ハモリ「はい、まだまだイきますよアヤメさん……!」
という訳で、第30話です。
「成る程……複数の異能を生み出す力……神秘を生み出す神秘という特異な力に、夢で見ていた彼女……否、君が砂漠であの異形の怪物達を屠ったあの異質な力について、君の話を聞いてようやく合点がいったよ。本来、私達生徒が持つ神秘は1つの肉体につき1つが原則だが、彼女はそれを複数有していた。それは彼女と君の神秘……生と死という相反する2つの神秘の共鳴現象による副産物で、それを可能にしていたのは君達の神秘の相性と、存在そのものが生徒の枠組から逸脱した存在……文字通り神そのものである為、か……にわかには信じられない話だが、不完全とはいえ死者の蘇生というこの世に定められた絶対的な法則をねじ曲げたからこそなし得た奇跡であり、逆説的にそれをなし得た存在は即ち神そのものであるという事か?いずれにしても、彼女も君も様々な例外が重なった結果、この世に成立した極めて異質な存在であるという事は確かだね」
「そーそー、世の中何が起きても不思議じゃないって事だよ」
星空の下のテラスにて、ボクは目の前の彼女……セイア先輩に自分がどんな存在であるかを話した。
セイア先輩も予知の力がある為か、ボクの話をすんなりと理解してくれたようだ。少し話が長いのが気になるけど、それくらいは大目に見る事にしよう。
「そういえば、彼女はあれからどうしているか聞かせて貰っても良いかな?」
「うん、もうバッチリ元気になって、毎日歯医者の仕事で大忙しだよ」
「そうか……無事で何よりだ」
実は現在進行形で同性の恋人と【ピー】してるなんて言える訳がないので、当たり支障のない台詞で誤魔化す。
「時に今更なのだが、君がこうして私の夢に介入したのは君の神秘によるものかい?」
「そうだよー。ほら、死を"永遠の眠り"って表現する事があるでしょ?夢っていうのは生と死の間の領域であって、魂が自由に動き、死後の啓示を得る場所でもあるからね……だから夢の世界も、死そのものであるボクの領分という訳さ」
実際にやってみたのは今回が初めてではあったけど、いざやってみればまるで過去に何度もやってきたかのようにすんなりと出来たのはボクとしても収穫だ。
「成る程……そういえば、ハモリは君が私に会いに来た事を知っているのかな?」
「いや、今回はボクの独断だから、お姉ちゃんは知らないよ。お姉ちゃんもお姉ちゃんで色々やる事もあるからね」
「ふむ……それで、こうして夢を介して私に会いに来たとの事だが、目的はなんだい?君は自分を神と名乗っているが、まさか神託でも告げに来たのかな?」
「そんな大層なものじゃないよ。未来を知っている者同士、協力は必要だと思ってね……一先ずは現状の確認と情報の共有……今後の事について、かな?」
ボクが今回セイア先輩に会いに来た目的……それは、今後起こるであろう"エデン条約編"に向けてお互いの情報をまとめて、戦いに備える為だ。
お姉ちゃんは人助けが趣味で、特に可愛い女の子を見ると放って置けない性格だ。それ自体は良いけど……それで知らず知らずの内に1人で抱え込んでしまうのが悪い癖だ。
ボクとしては、お姉ちゃんにはアヤメ先輩とイチャイチャしたり、歯の治療で興奮したり、美味しい料理を振る舞ったり、自分の時間を大切にして欲しいと思っている。
だから少しでもお姉ちゃんの負担を減らそうと考え、事情を知っているセイア先輩に会って話をしようと思った訳だ。
何せ相手は学園の生徒会長の1人で、普通に会おうとしても門前払いされるのがオチだし、ただでさえ今の時期のトリニティはピリピリしていて、他校の生徒という理由で変な疑いをかけられるのも面倒だ。
だからこうして、ボクは自身の能力をフル活用して、夢という誰にも邪魔されず悟られない場所を選んだ。
それからボクは手っ取り早く情報を伝える為に、月読命の権能を使い、セイア先輩にもお姉ちゃんが前にリオ会長達に見せたものと同じ、並行世界のキヴォトスの記録を見せた。
一度見た事のある記録であれば、録画したテレビ番組を再生する要領で大した消耗もなく記録を見る事が出来るので、お姉ちゃんの時のように神秘を消耗して意識を失う心配はなく、セイア先輩の五感に一気に情報を流し込んだ。
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「ふぅ……全く、君達姉妹と出会ってからは驚きの連続だよ。今まで変わらなかった未来がコロコロ変わるし、私と同じか、あるいはそれ以上の力をいきなり見せつけられて、これまで築き上げてきた自分の常識が崩れていきそうだ……」
「あははっ。常識なんて壊していくものだよ、セイア先輩」
「……君がそもそもの原因だという事を、理解しているのかな?」
記録を見せ終えたセイア先輩はあまりの情報量の多さに圧倒され、その顔は何処か疲れていて特徴的な耳もペタリと垂れていた。
だけどそれも僅か数秒で、すぐに表情を切り替えて話を続ける。
「だが、君のお陰で重要な情報が手に入ったのは僥倖と言えるだろう」
セイア先輩は頭の中を整理するように、一呼吸入れる。
「事の発端は、生徒達を実験材料として利用する大人達の組織ゲマトリア……そのメンバーの1人であるマダムこと、ベアトリーチェが10年前にアリウスの内戦の終戦を宣言した後、自らアリウスの生徒会長を名乗りアリウス自治区を支配下に置いた。偽りの教義で彼女達を洗脳し、兵士として利用する為に……」
眉間に皺を寄せて、明らかな怒りを滲ませるセイア先輩。
「エデン条約締結日に会場に向けて巡航ミサイルを放ち、混乱に乗じてアリウスに襲撃を命じた目的は、条約そのものを乗っ取る事でユスティナ聖徒会の
一から長々と説明するのも面倒なので一気に情報を叩き込んでみたけど、セイア先輩はしっかりと記録の内容を把握したようだ。
「そうだよ。しかも、あのおばさんがもう色彩に汚染されてた事に他のメンバーは気付いていたのに『どんな怪物に変貌するか見てみたかった』なんて理由でそのまま放置した結果、組織は壊滅してキヴォトス終焉の危機に、というオチさ」
「まさに、バベルの塔の末路……或いは好奇心猫を殺すという事か……そして私達がその尻拭いに駆り出される事になる、と……全く、カイザーといい増長した大人達の傲慢さと無責任さには心底呆れる他ないね……」
深いため息を吐くセイア先輩。欲に溺れた挙げ句の果てに自滅、というのは如何にも悪役らしい末路ではあるけれど、その後始末を押し付けられたボクらとしてはたまったものではない。
「それを考えれば、あの悪者さん達が何かする前に即刻舞台からご退場していただきたいところなんだけど、ねぇ……」
「君の力なら恐らくは可能かもしれないし、気持ちは理解出来るが……流石に危険ではないのか?いくら君の力が強大だとしても、それは慢心が過ぎるぞ?」
「今は"まだ"する気はないよ。そもそも、ボクはお姉ちゃんの身体を借りてる身。やるやらないはお姉ちゃん次第さ」
それに、とボクは続ける。
「相手は詐欺師同然のマッドサイエンティストみたいな連中だし、何か罠を仕掛けてる可能性は十分にあり得るからね……」
お姉ちゃんが本気を出せばただの悪どい大人程度なら簡単に潰せるけど……お姉ちゃんは相手に"優しすぎる"し、そこを漬け込まれる可能性は十分にあり得る。
ボクが代わりにそんな大人達を含めたキヴォトスの脅威になる全てを滅ぼす、というのも考えたけれど、未来の事を踏まえて考えるとそれはそれで後が面倒になる可能性が大きいし、やるとしても文字通り最後の手段だ。
それに、あの
ボクが力を使うという事は、必然的にお姉ちゃんの身体を使うという事だ。お姉ちゃんの意思はそのままに、命を奪う経験だけがお姉ちゃんの身体と心に刻まれていく……ボクなら兎も角、お姉ちゃんにそんな事をさせるのはイヤだ。
この想いが……
「それは賢明だね。君が見せた記録を見る限り、彼等ゲマトリアは私達を実験材料程度にしか思っていない、極めて狡猾な存在だ。迂闊に接触するのは、現状リスクが高すぎるからね……」
「(おっと、いけないいけない……ちゃんとやる事はやらないと)
危うく当初の目的を忘れそうになったので、ボクはセイア先輩に向き直る。
「取り敢えず、ボクからセイア先輩に伝えたい事は以上になるけど、何か質問はあるかな?」
すると、セイア先輩はしばらく考え込み、ゆっくりと口を開く。
「改めて確認するが、さっき君が見せたあの光景……あれが、ハモリの言っていたキヴォトスの未来の事で間違いないかな?」
「正確には、並行世界のキヴォトスの過去の記録、だけどね。まあ、こっちのキヴォトスから見れば未来の出来事で合ってるよ」
「ああ。ハモリの姿がなかった事から、あれが彼女のいなかった世界の記録という事は理解したよ……それは言い換えれば、彼女がいるこの世界が、必ずしもあの世界と同じ結末を辿るとは限らない、と……」
セイア先輩の懸念は尤もだ。既にお姉ちゃんの存在と、お姉ちゃんの行動によって"原作"から離れつつあるこのキヴォトスが同じように色彩の脅威を乗り越えるという保証はないし、他にも何処でどんな影響が出ているのかも分からない。
「けどさ、人生なんてそんな物でしょ?全部想定通りなんてつまらないし……だから、少しでも良い結末を迎えられるように今こうして情報をまとめて備えようとしてる訳だし、一々気にしても仕方ないよ」
「……君は少々、物事を楽観的に捉えてるように見受けられるが、確かに嘆くばかりでは何もはじまらないのも一理ある、か……」
セイア先輩から呆れたような視線が向けられるけど、これ以上何か言っても無意味と悟ったのか小さく息を吐き改めてこちらに向き直る。
「さてと……次は私の番だな。少々長くなるかもしれないが、どうか傾聴して欲しい」
それからセイア先輩の話が始まった。
まず、セイア先輩は表向きは入院中という理由で身を隠しているものの、前より体調は良くなっているらしい。
でもって、最後にお姉ちゃんと夢で会った後、覚めてすぐにお姉ちゃんからの提案通りにティーパーティの現ホストである桐藤ナギサ宛てにビデオレターを送ったらしい。
内容について要約すると……
1.自分はちゃんと生きていて、隠れ家で療養中。救護騎士団団長の蒼森ミネが自分の世話をしている。
2.襲撃を指示したのは聖園ミカ。
3.実行犯である白州アズサはアリウス分校の生徒で、彼女達はナギサの暗殺とトリニティに対する大規模なテロを計画している。
5.アズサをトリニティに編入させたのもミカだが、飽くまでもアリウスとトリニティの和解の為で、襲撃は彼女の意思ではなく、逆にアリウスに利用されていた。
6.アズサもミカと同じく和解を望んでおり、実際に襲撃はしたものの、ヘイローを破壊はしなかった。今は二重スパイとしてナギサを護る為に動いているので、可能であれば彼女を保護して欲しい。
7.テロが実行されて後戻り出来なくなったミカがやがて凶行に走り破滅する未来が見えたから、その未来を回避する為に協力して欲しい。
7.万が一の為、常に護衛を付けておく事。
それから色々あって最終的にセイア先輩は2人と再会し、無事に和解したらしい。
「尤も、その過程で校舎の一部が半壊し、私とナギサはミネによってベッドに縛り付けられて寝込むハメになったけどね……まあ、あの未来を回避出来た代償と思えば安いものさ」
「うわ。何それ、すごく気になるんだけど」
「簡単に言えば、ミカを油断させる為に私とナギサで一芝居打った訳さ。ナギサには私がクーデターを起こそうとしていた、という体で私のいる隠れ家に襲撃して貰い、一方の私はナギサによってホストの座を奪われた事に対する復讐を企てていた、というシナリオで壮大な喧嘩を演出したのだが、ね……」
何処か黄昏た表情のセイア先輩を見て、大体の事情を察したボクはセイア先輩に話しかける。
「あー……最初は演技でやってたけど、途中からガチになって見かねた真犯人が焦って自供したってオチ?」
「ふふっ、察しが良いね。まあ、建物の崩壊は主に
言葉とは裏腹に、セイア先輩の表情はそこまで悪いものではなさそうだった。
「取り敢えず、言いたい事を全部言って色々スッキリした感じ?」
「ああ、概ねその認識で合っているよ。とはいえ、その一件で自分の体力の無さを痛感してね……諸々の問題が片付いたら、運動を始めてみようと思っているよ」
「だったらさ、ミレニアムのトレーニング部に行ってみると良いよ。そこの部長さんならセイア先輩に合った最適なトレーニング指導をしてくれるし、お姉ちゃんも暇な時はいつもお世話になっているからね」
「ほう、それは楽しみだ。今度機会があれば、行ってみるとしよう」
因みに、お姉ちゃんがそこの部長さんと一緒にやっていたトレーニングはボクから見ても拷問と言っても良いくらい非常にハードで、他の生徒達も顔を青くして逃げ出す程のものだったけど……敢えて黙っておく事にした。
ぶっちゃけ、その方が何か面白いものが見れそうだし。
「さて、話を元に戻すが……私達は騒動が終息した後、巻き込んでしまった救護騎士団と正義実現委員会の皆に『一連の騒動はこちらの早とちりだった』と謝罪し、それから改めて3人で話し合った」
「それは、クーデター未遂の件とアリウスの事かな?」
ボクの言葉にセイア先輩は小さく頷く。
「ああ。私は無事だし、ミカは利用されただけだが、襲撃自体は事実だ。とはいえ、時期が時期なのもあって今回に限り不問とし、事態が落ち着くまでミカの処分は一先ず保留という事になったよ」
「そりゃあ、生徒会の人間がクーデター起こそうとした、だなんて学園中に言いふらす訳にはいかないよね」
「仕方ないさ。万が一、事が露見すればミカの立場は危うくなり、やがて派閥同士の抗争に発展するだろう……そうなれば、ティーパーティーは空中分解し、敵に付け入る隙を与える事になる。ミカが本格的に行動を起こす前に自白してくれたのが幸いだったよ」
そう言って、安堵したようにホッと息を吐くセイア先輩。
「それで、セイア先輩はアリウスが襲撃して来る事についてはどう考えてるの?」
「元ホストとしての立場で言わせて貰うなら、相手はトリニティが成立する以前の存在であり、現在のトリニティとの連続性はなく、向こうの主張に正当性はない。こちらに対して武力で以て攻めて来るのであれば、こちらは外敵として迎え撃つ、という判断を下すだろうね」
だけど、とセイア先輩は続ける。
「彼女達が過去に意見の食い違いにより迫害され、分かたれた姉妹である事もまた事実であり、私達トリニティが向き合わなければならない罪の象徴でもある……君がもたらした情報と照らし合わせれば、黒幕は彼女達に虐待と洗脳教育を施し支配している大人であり、ただ襲い来る彼女達を殲滅すれば全て解決するという単純な話ではない」
「最終的には、あの真っ赤なおばさんを何とかしないと、だね」
「ああ、そうだ。それに、これは私個人としての考えだが……アリウスと和解したいという友人の望みを尊重したいのも事実だ……嘗ての私は、何の感慨もなくただ『メリットが少ない』という一言で、そんな友人の純粋な願いを切り捨ててしまったがね……」
何処か自嘲するように呟くセイア先輩。
「そりゃあ友達にそんな冷たくあしらわれたら、ちょっとムカッてするのも仕方ないよねー……セイア先輩、実は友達少ないとかって言われた事ない?」
「…………ミカに対する発言について、もっと言葉を選ぶべきだったと反省しているし、そんな私が言うのもなんだが……君はもう少し、言葉を選んで発言すべきだと思うよ?」
口調こそ冷静ながらも、額に青筋を浮かべてボクを睨むセイア先輩。こうして怒る元気があるなら大丈夫だろう。
「んん!兎に角、だ。今のアリウスは例の大人の手により憎悪の坩堝に囚われ、全てを憎み、破壊しようとしている極めて危険な状態だ。そんな彼女達に、私達の言葉を聞き入れる余裕など恐らくないだろう」
「積もり積もった恨み辛みはそう簡単に消えるものでもないからね……それでも、セイア先輩もお友達の2人も一緒に何とかしよう、って決めたんだね」
ボクの言葉にセイア先輩は小さく頷く。
「友人達と本音で語り合って、気付いたんだ……私は、予知で知り得た未来に囚われて人を見る事、信じる事を自ら放棄していたんだ。どうせ何をやっても変わる事はない、それが定めなのだと見切りをつけて、彼女達を見殺しにしようとしていたんだ……」
セイア先輩は影のある表情で、何処か懺悔するように語り続ける。
「私は臆病者だ。運命は変わらないものだと断じ、全てを諦めて夢という名の倦怠の海にその身を委ねて傍観者を気取っていた、度しがたい愚か者だ……だけど私は友人達を……ナギサやミカを見捨てて、1人だけ安全な場所へ逃げる卑怯者にはなりたくないんだ」
「…………」
「そんな私を……2人は許してくれた。私を友人だと言ってくれた。そして、一緒に力を合わせて戦おうと言ってくれた。生まれて初めて実感したよ……人を信じるという不確かで曖昧なものが、ここまで人の心を熱くし、人を動かす力になるのだとね」
次第に熱を帯びていくその瞳を、ボクはただじっと見つめる。
そこにある……"生きる意思"を感じながら。
「自ら選択し、その意思を貫く事こそ、人が人として生きる為に必要な事だ。それがたとえ、数多の苦難に苛まれる事が定められた茨の道であったとしても……私"達"なら必ず乗り越えられるのだと。そしてその先に、私達が望む楽園が存在するのだと、私も信じる事にしたよ……君の姉のようにね」
記録で見たセイア先輩は、自分の予知能力に翻弄されて全てを諦めていたけど……今のセイア先輩は違った。
その瞳にあるのは……何があっても絶対に諦めないという強い意思。
そして……この世に生きる全ての存在が持つ、眩い
「(ああ、良いなぁ……こんなにキラキラしてて……お姉ちゃんやアヤメ先輩みたいに、この世界で生きて、その命を燃やしている……うん、スゴくいい)」
蘇生したとは言っても、ボクの本質が死である事……"生きているけど死んでいる状態"である事には変わりない。
だからこそ……ボクにはない、命の輝きを持つみんなが羨ましかった。
けれど、今はその事を考える時ではないので、一旦その想いは胸の内に閉まって、ボクはセイア先輩の話に耳を傾ける。
「それから2人と話し合って、何れにしてもアリウスとの戦いは避けられないと悟り、どう動くか思案していた矢先に、先生がトリニティを訪れる未来が視えて、カイザーの計画を阻止する為に大規模な作戦を企てている事を知ったんだ」
「あ。もしかして、トリニティからシャーレに色々支援してくれたのってセイア先輩の口添え?」
「まあね。ホストの座はナギサに譲ったが、サンクトゥス分派の代表としての権限は残ってるからね……それに万が一、カイザーの計画が本格的に実行されれば、被害はアビドスを足掛かりにキヴォトス全土に及び、やがてキヴォトスが大人達に支配された企業都市へと変貌するだろう……ナギサも事の重大さをすぐに理解して、シャーレに正義実現委員会とティーパーティー直轄の砲兵隊を派遣したんだ。まあ、連邦生徒会直属の組織であるシャーレに貸しを作っておく、という打算的な考えもあったけどね」
ボクの予想通り、原作と異なりシャーレに正義実現委員会も派遣してくれたのはセイア先輩が関わっていたらしい。
「そういえば、セイア先輩は先生とは会っているの?」
「残念ながら、私の事はまだ外部の人間に知られる訳にはいかなくてね……先生がトリニティを訪れた際に対応したのはナギサとミカの2人だよ。因みに後から2人に聞いた話だが、2人の先生に対する印象は悪くはなさそうだったよ。それと……」
「それと?」
何故か困ったような表情を浮かべるセイア先輩。
「……先生の付き添いで同伴していた梔子ユメとミカが会ってすぐに意気投合して、先生とナギサが話し合ってる横ではしゃいでいたら……ナギサがキレて2人の口にロールケーキをブチ込んだ、らしい」
「……取り敢えず、仲が良いのは良いんじゃない?」
その時の光景を想像して、淑女の仮面を破り捨てて、顔を真っ赤にして怒り狂うティーパーティーのホストと、そのホストから制裁を受ける2人の顔を見たかったなぁ、と考えていると、セイア先輩はまた小さくため息をつく。
「ナギサは当初、先生がどんな人物か図りかねて警戒はしていたが……その2人のやらかしを切っ掛けに次第に会話も弾んで、先生から詳しい話を聞いた後、正式にシャーレを支援するという事で話はまとまったんだ」
「成る程ねぇ……でもって、支援した見返りに先生にもエデン条約の件で色々協力して貰おう、という訳ね」
「その通り。君がくれた情報をナギサ達にも共有し、具体的にどうするのか色々煮詰めていくつもりだ。それから、アズサについては然るべき場所に匿う予定だったのだが……」
何故か言いづらそうに、口を噤むセイア先輩。
「じゃあ、当ててみようか?成績が悪過ぎて落第、退学寸前でヤバい、でしょ?」
「はは、そこまで知っているのか……まあ、これに関してはそもそもアリウスが学園として機能しておらず、生徒の本分である学業が存在していない事を考えれば仕方ない事なのだがね……」
「じゃあ、試験の点数でも弄るの?」
「いや、いくら理由があっても試験に特例を作る訳にはいかない。なので、君が見せてくれた記録と同じように、トリニティ内の成績不振者達を集めて成績の向上を目的とした部活……『補習授業部』を発足し、そこで追試に備えて勉強をして貰うという名目で彼女を保護しようと私は考えてる」
「ふむふむ……それで、先生には表向きその補習授業部の面倒を見て欲しいという体でトリニティに来て貰う、っていう算段なのかな?」
「ああ。まだ誰にするかは未定ではあるが、先生には護衛とアズサの監視も兼ねて補佐役をつけるつもりだ。それから、君に1つ事伝を頼みがあるのだが……」
「いいよー。何?」
ボクの返事に、セイア先輩はゆっくりと口を開く。
「────今度は夢ではなく、現実の世界で君に会えた時、特製の茶葉を使ったトリニティの紅茶を振る舞おう……と、ハモリに伝えてくれないか?」
「うん。分かったよ、セイア先輩」
小さく笑みを浮かべるセイア先輩。お姉ちゃんが聞いたら喜ぶだろうなぁ、と思いながら……ボクは今回の"最後の目的"を果たす為に動く。
「それで、話は変わるんだけどさ……セイア先輩の力って上手く制御出来てなくて、それで体調を崩してるんでしょ?」
「ああ、そうだが……」
「単刀直入に言うよ……治す方法があるんだ」
「───!?それは、本当なのかい?」
セイア先輩が目を見開いてまっすぐにボクを見つめる。
「すぐに完治、っていう訳じゃないし、セイア先輩も色々頑張って貰う必要があるけど……それでも構わない?」
「ああ、頼む。上手く行けば、今後何か役に立てるかもしれない……是非とも、教えて欲しい」
「分かったよ。じゃあ、説明しながらやるからちょっとじっとしててね」
椅子から立ち上がり、セイア先輩の前に立つ。
「セイア先輩の今の状態は、簡単に言えば蛇口のない水道みたいな感じで、常に予知の力を垂れ流すように使っているんだ。そのせいで神秘を必要以上に消耗して、その結果身体が衰弱しているんだ」
「……そういう事だったのか」
要するに、初めてお姉ちゃんが月読命の権能を使った時のような状態がずっと続いているようなものだ。
「だから自分の神秘を意識的に操作して、力を制御出来るようになれば、自然と体調も良くなっていく筈だよ」
「ふむ……操作すると言っても、具体的に何をどうすれば良いんだ?物心ついた頃から予知の力は使えたが、意識して使えた事は殆どないぞ?」
「まあまあ、そう焦らないで。今から実際にやるから」
セイア先輩の前で両手を翳すと、淡い光が溢れ……やがてセイア先輩の身体からも同じように淡い光が溢れる。
「んっ……これは……」
「荒療治だけど、セイア先輩とボクの神秘を同調させて、神秘を操作しやすくするように回路を構築しているところだよ。だからもう少しだけ、じっとしててね」
「ああ、分かったよ……んっ……なんだか、へんな感じがする、な……」
何故か頬を赤らめるセイア先輩の口から、何処か艶のある声が溢れる。
生憎、ボクはお姉ちゃんのような趣味はないので、スルーして作業を続けていく。
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「ほい、おしまい」
「んっ……もう、終わったのかい……?」
しばらくして、回路の構築が終わり頬を赤く染めて艶のある声を溢すセイア先輩に声をかける。当の本人はあまり実感が持てないのか、手のひらを開いたり閉じたりしていた。
「うん、バッチリ終わったよ。と言っても、イマイチ実感はないだろうから、実際に体感してみようか」
セイア先輩には椅子に座って、リラックスした状態で目を閉じて貰う。
「まずはイメージして……今、セイア先輩の身体からは湯気のように全身から神秘が溢れていて、それが空気中に霧散している……それを、身体の内側に押し留めるように。焦らず、ゆっくりと……」
「……んっ、こうかな?」
すると、セイア先輩はすぐにコツを掴んだのか身体が淡い光に包まれる。
「そうそう、良い感じだよ。そのまま、血管の中を流れる血のように神秘が身体の内側を流れていて、その流れがゆっくりと減速して、凪いだ水面のように体の表面を揺蕩うようなイメージを思い浮かべて……」
目を閉じて、意識を集中させていくセイア先輩に呼応するように、光がより鮮烈に、研ぎ澄まされていく。光が薄い膜のようにセイア先輩の全身を包み、筋肉の緊張が解れていき、自然体の姿勢になる。
「もう目を開けても大丈夫だよ、セイア先輩」
ゆっくりと目を開けたセイア先輩は、自分の身体を包む光をまじまじと見つめる。
「これが、神秘……私の力……」
セイア先輩はゆっくりと椅子から立ち上がる。その身体からは、月明かりのような淡い光が全身を包み込んでいた。
「不思議な気分だ……夢の中だというのに、長い眠りから覚めたように思考が冴え渡っている……それに、身体の奥から力が溢れてくるこの感覚……意識的に使うだけで、こんなにも違いが出るのか」
「まあ、セイア先輩の神秘の質が良いのと、元々素質があったのもあるけどね。この短時間で習得する辺り、才能あるよセイア先輩」
万が一、セイア先輩に死なれたら色々困るし、お姉ちゃんも悲しむと考えて神秘操作のレクチャーをしたけど、予想よりも早くコツを掴んだのは本人の才能と言えるだろう。
因みにお姉ちゃんの場合は、素質も勿論あったんだろうけど……どちらかと言えば"性癖"が強すぎた結果なので、妹的にはちょっと複雑だ。
「後は呼吸を整えたり、イメトレをしたり、瞑想をしたりしていけば良いよ。慣れれば寝ながらでも出来るし、時間はかかるけど根気よく続けていけば予知の力も自由に使えるようになるよ」
「ああ、感謝するよ……物心ついた頃から予知の力に翻弄され続けて既に諦めていたが、ようやく光明が見えてきた感じだ」
すると、セイア先輩はその場をゆっくりと歩き回り、段々とペースを上げていく。
「ふふっ、ふふふふふ……ははっ、ははははは……!あっはははははははははっ!!」
何故か走りながら突然大口を開けて笑い始めたセイア先輩はくるくる回りながらジャンプしたり、シャドーボクシングをしたりし始める。
「あー……大丈夫、セイア先輩?」
「ははははっ!ああ、お陰ですこぶる元気だよ!否、寧ろ有り余りすぎて身体が羽根のように軽い!ああ、ここが夢の世界である事が本当に残念で仕方ないよ!すぐにでも目を覚まして、朝日の光を浴びながら鼻歌混じりにトリニティ中を散歩でもしたい気分だ!あっははははははははははっ!」
「…………この人、こんなキャラだったっけ?」
ちょっとやり過ぎたかなぁ、と思いつつ、ボクはハイテンションになったセイア先輩の暴走ぶりをしばらく眺めていた。
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「ふー、ふー……!はぁっ………!はぁっ……!」
「死んでる~、セイア先輩?」
「か、勝手に……殺すな……」
数分後、はしゃぎすぎて見事にへばったセイア先輩を椅子に座らせる。
「まあ、嬉しいのは分かるけど、何事も程々にね?」
「ああ……身をもって、思い知ったよ……感情に任せて行動すると、ろくな事に、ならないとね……ははっ、ミカの事を笑えないな、これは……」
息切れして倒れた時はちょっと焦ったけど、取り敢えず大丈夫そうなので一安心だ。
セイア先輩がある程度回復したところで声をかける。
「じゃあ、ボクはそろそろ帰るよ。それから、運動もだけど予知の力を使う時も気を付けて。神秘操作もまだコツを掴んだだけで、完全に出来ている訳じゃないからね」
「心得ておくよ。並行世界とはいえ、私の過ちは君が教えてくれたし、現に君の姉にも迷惑をかけたからね……」
一先ず、これで原作のようにあのおばさんに見付かって昏睡状態、なんて事にはならない筈だ。
とはいえ、想定外の事が起きる可能性もゼロではないし、念の為に定期的に様子を見ておこうと考えていると……セイア先輩がボクをじっと見つめていた。
「……どうしたの、セイア先輩」
「いや、余計なお節介かもしれないし、気に障ったら謝るが……1つ、君に言っておきたい事があってね」
セイア先輩はボクに近付き、ゆっくりと口を開く。
「君は、自分を死そのものと定義しているが……君は決して、そんな冷たい存在ではないよ。君も、私と同じように……大切な人の為に怒り、悲しみ、そして愛する心を持った、この世界に生きる1人の人間だと、私は保証するよ────君の、友人としてね」
「…………!」
セイア先輩のその言葉に、ボクは咄嗟に言葉が出ないくらいに動揺した。
同時に思い返すのは……"あの人"の言葉だった。
『そんな事はないよ。君はあの時、私の怪我を治してくれた。ハモリやみんなの事を守ってくれた。君は、今確かにここにいる、私の生徒だよ』
『子供が死ななければならない世界なんて、そんなの間違っている。誰にだって、自分の為に生きる権利はあるんだ。だから、死ぬ事が当たり前の事だなんて思わないで……それはとても、悲しい事だから』
感じたのは、ボクの在り方を否定された事への怒りと戸惑い……そして、ボクの存在を受け入れてくれた事への喜びだった。
死が忌避されたこのキヴォトスで、ボクという存在はキヴォトスを蝕む毒そのものだ。
もしも……キヴォトスにも人のように意思があるのなら、それを排除しようとするのは当然の事だ。
そしてボクはその通りに死んで、自分が死そのものである事を知って、それを当然のものとして受け入れていた。
だけど、心の奥底では『どうして?』という疑問があったのも確かだ。ボク自身が望んでそうなった訳でもないのに、どうしてボクはただの
あの人の……先生の言葉は、ボクのそんな本心を気付かせてくれた。そして、ボクという存在をこの世界に生きる存在として認めてくれた事が、何よりも嬉しかった。
そして今、セイア先輩がボクに言ってくれた言葉は……その時の感情を思い出させてくれた。
「……ボクなんかで、良いの?その……ボクは、死で、神様で……性格、悪いし……」
「ふふ、それは今更と言うものだよ。私は既にトリニティでクーデターを起こそうとした者と友人だし、君よりもずっと悪辣な者達からの嫌味や皮肉などトリニティでは日常茶飯事だ」
それに、とセイア先輩は続ける。
「────友達になる事に、理由は必要かい?」
「………………」
死そのもの、原初の神格、と自分の事は分かっていたつもりだったけど……それ以上に、ボクもまたこのキヴォトスに生きる"子供"である事を思い知らされた気分だった。
だけどそこに不快感はなくて……ただ、とても嬉しかった。
「……じゃあ、改めてよろしくね……セイア先輩」
「ああ、こちらこそ……イザナ」
そう言って、ボクの名前を口にするセイア先輩の微笑みを……ボクは絶対に忘れないでいようと心に誓った。
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「行ったか……」
音もなく姿を消した友人が居た場所を見つめながら……私、百合園セイアは思考を巡らせていた。
「何というか、まるでミカがもう1人増えたようだったな……」
ここにはいないもう1人の友人の顔を思い浮かべる。無邪気で遠慮がなくて、人の神経を逆撫でするような言動は、自分によく絡んでくる友人を彷彿とさせた。
彼女との違いがあるとすれば……人の死を何とも思わない、その冷酷さだろう。
前に私が夢で見た時、彼女は実の姉を操っていたとされる怪人……本人曰く、ゲマトリアの元メンバーを文字通り"あの世"へと送った。
人の命を容易く奪うその超常的な力は勿論だが、何よりも私が恐れたのは……その力を躊躇なく行使するその精神性だ。
不良生徒などが日常的に「殺す」と口にするのとは訳が違う。ましてや、アリウスのように強要された訳でもなく、自らの意思で淡々と作業するようにこの世から消し去ったあの光景は、未だに私の記憶に深く刻まれている。
だが、その後のシャーレの先生との会話を見て、私は認識を改めた。
『ああ……名前があるって、こんなに嬉しい事だったんだね。ありがとう、先生……』
彼女は、生まれたての子供そのものだ。
その身に宿す神秘により、死の運命がはじめから定められ、名も与えられずに魂だけの存在として姉の身体の中でただ1人、長い年月を過ごしていた。
名付けとは、単なる識別ではなく、物事や人をこの世に存在を確立させる為の通過儀礼だ。
本人の前で口にするのはあまりにも侮辱が過ぎる為、口にしなかったが……その機会を与えられなかった彼女は生も死もない、単なる『無名の存在』という記号に過ぎない、とも解釈出来るだろう。
故に……先生によって『白山イザナ』という名を与えられたあの瞬間こそが、彼女……イザナが本当の意味でこの世に生を受けた瞬間なのだと、私は思う。
そして今日、実際に彼女と出会い、共に語り合って……私は彼女が誰よりも姉であるハモリを愛し、誰かとの繋がりを求める"さみしがり屋"なのだと知った。
そう思えば、あの何処か人を小馬鹿にした態度も、権謀術数が渦巻くトリニティの生徒達と比べて何とも微笑ましいものだ。
現に、私が『友人』と口にした瞬間、急にしおらしくなったのが如何にも分かりやすい。
「ふふっ、願わくば……3人で茶会を楽しみたいものだ」
現実の世界だと、ハモリの身体を借りる関係上、どうしても1対1になってしまうが、夢の世界なら或いは可能かもしれない……私が自身の神秘を自由に操れるようになれば、恐らくは可能だろう。
「目が覚めたら、すぐにナギサ達に話さないとな……」
その為にも、今後襲い掛かるアリウスへの対策を練らなければならない。
何せ相手は巡航ミサイルなどというオーパーツに加え、ユスティナ聖徒会という無尽蔵の兵士を以て私達を滅ぼそうとしている極めて危険な存在だ。
そして彼女達を裏で操る大人……ベアトリーチェの計画を阻止しなければ、色彩がキヴォトスに襲来する前にトリニティとゲヘナは壊滅し、やがてキヴォトス全土が戦火の渦に呑み込まれていくのは明白だ。
となれば、正義実現委員会、救護騎士団、シスターフッドとも連携して備える必要があるだろう。
問題は彼女達を説得出来るかどうかだが、それでもやるしかない。
だが、仮にトリニティが一丸となったとしても、アリウスの襲来を迎え撃つのが精一杯で、根本的な解決には至らないだろう。
彼女達を憎悪の坩堝から解放し、元凶であるベアトリーチェを確保するには、もっと戦力が必要だ。
「……シャーレの先生、か」
私が視た未来でも、イザナが見せてくれた記録においても、全ての鍵を握っていたのはシャーレの先生だ。
トリニティを含めた三大学園にSRTをまとめ上げ、カイザーを壊滅に追いやった手腕は疑いようがなく、あのベアトリーチェが彼の事を計画を妨げる敵として警戒する程だ。
そして彼は、生徒が助けを求めれば躊躇なくその手を掴み取り、たとえどんなに残酷な運命が待ち構えていても、絶対に諦めはしないだろう……私に運命に立ち向かう勇気を与えてくれた……
「彼の善意を利用する形になるのは心苦しいものがあるが、やむを得ないか……」
もう、傍観者になるのは止めた。私は友人達と一緒に生きたい。まだ見ぬ明日を手にしたい。その為ならば、出来る事は何だってすると決めたのだ。
「やらなければならない事は山積みだが、やるしかないか……」
これからの事を考えると気が遠くなりそうだが、結局は今まで居眠りしていたツケが回って来ただけの話だ。
それに、イザナのお陰でこの病弱な身体を何とか出来る方法が見付かったのも思わぬ収穫だ。まだ希望的観測に過ぎないが、私の予知の力を自由に操れるようになれば、今後何かの役に立てるかもしれない。
「だが、油断は禁物だ……現に並行世界の私は、夢の中でベアトリーチェに攻撃されて意識を失い、結果的にミカを追い詰めてしまったのだからな……」
自らを"魔女"と名乗り、進んで破滅へと向かう彼女の姿はとても痛ましく、見てはいられなかった。
最終的にベアトリーチェは倒され、ミカは先生によって救われたものの、その代償は決して小さいものではなかった。
「そうだ。ナギサもミカも、あそこまで傷付く必要なんてなかった筈だ。何も同じ歴史を繰り返す必要はない……私達が、新しい歴史を作って行けば良いんだ」
無論、それがどんなに困難な事であるという事は百も承知だ。
けれど、私には信じられる友人達がいる。皆が力を合わせれば、運命は変えられるのだと私は信じている。
後は……望む未来を手にするまで、ひたすら足掻き続けるだけだ。
「さてと……少しだけ練習するか」
再び椅子に座り、深く息を吸って吐いて、意識を集中させる。
まだ時間はあるとはいえ、無駄にして良い訳ではない。夢の中でも可能な限り神秘操作の練習をしても損はないだろう。
余計な思考を削ぎ落とし、自分の中に秘められた神秘を認識すると……それを身体中の血管から細胞に至る全てに行き渡らせるようにイメージしていく。
────バシャ
「ん?」
何か物音がしたので椅子から立ち上がり、音がした方へ視線を向けると……
「……水?」
テラスの床に水溜まりが出来ていた。周囲に水場はないにもかかわらず、何処から出たのかと考えていると……水溜まりが突然光だした。
「なっ、これは……?」
やがて光が収束し、恐る恐る水面を覗き込むと……
「──────ブフォッッ!!?」
水面に"映る"光景に、壮大に吹いた。
一体何が映っているのかというと……
『はぁん……っっ……ハモリ……!すごッ、すご……く……いぃ……よぉ……!』
『あっ……んん……っ……アヤ、メ……さん……い、一緒に……!』
『うん……わた、し……ハモリと、いっしょに……あ、ああぁぁぁ────っ!!!』
気になっていた友人が、見知らぬ生徒と共にあられもない姿でトンでもない事をしていた。
しかもよく見れば、あれは確か百鬼夜行の治安維持組織である百花繚乱の委員長を務めていた七稜アヤメだ。いや、そんな事よりも……
「あ、あわわわ……」
自分でも何が何だか分からないくらいに動揺していた。顔全体が熱くなるのを感じる。イザナが確かにバッチリ元気だと言っていたがこれはいくらなんでもやり過ぎではないかいや個人の趣味嗜好に対して偏見を持つ事は良くないし彼女の年頃を考えればああいう行為に興味を持つのも自然な事だしそもそもキヴォトスで生徒同士の恋愛が禁止されている訳でもないし寧ろトリニティでも何人かそれらしいカップルがいるという噂もあるのだから何ら問題はない筈だだがしかしああいう事はもっと段階を踏んだ上でやるべきであって生徒である内はもっとこう健全な関係であるべきではないかまさか2人はもう既に段階を何段もまとめて踏んでいるのかいくらなんでも早すぎるだろうそれとも私が遅れているのかこういうのは予知でみた浦和ハナコの領分だろうというかハナコみたいなのが複数人いるのはそれはそれで問題だがというかハモリ君はいつまでやるつもりだ七稜アヤメは既に限界だぞいや嘘だろ七稜アヤメ君は君でまだ求める気かそれ以上やったら命にかかわるぞあコラハモリ君は君で自重しろというか君のそれは何だまさかそれが君の神秘かそんな使い方はアリなのか冗談じゃないそんな使い方があってたまるか真面目に練習してる私がバカみたいじゃないか────
「────ああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
最早自分の感情が抑えられない私は、勢いのまま濡れるのも承知で水溜まりを両足で踏みつけまくった。
そして気が付けば……水溜まりどころか飛び散った水滴すらも"はじめからなかったかのように"消えていた。
「………………今のは、見なかった事にしよう」
もう、考えるのも億劫になるくらいに疲れた。練習はまた今度にして、私は明日に備えて休む事にしたのだった……
アヤメ「んっ……ハモリ……だいすき」
ハモリ「わたしもですよ、アヤメさん……」
イザナ『…………夢の中でもヤッてるのかなぁ、この2人』