キヴォトスの歯医者さん   作:ニシキ

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イザナ「今回はお姉ちゃんがお休み中だから、代わりにボクがやるよー。ひとまず、対策委員会編はこれで最後でーす」

という訳で、第20話です。


白山ハモリの口吸い

 

 

 

「………………ここ、は」

 

微睡みから覚めた私の視界に広がる、辺り一面何もない、真っ白な空間。

そこに私は1人、佇んでいた。

 

「…………っ」

 

意識が明瞭になると共に、脳内に流れ込む記憶の濁流。

ビナーが現れ、私を庇ってアヤメさんが負傷をして、何も出来ず立ち尽くし、それから……

 

「代わりにボクがあなたの恋人さんの怪我を治して、怪獣達を倒して、あなたを裏で操っていた奴を消して、そして今に至る……だね」

 

突如、後ろから声が聞こえ、振り返るとそこには……紫色の瞳をした"私"がいた。

 

「その声は……あの時の」

 

私が意識を失う直前に聞こえてきた、何処か懐かしさを感じる見知らぬ声。

その声の主……姿こそ私と瓜二つだが、こうして直接向き合って……彼女が何者なのか、心で理解した。

 

「君は本当に……私の妹、なのか」

「そうだよ……ボクは、イザナ。あなたの妹として生まれてくる筈だった存在……」

 

ゆっくりと、彼女は近付いていく。その表情は、喜びと恐怖が混ざったような、複雑なものだった。

 

「まあ、いきなりこんな事を言われたら困惑するのは無理もないけど、本当の事なんだ。それは、何となく分かってるでしょ?」

 

「……ああ、分かるよ」

 

こうして言葉を交わさなくても、彼女の記憶や感情が頭の中に流れ込んで来て、彼女の言葉が全て事実であると私に認識させた。

そして、彼女が私に対して抱いている感情の正体も理解出来た。

 

「……私が言うのも変な話だけど、別に他人という訳ではないし、君の好きな呼び方で構わないよ。私も君の事はイザナと呼ぶけど、良いかな?」

「……!うん、じゃあボクもお姉ちゃんって呼ばせて貰うね!」

 

一転して、彼女……イザナは嬉しそうに微笑んだ。正直な所、私自身まさか生まれる前に死んだ筈の姉妹がこうして現れた事に困惑しているが、同時にそれをすんなりと受け入れていた。まるで、ずっと一緒にいたような感覚だ。

 

「記憶が流れてきて知ったが……君の名前は、先生がつけてくれたんだね」

「うん。ボクも生徒だからって、名前を考えてくれたんだ。ほら、ボクは生まれる前に死んで名前なんてなかったから……それが何だが、嬉しくって」

「そうか……先生らしいな」

 

記憶を見る限り、先生達も無事なようで何よりだ。

 

「それで、ここは所謂……私の心の中、或いは精神世界、といった所かな?」

「流石、理解が早いね。ちなみに現実の方ではまだスヤスヤと眠っているよ」

「そうか……」

 

一先ず、自分の置かれている状況を把握した私は改めて彼女に問いかけた。

 

「それで……アヤメさんは、無事なんだね?」

「うん、怪我は全部治したよ。今頃はもう起きているんじゃないかな」

「そう、か……ありがとう、アヤメさんを助けてくれて」

 

あの時、アヤメさんは辛うじて息はあったものの、何時死んでもおかしくない状態だった。

やろうと思えばすぐに病院へ転移する事も出来たのに、私は目の前の現実を受け入れられず、ただ無意味に自分を責め続けていた。アヤメさんが、すぐに助けを必要としている時に、私は……

 

「そうやって、自分を責めるのは良くないよ」

 

イザナは、私の事をじっと見つめていた。その瞳は、私を労るような優しいものだった。

 

「そもそもあの蛇をけしかけたのも、お姉ちゃんがそうなるように仕向けたのも、あの変な目玉仮面のせい。お姉ちゃんも覚えがあるでしょ?時々、自分の考えてる事がおかしくなるような事が」

 

言われてみれば、これまでに何度か自分らしくない事を考えた事が何度かあった。

それがイザナの言う目玉仮面……地下生活者の仕業で、恐らくは対策委員会編でホシノさんにしたように私をテラー化させる事が目的だったのなら、説明がつく。

 

「だとしても……私の心の弱さを漬け込まれ、その結果アヤメさんは傷付いた……それは、変えようのない事実だ」

 

もし、イザナがいなければ……アヤメさんはあのまま命を落としていて、私は私ではなくなっていただろう。イザナが私を慰めてくれているのは分かるが、だからといって私は自分自身を許す事が出来なかった。

 

「______だからこそ、もう二度と過ちは繰り返さない」

 

アヤメさんを幸せにしたい。

アヤメさんと一緒に生きたい。

その思いは今でも変わらない。

なら、私がやるべき事は何時までも落ち込んでる事ではなく……もっと強くなってアヤメさんを、大切な人を護れるようになる事だ。

 

「ふふ、安心したよ。それでこそボクのお姉ちゃんだ」

 

イザナは、はじめから私が言う事が分かっていたかのように、満足げな笑みを浮かべた。

 

「それならボクもお姉ちゃんの力になるよ。なんたって、ボクとお姉ちゃんは文字通り一心同体だからね」

「……ひとつ、聞いても良いかな?」

「ん?」

 

無邪気に笑うイザナの顔を見て、私はふと気になった事を聞いてみた。

 

「どうして、君はそこまでして私の為に……?」

 

他にも色々気になる事はあるが……どうして、彼女はここまで私の為に力を貸してくれるのだろうか。

勿論、アヤメさんの怪我を治してくれたり、先生達の代わりにビナー達を倒してくれた事には感謝している。彼女の言葉に嘘がない事は分かるし、私に対する喜びの感情が溢れている事も分かる。

だが、いくら姉妹とはいえこうして会話をする事自体初めての筈の私にどうしてここまで好意を向けているのか、私には分からない。

私の問いかけに、イザナはきょとんとした顔をしたかと思うと、小さく笑みを浮かべ口を開いた。

 

「それはね……お姉ちゃんがボクの恩人で、そんなお姉ちゃんがボクは大好きだからだよ」

「……それは、どういう」

 

再度問いかけようとして、急に意識が遠退いていく感覚が襲ってきた。

 

「そろそろお目覚めの時間みたいだね……また後で、ゆっくりお話しようね……お姉ちゃん」

 

その言葉を最後に、私の意識は暗転した。

「………………また、知らない天井か」

 

意識が覚醒し、目を開けると私はベッドに横になっており、身体を起こして辺りを見回す。見たところ、恐らくは何処かの病室。どうやらあの後、気を失った私は病院に運ばれたらしい。

 

『おはよー、お姉ちゃん』

 

すると突然、聞き覚えのある声が脳内に響く。

 

「(その声は……イザナか?)」

『そうだよー。現実の世界でこうしてお話するのも楽しみだったんだ』

「(そうか……しかし何だが、不思議な感じだ。世の中の二重人格者もこんな感じなのだろうか?)」

『どうだろ?そもそも、ボクがこうしている事自体がレアケースだからね。まあ、絶対にあり得ないとは言いきれないけど』

「(レアケース……そういえば、今までこうして話しかけてこなかったのも、何か理由があるのか?)」

『んー、話せば長くなるんだけど……』

 

イザナが答えようとした矢先に、病室の扉が開いた。

 

「ハモリ……?」

 

現れたのは、アヤメさんだった。イザナと意識が入れ替わる前に見た酷い怪我は全て完治していて、しっかりと自分の足で立っていた。

 

「ハモリ!良かった、目が覚めたのね……」

「………………アヤメ、さん」

 

その声を聞いた瞬間、私は溢れ出る感情を抑えられなかった。

 

「アヤメさんっ……うっ……」

「ど、どうしたのハモリ?何処か痛むの?」

 

両目から流れ出る涙を拭う事も忘れて、私はずっとアヤメさんの顔を見ていた。

 

「違うんですっ……私、怖かったんです……アヤメさんが、アヤメさんが、死んじゃうんじゃないかって……」

「…………」

 

すると、アヤメさんは何も言わずにそっと私の身体を優しく抱き締めてくれた。

 

「大丈夫。私はここにいるよ……どんな事があっても、あんたをひとりにはさせないから……ね」

「うっ……は、い……はい……!」

 

私はアヤメさんの胸の中で泣き続け、そんな私をアヤメさんはずっと優しく抱き締めてくれた。

それからしばらくして、落ち着きを取り戻した私は改めてアヤメさんと向かい合っていた。

 

「すみません、取り乱してしまって」

「いいのいいの。私だって似たような事してたし、お互い様よ」

 

そう言って朗らかに笑うアヤメさんの顔を見て私は胸を撫で下ろす。イザナから話は聞いていたとは言え、こうして自分の目で確認するまでは完全に不安を払えなかったからだ。

そういえば、ついさっきまで話してたイザナの声が聞こえないがどうしたのだろうか。

 

『そりゃあ、あの場面で水を差すのは気が引けるし、邪魔しちゃあ悪いと思ったからね』

「(ああ、それは気を遣わせてしまったね……)」

『気にしない気にしない。ほら、ボクの事は良いから恋人さんとお話しなよ。話したい事、色々あるんでしょ?』

「(……ありがとう)」

 

本当は自分も話したいのに私に気を遣ってくれている妹の好意に甘えて、私はアヤメさんに向き直り、改めて口を開く。

 

「アヤメさんの方は、お身体の具合はどうですか?」

「私なら大丈夫だよ。あの後、あんたと同じ病室で寝ていたんだけど2日前に目が覚めて、今ではすっかり元気よ」

 

そう言って胸を張るアヤメさん。言葉通り、本当に元気そうだ。

 

「それよりも心配だったのはあんたの方よ?先生から聞いたけど、あの蛇の化け物を倒した後、気を失ったんですって?それで今日まで3日間ずっと寝たきりだったんだから」

「3日間……そういえば、あの後アビドスやカイザーはどうなったんですか?」

「うーん、話せば長くなるんだけど……」

 

アヤメさんは私が気を失った後の事について語り出した。

まず、アビドスについては……土地の売買と借金の件について、連邦生徒会から違法性有りと判断された結果、借金は帳消しとなりカイザーに奪われた土地の全ては正式にアビドスに返還されたとの事だ。

 

次にカイザーについてだが……あの後、カイザーPMC理事とその部下達は全員逮捕され、後の調査でカイザーグループがアビドス自治区の乗っ取り以外にも様々な企業や学園に詐欺恐喝等々の様々な犯罪行為及び違法取引を行っていた事が明らかとなった。

トドメに、調査に参加したミレニアムによって本社のデータベースからキヴォトス全土の掌握の計画に関する極秘事項が発見された事でキヴォトス中が大騒ぎとなり、プレジデントを含むカイザーグループ首脳部はテロ等準備罪をはじめとした諸々の罪で総退陣し刑事訴追を受ける事となったとの事だ。

これにより、カイザーグループはPMCやカイザーローンをはじめとした主だった事業は全て潰され、現在はキヴォトス各地のインフラ事業しか残っていないらしい。

 

「……何か、とんでもない事になってたんですね」

「でしょー?私も後から聞いたんだけど、今回カイザーの不正を暴いたミレニアムの人達の中には、全知って呼ばれてる凄腕のハッカーとか、どんなセキュリティも破る暗号解読のスペシャリストとか、キヴォトス中の学園や企業の秘密を握ってるスゴい人がいるって噂らしいよ。本当にどんな人何だろううねー」

「………………」

 

凄腕のハッカーに暗号解読のスペシャリストについては心当たりがあるが、最後の人物はまさか私の事だろうか。うっかりバラしたらリオ会長にどんな制裁が与えられるか分からないので、取り敢えず黙っておく事にする。

 

「まあ、何はともあれこれで一件落着って事。ホシノさん達もアビドスの借金がなくなって、カイザーに奪われた自治区も取り戻せたって喜んでたよ」

「ええ。それは本当に、良かった……」

 

予想外の事はあったが、当初の計画通りにアビドスの借金問題と土地の一件は解決し、カイザーを事実上無力化出来た事は大変喜ばしい事だ。少なくとも、これで最終章のようにカイザーが連邦生徒会やシャーレに手を出す事も、シャーレに舞い込むカイザー絡みの問題もなくなる事だろう。

とはいえ、今後、今回の一件でカイザーの残党が復讐の為に何か仕掛けてくる可能性もないとは言い切れないし、念には念を入れて警戒はしておくべきだろう。

 

「それで、さ……前に百鬼夜行に戻るって言ってた件についてだけど……」

 

アヤメさんは何処か躊躇するようにしながら、やがて意を決したように口を開いた。

 

「……もう少しだけ、あんたのところにいても、良いかな?」

「良いですよ」

「……私が言うのもアレだけど、そんな即答して良いの?元々、アビドスの問題が解決したら戻るって話をしていたのに」

「構わないですよ。私は、アヤメさんを信じてますから」

「……ありがとう」

 

アヤメさんは私の言葉に笑みを浮かべた。

 

「その、あんたにはずっと世話になったのに、黙って出ていくのは悪いと思ったのもあるんだけど……正直、怖かったんだ」

「怖い、ですか?」

 

私の言葉にアヤメさんは小さく頷いた。

 

「うん。百花繚乱の皆には、ちゃんと会って話をしなくちゃいけないんだって、分かっていたんだけど……あんたが眠って、私ひとりになった時……不安で気持ちが一杯になって、一歩を踏み出す勇気が持てなくて……」

 

アヤメさんは手をぎゅっと握りしめて、俯きながら口を開いた。その表情は憂いを帯びていて、何かを堪えるように肩を震わせていた。

 

「ごめんね……何時までも、あんたに頼ってばかりで、情けなくて……」

「そんな事はありませんよ」

 

私は固く握られたアヤメさんの手を両手でそっと包み込んだ。

 

「恐れる事も、頼る事も、決して悪い事ではありません。どんなに立ち止まっても、悩んでも良いんです。諦めなければ、何時かアヤメさんが望む未来はやって来ますから」

「……私に、そんな事出来るのかな?」

「出来ますよ。だって、アヤメさんは私に話してくれた……それはとても、勇気がいる事です。だからきっと大丈夫」

「………………」

 

私の言葉を黙って聞いていたアヤメさんだったが、やがて肩の力を抜いて、安堵したように小さく笑みを浮かべた。

 

「ありがとう。話したら何だが、気持ちが楽になったよ。あんたの声を聞くともう一度頑張ろうって、勇気が沸いてくる……」

 

アヤメさんは私の顔をじっと見つめている。その眼は何処か熱を帯びていて、頬は赤く染まっていた。

やがてゆっくりと近付いてお互いの顔の距離が数センチ程になると、そのハリのある唇が上下に動く。

 

「ねえ、ハモリ……私に、あんたの勇気を分けてくれる?」

 

その美しい口から溢れる艶のある声と温かい吐息に、私の胸の鼓動が次第に高まっていくのを感じた。

思えば私は3日間寝たきりだった。それはつまり、アヤメさんと3日間も触れ合ってなかったという事だ。

ならば、私のやる事は決まっていた。

 

「んっ……」

 

私は自分の唇をアヤメさんの唇と重ね合わせた。柔らかな感触と熱が伝わり、身体中の血液が沸騰していくような感覚が全身に伝わっていく。

 

「はぁっ……んっ……」

 

唇の感触を堪能すると、次に舌を唇の間に捩じ込み、口の中を味わう。つるりとした歯の表面を撫で回し、上顎をくすぐり、舌を絡め取る。互いの唾液が口の中で混ざり合い、それを飲み込む。

 

「ふぅ……アヤメさん」

「ふぁ……なに?」

「口……開けてくれます?」

「いいよ……あーん……」

 

アヤメさんが大きく口を開けると、温かい吐息と共に綺麗に並んだ真っ白な歯と粘膜が露になる。その美しい口腔を目で楽しんだ後、前歯の表面を舌でなぞり、歯茎との境目をつつき回す。

 

「ぁ……っ……」

 

舌の動きに合わせてアヤメさんがピクリと反応する。その目はトロンとしており、惜しげもなく私以外に見せた事のないその口腔内を晒していた。

私は更に犬歯の先端、奥歯の窪みを撫で回し、頬肉と歯の間に舌を捩じ込みその感触を味わう。

 

「んぁ……気持ちいい?」

「はい……とても」

「ふふ……じゃあ、今度は私があんたを味わう番よ?」

 

そう言うアヤメさんの目は獲物を前にした肉食獣のようで、赤い舌で舌なめずりするその仕草に、私はこれ以上なく興奮した。

 

「ほら、口を開けて」

 

私は言われるがままに口を開けた。アヤメさんは私の口の中をじっと見つめていた。

 

「ふぅん……こうして見るとあんたの歯、真っ白で綺麗ね。流石は歯医者といったところかしら?」

 

アヤメさんは両手を私の顔に添えて、唇を重ね合わせると、貪るように口の中を蹂躙した。

 

「んっ……ん……」

 

アヤメさんの舌先は柔らかく、それでいて力強く、私の歯や粘膜を撫で回し、その感触が快感となって私の身体を刺激した。

 

「んっ……あむっ……んんっ……!」

 

アヤメさんは無我夢中で私の口を味わい、その情動溢れる仕草に愛おしさを覚えた私はそっとアヤメさんの腰に手を回し、離れないようにした。

アヤメさんは更に興が乗ったのか、舌の動きがより激しくなり、室内にはくちゅ、くちゅ、っと肉と粘液が激しくぶつかり合う音と、ドアの開閉音が響いた。

 

「(……………………ん?)」

 

何か嫌な予感がして眼球だけを動かして出入口の方を見ると……

 

「「「「…………………………」」」」

 

先生とホシノさんとヒナさんとリオ会長がいた。4人とも顔を真っ赤にしながら思いっきりガン見していた。

 

「んんっ……どうしたのハモリ、余所見なんかして……………あ」

 

私の視線に気付いたアヤメさんが後ろを振り向くと、石のように固まった。

1秒、或いは1分か。世界が制止したかのように感じた。誰も彼もが言葉を発する事なく沈黙していると、先生がゆっくりと口を開いた。

 

「し、失礼しました……」

 

そう言って、先生はドアを閉めた。

その数秒後、アヤメさんの大絶叫が病室に響き渡った。




イザナ「病院ではお静かにー。それからエッチな事はお家かホテルでやりましょう。この小説を読んでくれているみんなとボクとの約束だよ?」

ヒロインは複数人いてもOKか?

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