キヴォトスの歯医者さん   作:ニシキ

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ハモリ「歯ブラシ何本か買い直さないとな……次は開口器を使ってみるか。口内カメラも捨てがたいな……」
という訳で、第16話です。


白山ハモリの前進

 

 

 

「よし、我ながら良い感じ」

 

アヤメさんとたっぷり"した"後、私はささっとシャワーを浴びて夕食を作っていた。アヤメさんと恋人になった記念にと思い、今回作ったのはちらし寿司だ。具材はマグロ、サーモン、ホタテ貝柱、エビ、イクラ、錦糸玉子、椎茸、絹さや。酢飯と色とりどりの具材の香りが食欲をそそる。一旦ラップで包んだ後、アヤメさんを起こす為に寝室へ向かう。

 

「ん……」

 

部屋の中では未だにアヤメさんがスヤスヤと眠っていた。僅かに開いた形の良い唇からは小さな吐息が溢れ、頬は朝露に濡れた花弁のように、ほのかに上気している。閉じた瞼の下で、彼女が一体どんな夢を見ているのか、想像するだけで胸が高鳴る。シーツの上に広がる髪は艶やかな絹糸のようで、そっと指で触れれば滑らかな感触が伝わってくる。程よく鍛えられた身体は滑らかな曲線を描き、きめ細やかな肌と合わさってその姿は、まるで神話の女神が地上に降り立ったかのようだ。こんなにも無垢で官能的な存在が私の恋人になったという事実に、私はこの上ない高揚感を抱いていた。しかしいつまでも見惚れてる訳にはいかないので、気持ちを切り替えてアヤメさんの肩に触れる。

 

「アヤメさん、起きて下さい」

「んっ……あ、ハモリだぁ……」

 

肩を軽く揺すりながら声をかけると、アヤメさんは緩慢な動きで起き上がり、私の顔を見ると満面な笑みを浮かべる。

 

「夕食の準備が出来ましたので、風呂に入ったら一緒に食べましょう」

「うん、わかったぁ……」

「アヤメさん……?」

 

アヤメさんは緩い笑みを浮かべて私にしなだれかかってくると、耳元で囁くように呟いた。

 

「ねえ……いっしょに、はいろ?」

 

その脳を震えさせるような甘い声に、私は思わず身体を固くし、胸の鼓動が激しくなっていくのを感じた。

 

「ほら、ハモリとわたしのでこんなによごれちゃってる……だから……"あらいっこ"、しよ?」

「是非」

 

私は即座に頷いた。既にシャワーを浴びているが、関係なかった。寧ろ、ここまでお願いされて断る方がかえって失礼だ。というか私もしたい。先程から布越しに伝わるアヤメさんの2つの柔らかな果実の感触と、ふんわりとした肌と髪の甘い香りに思わず酔ってしまいそうだ。

結局、私達はそのまま2人で浴場へ向かった。出てくるのにちょっと時間がかかってしまったが、この際気にしない。因みに、"あらいっこ"は……とても、気持ち良かったと言っておこう。

 

「ん~っ、美味しい!具材もいっぱいあるし、食べごたえあるよ!」

「喜んでいただけたようで、何よりです」

 

予定より少し時間が経ってしまったが、浴場から出た後、私達は夕食をとっていた。アヤメさんは美味しそうにちらし寿司を頬張っている。今までもこうしてアヤメさんが私の手料理を食べてくれる姿を見てきたが、今日は何だかより一層可愛く見える。

 

「アヤメさん、あーん」

「あーんっ♪」

 

マグロの切り身を箸で掴み、アヤメさんの顔の前に持っていくと、アヤメさんが大きく口を開けてパクッと切り身を頬張る。何だか雛鳥にエサをあげてるようで可愛らしい。

 

「ほら、ハモリもあーんして♪」

「……あーん」

 

今度はアヤメさんがサーモンの切り身を私の顔の前に突き出してきたので、私も同じように切り身を頬張る。脂が乗ってて美味い。

 

「あんたってさ、本当に美味しそうに食べるよね」

「まあ、昔から食べる事は好きなので。そう言うアヤメさんも、食べる事は嫌いではないでしょう?」

「まあね。前は味なんて気にしてなかったけど……今は違う。美味しい物を食べたいと思うようになったし、食べる事そのものに楽しさを感じるようになった。誰かと一緒にする食事って、こんなに心が暖かくなるんだって、ね……」

 

アヤメさんは何処か遠くを見るような表情で、そう呟いた。

 

「昔はさ……焼き鳥が好きな幼馴染みの子と一緒に、お祭りに行って焼き鳥を買って食べてたんだ。あの子も、あんたみたいに美味しそうに焼き鳥を食べてた。屋台でよく売られてる普通の焼き鳥だったけど、あの時食べてた焼き鳥は、確かに美味しかった……」

 

けど、とアヤメさんは続ける。

 

「気が付いたら、何を食べても美味しいと感じなくなっていた。食べる事自体が、億劫になって……それが当たり前の事だと受け入れていた。きっと、その頃から私は疲れていたんだろうね」

 

そう言って、アヤメさんは自嘲気味に笑う。私はただ静かにアヤメさんの言葉に耳を傾ける。

 

「みんなに頼られる事は元々嫌いじゃなかったけど、何かあれば厄介ごとを押し付けてられて、百花繚乱の委員長としての仮面を被り続けなければならない事が辛かった。ただのアヤメでいる事を許してくれないみんなを、私は憎らしく思っていた……」

 

アヤメさんは沈んだ表情を浮かべる。その紫の瞳には、深い悲しみの感情が渦巻いているようだった。

 

「そんな時、百花繚乱の委員長の資格である百蓮の力を使えない事に気付いて、私は焦った。あんなにみんなの期待に応えるために頑張ってきたのに、全てが否定されたようで怖かった。私は、完璧な委員長でなければならないのに……」

「……それで、その銃を作ったクズノハって人に会おうとしたんですよね?」

「そうだよ。うんざりするような頼み事も、みんなの視線も……クズノハ様なら、代わりに引き受けてくれる。そう信じて、全てを投げ出してクズノハ様を探しにいったけど……結局会えなかった。それはつまり、私に百蓮の継承者としての資格がないという事。それを知った時、私はもう自分がどうすれば良いか分からなくなった……」

 

アヤメさんは、肩を震わせながら小さく呟いていた。

 

「そんな時、ハモリの事を思い出したんだ。はじめて会った時のように、あんたならこの苦しみを分かってくれるんじゃないかって、心の何処かで期待していた……今思えば、自分がどんなに身勝手だったか、よく理解出来るよ」

 

アヤメさんは何処か、ばつが悪そうな表情を浮かべながら口を開いた。

 

「他人からの期待に応えるのが嫌になって、全ての責任から逃げ出した癖に、私も同じようにクズノハ様やあんたに勝手な期待を押し付けようとしていた……結局、私ははじめから委員長に相応しくなかったんだ」

 

アヤメさんは自嘲気味に笑い、そう締めくくった。

 

「……ごめんね、つまらない話しちゃって」

「いえ。言いたい事は言った方が気が楽になりますし、好きな人の話なら私は一向に構いませんよ」

「……バカ」

 

アヤメさんは恥ずかしそうに頬を赤く染めて、プイッとそっぽを向いた。

 

「……アヤメさんは、どうして百花繚乱の委員長になろうとしたんですか?」

「えっ?」

 

私はアヤメさんの目を真っ直ぐに見据えながら問いかけた。

 

「アヤメさんが百花繚乱の委員長になろうとした理由……そこに、アヤメさんが探している答えがあると思うんです」

「理由、かぁ……」

 

アヤメさんは目を閉じて考えるようにじっと押し黙る。数秒の沈黙の後、目を開きゆっくりと口を開く。

 

「……みんなに勧められたのもあるけど……はじめは、あの子に手を差し伸べられ続けるような立派な存在に……ナグサにとって、誇らしい人間になりたかったんだ」

 

俯きながら、アヤメさんは静かに自分に言い聞かせるように語る。

 

「いつも泣いていたあの子に、笑って欲しかった。もう大丈夫だよ、って安心させたかった。ははっ、何で今まで忘れていたんだろう……」

 

アヤメさんの紫の瞳に水気が滲み、雫が零れ、頬を滑り落ちる。

 

「だからなのかな……私は、いつも私に委員長のアヤメを押し付けるあの子を憎らしく思っていた。どうして私の事を理解してくれないんだ、って怒りも抱いていた……でも、きっと分かってくれるって、勝手な期待を抱いていた私がそもそも間違っていた。言いたい事は、ちゃんと言わなきゃ相手に伝わらないんだって……」

 

そう言うと、アヤメさんは私の目を真っ直ぐに見据えて口を開く。

 

「そう……あんたのおかげだよ、ハモリ。あんたがいてくれたから、私は自分の間違いに気付けた。私自身が、なりたい自分を思い出せた」

 

だから、とアヤメさんは続ける。

 

「まだ、決心がついた訳じゃないし、今も怖いけど……一度、百花繚乱のみんなに会って、話をしたいと思う。それは、私がやらなければならない事だから」

「……それが、アヤメさんが決めた事なら、私はアヤメさんを応援しますよ」

 

私は席を立ち、アヤメさんを後ろからそっと抱き締める。

 

「ハモリ……?」

「自分自身と向き合う事、それは辛い瞬間もあったかもしれません。それでも、自分で選んで一歩を進む事は、本当にすごいと思います」

「そうかな……私、まだ迷ってるし、みんなに失望されたらって思うと怖いし……」

「誰だって自分の選択が正しいのかどうか、不安になる事もあります。けど、その先にはアヤメさんの望む未来は絶対にあります。だから焦らなくても大丈夫。何かあれば、いつでも話を聞きますし、一緒に考えますから」

 

私の言葉に、アヤメさんは私の手をそっと両手で包む。

 

「……ありがとう、ハモリ」

 

アヤメさんは小さく、呟くように口を開く。

 

「出来るのかな、私に……」

「私はアヤメさんなら出来ると信じてますよ。だって、アヤメさんは今こうして前に進もうとしているんですから」

「うん……」

「さあ、何をするにしてもまずは空腹を満たして明日に備える事からです。沢山作りましたから、一杯食べて下さいね」

「うん、勿論だよ!」

 

アヤメさんの表情からは、わだかまりが解けて、快活な笑顔でちらし寿司を食べ始めた。

ああ、やっぱりアヤメさんにはこの笑顔がよく似合う。私も席に戻り食事を再開する。アヤメさんの笑顔を見ながら食べる食事は、とても美味かった。

食事を終えた後、私達は食器を片付けて歯を磨き、汚れたシーツを洗濯機に放り込み、新しいシーツを用意して眠りに就こうとしていた。

 

「ねえ、ハモリ」

「何ですか、アヤメさん」

 

寝室にて、私達は同じ布団の中にいた。アヤメさんの匂いと体温を感じながら、私は彼女の言葉に耳を傾けていた。

 

「あんたが言ってたアビドスの事だけど、私も手伝うよ。今までずっと、あんたには世話になりっぱなしだったし、私もあんたの力になりたい。だから私も、シャーレに入部するよ」

 

アヤメさんは私の目を見ながら、そう答えた。

 

「ありがとうございます。アヤメさんが手伝ってくれるなら、百人力ですよ」

「うん。それでさ……アビドスの一件が片付いたら……百鬼夜行に戻って、百花繚乱のみんなに会おうと思う」

 

私はアヤメさんの目を真っ直ぐに見据えながら、黙って彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「理由はどうであれ、私は委員長としての責任から逃げて、みんなに迷惑をかけた。だからこそ、ナグサ達に会って話さなければならない。それで……叶うなら、仲直りがしたい。それが、今の私がしたい事だよ」

「そうですか……アヤメさんが、自分の進みたい道を選べた事を私は嬉しく思います。私も、困った事があればアヤメさんの力になりますよ」

「ありがとう。その時は、よろしくお願いね。勿論、あんたも何かあったらちゃんと話すんだよ?」

「はい、その時はよろしくお願いします」

 

そして私達は、お互いを思いながら眠りに就いた。

「ここが、シャーレのビルです」

「へぇ……こんなに高いんだ」

 

翌日、私達は早速シャーレの部室へ足を運んだ。先生には入部希望者がいるから話がしたいと連絡を入れているので、中にいる筈だ。

アヤメさんは、はじめて見るシャーレのビルの大きさに圧倒されていた。百鬼夜行ではまずこんな高層ビルはお目にかかれないだろうし、驚くのも無理はないだろう。

 

「そういえば、シャーレの先生ってどんな人なの?ニュースではSRTの人達と一緒にカイザーの悪事を暴いたすごい人だって聞いているけど」

「そうですね……困っている人を見過ごさない、子供達の為なら何でもする優しい人ですね。後、私生活はかなりズボラでゲームや玩具で遊ぶのが好きで少し子供っぽい所もありますけど」

「ふーん。連邦生徒会所属だしもっと真面目で厳しそうなイメージだったから、ちょっと意外だね。まあ、取り敢えずハモリみたいな人だって事が分かれば良いか」

「あの……それはどういう意味でしょうか?」

 

そんなこんなで私達はエレベーターに乗り、先生のいるオフィスへ向かった。

 

「おはようございます、先生。入部希望者の方をお連れし……」

 

私はシャーレのオフィスの扉を開けた瞬間、目の前の光景に思わず固まった。

 

「おはよー!ハモリちゃん!」

「おはよう、ハモリ。それからごめんね。先にあの子と話をする約束をしていたから……」

「私の事は気にしなくて良いわよ、先生。そもそも、アポも取らずにいきなり入って来た私が悪いのだし。後で構わないわよ」

 

部屋の中にいるのは"3人"。元気良く挨拶をするユメさん、困ったように頭をかく先生。そして最後の1人は……短く切り揃えた黒髪に猫耳、2本の尻尾を生やした少女。その身に纏う"青い羽織"は、私が良く知るデザインだった。

 

「ちょっとハモリ、そんな所で固まってどうしたの?何か変な物でもあったの……え?」

「………………アヤメ、先輩?」

「………………キキョウ」

 

アヤメさんと、彼女と同じ制服を纏うキキョウと呼ばれた少女は、しばらくの間、お互いを見つめ合っていた。

その沈黙を破ったのは、先生だった。

 

「えっと……2人は、知り合いなのかな?」

「……ええ、そうよ。彼女が、私達が探していた百花繚乱紛争調停委員会委員長、七稜アヤメよ。まさか、こんな所で会えるとは思わなかったけどね」

 

キキョウさんの視線に、アヤメさんはバツが悪そうな表情を浮かべる。

 

「キキョウ、私は……」

「……アヤメ委員長、無事で良かったよ。でも、百花繚乱の参謀としてこれは聞かせて」

 

アヤメさんの言葉を、キキョウさんは遮った。その目は鋭く、アヤメさんを睨み付けていた。

 

「……今まで、どこで何をしていたの?あなたがいきなり雲隠れした事で、百花繚乱は今混乱している。正直、あなたを委員長と呼んで良いのか疑問に思っている……何か言い訳があるなら、聞くけど?」

「………………」

 

アヤメさんは何かを言おうとしていたが、キキョウさんの視線に耐えきれず目をそらし、言葉を出せずにいた。その手が僅かに震えた事に気付いた私は、アヤメさんの前に出た。

 

「待って下さい」

 

アヤメさんが辛そうにしているのに、黙っている事など私には出来なかった。私の言葉にキキョウさんは視線をこちらに向ける。

 

「誰?悪いけど、これは私達の問題。関係のない人は」

「関係ならあります」

「……何ですって?」

 

キキョウさんは眉をひそめて私を睨み付ける。

 

「アヤメさんを匿っていたのは、私です。責任は、私にあります」

「……っ!!」

 

私がそう言うと、キキョウさんは目をむき、手を振り上げる。

 

「………っ」

「ハモリ!?」

 

キキョウさんが振り上げた手が私の頬を叩く。私が何も抵抗しない事に苛立ったキキョウさんは、更に手を振り上げようとする。

 

「キキョウ、待って!」

「キキョウちゃん、ダメ!」

 

先生とユメさんが慌ててキキョウさんを取り押さえようとする。

 

「離して!こいつが……こいつのせいで私達は!!」

 

キキョウさんは2人を振りほどこうともがきながらも、敵意の籠った眼差しで私を睨み付けていた。そこへ、アヤメさんが私の前に出た。

 

「もうやめて、キキョウ!」

「あ、アヤメ先輩……?」

 

アヤメさんの悲鳴にも似た叫び声に、キキョウさんは驚きと困惑が入り交じった表情を浮かべていた。

 

「ハモリは悪くない!悪いのは全部私なの!だからやめて、お願い……」

「………………」

 

アヤメさんの言葉に、キキョウさんは振り上げようとした手を下げる。その瞳には先程までの敵意はなく、ただ目の前の光景に困惑し、何も言えずにいた。

 

「アヤメさん」

 

私は背を向けているアヤメさんに声をかける。アヤメさんは私の声に肩を震わせて、こちらをゆっくりと振り向く。

 

「ハモリ……」

「ありがとう。私は大丈夫ですから……」

「うん……」

 

私の顔を見て安堵したアヤメさんは、改めてキキョウさんの方を振り向きゆっくりと口を開く。

 

「話すよ、キキョウ。何があったのか、全部」

「……分かったよ、先輩」

「取り敢えず、空いている部屋があるから良ければ使う?」

 

その後、先生からの提案で私達は空いている部屋に案内された。それからアヤメさんは、自分に起こった事を話し始めた。

「それで、私はハモリの家でしばらく生活していたんだ。今更言い訳にしか聞こえないけど、気持ちの整理がついたらみんなに会って話がしたいと思っていたんだ。もっとも、こんな形で会うとは思わなかったけどね……」

「……そうだったんだね」

「アヤメちゃん……」

「………………」

 

アヤメさんの話を聞き終えた先生とユメさんは難しい表情を浮かべ、キキョウさんは気まずそうに顔を歪ませていた。

 

「…………ごめんなさい」

 

俯きながら、キキョウさんは口を開く。

 

「私は、あなたの事を何でも出来て誰の助けも要らない完璧な人だと思っていた。けど、先輩もずっとひとりで苦しんでいた……」

 

キキョウさんは顔を上げて、アヤメさんの目を真っ直ぐに見つめる。

 

「アヤメ先輩なら出来るって、何でもかんでも頼っていた事が間違っていた。アヤメ先輩を追い詰めたのは、私達だった……ずっと近くにいたのに、気付けなくてごめんなさい」

 

そう言って、キキョウさんは頭を下げた。

 

「……悪いのは、私も同じだよ。もっと早く、みんなに打ち明けていればこんな事にはならなかった。私が、委員長らしくないって、失望されるのが怖かったから……だから、ごめん」

「でも、アヤメ先輩にそう思わせたのは私達のせい。安易にあなたを頼って、あなたの事を考えていなかったから……」

 

そう言うと、キキョウさんは私に視線を向ける。

 

「それから、あなたもさっきはごめんなさい。あなたがアヤメ先輩を助けていなければ、きっと取り返しのつかない事になっていたかもしれない……」

「いえ、私の方こそキキョウさん達に迷惑をかけてしまったのは事実です。もっと早く、相談するべきだった……申し訳ない」

 

それぞれが自分の言いたい事を言い終えると、静寂がその場を包み込む。その沈黙を破ったのは、ユメさんの明るい声だった。

 

「ほら、みんな!仲直りの握手をしよう!」

「えっ?」

「ちょ、何?」

「ユメさん?」

 

ユメさんは私達の手を持ち、重ね合わせた。

 

「ケンカをして、ごめんなさいって言ったら、こうやって握手をして仲直りすれば良いんだよ?そうすれば、みんな笑顔になれるからね」

 

その屈託のない笑顔に、私は毒気を抜かれた気分になった。すると、横にいたアヤメさんが肩を震わせて笑いだした。

 

「あはははっ、そうだね。何も難しく考える必要なんてなかった……ただ、みんなに謝って、仲直りしたかっただけなんだから……」

「ふふ、何かすごいバカっぽいけど……私もアヤメ先輩と同意見よ」

「ええ、私も同じです」

 

お互いに顔を見合わせて、笑い出す私達。当たり前の事なのに、どうして気付けなかったのだろうか。

 

「みんな、大丈夫そうだね」

 

先生が私達に声をかけた。

 

「ええ、アヤメ先輩を探すという当初の目的は果たせたし、アヤメ先輩の本心も聞けたからね」

「私も、まだ全員じゃないけど百花繚乱の子と会って話が出来たし、今回はこれで十分よ」

「私はアヤメさんが納得していただけたなら十分です。あ、そういえば先生。入部の件なんですけど……」

 

危うく当初の目的を忘れそうだったので、先生に確認を取る。

 

「勿論、忘れてないよ。それで、アヤメはシャーレに入部したいんだって?」

「うん。ハモリには、色々助けて貰ったから……私もシャーレの部員になって、ハモリの力になりたいんだ。ハモリから聞いたけど、アビドスの人達を助けるのに人手がいるんてしょ?だから、私も協力するよ」

「ありがとう。入部手続きは私がやっておくよ。改めてよろしく、アヤメ」

「私も歓迎するよ、アヤメちゃん!」

「はい、よろしくお願いします!」

 

元気良く返事をするアヤメさん。すると、アヤメさんはキキョウさんの方に向き直る。

 

「そういう訳でキキョウ、百花繚乱に戻るのはアビドスの一件が片付いてからになるんだけど、良いかな?」

 

アヤメさんがキキョウさんに問いかけると、キキョウさんは優しい笑みを浮かべて頷く。

 

「他の部員達への説明は私がやっておくから、アヤメ先輩は自分のしたい事をやって。私達は、ずっと待ってるからね」

「ありがとう、世話をかけるね」

「アヤメ先輩には今まで色々助けて貰ったからね。わがままの一つや二つ、聞いてやるのが筋ってものでしょう?」

 

一時はどうなるかと思ったが、取り敢えず和解が出来て何よりである。すると、キキョウさんは目を細めて口を開く。

 

「ところで、さっきから気になっていたんだけど……何か2人共、距離が近くない?」

「え?あ、それは……」

 

キキョウさんの指摘に、アヤメさんはまごついた。実際、アヤメさんは私の横に座って身体を密着させていたので尤もな指摘だった。

アヤメさんの様子に目を鋭くするキキョウさんは、視線をアヤメさんの首元に向ける。

 

「……アヤメ先輩。その、首の"虫刺され"の痕……」

「ふえっ!?あの、これは……」

 

慌てて首元を隠すアヤメさん。その反応に何を思ったのか、キキョウさんは私の顔を一瞥した後、顔を赤くして恐る恐るといった風に口を開く。

 

「ねえ、まさかとは思うけど………………あんた達……"した"の?」

「………………うん」

「はい……」

「え……」

「わぁ……」

 

 

その言葉に、アヤメさんは顔を真っ赤にして小さく頷く。様子を見ていた先生とユメさんは顔を赤くし、キキョウさんは頭を抱えてうなだれる。

 

「嘘でしょ……じゃあ、ナグサ先輩が見た夢って正夢だったって事なの……?」

「え、何?ナグサが、どうしたの……?」

「……その、夢の中で……アヤメ先輩が、自分を捨てて知らない女と"やって"いたって……」

「うわぁ……」

 

キキョウさんの話を聞いたアヤメさんも、同じように頭を抱えてうなだれる。

 

「ナグサ先輩……百蓮を抱えてずっとアヤメ先輩の名前呼んでいたし、アヤメ先輩をバカにしていた魑魅一座の連中をボロ雑巾にしていたけど……正直滅茶苦茶怖かった」

 

何かを思い出したのか、顔を青くして震えるキキョウさん。その様子にアヤメさんは気まずそうな表情を浮かべる。

 

「キキョウ……本当にごめん」

「いいの、気にしないで……」

 

どう見ても危なそうな雰囲気だが、ここで自分が何かを口にすると余計に拗れそうなので黙っていた。

 

「……ナグサには、私の事は絶対に教えないで」

「分かってるよ。今のナグサ先輩がアヤメ先輩の事を知ったら、何をするか分からないもんね……」

 

2人揃って渋い表情を浮かべ、そして一斉に私の方に向き直った。

 

「良い?もしナグサに会ったら、絶対に余計な事は言わないでね?あの子ただでさえふやけた素麺みたいなメンタルしてるし、何をするか分からないから……」

「私も同感。下手をすれば、あんたの命に関わるから、不用意な発言は控えるように。先輩が犯罪者になるのは御免だからね」

「あの、私そのナグサさんに会った事ないんですけど……てか、微妙にその人の事、貶してませんか?」

 

2人の空気の重さに気圧される私は、まだ会った事のない人物に対して一抹の不安を覚えるのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『多く見積もっても60%かぁ……後は何か一発、強い刺激でもあれば良いんだけど』




ナグサ「うふふ……アヤメがそんな事する筈ないもんね。だって私の一番の友達なんだから♪」
キキョウ「……アヤメ先輩、出来れば早く帰ってきて」

ヒロインは複数人いてもOKか?

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