってしまったら目も当てられないし、そもそも原作というギリギリの綱渡りにも等しい道を行く為にユメさんの様に酷い目に合う人達の事を無視するのはどうしても我慢出来なかった。

ならば思い切って全てを打ち明け、そういった人達が出ない様に皆で協力し備えようというのが私の出した結論だ。

 

「……彼女が長い間学校を休学している事、彼女が未来を視る事が出来るという情報は我々も掴んでいました。しかし、まさか夢の中であなたと接触していたとは……」

「はい、本人も突然の事だったらしくて。原因は分からない、と……」

「ふむ……」

 

私の言葉にヒマリ先輩は頷く。

 

「情報が少ないので断言は出来ませんが……恐らくは、あなたの力が強まった事で彼女があなたの夢に引き寄せられ、そして彼女との接触がきっかけで眠っていた能力に目覚めた……これが私の見解です」

 

ヒマリ先輩はそう締めくくった。何だがゲームの様な話だが、そもそもここはゲームの世界だったな、と心の中で苦笑する。そしてヒマリ先輩は改めて私の目を見る。

 

「ひとつ確認しますが、あなたが未来を知っているという事を他に知っているのは?」

「セイアさんだけ、ですね。そもそも話したとしてもまず信じて貰えないでしょうし……」

「賢明な判断です。例え信じて貰えないとしても、無闇に情報を広める事は様々なリスクが生じますからね」

 

特にカイザーやゲマトリアに知られると何を仕出かすか分からないので要注意である。そういえばセイアさんは今どうしているのだろうか?流石にまた夢で会えるとは限らないし、何事もなければ良いのだが……。

 

「さて、あなたの話は分かりました。あなたがこうして私に打ち明けてくれたのは、私……ひいては、ミレニアムの力が必要であるという認識でよろしいですか?」

「はい。私の知る未来では、セイアさんの言っていた滅びの未来は回避されましたが……それは、何か1つでも欠けていればなし得なかった結果でした」

 

そして、と私は続けて言う。

 

「その過程で、傷付いた人も大勢いました。下手をすれば、死人が出る可能性もありました。私は、未来の為に傷付く人達を助けたい。そして未来も救いたい……その為にも、どうか力を貸していただけないでしょうか?」

 

私はヒマリ先輩に頭を下げた。

 

「……頭を上げてください、ハモリ」

 

そう言われて頭を上げると、ヒマリ先輩は小さく微笑みながら私を見ていた。

 

「可愛い後輩にそこまで言われたのであれば、超天才清楚系病弱美少女ハッカーの名折れです。良いでしょう、ここはこのミレニアム最高の頭脳にして至高の存在である私に任せて、あなたは大船に乗った気持ちでいて下さい」

「……ありがとうございます」

 

私はヒマリ先輩に再び頭を下げた。

 

「私も、命令があればどんな任務でも引き受けるよ」

 

横で話を聞いていたエイミも私の目を真っ直ぐに見詰めながら言う。

 

「ありがとう、エイミ」

「ええ。あなたも頼りにしていますよ、エイミ」

 

すると、ヒマリ先輩は一転してやや不機嫌そうな表情を浮かべる。

 

「とは言うものの、話はミレニアム全体に関わります。そうなると、必然的に話を通さなければならない相手がいるのですが……」

「……リオ会長、ですね」

「ええ、その通りです。あの下水の如き性悪女の手を借りるというのは甚だ不本意ではありますが、事はそうも言ってられません」

 

ヒマリ先輩は眉間に皺を寄せて、吐き捨てる様に言った。自分としては元々リオ会長にも話をしようと思っていたので気にはしていないが、ヒマリ先輩は見るからに不機嫌そうな顔をしていた。

 

「リオには私の方から話をしておきます。近日中に話を聞く為に呼び出されると思われますので、その時はよろしくお願いしますね?」

「ええ、勿論です」

「それと、百合園セイアさんの件についてはくれぐれも口外しない様に。エデン条約を控えてる現状、トリニティを刺激するのは得策ではありませんからね」

「分かりました」

 

一先ず、話は纏まったので今日の所はこれで解散となった。何とかヒマリ先輩に協力をこぎつける事に成功したが、次が本番である。

ヒマリ先輩にはリオ会長が廃墟に眠る少女(アリス)について色々調べている事、備えとして要塞都市を密かに建造している事も知っていると話したので少なくとも無視はしないと思うが、果たしてどうなるだろうか。

 

「いずれにしても、やれる事をするだけか……」

 

不安はあるが、グダグダ悩んでも仕方ないので私は気持ちを切り替えて明日に備えて早めに休んだのであった。

「やあ、また会ったね」

「……こんばんは」

 

夢の中、私はセイアさんと再会した。まさか思った直後にまた会えるとは思わなかったので面食らったが、一先ず無事な様で何よりである。

 

「実はあれから目覚める事が出来てね。数日中には外出も出来るそうだ」

「それは、良かったですね」

「ああ……それも君のお陰だよ。君の言葉を聞いたら、私も何時までも寝てばかりではいられないと思ったからね」

 

どうやら私の心配は杞憂だった様だ。セイアさんの表情は前の時よりも明るく、目に光が灯っている様に見えた。

 

「実は、お話したい事がありまして……」

 

私は自身に宿った能力の事、ヒマリ先輩に秘密を打ち明けた事を話した。

 

「そうか……私はまた、君に迷惑をかけてしまった様だね……すまない」

「頭を上げて下さい、セイアさん。原因の一端は自分にもありますし、使い方次第では便利な力なのは確かですから」

 

ヒマリ先輩の仮説を聞いてセイアさんは私に対して申し訳なさそうにしていたが、私がそう言うと元気を取り戻す。

 

「ああ、そう言って貰えると助かるよ。しかし、君は随分と思いきった事をしたね」

「ええ、元より自分1人で全てを救えるとは思ってませんので。それに未来を変える為には、皆が力を合わせる必要がありますから」

「そうだな……思えば私は、トリニティで政争に明け暮れて他者と正面から向き合う事を忘れていたのかもしれないな……」

 

そう言うと、セイアさんは私の目を真っ直ぐに見詰める。

 

「私達は他者の心という証明不可能な問題と向き合いながら、進み続けなければならないのだろう。その過程で誤解も、信じられない事もあるだろう。たとえ何処にも到達出来ないのだとしても、その先にある未来を信じて……」

「そうですね。もしもそこで誰かが助けを求めているのなら……その手を掴んで、一緒に歩けば良い。それが、青春なんだと思いますよ」

 

私はそう言って、話を締めくくった。

 

「とは言うものの、外を出歩くのはまだミネが許してくれそうになくてね。数日待てば済む話だが、それまで時間を無駄にするのも惜しい。どうしたものか……」

「それなら、ビデオメッセージでも送ってみるのはどうです?その、あまりこういう事を言いたくはないんですけど……セイアさんが倒れた後、2人共暴走して色々やらかしてしまうので、出来るだけ早く無事な姿を見せた方が……」

「ああ、確かにナギサやミカなら変に思い詰めて色々やらかすだろうね。2人には個人的に色々言いたい事もあるし、ミネに何とか出来ないか頼んでみるよ」

 

取り敢えず早い段階でセイアさんの無事が確認出来れば、エデン条約編での諸々のトラブルは回避出来るだろう……キヴォトスそのものが危険に晒される訳ではないが、だからといって同じ歴史をなぞる必要などないのだから。

 

「セイアさん。これから先、色々大変な事があるかも知れませんが、決して無理だけはしないで下さい」

「ああ、心得ているさ。勿論、それは君にも言える事だぞ?」

「ええ、分かってます」

「それから、これは私の予想だが……恐らく君の能力は、君自身の感情や願いが反映されて発現しているのだと思う」

「願い、ですか……」

 

言われてみれば、発現した2つの能力は全て私が「こうだったら良いな」と思った事がきっかけだった事を思い返す。

 

「多分、君は元々複数の能力を生み出す為のリソースを大量に持っていて、それが君の感情や願いによって方向性を定められ、能力として発現しているのかもしれない……まあ、飽くまでも私の予想だから、頭の片隅にでも入れておくと良い」

 

そう言ってセイアさんは話を締めくくった。本人は予想とは言っているが、あながち間違いではないのかもしれない。またヒマリ先輩に相談してみるのも良いだろう。

「そんな感じで、セイアさんとまた夢の中で話をしたんです」

「「ちょっと待って/下さい」」

 

翌日、私はリオ会長に呼び出されてセミナーの会議室にいた。部屋の中にはリオ会長とヒマリ先輩がおり、それぞれの後ろにはエイミと、C&Cと同じデザインのロングスカートタイプのメイド服を身に纏ったプラチナブロンドの少女……飛鳥馬トキがいた。

リオ会長からの要請で、改めて未来の知識について詳しく話をする事になり、その前に昨日の夢の事も一応話した方が良いかと思い、夢の中で起こった事を全て話したのだが……何故かリオ会長とヒマリ先輩は頭を抱えていた。

 

「……おかわり、いりますか?」

「あ、どうも」

 

取り敢えず紅茶を一口。普段飲むのは緑茶か麦茶だが、これも悪くない。

 

「……って!あなたは何呑気にお茶飲んでるんですか!?」

「あ。すみません、喉が渇いたので……」

「……意外とマイペースですねあなた」

 

正直な所、少し緊張してるのでお茶でも飲んで気持ちを落ち着かせないとやっていけないのが本音である。

 

「……取り敢えず、百合園セイアの件については一旦置いておきましょう。ヒマリもそれで良いわね」

「異論がない訳ではありませんが、先に議論すべき事があるのは同感ですね」

 

そう言ってリオ会長とヒマリ先輩は私と向き合う。

 

「話が逸れてしまったけど、あなたに来て貰った理由はひとつ。あなたが持つ"未来の知識"についてよ」

「……自分が言うのもアレですけど、未来を知ってるなんて言っても信じられないと思ってました」

「……あなたは"名もなき神々の王女"の事も"エリドゥ"の事も知っていた。あなたが百合園セイアと夢で繋がった件についても、彼女が未来が視えるという情報から考えてあながち嘘ではないと判断しただけよ」

 

それに、とリオ会長は続けて言う。

 

「そういう現代の技術では解明されない現象についてはコユキやアスナの様な例もあるし、ヒマリから聞いたけどそれはあなたにも当て嵌めるでしょう?」

「まあ、確かに……」

「あなたも知っていると思うけど、事はミレニアムどころかキヴォトス全体が危険に晒される恐れがあるわ。いえ、下手をすればそれ以上になるかもしれない……あなたも最悪の未来を回避しようとしているのなら、詳しく話して貰えるかしら」

「分かりました」

 

リオ会長の真剣な眼差しを受けて、私は自分が知る限りの、これからキヴォトスで起こる未来の出来事について全てを話した。

一通りの話を終えると……リオ会長は酷く沈痛な面持ちで頭を抱え、ヒマリ先輩は乾いた笑みを浮かべ、エイミとトキの従者コンビは何処か遠い目をしていた。

 

「あの……大丈夫ですか?」

「え、ええ……その、今の話……間違いないのかしら?」

「ハモリ……あなたを疑う訳ではないのですが、流石に情報量が多すぎて脳が処理しきれなくて……」

 

ミレニアムの頭脳とも言える2人が揃って頭を抱える様子を見て、何だが申し訳ない気持ちで一杯だった。下手な駆け引きとか情報戦とかは自分には向いていないし、柄でもないので自分が知ってる事は全て話したつもりなのだが……2人は酷く動揺していて、何とか気持ちを落ち着かせようとしている様子を見ていると本当にこれで良かったのかと今更ながら後悔の念が沸いてくる。

 

「(まあ、そう簡単に信じられる話ではないか……)」

 

色彩、色彩の嚮導者(別時間軸の先生)死の神(別時間軸のシロコ)、無名の司祭、虚妄のサンクトゥム、アトラ•ハシースの船、ウトナピシュティムの本船、アリウス、ゲマトリア、雷帝の遺産(列車砲シェマタ)……知っている事は粗方話したと思うが、咀嚼するには大分時間がかかりそうだ。

特に名もなき神々の王女(アリス)関連の話をしてからのリオ会長の動揺ぶりは酷かった。何せ、古代人の作ったアンドロイドがゲームがきっかけで人間性に目覚めて、結果的に自分が密かに建造していた要塞都市がキヴォトスを滅ぼす原因になったのだと言っている様なモノなのだ。寧ろ、自分を陥れる為に嘘の情報を伝えていると思われても可笑しくはないし、それでも私の話を最後まで聞いてくれたのはリオ会長の人間性によるものだろう。

 

「(何かこう、パッと具体的に未来を見せる様な能力でも出ないだろうか……)」

 

何となく思ってみたが、特に何も起こらない。そう都合よく能力が現れる訳ではないという事か。

 

「(……違う。必要なのは自分なら出来るという強い認識だ。私の神秘……私の望みに応えてくれるなら……)」

 

私は目を閉じて、意識を集中させる。すると、身体の奥底に見えない"力"が渦巻いているのを感じ取った。

 

「ハモリ、あなた……身体が……」

 

目を開けると、私は身体から燐光を放っていた。それと同時に、新たな"力"が宿った事を感じ取った。私は両手を突き出し、そこに月明かりの如き光が生まれる。

 

「これは……!」

「また、新たな能力が……?」

 

光が収束すると、人の拳くらいの大きさの"水晶玉"が現れた。それは私の前に滞空し、神妙な佇まいで鎮座していた。

 

______月読命(ツクヨミ)

星を巡る"歴史"を視る力。

 

滞空する水晶玉が淡い光を放ち、やがて部屋全体が目映い光に包まれる。

 

そして光が収束した後、世界は一変していた。

 

「なっ……!?」

「これは……!?」

「リオ様!」

「ヒマリ部長!」

 

砂漠で戦うカイザーPMCとアビドス、要塞都市で機械の軍団と戦うミレニアムの皆、巡航ミサイルが撃ち込まれ大混乱に陥るゲヘナとトリニティに襲い掛かるアリウスとユスティナ聖徒会、諸悪の根源(ベアトリーチェ)と対峙する先生とアリウススクワッド、カイザーとヴァルキューレの癒着を暴く為に奔走するRABBIT小隊、そして赤く染まったキヴォトスの空と共に出現する虚妄のサンクトゥム、ウトナピシュティムの本船に乗り込み遥か上空に滞空するアトラ•ハシースの船に乗り込む先生達______これは、私の記憶……ではなく、このキヴォトスとは違う"別のキヴォトス"で起こった"歴史"そのものだ。

視覚だけでなく、嗅覚や聴覚……果ては温度すらも感じさせるそれは現実のモノと何ら変わりなく、私達の五感に大量の情報を送り込んだ。やがて空が晴れて、先生が地上に戻った所で再び私達は光に包まれ……元の会議室にいた。その場にいた誰もが、今見た光景に目を奪われていた。

 

「……ハモリ、今のは?」

 

リオ会長がいち早く回復し、私に問いかけた。私は口を開こうとして……酷い倦怠感が私を襲った。

 

「ハモリ!?ハモリしっかりして!」

「リオ様!まずは彼女の意識の確認を!」

「エイミ!すぐに医療班の手配を!」

 

意識が遠退いて行く中、彼女達の声が聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あーあ、いきなり神秘を解放するからこうなるんだよ』




アヤメ「今日は私が夕食を用意する日だし、気合い入れて作らなくちゃね。ふふっ、ハモリ喜んでくれるかなぁ……」

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