アビドス砂漠、旧アビドス本校周辺、カイザーPMC駐屯地にて、先生率いるアビドス対策委員会はカイザーPMCの兵士達と戦いを繰り広げていた。
「正面ゲート、突破されました!アビドスの生徒達が基地内に侵入してきます!」
「包囲して集中砲火だ!これ以上奴等の好きにさせるな!」
「おい!戦車隊はまだか!」
「た、大変です!基地格納庫が爆破されました!報告によると、下手人は厄災の狐とのこと!」
「何だと!?」
PMC基地内では兵士達が舞い込む被害報告に慌てふためいていた。最新鋭の装備に身を固めた選りすぐりの精鋭部隊。ゴリアテをはじめとした他を圧倒する兵装の数々。如何に屈強な生徒達といえど敵ではない。それが彼等カイザーPMCの兵士達の共通認識だった。
だが、現実は彼等の想像を遥かに凌駕していた。東西南北に位置する基地は既に生徒達により制圧され、中央部隊は全線が崩壊しシャーレの先生率いるアビドス対策委員会は基地内に侵入しこの有り様。残存戦力をかき集めて応戦しているが、戦況は徐々に押されつつある。
本社は既にヴァルキューレによって制圧され、プレジデントを含めた幹部達は全員逮捕。最早自分達に帰る場所はなく、これ以上の抵抗は無意味だと頭で理解しながらも、自分達は選ばれた存在だというプライドが、それを許さなかった。
「出撃可能な機体はまだ残っているか!?あればすぐに全機出撃させろ!ありったけの火力で奴等を制圧する!急げ!」
「り、了ぐわぁっ!?」
「おい、何があがぁっ!?」
部下に命令を下そうとした兵士は、部下もろとも何処からか飛来した銃弾により沈黙した。
「ふっ、他愛ないわね」
監視塔からアルが兵士達を次々とスナイプしていく。
「…………」
「くっ、このガキがぁ……っ」
「どんどん爆発させちゃうよ~♪ハルカちゃん、ちょっと退いてね!」
「うわぁーっ!?」
「くそ、せめて一人だけでも……あがっ……!?」
「……後ろががら空きだよ」
地上では、アルを除く便利屋のメンバー達が兵士達を屠っていく。30人近くいた兵士達が瞬く間に鎮圧される。
「くそがっ、当たらねぇ……!?」
「てめぇら、このままで済むとおもがはっ!?」
「…………」
盾を構えて敵陣へ突貫するハモリはショットガンで次々と兵士を蹴散らしていく。その後方では、アヤメがライフルで怯んだ兵士達を狙撃していく。
「いたぞ!奴等だ!」
「ミサイルとランチャーを構えろ!ガキ共をまとめて吹き飛ばしてやれ!」
上空から3機のヘリが飛来し、地上にいる2人に向けて兵士達が武装を構える。
「よし!撃わああぁぁぁぁぁぁっ!!?」
突如、凄まじい"突風"が吹き荒れてヘリはバランスを崩し制御不能に陥る。
「おい!どうした!何があった!?」
「突風です!機体の制御があああぁぁぁぁぁっ!!?」
残る2機のヘリも突風に煽られて斜めに傾き、回転しながらそのまま地上へと墜落し、大爆発を起こす。
「……やってみれば、意外と呆気ないものだな」
ヘリが墜落した場所を眺めながら、ハモリは小さく呟いた。その後ろから、アヤメが小走りでやって来る。
「本当に数だけは多いわね……先生やホシノさん達、大丈夫かしら?」
「取り敢えずこっちは粗方片付きましたし、私達も合流しましょう」
2人は先生達と合流すべく、その場を後にした。
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「見付けたぞ貴様等ぁぁぁぁぁっ!!!」
憎悪の籠った叫び声と共に響く、巨大な物体が動く駆動音。両腕に機関砲、両肩にミサイルポッド、背部に巨大な大砲を背負い、全身を黒い装甲で固めた数m程の二足歩行兵器……ゴリアテが先生率いる対策委員会の前に現れた。
「おー、でっかいねー」
「みなさん気を付けて下さい!機体の形状がこれまで戦ってきたゴリアテと異なっています!恐らくは、その改良版かと思われます!」
「そうだ!我々の技術の粋を集めた超強化外骨格!最高純度の素材で組成した装甲とアクチュエーターを搭載した、最新兵器だ!!!」
全身の武装を放つ理事。ユメが盾で攻撃を防ぎつつ、先生とアヤネを遠ざける。ホシノ達は散開し距離を取りつつ攻撃するが、弾丸は装甲に小さな傷を残し、弾かれる。
「ん、流石に固い」
「だったら何度でもぶつけてやるだけよ!」
「まだまだ行けますよ~」
「カイザーPMC理事!あなたには逮捕状が出ています!すぐに抵抗を止めて投降しなさい!」
「黙れこのクソガギ共がぁぁぁっ!!!」
機関砲の砲身を叩き付け、手当たり次第に機関砲を放つ理事。周囲の施設が破壊され、まだ生き残っていた兵士達が巻き添えを食らい吹き飛ばされる。
「ひどい、仲間を巻き込むなんて……!」
「ちょっとあんた、自分が何をやってるのか分かってんの!?あいつらはあんたの仲間じゃないの!?」
「仲間だと!?下らん!貴様等のような吹けば飛ぶような弱小校のクズ共の足止めすら出来ん役立たずなどに用はない!」
どんなに攻撃をしても怯むどころか、逆に強い敵意の籠った眼差しで睨み付ける対策委員会の面々を忌々し気にコックピットから見下ろすカイザーPMC理事。
四つの眼を発光させて対策委員会……その中心にいる先生を睨み付ける。
「よくも今まで好き放題やってくれたな、先生!思えば貴様がやって来てから全てが狂い始めた!貴様のせいでヴァルキューレとの関係は切られ、アビドスを潰す計画も何もかも台無しだ!挙げ句の果てにプレジデントは逮捕され、カイザーグループは滅茶苦茶だ!ひと思いに殺しはせん!ジワジワと嬲り殺してやる!どんなに命乞いをしても、貴様だけは絶対に許さん!」
「…………」
一方の先生は、何も返す事なくただ静かに理事を見据えていた。そんな先生の態度に苛立ちを募らせる理事は、更に声を張り上げる。
「アビドスなど、存在する価値すらないクズ同然の学園だ!そんな学園に何時までもしがみつく愚かな生徒共に手を貸して、貴様に何の得がある!?正義の味方気取りか!?下らん!叶いもしない下らぬ夢ばかり見て何時までも醜く足掻くしか脳のないクズ共など、このキヴォトスには掃いて捨てるほど______」
「________黙れ」
怒りに任せてまくし立てていた理事が、ピタリとその動きを止める。周りにいたシロコ達も、自分達に向けられた言葉ではない事は分かっていながらも、そのたった一言に込められた"怒り"の感情に気圧されていた。
「それ以上、私の生徒達を侮辱するな」
先生は静かに、けれど透き通るような声でそう言った。
「生徒達を苦しめ、生徒達の夢を笑う貴方には理解出来ない事かもしれない……助けを求める生徒達の声に応えるのが、先生としての私の仕事だ」
そして先生は、理事を真っ直ぐに見据えて口を開いた。
「カイザーPMC理事。貴方に、大人を名乗る資格はない」
その言葉を聞いた瞬間、理事の中で何かが切れた。
「…………もう、いい」
ゴリアテのコックピットの中で、理事はわなわなと肩を震わせていた。
もう、我慢の限界だった。カイザーコーポレーションの矛たるカイザーPMCの理事を勤める自分をここまで虚仮にした者は今までいなかった。
そして何より、一瞬とはいえこんな青臭い理想論を語る若造風情に"恐れ"を抱いた、自分自身を認めたくなかった。
「もうこれ以上、貴様の耳障りな戯言など、聞きたくもない……そんなに好きなら、アビドスのクソガギ共と一緒に、今すぐ死ねええぇぇぇぇぇっ!!!」
先生へ向けて機関砲を放つ理事。そこへユメが先生の前に立ち、盾を構える。
「ユメ!」
「これくらい、大丈夫……!」
ユメは歯を食い縛り、両手で盾を構えて弾丸の雨から先生を守ろうとする。
「おのれ小癪な真似を!」
業を煮やした理事は直接叩き潰そうと機体を動かすが、コックピット周辺の装甲に火花が散る。地上にいるシロコ達の援護射撃だ。
しかし、装甲を僅かに傷付けるだけで理事は鬱陶しさを覚えながらも脅威は低いと判断しそのまま無視するが、その一瞬の隙をついて小さな人影がゴリアテの腕を伝って、コックピットの上に降り立つ。
「油断大敵だよ」
小さな人影……ホシノはコックピットのコンソールに銃弾を数発撃ち込む。火花が散り、黒煙が上がると共にゴリアテがガクン、と動きを止める。
「くっ、小鳥遊ホシノ貴様ぁ……!」
「おじさんばかりに気を取られて良いのかな?」
ホシノがコックピットから飛び降りた直後、紅い光を纏った弾丸が背部の大砲の砲口内に吸い込まれるように着弾。内部で炸裂しゴリアテが大爆発する。
「ぐわあああぁぁぁぁぁぁっ!!?」
爆風によって派手に吹き飛び地面に叩き付けられる理事。身に着けていた高級品と思われるスーツはボロボロで、全身傷だらけな上に至る所から黒い煙が出ていたが、かろうじて生きていた。
理事がふと空を見上げると、高台からライフルを構えている1人の生徒を視界に捉えた。
「おのれ陸八魔アルゥゥゥゥゥ………ッ!!!」
怒りを滲ませた声で呻く理事だったが、複数の足音を耳にして動きを止める。気が付けば、対策委員会が銃を構えて自分を取り囲んでいた。そこへ先生がユメと共にやって来る。
「カイザーPMC理事。貴方を拘束する」
「うぅ……こんな、馬鹿な……」
基地内の兵装は破壊され、兵士達は全滅。最早抵抗する力は残っておらず、自身の敗北を悟った理事は力なく項垂れていた。
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「ホシノさーん!先生ー!」
「おっ、アヤメちゃんもハモリちゃんもお疲れ様ー。こっちは終わったよ」
アヤメさんと共に先生達と合流しようとした私達だったが、合流出来た頃には全てが終わっていたようだ。
カイザーPMC理事は既に拘束されて力なく項垂れており、対策委員会と便利屋、少し離れた所でワカモさんが先生の元に集まっていた。
「お疲れ様。ふたりは怪我はないかい?」
「うん、大丈夫だよ!」
「ええ、私も同じく」
作戦は無事完了したので、後は転がっているカイザーPMC理事と兵士達を回収するだけだ。皆が笑みを浮かべ談笑し合っており、私もそこに加わろうとした矢先、突如として周囲一帯が地鳴りと共に地震のような大規模な揺れを伴って揺れ始めた。
「ちょ、地震!?」
「こ、これは……地中深くに莫大なエネルギー反応を確認!こちらに向かって来ています!」
すると、今まで項垂れていた理事がハッと顔を上げる。
「ま、まさか……"奴"が来たのか……!?何故、今になって突然……」
「ちょっとあんた、何か知ってるの!?」
セリカが理事に詰め寄るが、理事は聞こえていないようで、乾いた笑い声を上げていた。
「ハハハ……終わりだ、何もかもおしまいだ……!」
「……っ!みんな!伏せて!」
先生の叫び声が響き渡り、その場にいた全員が身を屈める。
その直後、辺り一面に強烈な砂嵐が吹き荒れる。やがて砂嵐が晴れると、巨大な存在がこちらを見下ろしていた。
「…………何、あれ?」
それは、機械で出来た大蛇と鯨が融合したかのような巨大な存在だった。その頭部には巨大なヘイローを浮かべ、全身を覆う白い装甲は"淡いオレンジ色に発光"していた。
そして私は、それが何なのか知っていた。
「ビナー……!」
神の存在証明を目的とする謎の人工知能、デカグラマトン。その信奉者にして3番目の預言者。原作における総力戦イベントにて登場するボスの1体だ。
アビドスの砂漠地帯で活動している事は知っていた。遭遇する可能性も決してあり得ない事ではなかった。なのに……
「(何故、今まで奴の存在を"忘れていた"!?)」
私は確かに知っていた筈だった。そうであれば、その為に備えもしていた。だが、こうして目の前に現れる時まで、私は存在そのものを忘れていた。まるで、記憶そのものが欠落していたかのように……
「みんな!逃げるよ!」
先生の叫び声を聞いて我に返ると、ビナーが口を開きエネルギーを収束させている所だった。私は走り出す先生達の前に門を作り出し、皆を転移させていく。最後にアヤメさんが転移していくのを見届けようとして、ビナーの口から放たれた光の奔流がこちらに迫ってきていた。
「________ハモリッ!!!」
「……っ!!?」
気が付けば、転移していた筈のアヤメさんが私を突き飛ばしていた。
「アヤ______」
アヤメさんは……笑っていた。
まるで、安堵するように、微笑んでいた。
そして、アヤメさんが光の奔流に呑み込まれていくのを目の当たりにしながら、私はなす術もなく吹き飛ばされた。
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「あ、あれ?ここは……」
突如現れたビナーを前に撤退しようとした先生達は、気付けば砂漠の真っ只中にいた。
その近くでは、気を失ったカイザーPMC理事が転がっていた。
誰もが困惑している中、ホシノだけはこの状況に見覚えがあった。
「先生!ハモリちゃんは!?」
ホシノの声にハッとした先生は辺りを見渡すが、姿はどこにも見当たらない。
「ホシノ先輩!アヤメ先輩もいません!」
「まさか、2人共逃げ遅れたんじゃ……!?」
「先生!すぐに2人を助けないと!」
先生はホシノ達を真っ直ぐに見つめて口を開く。
「うん、すぐに戻って2人を助けよう。みんな、力を貸して欲しい」
「勿論だよ。みんなもいいね?」
「ん、みんながいれば百人力」
「私も大丈夫ですよ~」
「当然よ!何時でも行けるわ!」
「サポートは私に任せて下さい!」
先生の言葉に笑みをもって返す対策委員会。
「ふふ。私達も忘れて貰っては困るわよ、先生?」
「さっすがアルちゃん、そうでなくちゃ♪」
「わ、私はアル様の為なら何処までもついていきます!」
「まあ、ここまで来たら最後まで付き合うよ」
余裕の表情で先生を見据える便利屋68。
「うふふ、貴方様の望みとあれば、何処までも付き従いますわ」
「先生っ、みんなでハモリちゃんとアヤメちゃんを助けに行きましょう!」
やる気に満ち溢れるワカモとユメ。
ここにいる誰もがカイザーPMCとの戦いで消耗していたが、その瞳に迷いはなかった。
すると、北方のPMC基地に向かっていた風紀委員会から通信が入る。
『先生、こちらの方は作戦終了したわ』
「お疲れ様、ヒナ」
『……その声色、何かあったの?』
ヒナは先生の様子に何かを感じ取ったのか、先生に問いかける。
「……実は」
先生はヒナに事情を説明した。
『話は分かった。私も同行するわ』
「ありがとう、ヒナ。けど、大丈夫かい?」
『私は平気。後の事はイオリ達に任せておくから。それに、ハモリには色々世話になったし……兎に角、私もすぐにそちらへ向かうわ』
それから先生は現在地を確認後、合流地点を決めてPMC基地へ戻る事にした。
幸い、そこまで遠く離れていないようで、目を凝らしてみれば基地とその近くに白い巨大な影が見えた。カイザーPMC理事は風紀委員会が回収するように手配した。
早速基地へ向かおうとすると、1人の少女が現れた。その少女の顔に先生は覚えがあった。
「エイミ!」
「久しぶり、先生。部長からの指示で私も同行するよ」
その大胆に肌を露出した格好に先生以外の面々は顔を赤くした。
「きゃー!なんて格好してるのよこの変態!」
「セ、セリカちゃんいくらなんでも失礼だよ……」
「(わぁ、大胆……ねぇ、アルちゃんも真似してみない?)」
「(嫌に決まってんでしょう!?というか、私の憧れるアウトローはああいうのじゃないから!あれはただの露出狂でしょ!)」
先生以外の面々が自分の格好を見て何かを言ってる事に気付いたエイミは不服そうに眉をひそめる。
「……人を変態みたいに言わないで。こうでもしないと暑くて死にそうになるの。正直、今だって我慢してる」
「そ、そこまで……?」
「そういうあなた達は暑くないの?」
「うへ、えっと……おじさん達は慣れてるから」
「そう……」
携帯式の扇風機を取り出し涼むエイミを見て何とも言えない表情を浮かべるホシノ達。
一先ず空気を変えようと、先生が口を開く。
「そ、それでエイミはどうしてここに?」
「部長が万が一の為にって待機していたの。アビドスの砂漠には"あれ"がいるから」
「あれって……?」
『その事については私が説明しましょう』
すると、エイミが持っていた通信端末からヒマリのホログラムが現れる。
「ヒマリ!」
『お久しぶりです、先生。感動の再会と言いたい所ですが、時間もあまりなさそうなので手短に説明します______そのアビドス砂漠には、ビナーと呼ばれる自立兵器の存在が確認されます』
「ビナー……それってもしかして」
『ええ、先生達がカイザーPMC基地で遭遇した巨大な機械の蛇……それは、デカグラマトンと呼ばれるAIの配下、通称"預言者"と呼ばれる自立兵器のひとつです。そして、アビドスを襲った砂嵐の元凶である可能性があります』
「待って!それってどういう事!?」
ヒマリの言葉にホシノが食い付く。
『はじめまして、小鳥遊ホシノさん。質問の答えですが……調べた所、アビドス砂漠では過去に数回、巨大な怪物らしき存在と交戦したという記録が確認されました。その姿は巨大な機械で出来た蛇のような形状で、砂漠を縦横無尽に移動し、周囲に大規模な砂嵐を巻き起こす、と』
「…………!?」
『最も古い記録が数十年前。ちょうどアビドス自治区を襲った大規模な砂嵐が発生した時期です。その後の発生記録と、その怪物……ビナーとの交戦記録はほぼ一致しています。勿論、全てがビナーの仕業と判断するのは早計ですが、これまでのデータの統計から見ても、可能性は高いかと』
対策委員会とユメはヒマリの話を聞いて唖然としていた。まさか、アビドスを襲った砂嵐が災害ではなく、得たいの知れない機械によるものだとは想像の範囲外だった。
それと同時に、各々に歓喜の感情が沸々と湧いてきた。
『もし、そのビナーとやらをどうにかすれば、砂嵐は収まるのではないか?』
長らく諦めかけていたアビドスの復興も、不可能ではない。降って湧いてきた希望の光に、思わず飛び上がりそうだった。
だが、そんな歓喜の感情は一瞬で、すぐに気持ちを切り替える。
「ヒマリちゃんだっけ。そのビナーって奴の交戦記録があるなら、詳しい情報を教えてくれないかな?」
「お願いします!ハモリ先輩達がその怪物に襲われている可能性があるんです!」
そう。今やるべき事は、取り残された2人を助ける事だ。他の皆も考えている事は一緒で、真っ直ぐにヒマリを見つめている。
『ええ、勿論です。それから、私の方もみなさんを可能な限り支援しますので、どうぞよろしくお願いします』
ヒマリは対策委員会の皆の顔を見て小さく微笑んだ。
「よし、みんな!行こう!」
先生の一声で、一同は取り残されたハモリとアヤメを助ける為に、ビナーのいるカイザーPMC基地へ向かった。
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「アヤメさん!アヤメさん返事をして下さい!」
私は瓦礫の山となった基地の中を駆けていた。身体中が軋み、至る所から出血しているのが分かる。だが、そんな事はどうでも良かった。
あの時、ビナーの放った熱線から私を護る為にアヤメさんは……
「…………っ!!アヤメさん!!何処にいるんだ!!頼む、返事をしてくれ!!!」
一瞬、頭に過った最悪の想像をすぐに振り払い、私は声を上げた。そんな筈はない、大丈夫だ、と自分に言い聞かせながら。
「……ぁ」
「……!?アヤメさんっ!!!」
かすかに聞こえたアヤメさんの声を頼りに、私は瓦礫の山を掘り起こす。やがて瓦礫の中から、見覚えのあるプラチナブロンドの髪が見えた。
「アヤメさん!アヤメさ……………ぁ?」
瓦礫の中から現れたアヤメさんを見た瞬間、私は言葉を失った。
全身は焼け爛れ、流れた血が砂に染み込み、手足は折れてあらぬ方向に曲がっていた。辛うじて息はしていたものの、非常に小さく、何時消えてもおかしくはなかった。
「ぁ……ぅ、ぁ……」
胸が苦しく、呼吸が出来ない。
視界は定まらず、思考がまとまらない。
無意識の内に、私は拳を強く握り締めて血を流していた。
「………………私の、せいだ」
そうだ、私のせいだ。
私が、ビナーの存在を忘れていなければ、こんな事にはならなかった。
私が、アヤメさんを早く逃がしていれば、こんな事にはならなかった。
私が、アヤメさんを戦いに巻き込んでしまわなければ、こんな事にはならなかった。
私が、アヤメさんと出会わなければ、こんな事にはならなかった。
「……ぁぁ」
何が、彼女を幸せにする、だ。
何が、彼女を助けたい、だ。
何が、笑顔でいて欲しい、だ。
彼女を、こんな目に遇わせた癖に。
「________私が、私がいたから……!!!」
そうだ。私がこの世界に存在しなければ良かったんだ。
私がいなくても、先生がいれば全て解決する。私なんて、必要ないんだ。
そう。私なんて、いなければ____________
『それ以上はダメだよ』
瞬間、意識が空白になり……聞いた事のない筈なのに、何処か懐かしさを感じる声が聞こえた。
『もう、大丈夫。後は______ボクに任せて』
やがて私の意識は溶けていき、深い眠りへと誘われた。
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「見えた!まだいる!」
ハモリとアヤメを救出する為にビナーのいるカイザーPMC基地へ戻って来た先生達。道中、ヒナと合流し基地のある座標へ向かうと、壊滅した基地の周囲にビナーが徘徊していた。まるで、何かを探しているかのように。
「早く2人を探さないと……!」
「……!?待って先生!空が……!」
ヒナが何か異変に気付き、空を指差す。
空が急に暗闇に染まっていき、雲が立ち込めていた。
そして雲の中心から、雷を纏って"何か"が現れようとしていた。
「………………何、あれ」
それは、巨大な彫刻を思わせる形状をしていた。いくつものパーツが宙に浮かび、やがて雷を纏い巨大な腕、羽根と、形を形成していく。それはまるで、神話に出てくる巨人のようだった。
「部長、あれは……」
『分かりません……あれは、預言者でもない、データにない未知の存在です』
冷静沈着なエイミもヒマリも、今まで見た事のない未知の存在に顔をこわばらせていた。
「先生っ!早くハモリちゃん達を探さないと!」
ユメの声にハッとする先生。あれが一体何なのかは分からない。けれど、それよりも今は一刻も早く2人を助け出さなければならない。先生達はすぐに駆け出そうとして、目の前に音もなく1人の人影が現れた。
「ハモリ!?アヤメ!?」
現れたのは、探そうとしていたハモリとアヤメだった。アヤメは意識がないのかハモリに抱き抱えられて眠っていたが、幸いどちらも"怪我はない"ようだ。
「ハモリちゃん良かった!アヤメちゃんも無事だったんだね!」
「………………」
「ハモリちゃん……?」
2人の姿を見て安堵したホシノだったが、ハモリは無言で近付いていく。
ハモリは先生の前で立ち止まると、ゆっくりと口を開いた。
「…………この人の事、頼める?」
その声を聞いて、先生は違和感を覚えた。
声も見た目も、自分の知っているハモリの筈なのに……まるで"違う誰か"が、ハモリの姿を借りて喋っているかのようだった。
「……うん、分かったよ」
先生は胸に抱いた違和感を一旦忘れて、ハモリからアヤメの身体を受け止める。アヤメはただ眠っているだけのようで、一先ず安心だ。
「手、怪我してるね」
ハモリの声を聞いて先生は自分の手を見ると、何処かで擦りむいたのか血が出ていた。
「ちょっと待ってね」
するとハモリは出血した手に自分の手をかざす。
「______
ハモリが小さく呟くと、手から淡い光が溢れ出す。やがて光が消えると……手の怪我が治っていた。
「……!?今のは……」
先生は目の前で起こった光景に目を見開いていた。それは、先生だけでなく他の皆も同じだった。
すると突然、空にいた巨人から巨大な雷が放たれた。
「______先生!」
咄嗟に盾になろうとするホシノと、先生を逃がそうとするヒナとワカモ。他の皆も動こうとするが、間に合わない。
最早これまでかと思った瞬間……巨大な光の壁が出現し、雷を全て防いだ。
「なっ……!?」
気が付けば、ハモリが巨人と向き合っていた。ハモリは愛用のショットガンを手に持ち、銃口を巨人へと向けた。
「________
引き金を引いた瞬間、轟音と共に巨大な龍を模した八つの電撃が放たれた。
龍達は巨人の全身を噛み砕き、粉砕した。やがて砕かれた巨人の残骸は光の粒子となって、ハモリの身体に吸い寄せられていった。
「ハモリ……あなた」
ヒナは、目の前で次々と起こる光景に言葉を失っていた。そして何より……目の前にいるハモリが、本当に自分の知っているハモリなのか、信じられずにいた。
「………………」
ヒナの視線に気付いたハモリは一瞬、何処か悲しげな表情を浮かべたが、すぐに切り替えて未だに佇んでいるビナーに視線を向けた。
「ハモリ待って!」
自分を呼び止める先生の声に、ハモリはゆっくりと振り返った。
「……サポートだけ、させて欲しい」
先生の言葉にハモリは目を見開くと、小さく微笑んだ。
「うん、お願い」
そしてハモリは、一瞬の内にビナーの元へ転移した。
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『オオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!』
ビナーは突如現れた膨大な"神秘"を宿した存在を前に咆哮を上げた。
目の前の存在は危険だと、優先して倒さねばならない敵と認識した。
ビナーは口腔内にエネルギーを収束させ、熱線を放つ。それは岩をも融解し、ヘイローを持つ生徒をも殺しうる必殺の一撃だったが、再び光の壁が現れて防がれる。
続いてビナーは、無数のミサイルを発射して敵を打ち砕こうとする。
「………………」
熱線を防ぎきったハモリは銃口をビナーへ向けると、雷の龍達を放つ。龍達は瞬く間にミサイルの雨を喰らい尽くし、ビナーの巨体に殺到する。分厚い装甲を鋭い牙で噛み砕き、全身から放たれる稲妻がビナーの自己修復機能を阻害する。
「さてと……せっかく手に入れたんだし、"試し切り"にはちょうど良いかな」
そう呟くと、虚空に手を伸ばし、目に見えない"何か"を掴みとる。
「________神秘抜刀……神剣•
虚空から現れたのは、一振りの大太刀。白銀に輝く刀身は蒼い稲妻を帯びており、その切っ先をビナーに向けた瞬間、ビナーは突然その巨体を激しく揺らし逃走しようとする。それはまるで、恐怖に怯える人間のようだった。
『オオオッッッ!!!オオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!』
しかし、全身に纏わりつく雷の龍達がそれを許さない。堅牢な装甲に鋭い牙を突き立てて、その巨体を砂の大地に縫い付けていた。
そして、ハモリは大太刀をビナーに向けて振るうと__________空が、裂けた。
その数秒後、ビナーのヘイローが消え、頭部がゆっくりとズレて……地面に落ちた。
その巨体は砂の海に沈み、二度と動く事はなかった。
「………………」
完全に沈黙したビナーを一瞥した後、ハモリは姿を消した。
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「クックックックッ……!クッハッハッハッ……!素晴らしい……!よもや、これ程のものとは……!」
誰もいない砂丘の上で、黒いスーツを着た黒い影のような人物……体格からして男が肩を震わせて笑いを噛み殺していた。
「本来なら生徒1人につき1つの神秘を2つ宿すだけでなく、その2つが共鳴し新たな神秘を産み出し、尚且つ複数の神秘が拒否反応を起こす事なく存在している……実に興味深い現象です」
男の顔は影のように黒く無機質で、右目にあたる部分が発光し、そこから顔全体がひび割れ笑みを形作っていた。その視線の先には、先ほど1人の少女によってその首を両断された巨大な機械蛇の残骸があった。
「ですが、驚くべきはその特異性。在り方はテクスチャが剥がされた状態、或いは恐怖に近いにもかかわらず、反転の兆しはなく、言うなれば神秘のまま反転したような状態……それでいて、彼女は何ら問題なく生徒の姿を維持している……これは、本来ならあり得ない現象です」
男は誰に聞かせる訳でもなく、興奮気味に言葉を重ねていった。
「そう、あれこそまさに我々が探し求めていたモノ……崇高、或いはそれに極めて等しい存在……!ああ、今更ながら彼女ともっと早い段階で接触するべきでした。尤も、彼女は既に我々を認知している以上、引き込む事は難しかったでしょう。それを考えれば、こうして彼女の力を間近で見る事が出来ただけでも十分な成果です」
一通り語り終えると、その男は視線を姿を消した少女を探す青年へと向ける。
「彼女は生徒であると共に、生徒の枠組みを越えた神そのものともいえる存在。その力は、やがて世界をも滅ぼしうるでしょう……それでも貴方は、彼女を生徒として受け入れる事が出来ますか、先生?」
やがて男は踵を返しその場を去ろうとしてふと立ち止まり、何もない虚空に視線を向けた。
「過ぎた好奇心は身を滅ぼすと言いますが……元同志として、神の逆鱗に触れてしまった事には同情しますよ……地下生活者」
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「こ、これは……どういう事だ?」
暗黒に包まれた空間の中で、何かが困惑した様子で呟く。その何かは一言で言うのなら異形だった。黒い襤褸を纏ったその身体とボサボサの髪は人のモノであったが、顔にあたる部分は黒塗りの面に瞳が時計の文字盤となった幾つもの目がある仮面じみた不気味な顔をしていた。
その異形の何かは、目の前で起こった光景に理解が及ばず狼狽えていた。
「"セトの憤怒"が……取り込まれた……!?あ、あり得ない……ただの一生徒が……"神々の星座"を凌駕する神性を有してるとでも言うのか……!?」
異形の何かは、肩を震わせぶつぶつと譫言を繰り返していた。
「あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない……!!ここ、こんな暴挙が、こんな、不条理が……許されるとでも言うのか!?ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!こんなの、ルール違反だろっ!!こんなチート、小生は認めないぞっ!!」
誰に語る訳でもなく、譫言を繰り返すその異形の何かの背後に、音もなく人影が現れる。その人影は、先程まで異形の何かが見ていた1人の少女だった。
「み~つけた♪」
「な、あっ……!?な、何故……この混沌の領域に侵入出来る筈など……ぐあっ!!?」
異形の何かの足元から、黒い靄と共に無数の黒い腕が現れて、その身を拘束する。
「何故?ははっ、何度もしつこく"ちょっかい"かけて来た癖に、何処にいるのか逆探知される事くらい想像出来なかったの?」
「ぐ、あ……苦しい……助け……」
「まあ、そのちょっかいのお陰でボクはこうして表に出られる事が出来たし、その一点だけは感謝しているよ」
だから、と少女は続ける。
「お礼に……あの世への日帰り旅行をプレゼントしてあげる。あまりにも気持ち良すぎて、そのまま永住したくなるかもしれないけどね。まあ、精々楽しみなよ」
やがてその腕は悶え苦しむ異形の何かの身体を靄の中へと引き摺り込み……そこには何も残されていなかった。
「______ボクの大事な"お姉ちゃん"を傷付けるヤツは、誰であっても許さないよ」
その少女……白山ハモリは一切の感情を感じさせない無表情でそう呟き、やがて姿を消した。
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「ハモリちゃーん!どこにいるのー!」
「ハモリー!いるなら返事しなさーい!」
カイザーPMC駐屯地跡にて、先生達は姿を消したハモリを探していた。
突然現れた雷の巨人にビナーをたった1人で倒したハモリの姿に誰もが気圧されていたが、何時の間にか姿を消していて皆で探し回っていた。
「ハモリー!聞こえるなら返事をしてー!」
「ここだよ」
先生が必死に呼び掛けると、背後から声が聞こえ後ろを振り返った。
そこには、小さく笑みを浮かべるハモリが立っていた。
「ハモリ!良かった……」
先生の声に一歩歩きだそうとしたハモリは……突如、糸の切れた人形のように倒れた。
「ハモリ!?」
慌ててハモリの身体を受け止める先生。異変に気付いたホシノ達も駆け付けてくる。
「ハモリちゃん!大丈夫!?」
「ハモリ!しっかりして!」
「あー……大丈夫。ちょっと、ガス欠してるだけだから……」
先生に抱かれたハモリは気怠そうに首だけを動かしながら口を開いた。
「………………」
先生はハモリの顔をじっと見つめ、やがてゆっくりと口を開いた。
「……君は、ハモリじゃないんだね?」
先生の言葉に、ハモリは小さく笑みを溢す。
「……へぇ、驚いた。ボクがお姉ちゃんじゃないって、分かるんだ」
「ハ、ハモリちゃん……何を、言ってるの……?」
ユメは先生とハモリの言葉に酷く動揺していた。
「言葉通りの意味だよ。ボクは、お姉ちゃん……白山ハモリの妹として生まれてくる筈だった存在。その名残だよ」
そう言って、ハモリの妹を名乗る何者かは自嘲気味に笑った。その場にいた全員が、今言った言葉を信じられずにいた。
「……つまり、二重人格って事なのかな?」
その中で唯一、先生だけは動揺した素振りをみせずハモリの中にいる"彼女"に問いかけた。
「その認識で合っているよ。それにしても、良く分かったね?」
「雰囲気や口調……それに、目の色が違ってたからね」
ハモリの目……本来は黄色の瞳が、今は紫色になっていた。
「そっか。それは流石に確認出来なかったなぁ……」
「ねえ、ハモリちゃんは?ハモリちゃんは無事なの?」
ホシノは何処か鋭い目付きで睨みながら問いかけた。
「ああ、大丈夫だよ。お姉ちゃんは今眠ってる。ちょっと、悪い奴に洗脳されかけてたからね……」
「洗脳……!?一体誰に……」
先生は洗脳という言葉を聞いて顔をこわばらせる。
「知ってるかどうかは知らないけど、お姉ちゃんを洗脳しようとした奴はゲマトリアっていう組織の元メンバーで、お姉ちゃんの力を暴走させて、世界を滅茶苦茶にしようとしてたんだ」
ゲマトリア、という言葉を聞いてホシノと先生は目の色を変える。
「心配しなくても、そいつはもう二度と悪さはしないよ。ボクがしっかりと懲らしめておいたからね……」
何処か妖しさを秘めた表情で語る彼女に、先生とホシノは何となく事情を察したのか表情を固くする。
「……放っておけば、お姉ちゃんや他の人達が大変な目に遇っていた。何より、ボクはお姉ちゃんを傷付ける奴が許せなかった。ただ、それだけの事だよ」
そう言って、彼女は自嘲気味に笑った。
「……そういえば、君の名前はなんて言うのかな?」
「名前?ああ、ゴメンね。ボクは生まれる前に死んだから、名前はないんだ……」
何処か影のある表情で答える彼女に、先生は何かを思い付いたように口を開いた。
「じゃあ、私が君の名前を考えるのはどうかな?」
「えっ……?」
「だって、名前がないのは不便だし。それに、君も私の大事な生徒のひとりだからね」
先生の言葉にきょとんとする彼女。その顔は信じられないものを見ているかのようだった。
「ボクが、生徒?本気で言ってるの……?ボクは、お姉ちゃんなしじゃ生きていけない残りカスみたいなものなのに……」
「そんな事はないよ。君はあの時、私の怪我を治してくれた。ハモリやみんなの事を守ってくれた。君は、今確かにここにいる、私の生徒だよ」
そう言って、先生は話を締めくくった。そんな先生の顔を見た彼女は、可笑しなものをみるかのように笑った。
「ハハハッ。先生って、変わってるね……お姉ちゃんが先生の事を好きな理由が、分かった気がするよ」
そう言う彼女の表情は、先ほどのものとは違う、穏やかなものだった。
「じゃあ、お願いしても良いかな?言っとくけど、変な名前にしたら許さないからね?」
「うん、任せて」
そう言って、先生は彼女の顔をじっと見つめる。
ハモリとは異なる、紫色の綺麗な瞳。何処か神秘的で、そのまま吸い寄せられそうな美しさがあった。
すると、先生は自然と口を開いた。
「…………イザナ」
「イザナ?」
「うん。白山イザナ……なんてどうかな?」
先生の言葉に、彼女は考え込むように目をつむる。
「イザナ……それが、ボクの名前。うん、いいよ。すごくいい」
彼女……イザナは、何度も頷きながら、自分の名前を呟いた。
「ねえ、先生。ボクの名前……もう一度、呼んでくれないかな?」
「いいよ……イザナ」
「うん……」
イザナは、何度も噛み締めるように頷いた。
「ああ……名前があるって、こんなに嬉しい事だったんだね。ありがとう、先生……」
そう言って、イザナは嬉しそうに微笑み……ゆっくりと瞼を閉じていく。
「っ……ゴメン。そろそろ、限界、みたい……先生、みんな……ボクが言うのも変だけど、後の事、お願いしても、良いかな……?」
「うん、任せて」
「取り敢えず、後はおじさん達がやっておくから、イザナちゃんはハモリちゃんと一緒にゆっくり休んでなよ」
「目が覚めたら、いっぱいお話しようねイザナちゃん!」
「ふふ、困った事があれば、便利屋に任せなさい」
大勢の自分の名前を呼ぶ声に、イザナは心が満たされていくのを感じながら、やがて睡魔に身を委ねていった。
「お休み、イザナ」
こうして、名を与えられた■■■は、ひとりの生徒となった。
ヒロインは複数人いてもOKか?
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YES
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NO