キヴォトスの歯医者さん   作:ニシキ

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ハモリ「年上の女性の歯を磨くというのは倒錯的で非常にそそるシチュエーションだと思うんです。だからアヤメさん……梯スバルさんに歯磨きしても良いですか?」
アヤメ「まだ登場してないんだから我慢しなさい。というかさぁ…………浮 気 し た ら 許 さ な い っ て 言 っ た よ ね ?」

という訳で、第22話です。


奥空アヤネの虫歯治療

 

 

 

アヤメさん達と話した後、簡単な検査を終えた私は無事に退院し、その翌々日から歯科学部の仕事に復帰する事となった。

本音を言えばすぐにでも仕事に復帰したい所だったが、アヤメさんをはじめ、ネネコ先輩やコズエからも病み上がりだから無理はするなと言われたので、大事を取ってもう1日休む事となった。

とはいえ何もしないで1日ボーッとしているのも退屈だったので、昼間はイザナからリクエストのあったカンノーロを振る舞い、アヤメさんと一緒に楽しいティータイムを過ごした。

実際に口にしていたのは私の身体だったが、イザナははじめて食べるカンノーロの味にとても喜んでいた。

そして夜は、漬けマグロとアボガドの山かけ丼にあさりの味噌汁、デザートにバナナを食べてたっぷりとエネルギーを蓄えて、アヤメさんとヤりまくった。

退院した日はアヤメさんから「早く寝ろ!」と言われてキスだけで済ませてすぐに寝てしまったので私も大分溜まっており、気付いたら朝までずっとヤり続けていた。お陰でユメさんの奇跡の歯並びを見た時と同じくらい気分は絶好調だ。

一方で、アヤメさんは足腰が震えてまともに動けず、恨みがましい目で「体力オバケ」と言われてしまった。個人的に涙目で私を睨むアヤメさんの顔はとても可愛かったので、それはそれで良かった。

とはいえそのまま疲れて寝込んでしまったのは流石に悪いと思い、お詫び代わりに昼食用にサンドイッチを作っておいた。

取り敢えず今夜の献立は体力を回復させる物を中心にして、ヤるのは控えてキスだけで済ませよう、と頭の中でプランを立てていた。

それから、百花繚乱の件についてはアヤメさんとキキョウさんで相談して、一週間後に向かう事となった。

てっきり延期した事で一悶着あると思っていたが、キキョウさん曰く「ナグサ先輩がまたアヤメ先輩が知らない女とヤッていた夢を見たせいで体調を崩している。今顔を合わせたらマズいからもう少し後にして」との事だ。

 

『そりゃあ、行方不明の幼馴染みが自分の知らないところで女を作ってたなんて聞いたら卒倒するでしょ』

「(……改めて考えると、私は親友を奪った女と見られてもおかしくはない、か……)」

『まあそれこそ今更の話だけどさ、お姉ちゃんはアヤメ先輩を手放す気はないんでしょ?』

「(勿論だ。例え周りが何と言おうと、アヤメさんとの約束を違える気は微塵もない。だから、正直に全て話すつもりだ)」

 

あの日、アヤメさんと恋人になった時から覚悟していた事だ。そもそも私がアヤメさんを匿おうとしたのは事実だし、どんな罰も甘んじて受けるつもりだ。

 

『そこまで重く考えなくても良いと思うんだけどなぁ……元はと言えばアヤメ先輩に全部面倒事押し付けてた向こうの落ち度でしょ。もしお姉ちゃんがいなかったら、今頃アヤメ先輩はゲームと同じように行方不明になってたんだし』

「(それは……ん、ゲーム?)」

 

 

イザナは今、何と言ったか。それはまさか、原作の事を言っているのだろうか。

 

『うん、そうだよ。ボクの魂がお姉ちゃんの身体に取り込まれた時にお姉ちゃんの記憶がボクにも流れてきてね……だからお姉ちゃんがこのキヴォトスとは違う別の世界からやって来た事も、この世界がお姉ちゃんにとってはゲームの世界だって事も知ってるよ』

「(そ、そうか……てっきり、もっと驚くものかと思っていたが)」

『飽くまでゲームとこの世界は似てるってだけで、別物だからね。そもそも、お姉ちゃんやボクがいる時点でゲームとは違うし、現にアビドスやSRTの事だってゲームとは違うでしょ?』

「(……確かに)」

 

まさか原作知識の事まで知っているとは思わなかったが、イザナは思いの外冷静に受け止めているようだ。

 

『それで、お姉ちゃんはゲームの先生のように色んな人達を助ける気なんだね?』

「(ああ、知ってて見て見ぬふりというのは目覚めが悪いからね……それに放っておけば、アヤメさん達にも危害が及ぶのは確かだ)」

『その為にも、お姉ちゃんはまず自分の神秘を使いこなせるようにならないとね。使う度に倒れてちゃあ元も子もないし』

「(まあ、焦っても仕方ないし地道にやっていくよ)」

 

イザナのお陰で自分の力がどんなモノかは理解したものの、まだ使いこなしているとは言えず、持て余しているのが現状だ。

他にも考える事は色々あるが、まずは今使える力で何が出来るのかを把握し、それに慣れる事だろう。こればかりは、地道にやっていくしかない。

 

『だからって[ピーッ]してアヤメ先輩に[ピーッ]しまくった挙げ句[ピーッ]すのはどうかと思うよ?しかも朝まで連続でヤったせいでアヤメ先輩生まれたての小鹿みたいになってたじゃん』

「(あー……うん。その点については深く反省してる)」

 

実はアヤメさんとヤる時に物は試しにと思い力を使ったのだが……色々と調子に乗りすぎた。アヤメさんには非常に申し訳なかったのだが、アヤメさんの美しい口から紡がれる音色と暖かな体温がとても心地よく、本人もかなり乗り気だったのでつい夢中になってしまったのだ。

 

『結果的に神秘をコントロールする練習にはなったけど……正直アレはボク的にスゴい神秘の無駄遣いだったと思うよ?まあ、お姉ちゃんが変態さんなのは分かってたけどさ』

「(仰る通りです……)」

 

目があれば恐らくジト目で見ていると思われるイザナの声が頭に響いてくる。自分の性癖については否定しないが、いざ自分の妹に言われると何だか心が抉られるようで辛かった。

 

「ハモリ部長、今日も1日よろしくお願いします!」

「あ、ああ。こちらこそよろしく」

 

そして私は現在、歯科学部にて予定の確認や診察の準備を行っている。既にネネコ先輩も来てパソコンに向かっており、他の部員達も私と一緒に準備をしている。

 

「(よし!取り敢えず気持ちを切り替えて今日も1日頑張ろう!)」

『露骨に話題変えたねお姉ちゃん……』

 

アヤメさんの件は一旦置いておいて、私は自分の仕事をしていた。何せ、今日は待ちに待った対策委員会とユメさんの歯科検診の日なのだ。

カイザーがほぼ壊滅し、アビドスの借金と土地の問題が解決した事で時間に余裕が出来たので私から歯科検診を受けてみないかと提案した所、ホシノさんから全員で受けようと声が上がったので全員まとめて診察をする事になったのだ。

勿論、他の患者達の診察も楽しみだが、ホシノさん以外のまだ見ぬ対策委員会の歯と、ユメさんの奇跡の歯並びを隅々まで観察出来る事に私は心踊らせていた。

その後、開業時間となり私達歯科学部はそれぞれの持ち場に就き仕事を始めた。

「それじゃあ、今日はよろしくね」

「よ、よろしくお願いします……」

 

何人かの患者を診察した後、ついに対策委員会の面々とユメさんがやって来た。今治療用チェアに座って私と対面しているのはアヤネだ。その表情はやや固く、緊張しているのが分かる。

その横のもう1台の治療用チェアではセリカが座っており、コズエが対応している。

 

「それでは、本日はよろしくお願いしますね」

「う、うん……」

 

セリカもアヤネと同じく緊張しているのか、特徴的な猫耳はピンとしており、周りにある器具や薬品をキョロキョロと見ている。

 

「うぅ……緊張するなぁ。虫歯があったらどうしよう……」

「大丈夫ですよユメ先輩。もし虫歯があっても、ハモリちゃんなら痛くならないように治してくれますから」

「ん、私はこの通り今まで虫歯になった事なんてないから問題ない」

「わ~。シロコちゃんの歯、真っ白で綺麗ですね~」

 

少し離れた待合室のソファでは、アビドス1年生コンビを除いた面々が待機していた。

シロコがイーッと口の端を引っ張ってノノミに自分の歯を見せていたが、そのやり取りだけでも心臓がドキドキしてくる。今すぐにでも正面からじっくり見たいものであるが、まずは目の前にいるアヤネからだ。

本音を言えば私1人で全員の歯を隅々まで堪能、もとい診察していきたい所なのだが、ゆくゆくは歯科学部の部長の座を継がせたいと考えているコズエにも色々経験させたいので、今回は私とコズエでそれぞれ3人ずつ診察する事になっている。

内訳については、私がアヤネ、シロコ、ユメさん。コズエがセリカ、ノノミ、ホシノさんとなっている。

セリカとノノミの歯を直接見れないのは残念だが、まだいくらでもチャンスはあるし、これも可愛い後輩の為だと自分に言い聞かせて、私は自分の仕事を始めた。

 

「さて、口を大きく開けてくれるかな?」

「は、はい!ぁ、ぁ……!」

 

目をギュッと閉じて口を大きく開けていくアヤネの姿に初々しさや健気さを感じつつ、私はアヤネの口の中を覗き込んだ。

 

「ふむ……」

 

上下合わせて合計28本の歯が収められたアヤネの口腔。最初に目についたのは、右下6番の窪みに埋め込められた金属の光沢……インレーと呼ばれる金属の詰め物だ。しかしよく見ると隙間が僅かに茶色に変色しており、虫歯になっていた。一応歯磨きはしたのか表面は綺麗だが、よく見ると根元や歯の隙間に若干汚れが溜まっている。

まずはデンタルミラーをアヤネの口の中に挿入して1本ずつチェックしていく。

 

「……っ」

 

冷たい金属が柔らかい口内の粘膜に触れてピクッと反応するアヤネ。呼吸に合わせて揺れる喉奥の小さな口蓋垂がアヤネの感情を表しているようだった。

まずは右下の奥歯から順に見ていく。インレーが埋め込まれた奥歯は外してみないと何処まで虫歯が進行しているか分からないが、痛みを訴えてない所を見るにまだ神経までには達していないと思われる。続けて隣の歯を順番に見ていき、反対側の歯を見る。

 

「(左下5番C1……7番C0か……取り敢えず2本とも削る必要はないが要注意、と)」

 

反対側の歯は軽度の虫歯が1本と、歯の表面が溶けて白濁した状態の歯が1本あった。この程度なら汚れを落としてフッ素を塗布し、その後もきちんとケアすれば再石灰化によって傷付いた箇所は修復されるだろう。

 

「(歯磨き指導は念入りにしとかないと……しかし、意外と磨き残しが多いな。まあ、真面目な眼鏡っ娘の口の中が汚いというのもまたギャップがあってオツではあるが)」

 

あのアヤネの意外な一面を目の当たりにしてテンションがあがって来た私だが、それを決して表には出さず診察を続け、残った上の歯を全て確認し終えると、アヤネに口を濯がせて歯のレントゲンを撮る。

 

「その、ハモリ先輩……私の歯、どうでしたか……?」

 

恐る恐る、といった感じでアヤネが声をかける。その表情は何処か不安げであったが、私はプレッシャーを与えないようにゆっくりと口を開く。

 

「まず、この治療済みの歯だけど……インレーの隙間から虫歯になっている。今まで痛みはなかったかな?」

「はい……実は、少し前からたまにちょっとズキッ、て痛む事があったんですけど、借金の返済の事もあって後回しにしちゃって……」

「そうか……アヤネがアビドスの為に頑張っている事は私も知ってるけど、自分の事を疎かにしてはダメだよ?辛い思いをするのは、君自身だからね」

「ご、ごめんなさい……」

 

虫歯があると聞いてしゅんと落ち込むアヤネ。

 

「治療の流れについてだけど、幸い神経には達していないから、今のインレーを外して中の虫歯になっている部分を削って、新しい詰め物を詰める事になる。ここまで良いかな?」

「はい、大丈夫です」

「うん。それで、詰め物についてだけど……銀歯が気になるなら目立たないセラミックインレーに変更する事も出来るけど、どうする?」

「その……どう違うのでしょうか?」

「見た目が歯に近い白色だから治療跡が目立たないのは勿論だけど、セラミックの強度は歯とほぼ同じだから噛み合わせの時に他の歯を傷付けないし、歯に隙間なく接着するから虫歯の再発リスクが減るのが大きなメリットだね。後、銀歯だと金属アレルギーや歯茎の変色の可能性もあるし、ちゃんとケアすれば10~20年は使えるからね。個人的にはその心配がないセラミックをオススメするよ」

 

一通りの説明を聞いたアヤネはしばらく考え込み、やがてゆっくりと口を開く。

 

「それでは……その、セラミックでお願いします」

「うん、分かった」

 

アヤネからの返答を聞いた私は、話を続ける。

 

「次にもう1本の虫歯と、虫歯になりかけている歯についてだけど……汚れを取り除いた後、フッ素を塗布して終わりだね」

「あれ、治療はしないんですか?」

「軽度の虫歯なら再石灰化で自然治癒するからね。汚れを落としてフッ素で再石灰化を促せば治るから大丈夫だよ。治療って言うのは詰まるところ歯を削る訳だから、出来るだけ歯にダメージを与えない方が良いからね」

 

但し、と私は人差し指を立てて続ける。

 

「虫歯の原因は歯に付着した歯垢が原因だから、毎日のケアできちんと歯垢を取り除いていれば虫歯にはならないんだ。敢えて厳しく言うけど、アヤネの歯には所々に歯垢や歯石が溜まっていた。これはつまり、毎日のケアが不十分だという証拠だ。このままだと仮に治療してもまた虫歯になる、という事は理解して貰えるかな?」

「は、はい……」

 

虫歯になってしまった事に加えて、歯が汚いと言われてアヤネは目に見えて落ち込んでいた。

 

「(……この今にも泣き出しそうな表情、これからの治療に対する不安と怯えの混ざった瞳、そして今からそんな少女の可愛い歯を削り、口内を弄るという背徳感……そそるねぇ)」

 

今までも様々な生徒達の歯を見てきたが、はじめての歯との出会いは新しい星の発見のように心がときめくものだ。

その星の輝きを間近で観察出来る事の出来る歯科医をやっている私は、キヴォトスで一番の幸せ者ではないだろうか。ああ、素晴らしきこの世界。

 

『……毎度の事だけど、本当に嬉しそうだねお姉ちゃん』

 

突然イザナの声が頭に響いてきた。さっきまで無言だったが、どうしたのだろうか。

 

『いや、お仕事の邪魔しちゃ悪いと思ってずっと黙ってただけだよ。だだその……お姉ちゃんの思考がこっちにも流れてくるからついツッコミたくなってね……』

 

そう語るイザナの声色は、何処か疲れているようにも見て取れた。という事は、今までの私の思考も全て筒抜けだったという事か。

 

『そうそう。だから、歯の知識とかお姉ちゃんの趣味嗜好は全部網羅してるよー……ボクの意思に関係なくね』

「(…………一心同体というのも、考え物だな)」

『16年間一緒にいた訳だし今更ではあるけどね。ボクには歯フェチっていうのはよく分からないけど、お姉ちゃんが喜んでるならまあ良いかな、ってね……まあ、それはそれとしてお姉ちゃんの変態思考がガンガン流れてくるのはちょっと疲れるけど』

「(そこはまあ、許してくれ。こればかりは私の変えられないサガなのだから……)」

 

自分の性癖については今更変える気はないし今後変わる事はないだろう。

でなければ、今こうして歯科医として働いてはいないだろうし。

 

『ああ、もう慣れたしそこまで気にしなくて良いよ。ただ、代わりと言っては何だけど、ボクの方もたまには愚痴くらい聞いて貰いたいんだけどね』

 

イザナの方も私の考えが分かっていたのか、特に悪感情は抱いていないようだった。

 

「(それくらい構わないよ。私達は家族なのだからな……)」

『うん。そうだね、お姉ちゃん』

「あの……ハモリ先輩?」

 

アヤネが話しかけて来たので、私は思考を切り替える。どうやらイザナとの会話に夢中になっていたようだ。

 

『おっと、お仕事の邪魔してごめんね、お姉ちゃん。取り敢えずお仕事が終わるまでボクは静かにしてるから』

「(ああ、終わったらゆっくり話そう)」

 

イザナとの会話を一旦打ち切り、私はアヤネに向き直る。

 

「失礼。話の続きだけど、虫歯にならない為にはアヤネ自身が毎日きちんとケアをする必要がある。だから、治療が終わったらアヤネには歯磨き指導を受けて貰う事になるから、しっかりと覚えて実践するように」

「はい、よろしくお願いします……」

 

アヤネからの返答を聞いた私は、早速治療に取りかかる。

 

「まずは歯に付着した汚れを確認していくから、口を大きく開けて」

「あ、あーん……」

 

アヤネが口を開けたのを確認すると、染色液をアヤネの歯に塗布していく。その後、口を濯がせると、至る所が染色液のピンク色で染まった歯が露になる。

 

「見えるかい?これがアヤネの歯に付着した汚れだよ」

「こ、こんなに汚れていたんですね……」

「大丈夫。これから、この汚れを落として歯を綺麗にしていくからね」

 

鏡で自分の歯を見たアヤネは想像以上に汚れていた自分の歯に驚きを隠せないでいた。

私はエアフローを準備し、汚れの溜まっている箇所に先端をあてがい水流を噴射していく。

 

「……っ……ぁあ……っ」

 

歯に伝わる振動に身悶えし、顔を歪ませるアヤネ。歯の根元や隙間などに溜まった汚れが少しずつ落ちていき、真っ白な歯が露になっていく。

数分後、全ての歯が綺麗になったのを確認すると、いよいよ虫歯の治療に取りかかる。

 

「ちょっとチクッとするよ」

「……っ」

 

アヤネの歯茎に麻酔を行い、細菌が入らないようにラバーダムを装着し、超音波スケーラーの先端をインレーの縁にあてがい切削していく。しばらくすると、インレーが外れて虫歯になった箇所が露になる。

 

「(ふむ、そこそこ虫歯が広がっているな)」

 

インレーが外れて穴が空いた箇所は茶色に変色していた。余分に歯を削らないように染色液で染め出しを行う。その後、先端が球状になった切削器具……低速ラウンドバーを使い虫歯になった象牙質を少しずつ削っていく。

 

「………!」

 

麻酔はしたものの、歯を削られていく感覚に眉間に皺を寄せるアヤネ。両手をギュッと握りしめて、足をもぞもぞと動かして耐えるようにしていた。

柔らかい象牙質は簡単に削れていき、一通り削り終えると再び染め出しを行い、染まった箇所を切削し、取り残しがないように一連の作業を繰り返し行った。

そして虫歯になった象牙質を全て除去し終えると、口腔内スキャナーで歯型を取り、そのデータを専用の3Dプリンターに入力し新しいインレーを作成。微調整を加えながら歯に接着していく。接着剤が固まった後、隙間がないかどうか探針で確認、ラバーダムを外して噛み合わせの調整を行う。

 

「噛み合わせの方はどうかな?」

「はい、大丈夫です」

「よし、じゃあ仕上げにフッ素を塗っていくよ」

 

噛み合わせの確認をした後は、綺麗になった歯に満遍なくフッ素を塗布していった。

そして全ての行程が終わると、真っ白になった28本の歯が並んだ美しい口腔が露になっていた。

 

「治療はこれで終わりだよ。フッ素が歯に定着するまで30分くらいかかるから、その間は飲食は控えるように。」

「はい、ありがとうございます」

「うん。じゃあ、最後に歯磨き指導をやっていくよ」

 

それからアヤネと歯磨きの回数や食生活等のカウンセリングを行い、歯磨きやデンタルフロスの使い方や、歯ブラシや歯みがき粉の選び方、毎日の食生活の注意点等をしっかりと教えた。

アヤネはうんうんと頷きながら真剣に話を聞いて、分からない事はすぐに質問をしてくれた。

 

「じゃあ、今日はここまで。何か気になる事があれば我慢せず、すぐに来てね。それから、虫歯予防の為にも定期的に検診を受ける事をオススメするよ」

「はい、ありがとうございましたハモリ先輩」

 

治療が終わって緊張の糸が解れたのか、アヤネは笑みを浮かべていた。治療が終わった後のこの笑顔もまた格別だ。

 

「本日はお疲れ様でした。今後も引き続き歯磨きを続けて下さいね。もし何かあれば、何時でもご相談下さい」

「ありがとう、その時はよろしくね」

 

どうやら隣のセリカの診察も終わったようだ。

やがてアヤネとセリカの2人が退室し、次の診察の準備を終えると入れ替わるようにノノミとシロコがやって来る。

 

「それでは十六夜ノノミさん、こちらに座って下さい」

「は~い、よろしくお願いしますね~」

 

コズエはテキパキと診察の準備をしている。心配はなさそうだ。

 

「よろしく、ハモリ」

 

シロコを治療用チェアに座らせて、私も診察の準備をする。

ブルーアーカイブのメインヒロイン的ポジションにある彼女の歯がどうなっているのか、私は以前から気になっていた。

普段から口数が少なく、大きく口を開けて笑う事もないので今回の診察はまさに絶好のチャンスだった。

 

「(さっきの会話を聞く限りだと、虫歯はないとの事だが果たしてどうなっているのかな?)」

 

いずれにしても、口を開ければ全て分かる事だ。その隠された神秘の秘境にどんなお宝があるのか考えるだけでワクワクしてくる。

私は逸る気持ちを抑えつつ、いそいそと準備に取りかかった。

 




アヤメ「はぁ……ハモリ、早く帰ってこないかなぁ……今度は、私がたっぷりと可愛がってあげるんだから……うふふふ♡」

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