イザナ『まだ寝惚けてるのお姉ちゃん』
という訳で、第25話です。
アヤメさんに文字通り食い尽くされた翌朝、私はその時の感覚を反芻しつつ、何時も通りに朝食の準備をする。
因みにアヤメさんも起きていて、今は座ってニュースを見ている。
「ん~、味噌汁の良い香り。朝はやっぱりこれよね~」
「もう少しで出来るので待ってて下さいね」
朝の献立は白米、豆腐とネギとワカメの味噌汁、出汁巻き玉子、アジの干物、ひじきの煮物、カブの漬物だ。
出来上がったそれらをささっと皿に盛り付けてテーブルに並べていく。最後に白米と味噌汁をよそると、私も席に着く。
「いただきます」
「いっただきまーす!」
箸を手に取り、まずはアジを一口。それから白米に味噌汁。そして出汁巻き玉子。自画自賛になるが、相変わらず美味い。
「ん~、出汁巻き玉子美味しい~♪」
アヤメさんも美味しそうに出汁巻き玉子を頬張っている。今日も可愛い。
「(イザナ、どうかな?)」
『うん。美味しいよ、お姉ちゃん』
一々人格を切り替えるのは面倒だと思ったので何とか出来ないかとイザナと試行錯誤した結果、感覚を共有する事が出来るようになり、イザナも一緒に食事を楽しんでいる。
『やっぱり卵の甘味と出汁の風味が絶妙だよねぇ。これはアヤメ先輩がやみつきになる訳だ』
「(喜んで貰えて何よりだ。)」
「どうしたの、ハモリ」
「ええ、イザナも出汁巻き玉子が美味しいって」
「だよね~。お陰で他の出汁巻き玉子が食べられなくなっちゃうよ」
私が今もこうして料理を続けているのは自分が食べたいのも勿論あるが、やはり食べてくれる人の笑顔と「美味しい」という言葉だと思っている。
そして……食べる、話す、笑う______暮らしを支える歯と口の健康を守る歯科医の仕事は、私にとってまさに天職であると断言出来る。
「……百花繚乱に戻ったら、こうしてハモリと一緒にご飯を食べる事も出来なくなるんだよね」
ふと気が付けば、アヤメさんが箸を置いて小さく呟いていた。私はアヤメさんに視線を向けて、話そうとしているのを静かに聞いていた。
「この数ヶ月ハモリと一緒に暮らして、ハモリと一緒にいる事が当たり前の事だと思っていた。この幸せが、ずっと続けば良いのにと思っていた……けど、それじゃダメなんだ。私も、何時までもハモリに甘えてばかりじゃいられない。逃げ出した私に百花繚乱の委員長としての資格はないのは分かってる。それでも私は、自分の選んだ道をもう一度進みたい」
そしてアヤメさんは、私の目を真っ直ぐに見据えて口を開いた。
「だからハモリ……私、百花繚乱に戻るよ。もう一度、自分の夢を叶えたいから」
「……それがアヤメさんの選択なら、私はアヤメさんを応援しますよ」
私も覚悟はしていたが、本人の口から出た言葉に安堵すると共に寂しさも感じていた。
それでも、もう一度前に進みたいという彼女の意志を否定する事は、私には出来なかった。
「もし辛い事があれば、何時でも話して下さい。何があっても、必ず助けます」
寂しさはあるが、それ以上に私はこうしてアヤメさんが立ち直ってくれた事が何よりも嬉しかった。
そしてもし、またアヤメさんが助けを求めた時には、彼女の力になろうと決意した。
「……ありがとう。けど、それはあんたも同じだよ?あんたも、何かあったら私に話して」
「はい、約束します______まあ、お姉ちゃんにはボクがいるからその辺りは問題ないけどねー。それよりもボクは、アヤメ先輩がまた泣きべそかかないか心配だけどねー?」
突然イザナが私と切り替わると、ニヤニヤと笑いながらアヤメさんを煽るように言う。
すると案の定、アヤメさんは「ピキッ」と額に青筋を浮かべる。
「へぇ……面白い事言うじゃない、あんた。喧嘩売ってるなら買うわよ?」
「いやーだってさぁ、お姉ちゃんの妹の立場としては毎回お姉ちゃんに"アンアン"泣かされてるよわよわ先輩が言ってもイマイチ頼りないし。そ•れ•に、昨日だって結局最後はスイッチ入ったお姉ちゃんに逆転されて「あぁん!ハモリィ!」って泣かされちゃってたじゃん」
何かイザナがとんでもない事を言い出したので止めようとした矢先、アヤメさんが顔を真っ赤にして拳をわなわなと震わせていた。
そして目をカッと見開くと、怒髪天を衝く勢いで私にヘッドロックを極め始めた。
「こんの性悪女ぁ!言うに事欠いてそんなに私を怒らせたいのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「ア、アヤメさん落ち着いて……私、私です……」
その後、何とか怒れるアヤメさんを鎮めて食事を再開した私達だが、アヤメさんはずっと顔を真っ赤にしていて、私は何とも言えない気まずさを感じていた。
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「いやー、お姉ちゃんもアヤメ先輩もごめんね。アヤメ先輩が面白い反応するからつい興が乗っちゃってさ」
「…………あんた、本っっっ当に性格悪いわね」
「あははー______すみません、アヤメさん。イザナもちょっと悪戯しようと思っただけで悪気がある訳では……」
食事を終えた私達は食器を片付けていた。
アヤメさんも一緒に手伝ってくれているが、先程の事もあってか頬をプクッと膨らませており、如何にも「私は不機嫌です」と言わんばかりなオーラを流していた。
「全く……ハモリの顔に免じて、今回は許してあげるけど……今度やったらタダじゃおかないからね?」
「はーい……けどアヤメ先輩、どさくさに紛れてお姉ちゃんとくっついてた時、少し嬉しかったでしょ?」
「……………………」
イザナの言葉にアヤメさんは顔だけでなく耳まで真っ赤にして、誤魔化すように無心で皿を拭いていた。
「(アヤメさんの恥ずかしそうな顔……イイ)」
『お姉ちゃんはお姉ちゃんで相変わらずだね』
その後、私は何時ものようにアヤメさんに膝枕をして歯を磨いてあげると、アヤメさんは一先ず機嫌を直してくれた。
それから私は身支度を済ませると、アヤメさんにお見送りをされながらミレニアムへ向けて登校した。
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「では、その
『そうだよ~。いやぁ、おじさんもヒナちゃんから話には聞いていたけど、まさか昔のアビドス生徒会がゲヘナと関わっていて、あんな物を造っていたとは思わなかったよ』
場所は代わり歯科学部の部室。粗方の診察が終わり休憩室でくつろいでいるとホシノさんから連絡が入った。
内容は、アビドス砂漠の何処かにある雷帝の遺産こと列車砲シェマタが発見され、マコトさん率いる万魔殿と、ヒナさん率いる風紀委員会によって部品ひとつ残らず完全に破壊されたとの事だ。
先生はシェマタの捜索にあたりミレニアムにも協力を要請したらしく、事情を知っているリオ会長が捜索用のドローンやソナー等を提供し、更にホシノさん率いる対策委員会が旧アビドス高等学校本館からシェマタに関する資料を発見した事で想定よりも早い段階で見付かったらしい。
『他にも見るからに危なそうな物がゴロゴロ見付かって、万魔殿の議長ちゃんとヒナちゃんがスゴい顔をしてたよ。正直あんな物騒な物なんて今のアビドスには必要ないし、カイザーみたいな奴等が狙ってくる可能性もあったから代わりに全部処分してくれて本当に助かったよ』
借金が無効化し土地が全て戻ったアビドスだが、依然として殆どの住宅街や市街地は砂に覆われている状態だ。
その為、現在の対策委員会は自治区の本格的な復興に向けて活動しており、アビドス廃校対策委員会の呼称も今後はアビドス復興委員会と改める予定らしい。
『それと、これは砂漠中を探していた時に偶然見付けたんだけど……昔ユメ先輩と一緒に探していた、アビドス生徒会が砂漠に捨てたっていうお宝が見付かったんだ』
「何と……それは、どんな物ですか?」
『うん、それはね……』
ホシノさんの話によると、過去のアビドス生徒会が100g1000万円の価値がある希少金属を使った花火を砂漠に大量に捨てたらしく、それがシェマタの捜索中に偶然発見されたとの事だ。
後に全て回収し、ミレニアムが調査した結果……その総資産価値は嘗てアビドスが抱えていた借金を完済したとしても十二分にお釣が出る程のもので、それを自治区復興の為の資金として利用するらしい。
「(そういえば、対策委員会編3章の最後でお宝は本当にあったみたいな話があったな。しかし、最低でも9億以上のお宝か……アビドスが嘗ての繁栄と栄光を取り戻すのも、いよいよ夢物語ではなくなるのかもしれないな)」
その花火の材料となった希少金属もまだ砂漠の何処かにあるのかもしれないし、ゲームにおけるアビドスのモチーフを考えると、今回発見された希少金属以外にも資産価値の高い鉱物や、ゲームで度々手に入れていたオーパーツの類もあるのかもしれない。
全ては仮定の話に過ぎないが、アビドスがキヴォトスのゴールドラッシュの舞台となる可能性はあり得ない話ではないと、私は考えている。
「(もし本当にそうなったら、歯科学部の運営も色々考えないといけないな……ウチはメタルフリーだから余り影響はないが、歯の被せ物の材料になる貴金属の価格が高騰すれば、大半の歯科医院は経営が厳しくなるだろう。相場が高い時を狙って使用済みの銀歯や削りカスを業者に売却したり、ウチのように金属を使わない治療を増やしたり、材料費率の管理を徹底して在庫削減や無駄遣いの防止をしたりする等、やり方次第では影響を逆手に取る事も出来るが……そこまで考える歯科医院が果たしてこのキヴォトスにどれだけいるのやら)」
無論、全てではないのは百も承知だが……このキヴォトスの大人達は
目先の利益ばかりを考え、前回のアルさんが治療を受けた歯科医院のように……患者を蔑ろにし、金儲けの事ばかり考えている歯科医もこのキヴォトスには他にもいるだろう。
そんな連中のせいで、いたいけな少女達が涙を流し苦しむのは……あまりにも残酷だ。
故に、私はどんな時でも彼女達に寄り添い、彼女達の抱える痛みを治していきたい。それが、歯科医として生きる道を選んだ私の果たすべき責任だ。
『そこで悪者達をボコボコにするって考えないのがお姉ちゃんらしいね』
「(私は飽くまで歯科医だ。悪人を懲らしめるのは、私の仕事ではない。尤も……患者の治療に必要であれば、如何なる手段を用いても排除するがな)」
何れにしても、世間がどうなろうと私は私の仕事をするだけの話だ。思考を一旦切り上げて、私はホシノさんの話に耳を傾ける。
『まあ、そんなこんなでみんな驚いてたよ。会計担当のセリカちゃんなんか顔を真っ青にしてカタカタ震えていたし、ユメ先輩なんて電話越しで大泣きしてまともに話せなかったし、本当に大変だったんだから』
「確かに、いきなりそんな大金が出たら驚くのも無理はないでしょうね」
電話越しに聞こえるホシノさんの声は、本当に嬉しそうだった。本来は死ぬ筈だったユメさんは助かり、アビドスの借金は無効となり、奪われた土地は全て戻り、今まで散々ホシノさん達を苦しめて来た
「(そう言えば、私の神秘で枯れたオアシスを蘇らせる事は出来ないだろうか?)」
前のイザナの話で知った私の神秘……正確にはイザナの神秘との共鳴による副産物だが、望めば大抵の事は出来ると言っていた。
つまり私が望めば、砂嵐で枯れたオアシスを蘇らせる事も出来るのではないだろうか。
『そうだね、お姉ちゃんが本気で望むなら出来るとだけは言っておくよ』
「(そうか……)」
とはいえ、ぶっつけ本番は流石に危ないので実験は必要だろう。その辺りは後で考えるとして、私はホシノさんの話に耳を傾ける。
『後、ネフティスがハイランダーと業務提携してアビドスで鉄道開発を再開する事になったんだ』
「……ネフティス、ですか」
『まあ大方、対立関係にあったカイザーが潰れたから今の内に事業を拡大しようとか考えているんだろうね。ノノミちゃんがいる手前、あまり言いたくはないけど……今更どの面下げてやって来たんだって、ずっと思ってるよ』
一転してホシノさんは、苛立ちを滲ませた声色で言った。私もネフティスの一件について話には聞いていたが、結果的に見ればネフティスはアビドス衰退の一因であり、アビドスを見捨てたと捉えられても無理もないだろう。
『それでも、鉄道が開通すればアビドスに人がやって来るし、自治区の復興を考えれば決して悪い話じゃないのは理解しているよ。だから対策委員会のみんなや先生、ユメ先輩とも相談して再開の許可を出したんだ』
ホシノさんの立場を考えればネフティスに対して色々思う所はある筈だが、私が心配するまでもなく、ホシノさんは自分なりに区切りをつけたらしい。
「アビドスに人が戻って人が集まれば、前に話していた砂祭りも開催出来ますね」
『そうだねぇ……とは言っても、まだまたやらなきゃいけない事がたくさんあるから開催するとしても当分先になりそうだし、肝心のオアシスも枯れちゃってるから昔みたいにはいかないけどね』
「それでも、やる事に意味はあると思いますよ。ユメさんの意志がホシノさんに受け継がれて、対策委員会のみんなに受け継がれて来たように……アビドスの夢は、今もずっと続いているんですから」
『あははっ、ハモリちゃんって結構ロマンチストだね』
そして私は、先程考えていた事を話してみる事にした。
「……ホシノさん。もし、オアシスを蘇らせる事が出来るとしたら……どうしますか?」
私がそう言うと、ホシノさんの息を呑む声が聞こえて来た。
『それは、前にイザナちゃんが話していた神秘って力の事?』
「はい。イザナの話だと、私の望み次第らしいので確約は出来ませんが……試してみる価値はあるかと」
そう言うと、ホシノさんは押し黙った。僅かな沈黙の後、ホシノさんの声が聞こえてきた。
『……気持ちは嬉しいけど、それは本当に大丈夫なの?』
「勿論、無理はしない範囲でやるつもりです。まあ、そもそもやってみない事には何とも言えないですけど」
『……その時は、私も一緒についていくよ。それと、絶対に無理はしないって約束して』
「はい、約束します」
私がそう言うと、ホシノさんは何時ものゆるい口調に戻った。
『うんうん、よろしい。じゃあ、また今度一緒に柴関ラーメンでも食べに行こうね~』
「ええ、楽しみにしてます」
ホシノさんとの電話を終えた私は、歯科学部での残りの仕事を片付けていった。
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「いや~、やっと痛くなくなった。お嬢ちゃん、ありがとな」
時は夜の7時半。今日は夜間診療の日だ。
今治療用チェアに座っているのは茶色のスーツを来たパグ……所謂モブキャラとして登場する一般市民だ。
「詰め物の接着剤が固まるまでの30分程度は食事を控えるようにして下さいね」
歯科学部のように夜までやっている歯科医院はキヴォトスでは珍しく、昼間は仕事で忙しい大人達がたまに私の元を訪ねてくる。
大人と言っても見た目は完全な動物なので獣医になった気分だが、患者には違いないので私は何時も通りに治療をしている。
「しかし、こんな夜にお嬢ちゃん1人なんて大変じゃないのかい?」
「昼間は忙しくてこれない人もいますからね。そんな人達の為になればと思って夜間診療を始めたんです。まあ、流石に毎日という訳ではありませんけど」
夜間診療は予約を取らない為、日によってやってくる患者の数は違うが、好きな時に休める利点があるので私としては気楽にやれるこの時間は好きだ。
尤も、夜の診療には色んな患者がやって来るし、1人で対応するには労力がいるので今の所は私1人で対応している。何れはコズエにも継がせたい所だが、本人の意思もあるのでそこは追々としておく。
「は~そうかい。前に見て貰った歯医者はロクに説明もしないわ何度も治療させるわでいい加減だったが、お嬢ちゃんの治療は痛くないしすぐに終わったし、今までで一番良い歯医者だよ。本当に、毎日でも通いたいくらいだ」
「ありがとうございます。けど、毎日治療を受けるのは歯科医の立場としては余り関心出来ませんね」
「ハハッ、違いない!」
そして患者が診察室を出た後、私は片付けをして次の患者の為の準備をしていた。
「さてさて、次こそは可愛い女の子はこないかなっと」
そう呟いていると、来客を告げるベルがなったので私は早速入り口へ向かった。
「あの……まだ、やってますか……だ、だめなら別に良いんですけど」
入り口にいたのは、クリーム色のふわふわした髪を二つ結びにし、紺色の帽子にジャケットを羽織った小柄な少女だ。その手には大きな工具箱を持ち、良く見ると身体中に煤や油汚れがついている。
「(初めて見る顔だな……もしかして、ネームド生徒か?)」
モブ生徒にしては特徴的過ぎる容姿から考えて、ネームド生徒で間違いないだろう。
しかし、私の知る限りだと彼女のような生徒は実装されてなかった筈だ。となると、私がキヴォトスに転生した後に実装された生徒という事だろうか。
一先ず、待たせるのも良くないので私はその帽子の少女に声をかける。
「こんばんは。ミレニアムサイエンススクール2年、歯科学部部長の白山ハモリです。お名前を伺ってもよろしいですか?」
私がそう言うと、その帽子の少女はオドオドした様子でゆっくりと口を開いた。
「え、えと……ハイランダー鉄道学園、貨物輸送管理部2年、内海アオバ、です……」
帽子の少女……内海アオバと名乗った彼女の顔は酷く陰鬱で、その赤い瞳は嘗てのヒナさんやホシノさん、そしてアヤメさんを彷彿とさせるような、深い闇が渦巻いているように見えた。
アヤメ「ハッ!?またハモリが他の女をたらしこもうとしてる気がする!!!」
ヒロインは複数人いてもOKか?
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YES
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NO